5-2 卓越した文章2
「少年王者・魔神ウーラ篇」の冒頭の文章もすごいです。
「赤ゴリラ篇」の最後に、真吾とザンバロの頭上を一機の飛行機が通りすぎます。「魔神ウーラ篇」の冒頭で、それは
科学者レービン博士の飛行機であることが説明されます。博士はマウント・サタンの牧村博士の小屋を発見し、これが
もとで、マキムリンの発見者・牧村博士救援の探検隊が組織され、ますますにぎやかで面白いストーリーになっていき
ます。
最初の一コマぶんの文章を引用します。
「 ニューヨーク自然博物館からレービン博士を隊長として、ゴリラの生活状態をしらべるために探検隊がアフリカの
ベルギー領コンゴ地方の東部にはけんされた。
レービン博士はニューヨーク自然博物館(実在するアメリカ自然史博物館のもじり?)から派遣されたというのです。
アメリカ自然史博物館といえば、北米やゴビ砂漠の恐竜の化石の発掘を行った博物館です。山川惣治は、「少年王者」
を本当らしくするために実在の博物館の名をもじって使いました。探検隊のスポンサーになるのは博物館であることを
知っていたのです。
そのあと、実際の湖や山の名前がやや美文調に列挙されますが、ここは要するにリアリティを高めているのです。
よく勉強して、短い文で本物らしさを出しています。
上の絵の直接の説明になっているのは、最後の一行だけで、それまでの文は、長い前置きなのです。前置きでは
記録文学ふうに実名を淡々と並べ、実際にマウント・サタンが存在するかのように雰囲気づくりをしています。
山川惣治は次から次にアクション場面をつないで手に汗握るストーリーを展開するのが得意ですが、新たなエピソード
が始まる前に、アクションの舞台をゆっくり説明するのも上手です。
わたしは、アクションの合間のゆうゆうたる描写、大事件のはじまる前のしきりなおしのような荘重な文章が好きです。
そこはタンガニカ湖、キブ湖、エドワード湖、アルバート湖の大湖が長くつながって、名高いナイル川の水源と
なっており、ルヴェンゾリ、エルゴンの山々が大密林の上にそびえていた。長い苦心のすえ、かずかずのきちょうな
収穫をえて調査もおわり、ある日、レービン博士は飛行機で空からふきんを探検してみた。
そして、こい霧にとりまかれ、やっとぬけでたとき、地図にもないぶきみな山を発見した。」