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作品論12 怪人シムーン

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「少年クラブ」に連載された「怪人シムーン」はピラミッドの発掘にまつわる物語です。

「ミイラの呪い」という映画がありました。エジプトの王の墓の発掘にまつわる物語は多い。

しかし山川惣治は超自然的現象は書いていません。合理的な説明のつくストーリーにしています。この点江戸川乱歩に 似ています。乱歩は「透明怪人」とか、「天空の魔人」とか、「妖人ゴング」とか、不思議な題の少年向き物語を 書いていますが、オカルトはけっして書いていません。いかにも超自然的な出来事のように見えても、結局人間が手品 のトリックに類するまやかしをしているだけで、最後には、必ずタネ明かしがされます。(「メルチェルの将棋さし」 におけるポーの姿勢を踏襲しています。)

山川惣治も全作品を調べたわけではありませんが、仮面の怪人が最後には必ず正体が明らかにされるところをみると、 オカルトは書いていないのでないかと思います。(「幽霊牧場」はどうなのでしょうか)

とにかく、ここでは山川惣治の砂漠の描写がたっぷり楽しめます。

ナチの残党が逃げていった先が地球上にいくつかあります。御存じですか。ひとつは南米です。ルネ・クレマンの傑作 映画「海の牙」は、南米へにげていくドイツ人を描いています。もう一つはエジプトです。イスラエルとの砂漠の戦車 戦は、ドイツの軍人がエジプト軍を指導したと言われています。作者はそのへんの事情をよく勉強しているように思い ます。

ボストン博物館から派遣されたウィラー博士の一行のトラックのうちの1台が何者かによって爆破されます。8日たって 、50頭のラクダからなるキャラバン隊が到着し、物資の補充ができた一同はほっとします。物資はトラックとラクダ隊 の二本立てで輸送されるよう、計画されていたのです。ここのところは、ロイ・チャップマン・アンドリュースの 「恐竜探検記」そっくりです。

「恐竜探検記」では優秀な現地人メリンがラクダ隊を率いて別途ゴビ砂漠に到着し、一行は折り畳みの イス、テーブル、ベッドなど豊富な物資で、急にごうせいな生活を始めます。アンドリュースは手放しでメリンを賞賛 するので、印象に残る部分です。「怪人シムーン」の時代は第2次大戦後ですので、トラックはもっと信頼度が上がっ ているはずなのに、ラクダがでてくるのは、話を本当らしくするため、作者が先行するノン・フィクションから拝借 したのではないかと思います。「少年ケニヤ」にプロトケラトプスの卵の話がでてくるので、山川惣治が「恐竜探検記」 を読んでいるのは確かなことと思います。

「怪人シムーン」には、砂漠を渡る大きな船に似た、大戦車が出てきて、SF的なところもあります。映画「スター・ウォーズ」に 同じような砂漠をわたる船/大戦車がちらっと出てきました。また映画「インディー・ジョーンズ」にピラミッドの中で蛇が いっぱいいる部屋がでてきましたが、「怪人シムーン」にもピラミッドのなかでとかげがいっぱいでてくる場面があります。 これらの趣向は、戦前の映画のシーンのなぞりではないかと思います。


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