9 魅力ある悪人たち1 魔神ウーラ
山川惣治の創造した悪人たちのふてぶてしさ、邪悪さは特筆すべきものです。
こども向けの読み物、絵物語、マンガで、山川惣治の創造した以上の徹底した悪人を見たことがありますか。
その悪人達の中でも、「少年王者」のウーラは随一の邪悪さです。だいたいその扮装からして、気味悪さNo.1です。
読者が、こいつはよくよく懲りない悪人だと思うのは、最後にウーラが密輸船ブラック号の海賊をそそのかして、
吉川すい子を誘拐させ、みどりの石を奪おうとたくらむところです。ガラ族もレオパード族も、ウバギ族も、ウーラ
に従ったために、全滅したり、部族間の戦いで多くが死んだり、全くいいことはなかった。ウーラはそのことを反省
もせず、ただ自分の目的達成のためだけに、船員たちを悪事に巻き込もうとするのです。
子供むけの読み物で、ここまで「悪」を体現した人物はいなかった。その後のマンガや劇画の世界でも、ウーラほど
ドストエフスキー的「悪」を感じさせる人物を知りません。黒沢明の映画の人物くらいのものです。(「用心棒」で
瀕死の重傷を負ってなお「短銃を手ににぎらせてくれ、弾はすこしも残っちゃいねえよ。」と弱々しい声を出すやくざ。
「天国と地獄」で面会に来た主人公に、自分はすこしも死刑をおそれてはいない、と強がりを言いつつ、逆上する
インターン。)
水木しげるのマンガの中によく死神が出てきます。(骸骨の顔をしていることが多い。)死神は人間の懇願などは一切
きいてくれません。人間にとって、絶対的な悪意を持った存在です。あるいは、水木マンガの主人公を取り巻く、戦争
という絶対的な悪、否応なく彼等に死を与える徹底的に無情な状況、それらは、ドストエフスキー的「悪」と呼んでも
いいかもしれません。しかし死神は人間ではありません。凄みのある悪人としては、ウーラはそうそうない創造物と
思います。
岡友彦の「白虎仮面」に出てくる黒鬼頭巾は仮面をかぶっているせいか、ウーラに近い凄みがでていました。多くの
絵物語作品の中でウーラに次ぐ悪人を創造した名誉は岡友彦に与えるべきでしょう。山川惣治も岡友彦もユーモラスな
描写が得意でした。この二人が揃って悪人の描写にたけていたのです。人間のおかしさを見る目と人間の悪を見る目
の間には関係があるのかもしれません。
映画の中に仮面を被った人物がでてくると、ぎょっとすることが多い。素顔の人間ではどんな凶悪なメーキャップ
でもその効果はだせないだろうと思うくらいです。例えば「神々の深き欲望」「犬神家の一族」「アマデウス」
「アイズ・ワイド・アンド・シャット」。
仮面を被った人物の欠点は表情が出ないことです。しかし山川惣治はトリック的に表情を出していました。上の絵は
真吾がウーラを両足で蹴ったところです。痛そうな顔に書かれています。能や人形浄瑠璃では面をあおむかせると
目尻が下がって柔和に見えるそうです。