12-2.地の文を持ったマンガ
白土三平の「カムイ伝」。
白土三平は絵ゴマの外に地の文のあるマンガをよくかきました。
「少年」に連載された「サスケ」で、突然、忍法の解説がはいったりしました。また、銃の暴発の解説がはいったあと、
「みなさんは銃の知識があるので、このようなことはないと思います。」と書いてあって、いくら科学の時代といっても
そんな特殊な知識は知るもんかと思ったりしたこともあります。
上の場面では、夫役にしても五人組にしても、手塚治虫であれば数コマを費やして絵解きしてくれるかもしれません。それを
「カムイ伝」の白土三平は武骨に地の文で解説しています。
私はこの手法には絵物語の影響があると思うのです。山川惣治はよく、荒唐無稽の設定をさもありうることのように説明しま
した。たとえば、いけにえの人間を白ゴリラが襲うという描写のあとで、「ゴリラは草食ですが、この地方のゴリラのうち
いちばん年寄りで何度も生け贄をささげられてきた白ゴリラは肉食を憶えたのでしょう。」とぬけぬけと説明していました。
白土三平が忍法の解説をするのは、リアリティを高めるためで、その忍術が全く荒唐無稽であるのを隠し、逆にいかにも
合理的な方法のように思わせるよう、催眠術をかけているのです。
しかし、「カムイ伝」のこの場面では、たんに夫役や五人組の解説を簡潔に行っているだけです。文章は抽象的なことを、
簡潔に説明するのに適していることがわかります。ここに絵物語の可能性があるかもしれません。
白土三平は山川惣治同様、街頭紙芝居を書いていました。それから貸し本マンガを書き、中央の雑誌にひきぬかれました。
同じ紙芝居出身で絵物語を書いたことのある小島剛夕に手伝ってもらったりしていました。絵物語との縁は浅からぬものが
あると思います。
白土三平はコマから人物が飛び出したり、コマ割りの遊びなど、手塚治虫をまねてマンガ家が行った遊びや実験をほとんど
していません。同じマンガでもコマとコマの間の隙間が広くかかれ、そこには手塚マンガとは違う時間が流れているように
思います。
最近の白土三平の絵は省略の少ない、絵物語風のものになりましたが、それに逆比例して、絵ゴマの外に地の文が書かれる
ことは少なくなったように思います。