ユーモラスな描写
絵物語作家の中で山川惣治はいちばんユーモア感覚のあるほうでした。No.2の小松崎茂は、まったく
きまじめな作風でした。No.3の福島鉄次は、山川惣治を5とすると、1くらいのおかしさはありました。永松健夫がどれ
くらいだったかは良く知りません。岡友彦は滑稽味にあふれていて、ときどき悪のりする程でした。
最初の単行本「少年王者・おいたち篇」から、ギャグがみられます。ゴリラの王キルコングは、めすゴリラ・メラが人
間の子供をひろったのを見ると、捨ててしまえといいます。キルコングがちがづくとメラは必死になって抵抗し、ゴリ
ラの王はさんざんな目にあいます。キルコングはまた、真吾が泳ぎができるのをみると、自分も川に飛び込んでおぼれ、
真吾に助けられてはずかしそうにします。
山川惣治のギャグは、たいてい古いアメリカ映画のそれをなぞったものですが、少年ケニヤではお転婆ケートという抜群
のキャラクターが登場したため、性格からくるおかしみが出て、高級な笑いになりました。
上の絵は眠っているティラノザウルスの頭の横をそうっと通り抜けようとして、ケートがうっかりティラノザウルスの
鼻先にもたれかかったので、目をさました恐竜がケートを鼻の上に乗せたまま、起き上がったところです。
ケートはゴンザ族の若酋長ゴメが、からだの割りに意気地がないので、馬鹿にしたり、意地悪をしたりします。しかし、
前世紀の怪物「原始ガメ」に襲われたところを、実力を自覚したゴメにすくわれ、本当に悪かったと思います。「ゴメ、
あんたは本当にいいひとね。意地悪してごめんね。」
ケートはワタル、ゼガとはぐれてしまって、それでもなんとか、ケニヤに帰ってきます。おなかがすいて、まずい果物
がなっているところを思い出し、夢中で食べますが、思わずひと言。「あっ、まずい。焼肉が食べたいわ。」
キリンジニにふたごの子供を送っていったあと、ワタル、ゼガ、ケートの三人が汽車に乗ろうとすると、白人専用車
だから乗れないと駅員が言います。ゼガはおこって、車掌をひきずりおろします。ワタルはなだめて、うしろの黒人用
の車両に移ります。ケートは戻ってきて、「私は白人だから、いいでしょ。」といいます。ケートはみごとな金髪なの
で黒人の車掌はあわてます。「えっ、そうですが、そのう」「なによ」「そ、そのような野蛮な豹の毛皮なぞをお召し
になっているのでは...」「まあ、失礼ねっ」ケートは車掌のほっぺたに平手うちを食らわせます。はっは。