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はじめ通信8−0604
シリーズ「この期に及んで」F
学校「自由選択」制度が破綻を迎えつつある

●5月23日の朝日新聞に「学校選択制度導入広がらず 検討中も1割以下」という小さな記事がのりました。
 それによると、昨年10月に内閣府が市区教委を対象に行なった調査の結果、義務教育での学校自由選択は、小学校14%、中学校17%で前年と変らず、しかも「導入を検討中」の学校は前年を大きく下回ったことが報じられました。かつて一気に波及するかと見られた学校選択制が、大きな壁に突き当たったといえます。

●内閣府のホームページに掲載された調査資料をみると、下の表のように、調べたのは全国全ての市と区・655の教育委員会で、詳しい数字では前年の06年度に比べ、小学校で微減、中学校で微増ですが、いずれにせよわずかな増減に過ぎません。
 むしろ重要な変化は、06年から07年のわずか1年で、学校選択制度を検討中の自治体の数が小中ともに18%から9%に半減したことです。
 おそらく今後、この制度を新たに導入する自治体は激減するでしょう。学校選択制度への流れが止まったといっても過言ではありません。

●この背景には、表れた数字以上に深刻な問題が横たわっていると思います。
 その一つは、一定の人口が集中する都会の自治体しか、学校選択を採用できないということです。
 同じ内閣府の調査で、人口30万人以上と未満とで分析すると、30万人以上の市や区は、小学校で39%、中学校で44%が導入しているのに対し、30万人未満ではそれぞれ11%と13%しか導入していません。都市と地方の格差が、制度のうえでも広がっていることが分かります。
 これは人口密度が低い地方では、他の区域の学校が遠くて通いにくいからだという推測が当然成り立ちますが、自転車通学が普通の中学校でも低いということは、物理的な条件だけではないと考えられます。
 学校選択を最初に打ち出した品川区は、当初、入学生が減っても閉校にしないと約束しましたが、連続して入学数が減れば閉校に追いやられるのは必定で、実際に品川はじめ多くの自治体でそうなりつつあります。
 しかし過疎と少子化で人口が減り続けている自治体で、入学者が減った学校を廃止していけば、学校のない地域が増え、町全体の衰退に直結します。都市に対抗して競争による活性化をねらった学校選択が、逆に自滅の道につながったのでは、元も子もありません。

●もう一つは、子どもをねらった凶悪犯罪が、都会と地方の区別なく急増していることです。
 都会ではまだ大人の目が、ある程度の密度で子どもを見守ってくれますが、地方では、遠くから通ってくる子の帰り道が暗い農道だったりすれば、見守ってくれる大人の目は皆無に近いでしょう。(高校に通いだした女の子が犯罪に遭いやすいのはこういう理由もあるんじゃないかと思います)
 また、他学区から通ってくる子の多い人気校の場合は、日本の学校の特質である地域に支えられた学校のあり方も難しくなり、災害時などに子どもを自宅におくり届けることも困難です。

●私はさらに、30万人以上の市や区が制度を導入した割合は多い一方で、「検討中」のところが30万人未満の自治体より低い割合となっていることは注目すべきだと思います。
 まだ萌芽的ですが、選択制度を導入した自治体や学校が、教育活性化につながるより、逆に新たな矛盾を抱え込んでいるのが知られてきたのではないかと思うのです。
 例えば、東京都内では下の表のように、選択制を導入しているところが約半分ですが、導入していない地域から転勤した教員は、学校間の競争より、子どもや保護者たちのなかで狭い学力に偏った差別と競争意識が強すぎるのに非常に驚くそうです。

●ある区では、02年度に学校選択が始まり、以前から越境の多かった学校に区内全域からぞくぞくと入学し始め、その子どもたちがいま高学年になったところですが、もともと抽選入学なのにエリート意識だけが強くなってしまい、テストの点数ばかりを気にして、しつけや社会性が未熟で、教員の生活指導を受け付けないうえに、少し成績の低い子や雰囲気の変った子がいじめの対象になっていると聞きました。
 教員はもちろん保護者や子どもまで学校全体が「選ばれた学校」というイメージにしばりつけられており、一方で地域との交流は難しくPTA活動も不活発になったといいます。

●学校側も、子どもが集まるので教室分だけクラスを増やすことになり、定員一杯入学させるため、、学級人数はいつも四〇人ギリギリ。なれない新採用教員が毎年次々入り、まじめな先生ほど疲れ果てて転勤や退職で去っていくという悪循環がパターン化しつつある地域も出てきているようです。

●少なくとも、義務教育における学校選択は、もはや根本から見直すときではないでしょうか。


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