4.雄大な構想力と粘り3
 

前のページで「少年ケニヤ」後半は前半ほど大きな筋はなくなりますとのべましたが、舞台が コンゴからケニヤに移ってからは、マウマウ・ゲリラのエピソードが中心となるようにおもいます。「少年ケニヤ」は 終章近くになると絶えず「マウマウのテーマ」が流れるようになり、すべてのエピソードがリアリスティックになり ます。

作者が「少年ケニヤ」の終わり近くにマウマウ・ゲリラのエピソードをどのようにちりばめているかをみてみましょう。

1.ゴンザ族と別れたワタル、ゼガ、ケートの三人が歩いていると、ケートを銃でねらう黒人がいる。黒人はライオンに出会って 撃たずに逃げる。なぜこの黒人がケートを殺そうとするのか、読者にはわからない。
2.ギャバ族の部落に見回りにくるベルギーの治安官は隣国でマウマウ団があばれているので、パトロールを強化していること が語られる。地の文で語られるだけで絵では説明されない。
3.ウガンダの野牛「スラダング大将」のエピソードの中で、農園で働く男がワタル、ゼガ、ケートの三人にマウマウ団の話を する。このとき、はじめて服を来て銃を持ったマウマウ・ゲリラの絵が出てくる。
4.野牛を倒した賞金をもらって帰る途中で、マウマウ団が現地人を射殺するところを、三人は目撃する。(実際にマウマウ団 が出てくる)
5.賞金で日本の人形などを買って、楽しいときをすごす。
6.ケニヤにかえったとたんにマウマウ団と討伐隊との戦闘にまきこまれ、ゼガが負傷する。
7.マウマウ団の本拠地でのエピソード。(マウマウ団のエピソードの中で中心となるもの。)
8.黒人のふたごポイとトーチに出会う。
9.野火による草原の動物の暴走に出会う。
10.樹上に住むトロ族のエピソード。
11.洪水のエピソード。
12.ポイとトーチをナイロビの親戚の家へ無事とどける。
13.三人は汽車に乗る。
14.村上はマウマウ団が列車を爆破しょうとしているのを、偶然に知る。(2度目のマウマウのエピソード)

とくに6、7のエピソードの前に山川惣治は1、2、3、4、と4回も短いエピソードを連ねて、しかも次第に明瞭な イメージを示すようにして、雰囲気を盛り上げています。マウマウ団の話に力を入れている証拠です。しかもいったん楽しい エピソードをはさんだあとで、一気にクライマックスへ持っていきます。

語り口が上手なので、作者の準備する手付きに全く気付きません。私はギャバ族のエピソードを書き写しているうちに、山川惣治 が伏線を張っているのに気付きましたが、そうでもしない限り、なかなか気付かないでしょう。

山川惣治の構想力については、もう一つの代表作「少年王者」のことを話さねばなりません。


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