12-1-2.リアルな細密画と単純化した線画 2(杉浦茂2)
杉浦茂は実作から学んで、かれのナンセンスまんがに、次第に絵物語風の恐竜や怪物を登場
させるようになりました。
(芸術家は大抵理論からよりも実作からすなわち経験から学びます。)
左の絵は「少年猿飛佐助」の一場面で、根津甚八が捕り手につかまりそうになると、佐助の化けたウオー・マシンが
助けにくるところです。アメリカ映画「宇宙戦争」の空飛ぶ円盤型のウオー・マシンをちゃっかり借りてきています。
ウオー・マシンだけ陰影をつけてリアルにえがき、迫力を付与しています。捕り手の方はこどものらくがきのような
ふざけたデフォルメがなされており、奇妙な対比をみせています。
このほか、杉浦茂は、西部劇まんがの岩山を絵物語風にえがいたり(コピーのような荒っぽい影をつける)
アメコミから抜け出したようなヒーローが突如登場して、悪漢どもをぶんなぐったりする場面をよく描きました。
杉浦のねらった効果は、怪物やヒーローの異様な迫力と、滑稽にデフォルメされた人物の奇妙な対比にあります。
本当に迫力をつけてやろうというのでなく、大げさに迫力をつけることによって、かえっておかしさをだそうとしています。
下の絵は杉浦の怪作「ゴジラ」です。ゴジラはこわそうに陰影がつけられていますが、その輪郭は、なんとなく滑稽です。
本当にこわがらせようというのではないのです。
まわりを飛び回って、ゴジラを攻撃する飛行機のデザインのすっとぼけたこと!
「絵物語風の異様な迫力のある背景や怪物」と「極端にデフォルメした落書きのようなまんが描法による人物」の珍妙な
対比は杉浦茂の発明です。氏自身がそれを十分意識していたことは、1994年に杉浦茂漫画館の中で書き直された「猿飛
佐助」や「少年西遊記」の中で、映画のパンフレットを書き直したようなシュールな女優の顔や西部劇の一場面がやたら
と出てきて、食傷気味なことでよくわかります。