作品論1-2 少年王者と恐竜
少年王者には最初から恐竜が出てきます。5コマ目に早くもブロントザウルスが登場します。恐竜
を登場させるのは最初から決めていたようです。
ジャングルに住むいろんな猛獣を次々登場させていくと、もっとすごい怪物を出したくて、結局、恐竜に行き着くの
でしょう。
「ターザン」と「ロスト・ワールド」をいっしょくたにした物語を作ったわけです。模倣的作品というのは、先行する
諸作品のいい場面を寄せ集めたものになることが多い。しかし、「少年王者」の場合はよく消化して、独特のお話に
なっています。
ブロントザウルスの登場する場面は1コマ1コマが傑作です。怪物をあらゆる角度から描いていて、はっとさせられる
ことの連続です。最後にゴリラの群れが総動員されて、石をなげたり、怪物につなをつけてひっぱったり、全編を通
じていちばんのスペクタクルが展開されます。
恐竜は最初は首から上しか登場しないのですが、赤ゴリラが死んだとき、崖を半ばよじ登るようにして、身体の大部分を
あらわしてきて、銃撃を受けるとまた湖へ戻っていきます。その後も、おそってきては去るのくり返しで、なかなか陸へ
あがってきません。全編の4割はちらちら姿を見せるだけで、陸に上がって来ない。そして、いったんあがってきたら、
ありとあらゆる姿態を見せて暴れまくるのです。
山川惣治は82才のとき、雑誌「ダ・カーポ」のインタビューで「私は恐竜が好きで」と言っています。「戦前に映画ターザンや
キング・コングを楽しんでみましたが、戦争で、これらを見られなくなりました。私の絵物語はそんな日本のみなさん
の気持ちを埋めたのでしょう。」と言っています。
「少年王者」の最後は、「大怪竜篇」です。好きな恐竜を出したので、満足して大長篇「少年王者」を閉じた
のかもしれません。