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5-4 卓越した文章4 -大人のストーリー-

 

サンケイ新聞社刊「少年ケニヤ」第11巻(角川文庫では第16巻)、村上は現地人の家に病気で ふせっていますが、そこへベルギーの治安官がパトロールに来ます。村上は捕まりたくなくて、銃を握りしめて小屋 の中で息をひそめています。村上に毒蛇を退治してもらったギャバ族は恩人・村上をかくそうとします。

ここで村上はギャバ族と治安官の会話から戦争が終わったことを知るのでした。

治安官ガーシャが取り調べをあきらめてひきあげていく場面を引用してみましょう。

『「しかし、まだ講和条約はできていないから、いちおう取り調べなきゃ」
 ガーシャはいつのまにかまわりに村人が集まって、殺気立っているのを感じました。日ごろおとなしいギャバ族が こんなことは初めてです。
 「まあとにかく、本部から医官にきてもらって病人をみてもらおう。ほかにかわったことはないかね」
 ガーシャは自分が危ないと思ったので、小屋をそのままにしてひきあげることにしました。』(サンケイ児童文庫版 による。角川文庫版は文章が異なり、やや短くなります。)

絵は治安官が引き上げていく、平凡な場面ですが、本当のドラマはその前にあるのです。読者は文章から村人の緊迫した 表情を想像します。

ここで取り調べを強行すると自分の身が危ないと判断し、大事を取って、出直すことにし、何食わぬ顔でひきあげる 治安官はなかなか大人です。

村上は自分がつかまると、ワタルが終戦も知らずに密林を逃げ回ることになると思い、逃げる決心をします。ギャバ族 は屈強の若者たちを選んで、村上を担架にのせ、奥地へとかくします。そのあと治安官ガーシャは、マウマウ・ゲリラ が出没している時期でもあり、大勢の役人をつれて、再捜査にやってきます。

ガーシャは「ジープ2台をつらねて」やってきて、「ゆうゆうと」部落にはいってくると、「酋長をよびたて」ます。 酋長は「かくごしていたことですから」、「あいそよく出迎え」ます。「医官を連れてきた。病人をよく見てもらうと いいよ。」ガーシャは「ずんずん小屋にちかづき」、銃をもった護衛の兵士があとに続きます。ガーシャが「平気で」 小屋の戸をあけると、中はからっぽです。酋長は病人は死んだと説明します。

ガーシャは「逃げたな」と思います。二台のジープは奥地の方向へ向かって追跡を開始します。「ギャバ族の酋長は 平然と見送り」ます。自分の部下が「むざむざ村上を役人にわたすようなへまはしないと信じているから」です。
二日ほど捜索しましたが、役人たちは村上をみつけることができません。ギャバ族は「ジープが通れない道を選んで 逃げているから」です。「とうとう逃がしてしまったな。もうすぐタンザニアの国境だし、国境を越えたら、わし の責任ではない。」ジープは引き返します。

これが村上が数人のギャバ族と共にワタルをさがす旅に出るてん末です。すばらしいストーリーです。「」に囲んだのは、 山川惣治の表現です。つづく


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