作品論2 少年エース
私は「少年エース」を全部は読んでいません。読んでいる範囲で書きます。
「少年エース」は新聞の連載が1000回を越える「少年タイガー」がやっと終わって、作者が構想も新たに書きはじめた
物語です。「少年エース」はそれほど長く続かず、そのあとサンケイ新聞の連載を引き継いだのは、「オズマ隊長」の
手塚治虫でした。
「少年エース」は「少年ケニヤ」「少年タイガー」よりは小粒ですが、「少年タイガー」の後半のような絵の疲れが
なく、作者が気を取り直して、大事に書いていったような感じがします。
アフリカ、インドとジャングルの物語が続いて、ネタ切れになっていたのでしょうか。アラスカ沖の海に舞台をかえて
目先がかわったのか、一こま一こま、人を飽きさせない場面の展開が続いていきます。
三島由紀夫の遺作「天人五衰」は他の「豊饒の海」シリーズに比べて、格段に短く、大河シリーズの最後にふさわしく
ない、こじんまりした作品でした。作者がもはや大伽藍の構築を諦めたのがわかるような作品です。しかしその読後感
は、「暁の寺」よりはよかったように思います。出世作「仮面の告白」を彷佛させるような感じがしました。
「少年エース」も、同じように小さなスケールながら、気持ちよく読めます。シャチや鯨やオットセイ、セイウチ、
白熊、狼など、北の国の動物たちも次々に登場して、飽きません。
また崖からダイブする少年エース・誠のフォームの美しさは山川惣治の絵の切れが戻ってきたことをしめしています。
それと知らず、海に落ちた妹を助ける誠。二人の抱き合ったシーンは山川惣治の絵の中で最も愛すべき出来映えと
思います。