作品論8 荒野の少年
「荒野の少年」は、「少年王者」と同時に「おもしろブック」に掲載されていました。ひとつの雑誌
に、同時に二つの絵物語を連載していたわけで、まれなことと思います。小松崎茂が「大平原児」と「空魔X団」を
同時に連載していたことがあるので、山川惣治も同時2本連載に挑戦したのでしょう。この二人が当時どれだけ元気で
、人気があったかをあらわしていると思います。
「荒野の少年」は一部しか読んでいませんが、親とはぐれてしまった少年が、泥棒の一家に育てられ、盗賊の訓練を
受けますが、正義のこころを失うことなく、拳銃の名手となって活躍するという物語のようです。
これは、ディケンズの名作「オリバー・ツイスト」に代表される貴種流離諢です。親元を離れて、赤の他人に育てら
れた子供が果たして立派に育つかどうかは、いつの時代でも興味あるテーマです。山川惣治の取り上げるテーマは当時
でも少し古風であったのですが、いつの時代でも通用するテーマでもありました。
紙芝居では、親と別れ別れになった子供が、悲惨な境遇で生きてゆくというお話がよくあるようです。
また、「荒野の少年」では。主人公のいさむが、悪漢の一味と間違えられて、縄目の辱めを受ける場面が出てきますが、
(私は子供のころ、集英社から出ていた単行本の第2巻を立ち読みしました。)子供をしばったり、ひどい目にあわせ
たりする場面は、紙芝居で観客をひきつけるためによく用いる手ではないかと思います。
私は結末を知らないのですが、ウィンゲート一家の生き残り、「無頼の拳銃の名手」ネッドが改心して終わるのでは
ないかと思います。連載の最後のほうでそのような雰囲気が見えたように思います。このネッドは、「少年タイガー」
のカリガリ小僧に性格がよく似ています。
漫画家川崎のぼるは、小松崎茂の「大平原児」をまんが化していますが、山川惣治の絵物語を原作にして、「荒野の
少年イサム」を書きました。現在、インターネットの古書検索で、出てくるのは、大方、川崎のぼるのまんがのほう
です。まんが版の書かれている時期には、わたしはまんがを読む年令をすぎていましたので、読んでいません。山川
惣治が、自分の作品の名を列挙するとき、「荒野の少年イサム」と書いていたのには、悲しくなりました。川崎のぼる
は原作者名を明記していたのですから、山川惣治は、自分でそのことを宣伝する必要はなかったのです。「荒野の
少年」とだけ書けばよかったのです。絵物語のほうだけを読みたいと思っている者も、多いのですから。