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9 魅力ある悪人たち2 まじない師ヒカ

まじない師ヒカは「少年ケニヤ」を代表する悪役です。ヒカは物語の最後まで、死にもせず、捕まり もせず、改心もしません。山川惣治の絵物語では、悪人はたいていこの三つの運命のどれかを享受することになるので すが、この点ヒカは例外です。

ヒカはゾコンガ族の酋長ボーンといっしょに村上の銃に驚いて逃げ出したきり、ワタルの前には登場してきません。 おそらく今も健在で、ゾコンガ族のまじない師として、マサヤ絶壁への侵入者をふせいでいるのでしょう。

ヒカが凄いのは、白い大グモが退治されたあと、ゼガに向かって、恨みの投げ槍を投げ付けてくることろです。 ゼガが槍をよけるすきに草むらに飛び込んで、消えたようにいなくなってしまいます。草むらに飛び込んで 素早く移動し難を逃れるのは、ゼガやワタルのおはこですが、ヒカもそれができるのです。また、その後、今度は ゾコンガ族を指揮して、フォン・ゲルヒンとその部下をゲリラ的に襲撃します。その際のヒカの不気味さは例えようも ありません。

上の絵はヒカが黒豹を自由にあやつって、ナチの兵士を襲わせるところです。ベトナム戦争で、近代装備のアメリカ軍 が、ベトコンのゲリラ戦に敗れる15年も前に、山川惣治は銃で武装したナチの部隊が、アフリカ人の得体の知れぬゲリ ラ攻撃を受ける場面を描いたのです。何か同じようなエピソードを描いた先行作品があったのでしょうか。私は思い 浮かびません。

西洋人が他の民族と戦って敗れる例としては、(1)カスター将軍の第七騎兵隊がスー族のシッティング ・ブルに敗れた例と(2)南アフリカのズールー族がイギリス軍に勝ったズールー戦争があります。しかしこの二つの 戦いで原住民側は銃を持っていました。ゲリラ戦でもなく、会戦です。ゾコンガ族とナチ部隊との戦いのような、近代 軍対ゲリラの戦いを山川はどうして描くことができたのでしょうか。

先の大戦で日本は満州で匪賊征伐に精力をすり減らしていました。またフィリピンでも米軍の武器支援をうけたゲリラ の襲撃に悩まされていました。米軍が上陸してくると、日本軍は米軍とフィリピン・ゲリラとの挟み撃ちに会って、 山中に逃げ込み、戦うことなく、飢餓と熱病で自滅していきました。装備は貧弱でも、地の利を得た地元レジスタ ンスは手強いということを、一部の日本人は知っています。山川惣治は日本軍の対ゲリラ戦の苦い経験を、絵物語の 中で描いたのではないでしょうか。

まじない師ヒカの凄みにはゲリラ戦の指導者としてのスーパーマンぶりと、土着民の得体の知れなさが入り交じって います。

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