作品論9 前世紀少年サピン
小学館の学年雑誌に連載された「前世紀少年サピン」は、新生代、人類の祖先がサーベルタイガー
やマンモスにおびえなから(あるいはそれらと戦いながら)生きていた時代の物語です。
私はリアルタイムには、数回分しか読んでいません。学校図書館で。
マンモスを泥沼に落としてやっつけるエピソード。
サピンはマンモスに追いかけられ、泥沼のふちを飛び越えて逃げます。あとからおいすがったマンモスは、泥沼に足を
とられ、身動きできなくなります。
しかし、逃げるとき、もう少しでおいつかれそうになり、サピンの飼い犬の一匹「いわ」がマンモスに噛み付いていった
ので、サピンは逃げることができました。「いわ」はマンモスの鼻の一撃を受けて、頭をくだかれ、息が絶えていまし
た。みんながマンモスを囲んで喜んでいますが、サピンは、ひとり「いわ」を抱いて悲しみます。
山川惣治はこの回の最後のコマで、足がすっかり泥にうまったマンモスとそれに石をなげつける人間達を遠景にとらえ、
「いわ」をひざに抱いてすわりこみ、みんなをぼんやりながめるサピンを手前に、背中から描きました。山川惣治得意
の背中からの構図。読者はサピンの悲しみを背中からなぐさめ、かれと同じきもちでマンモスを取りまくひとびとを
ぼんやりながめます。