6.ワンダーワールドの創造
「少年王者」のへき頭、物語の舞台として、サタンの顔をした無気味な山がしめされます。冒険の一
部始終はこの無気味な山の周辺でおこるのです。ナサニエル・ホーソーンの人面の大岩を連想させます。冒険物語には
、骸骨の形をした島というのが良く出てきます。.....無人島の宝物を求めて航海すると、絶海の孤島が水平線の彼方に
あらわれ、近付いてみると、絶壁にかこまれた島はドクロのような奇怪な形をして、ふたつの洞穴が眼窩のように開い
ているというのがよくあります。それに似ています。
「少年王者・魔神ウーラ篇」では、牧村勇造博士を捜索する探検隊が、しだいに奥地へと進んで行くのが要領よく描写
されます。キリンジニ港を出発して、汽車にゆられ、ビクトリア湖に達し、汽船に乗り換えて湖上をさらに奥地に向か
って進み、トラックに乗り換え、沼地が行く手をはばむまで前進し、馬がツェツェ蠅にやられてからは、徒歩で困難を
極めた旅を続ける様子が10枚ほどの絵で描かれます。1枚ごとに、だんだん物凄い環境となって、はじめ汽車の中で、
しまうまの群れを見物していた一行が、最後には沼地に両足を浸して、毒蛇を警戒しながら苦労してすすむようにな
ります。
こうして、猛獣・毒蛇・蛮人の跋扈する世界、さらに古代の恐竜ブロントザウルスが生き残っていてもおかしくない、
人類未踏の神秘境がえがかれます。山川惣治は、ジャングルの木々や、岩山を描くのが得意で、水棲恐竜の住処である
湖を囲む絶壁の描写は、圧巻です。
また「少年ケニヤ」では、恐竜の多数生息する地底の国が描かれます。流砂に流されて地底の国に着いたとき、
太陽がなく、空のところどころから光が漏れる、ふしぎな光景がえがかれます。
恐竜の住む地底の国はターザンの作者、エドガー・ライス・バローズが「地底の王国ペルシダー」という小説を書いて
いますが、山川惣治がそれを読んだかどうかはわかりません。ジュール・ヴェルヌの「地底旅行」の中にも古代の
魚竜の死闘が書かれていましたので、こちらを膨らませたのかも知れません。
恐竜の棲息する世界は、現在の地球上にはなく、私たちの想像の世界の中だけにあります。小説「失われた世界」や、
「ターザン物語」、映画「キング・コング」などは人間の想像を絶する野生の世界を描くのが趣向のひとつとなって
います。山川惣治は、これらの作品の延長上に、文明人がまだ足を踏み入れた
ことにない魔境----数々の冒険が行われるにふさわしいワンダーワールドをペン1本で創造しました。