8.ガイコツ仮面は正義の味方
山川惣治が紙芝居出身の絵物語作者であることを最もよくあらわしているのが、その絵物語にしばしば
出てくる恐ろしい仮面をかぶった正義の味方です。「少年王者」には怪人アメンホテップが登場します。スフィンクスを
模したその仮面は骸骨のようにも見えます。「少年ケニヤ」には大蛇ダーナが、「少年タイガー」には二挺拳銃の怪人トラ
の顔とガイコツ面ホワイト・スカールが、「少年エース」はシャチ=ゴールド・フラッグが登場します。これらはおそろし
い外見とは裏腹に、主人公を助ける頼もしい味方なのです。
ガイコツや蛇のような気味の悪い、フツーなら悪の象徴となるべきものが正義の味方であるという設定は紙芝居のブーム
の中から生まれた日本人の発明です。それは永松健夫の創作した「黄金バット」にその端を発します。大平洋戦争後、占領軍は
チャンバラ映画を禁じるとともに、黄金バットを禁止しました。骸骨仮面は悪と死の象徴であり、正義の味方がそのような仮面を
かぶるのはおかしいという論理です。しかしドクロ仮面が正義の味方であることには、倒錯した魅力があります。テレビ・
アニメ「黄金バット」は韓国、台湾でヒットしたそうです。この設定にはインターナショナルな力があるのではないでしょうか。
山川惣治は作品が変わっても、紙芝居時代にその効力を実感したのであろう、「伝統的」設定を営々とくり返しました。
おそろしい外見をした者が味方につくと、非常に頼もしく感じます。子供のころ、「暴れん坊兄弟」という東映時
代劇を見たとき、俳優・進藤英太郎がめずらしく「良い方」(善人の味方)にまわっているので、たいへん頼もしく感じました。
進藤英太郎はそのころ、悪人ばかり演じており、善人の役はまことにめずらしかった。いつもはこの上なく恐い相手なのに、
今回その恐い奴が味方になっているのですから、(少々変な感じはありましたが)これより恐い相手が出てくるはずがない、
ぜったい大丈夫、という気がして、まことに心強かったのを憶えています。
そもそも、正義の味方が仮面をかぶっている、という設定自体が、倒錯した、ひねった設定です。悪事を働く者が正体
を隠すのならわかりますが、正義を行う者が何故正体をかくさなければならないのでしょうか。それは、この世は一見、
法に守られているようでも、裏に回れば、悪の跳梁跋扈する無法地帯であり、(だから正義と悪との対決の物語が存在する
わけですが)正義の使徒といえども、暗殺の危険から自分や家族を守るためには正体を秘さねばならないのです。
この設定を思い付いたのは、「紅はこべ」の作者、「バロネス」オルツィです。比較的、近年の発明です。フランス
革命で世の中がひっくり返ってしまうと、だれが敵やら味方ならわからなくなる、そのような状態下で正義をなそうとす
れば、身分をかくさねばなりません。彼女はそのような小説のシチュエイションを思いついた。それがいまだに延々と踏襲
されているのです。