「はい、それでこれは夏美におみやげぇ・・・」

「お・・・ありがとぅ」

日本に帰ってきた翌日、あたしはさっそく夏美に帰国の連絡をした。
そして、彼女が家に遊びに来てくれた。

「うわぁ・・・素敵なアンティークのオルゴール!」

「うん。素敵でしょ? ウッドのおじいさんご自慢の一品の一つ・・・」

「・・・へえ・・・」

「あたしのこのピンバッジは人を招いて、愛を呼ぶだけど、そのオルゴールは幸せを招く音色を奏でるんだってさ・・」

「うへぇ・・・・それはまたロマンチックだねぇ・・・」

「うん」

「なんにしても、ありがと。すごく嬉しいよ」

「・・・うふふ、よかった」


ちなみに游洛院さんには、<真実を映し出す手鏡>これまた装飾がとても綺麗なアンティークの手鏡なんだ。
学園に行ったときに渡すことにしている。
游洛院のお嬢様にどんな真実を映し出してくれるのやら・・・・。


「・・にしても、アメリカに行って来る! って突然言い出したかと思えば、帰ってくるのも突然だねぇ・・」

「えへへへへ。まあ、あたしらしいということで勘弁してよ」

「学園にはいつから来るの?」

「えーと、明日から行くよ。勉強のほうもかなり遅れちゃったしね・・・」

「そうだねぇ・・・・取り戻すの大変そうだね・・・」

「そこは、それ。夏美さまにいろいろと御願いします!」

あたしは手を合わせて頭を下げた。

「ほ〜お・・・と、いうことはこのオルゴールはそういう下心なのかぁ・・・?」

「そ、・・・・そんなことはありませんですよ。素直におみやげでございますよ。・・・ううーん、夏美さまぁ・・助けてよ、ねっねっ?」

「・・・ふう。まあ、勿論そのつもりだけどさ。早速ノート持ってきたから、今日から写しときな」

「あ・・・ありがとう、夏美ぃぃぃぃぃ!」

あたしは夏美に抱きついた。

「ちょ・・・ちょっと何するのよ! あたしにはそういう趣味はないのーよぉぉーー」

「えっへへへ。挨拶もアメリカ流が移ってきてしまいましてぇ・・・」

あたしはペロっと舌を出した。

「ふう・・・それじゃ、来週からのテストは英語はバッチリOKというわけだね?」

「へ? テスト???」

あたしはポカンとした。

「ふふーん。そうだよーん。君は学園のスケジュールを忘れているらしいが、もうそんな時期に入っているのだよ。まあ、頑張ってね、むぎ!」

「うっそーーーー!!!」

・・・・・・・もっと後に帰ってくればよかった・・・・・。

















そして、あたしが帰国してから数ヶ月が過ぎた・・・。
一哉くんは相変らず、アメリカで忙しい毎日を送っている。

季節は春を迎える。
あたしはもうすぐ祥慶学園の三年生になる・・・・。




そんな日の放課後。
あたしは帰宅をしようと学園の門に向かっていた。
すると、門の外に見たことのない車が停まっていた。

そして、車のドアが開いて運転席から出てきたのが・・・・。


「一哉くん?」


「・・・なんて顔をしているんだ? さっさと乗れ」

驚きで声の出ないあたしを、一哉くんは容赦なく助手席へと追いやる。

車はすぐに走り出した。

「こ・・・・この車、どうしたの?」

「どうしたもこうしたもない。俺の車だ」

「免許、持ってたの?」

「・・・ああ。アメリカへ行ってからすぐに向こうで取った。あっちじゃ乗せてやる暇もなかったがな・・・」

「い・・・・いつ、帰ってきたの?」

「そりゃ、ついさっきだ。まっすぐにここに来た。そろそろ下校時間だろうと思って門で待っていた・・」

「し・・・・・・仕事は?」

「・・・大きな仕事は、ほぼ終了した。・・・・お前、他に俺に言うべきことがあるんじゃないか?」

「えっ?」

「俺は言ったはずだぞ。俺もすぐに日本に帰るぞって・・・」

「あ・・・そうだっけ?」

「・・・忘れるなよ」

「ご・・・・ごめん。・・・と、それから、お帰りなさい、一哉くん」

「・・・ああ。ただいま」

「・・・で、これからどこへ行くの?」

「・・・このままドライブへ・・・とも思ったが、いろいろと話すことがあるからな。俺の家へ行く」





久し振りの御堂家。

一哉がアメリカへ行ってからも、むぎが時々掃除に来ていたのであの頃と変わったところはなかった。
他の三人はみんな自分の家に戻ったので、誰も住んではいなかったが・・。



一哉の好きなコーヒーを煎れて、リビングのソファに二人で腰を下ろす。



「ここで飲むお前のコーヒーも久し振りだ」

「うん、そうだね」

「それで・・・・アメリカに来て休んでいた間の遅れはちゃんと取り戻したのか?」

「うん。そりゃ、勿論。夏美や游洛院さんたちも助けてくれたしね・・・」

「・・・そうか。ちゃんと予定通りに卒業してくれないと困るからな・・」

「?」

「んーと、ところで、これからはずっと日本にいられるの?」

「・・ああ。当分、こっちにいる」

「そっか。それは良かった♪」

「・・・デイジーは? 元気にしてる?」

「・・ああ。あいつはあれからコーンウェル家に戻ったぜ」

「ええっ?! あんなにいやがっていたのに???」

「・・・ああ。お前と関わってきて考えが変わったんだそーだ」

「・・・・あたしのせい?」

「・・・そうなのかどうなのかは、俺にはわからん。ただ、事業を受け継いでいずれ御堂コンツェルンをつぶしてやるんだとさ・・・・ふっ」

「ええっ?!」

「あいつもいずれは継ぐ気であったんだから、それが早くなっただけのことだ。まあ、お前の影響もあったんだろう」

「・・・・・・・・」

「・・・そこで、俺も受けて立つことにした」

「えっ?!」

「20歳になったら、俺も正式に御堂コンツェルンを継ぐことにした」

「えええっ?!」

「・・・御堂グループを潰すわけにはいかないからな・・・」

冗談っぽい笑顔で言う一哉・・・。

「・・・・そっか。それじゃ、今までよりももっと忙しくなるね・・・一哉くん」

「いや、その逆だ・・・」

「・・・?」

「総帥ともなると、ほとんど最終決定項への算段が主な仕事のようなものだ。数いる部下たちの総元締めをしていればいい。だから俺のじーさんは悠々自適の暮らしをしてきている。だが、俺はまだそんな退屈な仕事をやりたいとは思わなかったからな。だから、今の仕事は、勿論、事業の一旦を生で感じる勉強の一つであったが、ある意味俺の暇つぶしだった・・・」

「・・・・暇つぶしで倒れるまでやっちゃうんだ・・・」

「そりゃ、お前。やるからには全力を尽くすのが俺の流儀だし、いい加減にやってちゃ、暇つぶしにならないだろ・・・」

「ふーーーん」

「だが、これからは総裁としていても、別なことで暇つぶしがいろいろと出来そうだからな・・・」

「・・・・・?」

「・・・・で、お前のことだが・・・」

「・・・・へ?」

「・・・お前、学園を卒業したら俺の秘書になれ」

「はあ?・・・な、なんで?」

「・・・そりゃ、俺がマンツーマンでお前を教育するためさ」

「あ・・・・あの・・・何の教育を・・・?」

「勿論、お前を御堂家総帥に相応しい女にするためのだ」

「はぁぁぁ???」

「お前、大伯母に馬鹿にされたままでいいのか?」

「だ・・・だって、今のままのあたしでいいって言ったじゃん!!!?」

「勿論、そうだ。だが、俺の妻としての最低限の知識と礼儀は覚えておかないと、後で困るのはお前だぞ?」

「うぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・。つ・・・つまって・・・・

「それとも、俺の側にいたくないのか?」

「そ、そんなことあるわけないじゃん!!」

「なら・・・決まりだな?」

「うーーーー・・・・・わかったよ」

「取りあえずは、語学、ダンス、一般教養からだな。この俺が直々に教えてやるんだ。ありがたく思え」

「う〜ん・・・なんだかスパルタな先生になりそうで、怖いなぁ〜〜」

「お前はそんなことでめげる女じゃないだろ? あの時みたいに、また俺を感心させてみろ?」

「・・・・うん! そうだね、一哉くんに誉めてもらえるように頑張るよ!!」

「・・よし」

二人は笑いあった。


「まあ、大伯母の言う子供をたくさん産める丈夫な身体というところは心配なさそうだな・・」

「・・・はあ?」

「・・・ということで、子作りの予行練習でもするか?」

そう言うと、一哉はむぎを軽々と抱き上げた。

「ちょっ、ちょっと一哉くんってば!!!」

「・・・なんだ?」

むぎを抱いたままエレベーターへと乗り込み、二階の一哉の部屋へと向かう。

「・・どーしてこーなるの?」

「・・・どうしてって・・・・・俺がお前を愛しているからさ」

むぎの頬が赤く染まる。

「・・・・一哉くんの・・・馬鹿・・」

部屋に入ると、一哉はむぎをベッドへと寝かせる。
そのまま覆いかぶさり、むぎの頬を撫でながら一哉は囁く。

「・・・それは、俺のセリフだ」


「・・・こんな俺を捕まえたお前が馬鹿なんだよ・・・」


そのまま二人は抱きしめあい、キスを交わしていく・・・・。




二人の馬鹿の大戦争はこれからも・・・・続く・・・・・らしい・・・・・。




                                           終わり










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第十五話 「二人の馬鹿」