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4-4.雄大な構想力と粘り7 二つの筋の平行描写

もうひとつの手。

「少年王者」で、レオパード族との決戦のあと、砂漠のむこうの新天地をめざす真吾たちと、緑の石を文明社会へ持って帰ろう とする探検隊とは別行動をとります。そして、双方に別の危難がふりかかります。そして、双方のエピソードが交互に語られます。 真吾らのピンチが頂点に達する頃、探検隊のピンチも頂点へとむかいます。

「少年王者・ザンバロ篇」ではズンダー国へ向かうザンバロと、アメリカに渡った真吾とすい子のエピソードが交錯します。

「ノックアウトQ」においても、アメリカへ渡った久五郎と、印刷屋に就職した章治との、二手に別れた主人公たちのエピソー ドが交互にかたられます。そして同時にクライマックスへと登り詰めていきます。

「少年ケニヤ」ではワタルと村上はほとんど別れ別れになっているので、両者のエピソードを平行して語るのは常態となっていま す。ワタル、ゼガ、ケートの三人も、あるときは、ふたつの組みに別れたり、三つにわかれわかれになったりして、それぞれの 冒険が交互に語られます。

読者が感情移入できる登場人物がふたり以上いるとき、両者を別れ別れにして、それぞれに危難を与え、両者のエピソードを 交互に語ることにより、サスペンスを倍増させる.....これも山川惣治の常套手段です。

二つのエピソードの同時進行も、「小出し描写」や「伏線」同様、全く古典的な手法で、なつかしいくらい です。現代の読者はこれらのテクニックをばかにするかもしれません。現代小説はこれらのテクニックを使っただけで、古臭いと 言われかねません。しかし柔道で優勝するには新手をあみ出すことが必須ということもありません。昔ながらの一本背負いでも わざの切れがよければ、優勝できます。古典的な方法もこの際研究してみる価値があるのではないでしょうか。昔ながらの手法を ひとひねりして使うというのもいいかもしれません。


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