作品論5 少年タイガー
「少年タイガー」は「少年ケニヤ」に次ぐ大長篇絵物語です。その最初の部分は「少年ケニヤ」と
同等の力強さをもち、また同じような傑作が生まれることを読者は期待します。
しかしその物語は「少年ケニヤ」ほど魅力的でなく、「少年ケニヤ」よりも古臭い。いちばんよくないのは、山川惣治の絵が途中から
荒れ出すことです。山川惣治は「少年ケニヤ」を越える物語を作りたいという一心で、書き続けたのでしょうが、絵物語の時代が
終わって漫画の時代になりつつあるというあせり、漫画の時代に遅れまいとする迷いがペン先を鈍らせていると感じることが
あります。
しかしともかく、山川作品に共通する、いったん読み出したらやめられないジェット・コースター・ストーリーであることに変わり
ありません。上の絵は狼の群れにとり囲まれた幼い主人公です。すばらしい絵!
日本人の子供が、野獣の世界にほうり出されたとき、生きていけるかというおなじみのサバイバル・ストーリーが飽きもせず
くりかえされます。
虎が人間の子供を育てるというのは、とんでもないことのように思えますが、インドでは狼に育てられた人間の話があり、可能性なきに
しもあらずです。
また「少年タイガー」は、アーレン、カラハン大王、片目のチョウ、カリガリ小僧、ブラック・サタンなどの悪人の顔ぶれも多彩で、
登場人物の数が多く、伝奇小説の性格がつよいです。
正義の味方のほうも、トラの顔、ホワイト・スカールと仮面の怪人が二人もでてきます。
ただ、伝奇小説の部分はあまり成功しているように思いません。戦前の古い活劇をみているような感じです。最後の大地震のエピソード
でやっと盛りかえします。
しかし絵が荒れているとはいっても、猛虎・アジアの女王の絵だけは最後まで、崩れが少ないのはさすがで、よっぽど好きで書いている
のでしょう。