3.人間は病気から回復する
山川惣治の絵物語では、主人公は一種のスーパーマンですが、全くの不死身ではありません。彼らはしばしば、 ひどい怪我や病気でたおれます。しかし彼らは驚くべき回復力でカムバックするのです。それは山川惣治が好んで 描いたエピソードです。人間は病気にたおれる。しかし自然の摂理により、回復してゆく。それは有り難く、感動 的なものです。
人間には回復力が備わっている、このことを山川惣治は超人的な主人公の活躍する物語の中でくり返し書きました。 それは彼の絵物語の特徴であり、人を勇気づける、すぐれた点と言えましょう。
「少年ケニヤ」では主人公ワタルがワニの尾の一撃を受けて、高熱を発し、倒れてしまいます。ワタルの師ゼガも、 熱病にたおれたり、煙攻めにあって目がみえなくなったり、強風に吹き飛ばされたり、山猫の爪からばい菌が入って、 両腕が腫れ上がったり、いちばん災難の回数が多いです。しかし彼らはこれらのダメージから平然と回復することに よって、スーパーマンぶりを発揮するのです。
「少年タイガー」では猛虎「アジアの女王」は、銃弾に傷付いた我が身を何日か休ませます。そして「野生の猛獣の 回復力はすばらしく」日ならずして回復し、経験から学んで、銃に対し、より撃たれづよくなります。また、名犬サンダー は蛇毒を不思議な沼の力でなおそうとします。「少年タイガー」では作者がなんとか全盛時代の調子を取り戻そうと しているので、このように、お得意の「回復パターン」が1作品の中に2度もでてきており、このエピソードを作者が気に入って いて、同時に頼っている事がよくわかります。
他の漫画や映画の作品の中ではこのような回復エピソードがみられるでしょうか。
絵物語にとって変わった「ストーリー漫画」の神様・手塚治虫はこのような回復エピソードを作品の中で書いているで しょうか。 「ぼくのそんごくう-火炎山のたたかい-」の中に、大やけどを押して、三蔵法師を助けにきた孫悟空が、牛魔王と戦う うちにだんだん術が使えるようになってよろこぶ場面がでてきます。その他にはあまり思い浮かびません。
「ぼくのそんごくう-火炎山のたたかい-」は黒沢明監督の映画「七人の侍」の影響がみられる作品ですが、同じ黒 沢明の「用心棒」 では、三船敏郎ふんする桑畑三十郎がやくざにいためつけられた体を、村はずれのお堂で休めるエピソードが出て きます。三十郎は結局病み上がりの身で丑寅一家をやっつけてしまうのです。
ジョンフランケンハイマー監督の「フレンチ・コネクション2」では、コカイン中毒から離脱した「ポパイ」刑事が リハビリテーション(回復訓練)を行うところがでてきます。ポパイ刑事は回復するや否や麻薬団の首領をやっつけて しまい、映画は終わります。このあたりの構成は「用心棒」によく似ています。
山川惣治も、手塚治虫も、黒澤明も、焼け野原となった東京にバラックが建ちはじめ、次第に本格的な建築となり、 復興して行くのを体験しました。彼らが描く「回復エピソード」には日本復興の喜びが反映されているのでは ないでしょうか。