6.ワンダーワールドの創造2
産経児童文庫「少年ケニヤ」の第13巻では、新聞連載時にはあった祖先ゾウのエピソードが、削除
されていました。このエピソードも入れると第13巻のページ数がオーバーするので、カットしたのかもしれません。
他にもふたごの兄弟ポイとトーチの話のうち、ちょっと低級なくすぐりの部分がカットされています。
しかし現代のアフリカに古世代のゾウの祖先が、たった一頭の個体で生存しているわけがないので、おかしいではないか
と、まじめに投書した読者がいたのかもしれません。この批判を受け入れて、単行本では、批判のあった部分をカット
したのかもしれません。
これは物語のリアリティの問題ですが、読者というものは、地下に恐竜の住む別世界があるということは、荒唐無稽
であっても受け入れるのです。またダーナのようなとほうもない大きさの個体が存在するということもなんとか受け
入れます。しかし現代のアフリカに、化石動物が個体で現存することは、おかしいと考えるのではないでしょうか。
そこで、もしサーベルタイガーやバルキテリウムを描きたければ、それらの動物が現存する、不思議な空間と
その世界への入り口を用意しなければなりません。「少年タイガー」では、その公式に従って、古生代さらに中生代の
怪物が描かれました。
私は、「少年ケニヤ」の単行本から祖先ゾウのエピソードを削除したことを作者が残念に思い、「少年タイガー」で
改めて、マンモスやサーベル・タイガーを描いてみせたのではないかと思います。
(少年雑誌の世界はもっと鷹揚で、「少年王者・ザンバロ篇」ではサーベル・タイガーが堂々と登場します。)
フランソア・トリュフォ監督に、「隣の女」という晩年の傑作があります。これは隣に住んだ男女の浮気の話で、情熱
が、家庭も人生もときには破壊してしまうという恐ろしい話です。同じ監督の初期の作品「柔らかい肌」に描かれた
世界とにています。「柔らかい肌」は発表当時あまり評判がよくなかったそうです。(今からみると傑作ですが)
トリュフォ監督はそのことが残念で、晩年になってもう一度同じテーマで作品を作ったのではないかと思います。
わが国の稲垣浩監督は「無法松の一生」を2回とっています。これは戦前の作品が、軍人を侮辱する部分があると
して、検閲でカットされたのを残念に思って、戦後撮り直したことは有名なエピソードです。