カッカッカッ・・・・・・・
病院の廊下を足早に歩く足音が木霊する。

廊下で半ば頭を抱えて座っていたデヴィッドがその音に気づいて顔を上げた。

「・・・・一哉」

「・・・・デヴィッド、何があった?」

一哉はデヴィッドを見下ろすように無表情に見つめている。
デヴィッドは思わず立ち上がる。

「・・・・ごめん、一哉。こんなことになってしまって・・・」

「・・・何があったんだと聞いている」

有無を言わさない一哉の口調に、デヴィッドは視線を落として小さく答える。

「むぎと出かけて、口論になって・・・・・・・僕が彼女を・・・・階段から突き落とした・・・」

「・・・・・なんだと?!」

思わず一哉はデヴィッドの胸ぐらを掴んで、壁に押さえつけた。
デヴィッドから苦しそうな息が吐かれる。

「・・・・・殴ってくれていいよ・・・・一哉」

その言葉に一哉の力は抜けて、その手をスッと離す。

「・・・お前を殴ると、きっとむぎが悲しむ・・・」

力の抜けた首を押さえて息を吐くデヴィッド・・・。

「・・・・・・・・」

「・・・・むぎは?」

「・・・・まだICUにいる。ここに運んだ時には意識はなかった・・・」

「・・・そうか」

いつもの冷静な表情の一哉であったが、拳がわずかに震えている。
デヴィッドはそれに気づいていた。

そこでICUのドアが開き、ドクターが出てくる。
二人の視線がドクターに注がれる。

『・・・ご心配なく。軽い脳震盪と、全身打撲、擦り傷です。すぐに気づくでしょう。念のため、今夜は入院して様子を見て頂いて、明日には帰れると思いますよ』

その言葉に二人は安堵のため息をもらした。

『ありがとうございます』

『すぐに個室に移しますので、もう少々お待ちください』

「・・・・What a relief」

そう安心したようにデヴィッドが呟いた。.






個室にむぎが運ばれて来ると、一哉はすぐにむぎの側に近寄る。
デヴィッドはそんな一哉とむぎをドア付近から見守っていた。

むぎの顔には大きい絆創膏が貼られ、腕と足にはあちこちに包帯が巻かれていて痛々しい。
一哉はむぎの手を握り、ジッと彼女の顔を見つめる。
デヴィッドは暫く二人の様子を見ていたが、やがてフラリとその場から消えていた。

暫くして、むぎが気づく。

「う・・・・・あ・・・一哉・・・くん?」

ホッとした表情でむぎの顔を見つめる一哉。

「・・・お前、いったいどれだけ俺を心配させたら気がすむんだ? 馬鹿」

「・・・ごめん」

「・・・・まあ、いい。それで、何があったのか覚えているか?」

「・・・・えっと、デイジーとあの公園に行って日本庭園に案内してもらって・・・そこで見晴らしのいい山に登って・・・そこの階段から、落ちた・・」

そのむぎの答えに一哉のため息は大きくなった。

「・・・お前、俺の質問の意味わかってるのか? デヴィッドと何があったのかと聞いているんだ」

「う・・・・・うぅーん」

あまりむぎは言いたくはなかったのだが、この怒っている一哉に黙っているわけにもいかなくなった。

「・・・えっと・・デイジーとちょっと言い合いになっちゃって・・・そんであたしが階段付近まで近づきすぎちゃって、バランス崩して落ちちゃったの・・・」

「デヴィッドは自分が突き落としたと言っていたが・・・・」

「ええっ!? そ、それは違うよ!! デイジーはあたしを助けようと手を延ばしてくれたよ! あたしが勝手に落ちたんだよ!」

「・・・・・・・」

「・・・御願い、あたしを信じてよ、一哉くん! デイジーはそんなことしてないよーー」

「・・・フッ。俺はお前を信じてるぜ・・・いつだってな・・」

「・・・一哉くん・・・」

二人は握り合っていた手の力を更に強めた。

「ただ、何故デヴィッドはそんなことを言ったのかだが・・・。言い合いの原因はなんだ?」

「・・・・ごめん、これは言いたくない」

「・・なに?」

「・・・これはデイジーの個人的なことになるから、彼から一哉くんに言うのならかまわないだろうけど、あたしが一哉くんに言っていいものではないと思うから・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・ごめん」

そう神妙そうに謝るむぎを見つめながら、一哉はふっと微笑む。

「・・・わかった。どうせ話せと言っても口を割らないだろう? それにそんなお前、俺は好きだぜ・・」

「・・・・・ぇっ・・・・」

そう言って頬を赤く染めるむぎ。
頬の絆創膏の白さがその赤みを際立たせていた。

「今日はお前はここに入院だそうだ。俺もここに泊まる事にする」

「ええっ!? いいよ、あたしなら平気だよ。一哉くんは明日も仕事でしょ? また無理したら・・・」

一哉はむぎのおでこを指でピンとはじいた。

「・・馬鹿。俺が倒れた時にはお前がずっとついててくれた。今度は俺がついている番だ・・」


「・・・・でも」

「・・・俺がついていたいんだよ。それに、俺はどのみち一晩だけだ」

「・・・うん。ありがと」

「・・・ああ」


病院での二人の夜が過ぎていく・・・。








翌日、むぎは無事退院しホテルへと戻ってきた。
退院した当日だけベッドに寝ていただけで、むぎは翌日から起きて動き回っていた。

すぐに顔の絆創膏は取れ、包帯も序序に取って行く。
まだ打ち身のせいで、青なじみよろしくあちこちに痣が残っていて、押したり当たったりすると痛みが走るが普通にしているぶんには影響はなかった。



そして、その包帯もすべて取れた頃に、その人物は訪ねて来た。


ビンポン
ホテルの部屋のチャイムが鳴った。
むぎがドアを開ける。
そこには、デヴィッドがいた。

「デイジー・・・その顔どうしたの!?」

デヴィッドの口元は紫色に腫れていた。

「ああ・・・・ちょっとね。それより、入ってもいいかな?」

「あ・・・うん。どうぞ」

むぎはデヴィッドをリビングへと通す。
すぐにコーヒーを煎れてデヴィッドに出す。
デヴィッドはその腫れた口元を少し気にしながら、コーヒーに口をつけた。

「ねぇ、デイジー。ほんとに、その顔どうしたの? まさか・・・一哉くん?」

「・・・・ああ。一哉に殴られたよ」

「ええっ!? 一哉くんってば、なんてことするの!?」

むぎはいきなり立ち上がると携帯を取り出そうとする。
どうやら、一哉に電話をかけようとしたようだ。
それをデヴィッドは静かに止めた。

「ああ・・・待ってくれ、むぎ。殴ったのは一哉だけど、僕が頼んだんだよ。殴ってくれないとふっきれないってね・・・」

「・・・・え?」

「・・・・・僕の話・・・・聞いてくれる・・かな?」

ソファに座って長い足を開き、その上で両手を組み、神妙な面持ちで話しだそうとするデヴィッドに、むぎは再び向かいのソファに腰を下ろした。

「・・・・うん。話して・・・」

「ありがと」

「まずは、謝らせて欲しい。本当にごめんよ。君にケガをさせるつもりはなかった。あの時の僕は頭に血が上っててどうかしていたよ」

「ううん。あたしも悪いんだし・・・変なこと言い出して、デイジーを傷つけたでしょ・・・」

「・・・いいや。その通りだからさ」

「・・・・えっ?」

「・・・んんと、何から話せばいいかな・・・」

そう考えながら、デヴィッドはコーヒーに手を伸ばし、暫し考える。
むぎはただ黙ってデヴィッドの言葉を待っていた。
そして、回想を交えながらデヴィッドは語りだした・・・・。









僕のおじいさんと一哉のおじいさんが昔からの友達なのは言ったよね・・。
丁度同じ年に双方に孫が生まれて、二つの家族はまるで親戚のような付き合いになっていったんだ。
コンツェルンとしてはいいライバルとしていながらね・・・。
両親は双方とも忙しくて、あまり僕たちにかまっていられなかった。
そこで、小さいうちはよくどちらかの家に預けられたり預けたりしていたのさ。
お互い一人っ子の僕たちにとっては、まさしく兄弟みたいだった・・・。

そして、そんな僕たちの面倒をよく見てくれたのが、Sadako大伯母様だったのさ。
当時から大伯母様は御堂グループの経営に携わっていて、それを生きがいにして自分の結婚について考えてなかったみたいだった。それだけに、僕たちを自分の孫、子供のように育ててくれた。
勿論、優しくはなかったけどね・・・。小さいうちから僕たちに帝王学を学ばせたよ・・・。

一哉はそれこそ大伯母様の理想の男に育っていった。
努力をする必要もなく、何でも出来た。
だからかな、伯母さまが一哉にどんどんと執着していったのは・・・。
自分がここまでに育て上げたっていう誇りみたいなものが出来上がったんだろうね。
でも、その他の家族は鷹揚な人が多かったからね。大伯母様はそれがまたおもろしくないらしくて、意固地になっていた部分もあったようだ。
そして、さすがに一哉も伯母さまから離れだした。
考えてみたら、あの頃から一哉は退屈してたな・・・いろいろなことに・・・。
僕はそれどころじゃなかったよ。
一哉に追いつくのに必死だった。
必死に努力した。
一哉と一緒に大伯母に誉めてもらいたくて、一哉と同じように認めてもらいたくて・・・・。
そして、いつの頃か一哉に認めてもらいたくて努力をするようになっていった。
一哉は他人の努力を認めてくれる。
外見、境遇、そんなものに惑わされず、本人の影の努力、頑張りをそのまま認めて評価してくれる。
自分は何一つ苦労を知らないのに、他人の苦労を理解してくれる。
僕はそんな一哉の度量の大きさに感動さえしていた。
同じ境遇に生まれ、同じ人生のレールをすでに轢かれていながら、何も不思議に思わず自然とその道を選ぶ一哉。
いや、選べる一哉が僕は羨ましかった。そして、憧れだった。

しかし、ある時から・・・・僕は努力することを・・・・やめた。

それは、いくら頑張って努力をして一哉が認めてくれても、それ以上には決して思ってもらえないことに気づいたからだ。

あれは僕がJunior High Schoolに通っていた時の夏休み。
一哉が日本から、バカンスに僕の別荘地に遊びにやってきた。
その時、美しい女性の家庭教師が一緒だったよ。
奇妙な気持ちがしたけど、その時の僕にはまだわからなかった。

バカンスの間中、僕たちは三人でいろいろなことをして学び、そして遊んだよ。
その人はとても綺麗で、優しくて、なんでも知っていて素敵な人だった。


《ねえ、一哉》

《・・・なんだ?》

《あの先生、素敵な人だね。こんなところまで、家庭教師で来てて恋人とかいないのかな?》

《・・・なんだ、お前。先生に気があるのか?》

《べ・・・別にそういうことじゃないよ》

《・・・恋人ならいるぞ》

《・・へぇ、やっばりねぇ。でも、恋人がいて海外にまで仕事だなんて、大変だね》

《・・その心配はない。恋人は、俺だ》

《・・・ええっ?!》

《・・そんなに驚くことか? まあ、大分向こうが年上かもしれないけどな》

そのとき、僕の胸にはわけのわからない痛みが走ったよ。
そして、それから二人の姿を見るたびに僕はたまらくなった。

そしてある時、庭で一哉が一人呆然としていたのを見たんだ。

《・・・一哉、どうしたの? 先生は?》

《・・・彼女はもういない。日本に帰った・・・。》

《・・えっ?! それは随分と急じゃないか。何か向こうであったの?》

《・・・・いや。家庭教師をやめるそうだ・・・》

《・・・ええっ?! ど・・・どうして?》

《・・・実家に戻って親の薦める見合いをするそうだ・・》

《・・・見合いって・・。君の恋人じゃなかったのか?》

《・・・ふう。俺は少なくともそう思ってたんだけどな・・・》

《・・・じゃあ・・・》

《・・彼女の実家は没落した旧華族らしいが、御堂の家の重さについていけないそうだ》

《・・・・・・》

《・・御堂だからと近づいてくる女もたくさんいるが、御堂だからと去る女もいるわけか・・・。つくづく、御堂の名前が俺につきまとうぜ》

《・・・・一哉。・・・・その手に持っているのは、ハンカチ?》

《・・ああ。彼女が落として行った。気づくのが遅くて返しそびれたな・・・》

それは白いレースのハンカチだった。
一哉はそれを握りしめたまま暫くその場に佇んでいたよ。










(・・・・部屋にあったあのレースのハンカチ・・・・)

むぎは一哉の部屋を掃除していたときに見つけたあのレースの白いハンカチを思い出していた。











一哉のそんな姿を見ているのはつらかったけれど、でも僕はホッとしたんだ。そして、気づいた。

そう。君の言うとおり僕は一哉のことが好きだったんだよ。小さい頃からずっとね・・・。

ああ、でも誤解しないで。僕はゲイでもホモでもないよ。他の男に興味を持ったことはないし、素敵な女性には魅力を感じる。現に何人かの女の子と恋をして、付き合ったこともある。・・でも、だめだった。どうしても一哉を忘れられなかった・・・。


こんな自分を呪ったよ。そして否定もしてみた。でも、人の気持ちって不思議だよね。否定すれば否定するほど、それに拘っていくんだ。第一、こんな自分の気持ちを一哉が受け入れてくれるわけがない。勿論、受け入れてもらおうなんてことも思っていなかった。
でも、やはりつらかった。だから、努力することもやめた。それがわかってしまった僕には何の意味もなくなっていたからね。

それに、僕の家族は御堂家の人達と違って、みんな凝り固まった考えの人間ばかりでね。努力をしなくなり、跡取りとしての興味がなくなった僕をなじったよ。興味をなくすといろいろなものが見えてくる。ますます僕はそのねじまがった考えの上流社会というものがいやになった。そして、そんな中に平然としている一哉の側からも離れたかった。それで僕はHigh Schoolを中退して家を出たのさ・・・。

それでも、一哉は僕を認めてくれたよ。そして、僕を羨ましがっていた。僕の方こそ、一哉を羨ましく思ってきたって言うのにさ。そして羨ましいのなら僕と一緒に出ればいいって何度思ったかしれない。
そんなことは絶対にしないし、思ってもいないってわかっていたけどね・・・・。

先生との一件以来、一哉はいろいろな女性を連れて歩いたりするようになった。こっちでも一哉は超有名人だしね。だけど、みんな本気じゃないのはわかっていたから、僕は気にしなかった。僕もたくさんの女の子と付き合って、張り合ってみたりしてね・・・・。

そして、一哉がこっちで本格的に事業を請け負うためにやってきたことを知った。

暫くぶりに再会した彼は変わっていた。
僕の知っている一哉じゃなくなっていた。
退屈している自分を誤魔化しつつ、御堂家を背負っている一哉じゃなくなっていた。
何をしていても、ビジネスマンでいた一哉が、自然体でいることに気づいた。

僕は慌てたね。そしてそれが日本にいる一人の女の子のせいだとわかった。
一哉をこんな風に自然体に変えたただ一人の女の子。
僕は君に興味を持ったよ。だから、喜んで君を迎えにも行ったし、いろいろとしてあげたいとも思った。
そして、僕も君に惹かれた。
本当だよ、むぎ。
君になら一哉をまかせてもいいと何度も思った。
だから、応援したいとも思った。

でも、君と一哉の間に僕が入り込めないと感じ始めると、僕は無性に寂しくなった。
そして、それが憎くなった。
その感情がなんなのか、僕にはわからなくなっていた。
君に向けてのジェラシーなのか、一哉に向けてのジェラシーなのか・・・それさえもね。
だから、君と一哉の間を邪魔しようともした。

一哉には煽るようなことを言い、君には気のある素振りをした。
でも、半分は本気だったのもあるんだよ?
君が僕を選んでくれたら、きっと君だけを愛せるんじゃないかって思ったよ。

でも、何があっても前向きで、一哉を信じていて、それでいて僕自身もちゃんと見つめてくれる君を見ていたら、こんな自分がいやになって、こんな自分を認めたくなくて・・・君に確信を突かれて逆上してしまった。

ごめんよ、むぎ。
本当に、ごめん。
こんな僕を許して欲しい・・・。







「・・・・デイジー」

むぎの瞳には涙が溢れていた。

「・・・・僕のために泣いてくれるの? むぎも優しいね。そして・・・一哉も・・・」










今日、ここに来る前に一哉にちゃんと全て話してきたよ。
そして、告白もしてきた。
僕は昔から一哉が好きだったんだって・・・・。
そしたら、一哉はなんて言ったと思う?

《・・・ありがとう。お前の気持ちは嬉しい。だが、俺にはお前の気持ちは受け入れられない。それはお前が男だからとか、そう言った理由ではない。俺にはすでにむぎがいる。他には考えられない。それだけだ・・・。すまない》

そう言って頭を下げてくれたよ。
僕は驚いてしまったよ。
てっきりなじられると思っていたからね。いや、むしろそれが当然だろう?
それなのに・・・。

《気持ちを受け入れられないと言っておきながら、これは俺からの頼みなんだが・・・。お前は小さい頃からの俺の大切な友人だ。こうなってしまった以上、お前にはつらい思いを味わわせることになるのかもしれない。だが、敢えて頼む。これからも俺とむぎの良い友人でいてくれないか? あいつもきっとそれを望んでいると思う・・》

《・・・一哉? 僕を許してくれるのかい?》

《・・・許すも許さないもない・・・。それに、人を好きになるのに理由なんてないだろ?》

《・・一哉、ありがとう》

《・・なにを言ってるんだ、馬鹿》

《・・・・うん。・・・一哉、馬鹿ついでに君に頼みがある》

《・・・なんだ?》

《・・・僕を殴ってくれ》

《・・・今までのことをふっきるために、殴って欲しいんだよ。そうしたら、僕はまた君の友人に戻れる気がする・・・》

《・・・・・わかった》



一哉のパンチは初めて受けたけど、効いたね。
でも、嬉しかったよ。
実を言うとね、憧れていたんだよ。男同士の拳の友情ってやつをね。
昔、見た日本の映画でよくあったシーンだよ・・・ふふふ。
それでね、やっと踏ん切りがついたんだよ、清清しいくらいにね・・・。
そして、今度は君とまた良い友人に戻るためにやってきたのさ・・・。








「・・・あたしにも殴ってほしいの?」

そう、むぎは涙をこぼしながら、笑って言った。

「うーーーん・・・・どうしようかな。これ以上顔に傷をつけられると仕事に影響する・・かな」

デヴィッドも笑う。

「じゃあ、あたし流のお友達の挨拶・・・でいい?」

「・・・ああ。君の好きにしてくれていいよ」

「・・んじゃ」

そう言ってむぎは立ち上がると、デヴィッドの隣へと座った。

「・・・・?」

そして、ふわっとデヴィッドを抱きしめた。

「・・・!? む・・・・むぎ?!」

デヴィッドの耳元でむぎは優しく言う。

「・・・こっちにはハグって挨拶あるんでしょ? 親しい人と交わす挨拶・・・あの時助けてくれたおじいさんに教わったの」

そして、むぎは背中をポンポンと軽く叩く。
デヴィッドは驚いて硬直していたが、やがてフッと笑うと、むぎをギュッと抱きしめ返して背中を軽く叩いた。

「・・・そうだね、ハグは最も単純で、それでいて相手にストレートに愛が伝わる挨拶だよ」

「・・・これで、あたしもデイジーの大切な友達に・・・なれたかな?」

「・・・ああ・・・十分だよ。ありがとう、むぎ・・・」

デヴィッドの瞳からは涙が幾筋もこぼれ落ちていた・・・・。








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第十三話 「愛の挨拶」