山川惣治と絵物語の世界page0201  

  

 

(GIFアニメの読み込みに時間がかかります。少し待って投げ槍の練習を見ていってください。)

 

2.刻苦精励によって達人となった主人公の活躍

山川惣治の絵物語では、主人公は一種のスーパーマンです。それだけでなく、主人公が一生懸命 に練習をして技術を修得し、スーパーマンになっていく過程がくり返し描かれます。「少年ケニヤ」しかり、「ノッ クアウトQ」しかり、「こうもり小太郎」しかり、そして最後の作品「十三妹」またしかりです。

人間は努力すれば必ず報われる。練習することによって、達人にもなれる---そのような描写は読者を勇気づけます。 山川惣治の場合、それは単なるお題目ではなく、作者自身の実感であったのでしょう。

「少年ケニヤ」では主人公ワタルはマサイ族の酋長ゼガの特訓をうけ、投げ槍の名人になり ます。「ノックアウトQ」ではふたりの主人公のボクシングと絵における精進が描かれます。「こうもり小太郎」 では日本古来のジャンプの訓練法、すなわち麻の実を蒔いて、成長の速い麻を毎日飛び越す方法が描かれています。 「十三妹」では土塀を駆け上がってジャンプ力をつける別の方法もしめされます。

(ジャンプの練習に麻を使うのは日本古来の方法でなく、吉川英治の創作のようです。挿し絵画家伊藤彦造(伊藤一刀流 の居合いの素養があった)との雑談の中で、ジャンプの練習は低いものを飛び越えることから始めて、そろそろ上げて いけばよいということを伊藤から教わり、ひとりでに大きくなっていくものとして、成長の早い植物-麻を思い付いて 作品の中で使ったようです。尾崎秀樹「懐かしの少年倶楽部時代」より。)

絵物語の一方の雄であった小松崎茂の作品の中では、そのように刻苦精励するのは自伝的作品「旭日は沈まず」に出 てくる絵の勉強をする主人公だけです。小松崎茂が努力の人でなかったわけでは、決してありませんが、かれは作品 の中で主人公が努力する姿をあまり書かなかった。山川惣治の方はそのような主人公の努力を書くのが格別好きでした。

  山川惣治は遅咲きの作家で、人気が出たのは中年になってからでした。筑摩書房刊「少年漫画劇場第1巻」(昭和46年)の 小松崎茂との巻末の対談の中で、樺島勝一画伯や梁川剛一画伯の使い走りを二人でしていたころの思い出が語られて います。文化人類社刊「小松崎茂絵物語グラフィティ」では、挿し絵画家の会合からの帰り道、「今にみてろだ。なあ小松っ ちゃん。」と話しかける山川惣治のエピソードが語られています。長い修行のあと、戦争中の物資の極端な欠乏で 少年雑誌が新聞のように薄っぺらくなった時期をくぐって、やっと彼の時代がきたのでした。その喜びが、彼の作品の 中で練習によって高度な技術を習得する主人公をくり返し書かせたと思われます。

 山川惣治の絵の素晴らしさは、結局、練達のクロッキーによるリアルな描線です。それはだれにでも書けるものでは ありません。樺島勝一や伊藤彦造や高畠華宵の活躍を横目でみて、永年修行を続けることによって、やっと手に入る 種類のものでした。(そしてそれは残念ながら年令とともに最も衰え易いものでした。スポーツ選手の記録のように。) 戦前に山川惣治が少年雑誌に書いた挿し絵やカットをみると、別人かと思うほど稚拙なものもあります。「少年王者」 までの道のりは結局山川個人が切り開いたものでしょう。自分自身の絵の技量に対する自負が、そして自分の重ねて きた修行が報われたという喜びが、山川惣治が描く、刻苦精励によって急速に上達する登場人物の上にいきいきと あらわれていて、読者である私達を幸福にさせます。

             


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