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作品論 宇田野武「月影四郎」

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「月影四郎」の付録本を手に入れました。昔、風呂の焚き付けにしたものを、大枚をはたいて 取り戻したことになります。

一読して、忘れていたディ-テイルを思い出しました。同じ作者の「醍醐天平」に比べて、「月影」ではユーモア が生きており、そのため成功した作品となっています。少なくとも付録「月影四郎・風雪の巻」を読んだ限りでは。

絵のタッチが的確であり、極めてリアルであることは、上のコマで、帰省した四郎と食卓を共にする母親が全くの中年 女性に描かれ、美化が少ないことで、よくわかると思います。

四郎の親友の木野弁吉と宝石商の玉田氏が、善良で滑稽な人物で、この二人が喜劇的役割を演じていることが、 物語を明るくしています。(下のコマでは喜劇的人物が2人そろっております。短いセリフでよく人物の性格と 物語りの筋が説明されています。)

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一方、弁吉の父親のふせっている掘建て小屋の描写はすごい。そこに描かれた「貧乏」の迫力には、いかなる漫画、 小説も及びません。

醍醐天平にもきれいなお嬢さんがでてきましたが、「月影」には水島先生のお嬢さんのまち子さんが出てきます。 弁吉の妹みどりちゃんとまち子はよく一緒に登場し、美女二人という趣向は「幽霊牧場」のアン・ホーテ と娘のアリスがいっしょにでてくるのに似ています。

まち子とみどりが、密輸団に誘拐されたので、父親の水島先生は心配し、「こんなおどしにはまけないぞ」と言いつつも うつむきかげんです。、水島先生の奥さんは、手で顔をおおってしまいます。しかし思い直して水島先生は警察に電話を かけます。その電話器は、昔よくあった壁掛け式のもので、丸いベルが二つよこに並んでおり、その下に、送話器の口が開いています。受話器は 電話器の横のフックにかかっており、電話をかけるときは受話器をフックからはずし、送話器に顔を近付けて 話します。この古風な電話器がギャグのもとになります。

まち子は四郎や弁吉の助けをかりて、脱出します。彼女は通りすがりのトラックをとめます。 うしろから走ってきた弁吉は気兼ねして、「おい、かってに止めるな」と言っています。「警察に連れてッて」 とトラックの運転手にまち子はハキハキ言います。「おじさん、ギャングじゃないわね。」庶民的な顔だちの運ちゃんは、 「な、なにっ」と、びっくり。

水島先生の書生さんが部屋に駆け込んできて、「先生、まち子さんがわかりました。水上署です。」と注進します。 この書生さんは丸いめがねをかけた神経質そうなやせた顔だちで、学生服を着ています。「ええっ、わかったか」と 水島先生。先生は普段のスマートな態度とは裏腹に、「わかったか、わかったか」とつぶやいてうろうろするばかり。 電話に出ることも忘れています。書生さんが「先生!電話はここですよ!」といっているのですが、その書生さんの顔 は眼鏡のレンズが乱反射して目玉が見えず、またどういうわけか眼鏡のつるが省略され、眼鏡二つの丸とその下の丸い 口だけになっていて、壁にかかった旧式の電話器の外観とそっくりです。

宇田野武はユーモアがある人と思います。


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