「う・・・ん・・・・?」

志貴が眼を覚ました時ここがどこか判らなかった。

これは冗談でもなんでもない。

実際にわからなかった。

協会の自分の部屋とも違う。

自分の部屋はここまで豪勢な作りをしていないし、何より広さが違う。

「あれ?ここは・・・」

そう呟いた時ドアが開かれ誰かが入ってきた。

「あら?志貴ようやく眼を覚ましたの?」

青子であった。

六『千年城・千年錠』

「もう、本当に心配したわよ。四日間眠りっぱなしだっのよ」

青子がやや呆れ気味にそう言う。

「先生?ここは何処・・・」

最初は頭に霞がかかったようであったが、そこまで言って志貴は急激に記憶を取り戻した。

「先生!!!あのお姉ちゃんたちは!!」

「大丈夫じゃ。無事にここにおる」

そう言いながら部屋に入ってきたのは一人の老人であった。

「えっ?あ、あの・・・お爺さんは?」

「志貴紹介するわ。この人はゼルレッチ。現存する五人の魔法使いの中で最強であり、全ての魔術師の頂点に立つ者、そして、私にとって師匠でもあり、君が助けた真祖のお姫様の執事を勤める人よ」

「えっ!!」

志貴は驚いた。

かつて『お師匠様』が言っていた人が・・・・

「それで君か・・・姫を二重・・・いや三重の意味で救ってくれたのは?」

ゼルレッチは重厚さの中にも穏やかさを含んだ声でそう尋ねる。

「あっ・・・は、はい、初めまして、七夜志貴と言います」

「ほお・・・蒼崎、お主の弟子としてはなかなか礼儀正しいな」

「老師どういう意味ですか?」

青子はややむくれ、ゼルレッチは静かに笑う。

「さてと・・・志貴お腹が空いているでしょ?食事にしましょう?」

「はい!」

「そうじゃな、食事が終わった後君には色々聞きたいからな」

志貴達は部屋を後にした。







『七夜の里』すらすっぽりと入ってしまいそうな広大な建物であった。そこを青子とゼルレッチに連れられて、これまた広いホールにやってきた。

そこには既に料理が出来上がっていた。

「では食べるとしようか?」

「はい!!」

「ええ、老師いただかせて貰います」

そう言うと、志貴達三人は席に着き食事を開始した。

「・・・すっごく美味しい!!」

「そうか・・・それは良かった・・・」

「まあ、志貴お腹空いてるものね。『空腹は最高の調味料』とはよく言うわね」

「何か言ったか?蒼崎?」

「いいえ、何も」

たった三人であったが賑やかで楽しい食事もあっと言う間に終わりを迎え、三人は食後のお茶を楽しんでいた。

「さて、志貴君」

「はい」

「いくつか聞きたいのだが良いかな?」

そこでゼルレッチは話を切り出した。

「はい、何でしょうか?」

「まず最初に・・・君はどの様にして『直死の魔眼』を有したのかね?」

「あの・・・すいません、『直死の魔眼』って・・・僕の『根源の力』ですよね?」

志貴の躊躇いがちな返答に青子が気付いた様に

「あっそうか・・・老師その質問の前に志貴には『直死の魔眼』の事について説明しないといけないかと思いますがよろしいですか?」

「蒼崎・・・もしやこの少年は・・・『直死の魔眼』を知らずに行使していたというのか?」

「はい」

「なんと・・・とてつもない才能であろうな・・・」

ゼルレッチは静かに天を仰ぐ。

そして、青子はまず志貴と向き合う。

「志貴、君が今もっている力はね・・・死を支配している魔眼なのよ」

「死を?」

「ええそうよ。その眼を持ってすれば殺せないものは存在しない。志貴が『アカシャの蛇』の魂だけを殺した様に魂をも簡単に殺すことも出来る、最高峰にして伝説の魔眼なのよ」

「・・・」

志貴は唖然とした。

この眼が危険な事は熟知していた。

根源の地で出会った師も自分の力は最大規模と言っていた。

父も放置しておくと危ないと言っていた。

しかし、これ程と言うのは予想すらしてなかった。

「志貴は驚いているみたいだけど私や老師はもっと驚いているわ。君位の歳で『直死の魔眼』を完全に制御するなんて前代未聞の事だもの・・・」

「・・・そうなんですか?僕はただ、『お師匠様』の言いつけを守って力の制御の修行を毎日していただけですし・・・」

「??『お師匠様』?志貴君それはどう言う事なのかね?」

「は、はい・・・実は・・・」

ここで志貴は根源の地である人に出会った事や、そこで力の制御を学んだことを事細かく話した。

「ふむ・・・それは興味深いな・・・そこで君は『直死の魔眼』と共にその制御まで学んだというのか・・・」

「はい」

「なるほどな・・・さて、次に尋ねるが・・・志貴君、君が姫を救う時に現れた聖獣あれは何者かね?」

「えっ?玄武がどうかしたのですか?」

志貴が逆に問い返す。

「ほうあれは玄武というのかね?」

「はい、それに聖獣というのは?」

「志貴、聖獣というのはね幻想種の中で頂点に君臨するもの達・・・一説には神と同等とまで呼ばれているわ」

「ええっ!!」

「おまけに君が行使したのは紛れも無く召喚魔法・・・それも聖獣という神を呼び出す・・・それほど高度なものを君は容易く行使した。それは何処で会得したのかな?」

「これも根源の地でお師匠様に教わったものです」

「これもか?」

「はい。ただ・・・お師匠様はこれを魔法とは言いませんでした。技法を言っていました」

「技法か・・・そうだとしてもあれを技法と認めるものはいないであろう・・・」

「そうなんですか?」

「うむ、あれは召喚魔法・・・失われた伝説の魔術系統・・・そう呼ばれるに相応しい」

「考えてみれば凄い事よね。七夜の暗殺技法、『直死の魔眼』、更には『召喚魔法』も・・・埋葬機関に渡さなくてつくづく良かったわ」

「当然じゃよ蒼崎。あれらの事、もし彼を手中に収めればその時にはどうなる事か・・・」

「あっそうだゼルレッチさん」

不意に志貴が尋ねて来た。

「ん?何かな?志貴君」

「あの・・・アルクェイドのお姉ちゃんと蛇っていう奴ってどう言った関係だったんですか?」

「気になるのかね?」

「はい・・・」

「そうじゃな・・・もはや蛇は存在しておらぬ、言っても構わぬであろうな・・・蒼崎、お主彼には」

「死徒や真祖の事は話してあります」

「ならば差し支えは無いな・・・では話そうか・・・」







長い話が終わると志貴は長い溜息をついた。

「なんか・・・救われませんね・・・お姉ちゃんもそうですけど・・・そのロアって奴も・・・」

「ああ、あ奴も最初はただ純粋に姫を慕っておった筈だったのが途中より狂ってしまったのじゃろうな・・・」

「でも・・・そうだとしてもロアの行った事は許せません。その為にどれだけの人が・・・」

「その通りよ志貴、動機がどうであれロアの行為は結局の所は、独り善がりに過ぎないわ。自分がどれだけ恋焦がれようとも相手が拒絶したらそれまでなのだから・・・」

「そうだ!!先生お姉ちゃん達は今何処に?」

「エレイシアって言う、ロアに支配されていた子は今は寝ているわ」

「今は?」

「ええ、志貴が眼を覚ます少し前に起きたんだけど、まだ心の傷か深いみたい。自己嫌悪に陥っているわ」

「仕方があるまい。どう言った経緯があれ、あの者が自らの手で自分の親しき者を手に掛けた・・・その事実は決して消えはしない」

「老師・・・」

「ゼルレッチさん・・・」

「しかし、それを生涯重荷として背負い続けるか、その傷を糧とし己の道を進み続けるか?それでその者の行く末は決まるであろう・・・願わくば後者であってもらいたいもの・・・それと姫の事じゃが・・・おそらくこの先眼を覚ます事は無いであろうな・・・」

「えっ!!そ、それは・・・」

「口で言うより実際に見た方が良いであろうな・・・ついて来なさい」

そう言うと、ゼルレッチは席を立つとホールから出ようとする。

それを志貴は慌てて、青子はゆっくりと立ち上がるとゼルレッチの後を追っていった。







コツン・・コツン・・・

静か過ぎる廊下を三つの足音が静かに響く。

「そう言えば・・・先生・・・ここって何処なんですか?」

「ここは千年城。真祖のお姫様、アルクェイドの城よ」

「ここがお姉ちゃんのお城?」

「ええ」

「さよう、そして今ではこの城は姫の牢獄と化しておる・・・」

ゼルレッチはただそう言うと、無言で廊下を歩く。

志貴達も同じく無言で歩く。

やがて、三人は城の中で最上階にある玉座の間の更に上部に到着した。

そこはテラスのようなつくりとなっておりそこから見下ろすと玉座の間が一望できる。

「志貴君今姫はこの下で眠りについている。後は見てみるが良い」

「はい・・・」

志貴は静かに見下ろした。

その瞬間絶句した。

そこには前後左右上下360度ありとあらゆる方向より伸びた鎖によって全身を拘束されたアルクェイドがそこにいた。

「これは・・・」

「姫もまた眠りについている・・・それも永遠に覚める事の無い眠りにな・・・」

ゼルレッチが悲痛な表情でそう言う。

「な、何で・・・」

「吸血衝動を抑える為じゃよ。姫は今回の戦闘で極端なほど力を使ってしまった」

志貴には思い当たる事があった。

「もしかして僕が・・・」

「残念だけどその通りよ。でもね・・・志貴の傷は私や老師でも直せたんだけど、その前にお姫様が治しちゃったのよ。直接には志貴の所為じゃないわよ」

「でも、僕がそのきっかけを作ったのは間違い無いんですよね」

「・・・・・・」

その言葉を最後に沈黙が降り注ぐ。

「志貴君、今姫を助けようとしても無理じゃよ。あの鎖は姫の能力によって作り出された空想の鎖・・・君の力でも断ち切れぬ。断ち切れるのは姫以外しかおらぬ・・・」

テラスから飛び降りようとした志貴にゼルレッチがそう釘をさす。

志貴は俯き必死に何かを堪える様子であった。

それを見たゼルレッチは暫し思案に暮れた表情をしていたが、やがて一つ頷くと志貴にこう言った。

「志貴君・・・姫を救いたいかね?ならば一つだけ可能性がある」

「えっ!」

志貴が驚いた様に振り向く。

「本当ですか?」

「ああ、しかし、この可能性は生半端な覚悟では手にする事は出来ぬ・・・それほど危険な道であるがな・・・」

「老師!!!ま、まさか!!!」

「そのまさかじゃよ蒼崎」

何かに気付いたのか青子が思わず絶叫を上げる。

「危険です!!幾ら志貴でもあれを相手にするなんて!!!」

「確かに危険じゃ。しかし、志貴君の力ならあるいは可能とするやも知れぬ・・・それに賭けたいのじゃ」

「ですが・・・」

「先生、ゼルレッチさん!!教えて下さい。方法というのは何なんですか?」

「・・・志貴冗談抜きで危険よ。それでも構わないのね・・・」

「はい」

志貴の声・視線・瞳には一点の迷いも躊躇いも無い。

「判ったわ・・・老師」

「うぬ・・・死徒二十七祖第七位アインナッシュ・・・」

「えっ?」

「そのものが保有しておる真紅の実と言う物・・・それには死徒に不老不死を与える物なのじゃが一説には真祖の吸血衝動を限りなくゼロに抑え込める力もあると言われておる」

「じゃあ!!それを取ってくれば・・・」

「もしやしたら姫は助かるかも知れぬ」

「でも志貴それはそう簡単じゃないわよ。実はねアインナッシュは普通の死徒じゃないのよ」

「そう、アインナッシュは一つの森林の集合体。意思を持った吸血植物・・・いや、植物の死徒達の集まり・・・別名『思考林』『腑海林』とも呼ばれておる・・・」

「植物の・・・」

「そうよ。だから危険もこの前のロアの比じゃない。その森はアインナッシュの体内・・・死徒の内部に潜り込むようなものよ・・・本気で死ぬかもしれない。それでもいいのね?」

青子はそう聞く。

言葉の奥には『嫌だったらそれでも構わないのよ』と言っていたが、志貴の決意は揺るがなかった。

「先生・・・僕行きます。あの時にも言いましたが僕はお姉ちゃんに楽しい事を知って欲しいから・・・もっと笑って欲しいから助けたんです。ここで永遠の眠りにつかせる為に助けんじゃない・・・迷惑であっても僕は助けます」

その言葉にゼルレッチは溜息を付いた。

「やれやれ・・・頑固な子じゃな・・・蒼崎お主の影響かな?」

「とんでもありません。父親の血です。この子の父親も筋金入りの頑固者でしたから・・・」

口でそうは言ったが二人は・・・特にゼルレッチは・・・志貴の心に深い感銘を改めて感じていた。

これほどの固く強き意思を持つ少年ならあるいは・・・

そんな希望を持たせるに相応しき少年であった。

「良しこれで話は決まったな。しかし、志貴君。君もまだ体調は完全でない筈。出発は一週間後としようと思うが良いかね?」

「はい」

志貴は不満を出すでも無く当然のように答える。

「じゃあ戻りますか?」

青子の言葉に志貴は頷いた。







翌日、志貴は思わぬ危機に瀕していた。

「ここ・・・どこ?」

ようは迷子であった。

発端は志貴が朝の修行を終えてから少しこのお城を探検してみようと思った事にあった。

しかし、それが間違いであったらしい。

あっちにふらふら、こっちにふらふら、好奇心に任せて歩いている内に今何処にいるのかわからなくなってしまった。

「大体このお城広すぎるよ・・・よくゼルレッチさん迷わないな・・・」

そんな事をぶつぶついいながら、志貴は出口と思われる方向に再び歩き始めた。

暫く進むとそこも行き止まりだった。

「はあ・・・もう何度目かな?」

溜息をつき来た道を戻ろうとした時であった。

・・・お〜い、誰かおらんのかぁ〜

壁の向こうからかすかに声が聞こえてきた。

「えっ!!誰かいるんですかーーー!!」

志貴は壁に大声を出す。

「おっ!!誰かおるんかいな!!頼む!!後生や!!助けてぇ〜な!!!」

「どうされたんですかーーーー」

「出れなくなってしもうたんや!!」

「その壁の向こうにいるんですかーーー」

「ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと向こうやーーーーー!!!」

「へ?ずっと向こう??」

「ちゃうちゃう、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと向こうやー!!」

「そんなに向こうにいるんですか!!!」

「そうやーーー!!頼むから助けてぇな!!!」

「わかりました!!!すぐそちらに行きます!!

「気長に待つとするわ!!」







壁のはるか向こうでは・・・

「はあ・・・ああは言ったが来る訳無いやろなぁ〜」

その声は溜息混じりにしみじみと呟いた。

「まったくなぁ〜なんでこんなもの創り上げてもうたんやら・・・」

更に溜息をついた時

ゴン・・・

妙な音が聞こえてきた。

「ゴン??」

ズン・・・

「ズン??・・・なんや?」

ガゴン・・・

「ガゴンやと!まさか・・・」

音は徐々にこちらに近付きつつある。

「嘘やろ?・・・まさかそないなこと・・・」

その呟きと同時に一角の壁が綺麗に切断され崩れ落ちそこに一人の少年があわられた。







「ふう・・・ここかな?」

そう言って志貴は静かに息を吐く。

した事は単純であった。

『直死の魔眼』を使い壁をことごとく叩ききって、遂にこの場所まで到達したのだ。

「えっと・・・何処にいるんですかーーーー!!!」

「・・・はっ!!ここや!!ここやーーーー!!」

声がするが姿は無い。

「えっ・・・何処なんですかーーー!!」

「だから!!ここやと言うとるやろうが!!」

志貴は更に見渡すが何処にも人影は無い。

・・・奥に扉とそれを掛けた南京錠以外は・・・

「あっそうか・・・その奥にいるんですね!!直ぐに鍵を壊して開けますから!!」

そう言ってなんの躊躇い無く『七つ夜』を手に南京錠を壊そうとした瞬間。

「こぉーーーーーーーら!!!!!待てや!!!!!人殺す気か!!!おんどれぇ!!!」

南京錠が大声上げていた。

「うわっ!!か、鍵が喋った・・・」

「鍵やあらへん!!・・・ちぃーーと待ちや」

そう鍵が言った瞬間、南京錠が淡く輝き始めた。

そしてその輝きが満ちると同時に、そこには一人の男性が立っていた。

金髪の一見するとお調子者の若者。

しかも・・・

「はぁ〜やばかったわぁ〜おい坊主、人に刃物向けるとはどういう了見しとんのや」

やけにハイテンションで喋る喋る・・・おまけに使う言語はバリバリの関西弁であった。

「へっ?あ、あの・・・お兄さんなんですね?先程助けを呼ばれていたのは・・・」

「ああ、そうや・・・それにしても・・・坊主おのれ、なんちゅう無茶しよるんや」

「え?無茶?」

「ああそうや、まさか『悠久迷宮』をあんな方法で突破するとは思わへんかったわ」

そう言いながら男は深く溜息を吐く。

「まあええか。坊主のお陰でわいもここから出れるさかいしな。ほな坊主ここから出るから案内よろしゅう・・・あっ!!ちぃいと待った!!」

そう言うと、男は奥の部屋に飛び込むとなにやら本のような物を大事そうに抱えて出て来た。

そしてそれを懐にしまい込むと志貴に向かって、にかっと笑い

「これで良しと・・・ほな改めて・・・案内よろしゅう頼むわ」

「は、はい・・・」

余りにハイテンションな男に多少引きつつも志貴は男と共に『千年城』に戻っていった。







「はあ〜外や外や。ごっつ久しいのぉ〜。時に坊主」

外・・・『千年城』内に出ると男は軽く背伸びしてから志貴の方に振り向く。

そして始めて見る(少なくとも志貴は)真剣な表情でこう尋ねた。

「ここは何処なんや?」

「ここは『千年城』じゃよコーバック」

その声と共にゼルレッチと青子が現れた。

「あっ・・・せん」

「もう志貴、何処に行っていたのよ。心配したのよ」

志貴が何か言うよりも早く、やや怒り気味の口調で青子が志貴を叱る。

「ごめんなさい。先生」

「うん判ればいいのよ」

師が弟子を説教している最中一方では、

「おおっ!!ゼルレッチかいな!ごっつ久しぶりやのぉ〜」

「相変わらずお主の言葉はそれか?コーバック」

「無論や。これがわいには一番ぴったりしとる」

「左様か・・・」

朗らかに笑うコーバックと呼ばれた男に対してゼルレッチはやや苦笑しつつそう返す。

「ゼルレッチさん、お知り合いですか?」

「ああ、古い・・・友人とも言える者じゃよ」

「ああ、そうやまだ坊主には自己紹介し取らんかったなぁ。わいの名はコーバック・アルカトラス。一応死徒二十七祖第二十七位を張っておる」

「ええっ!!!貴方も死徒なんですか!!!」

「まあ、死徒らしくないのはわいも認めるわ」

「もともと魔術師上がりの死徒は変人が多いのよね」

「まったくじゃな」

「こらゼルレッチ、人を変人扱いするたぁどういう了見や」

一見すると漫才とも取れるゼルレッチとコーバックの会話に思わず志貴は噴き出した。

「ご、ごめんなさい。おかしくてつい・・・」

その言葉を聞くや否や眼をきらきらと輝かせたコーバックは

「ほれみぃ!!やっぱりわいとお主とは息が合いよるわ。どうや!!漫才コンビとして・・・」

―メキド―

「ぎぇえええええ!!!」

最後まで言わせず問答無用に焼いていた。

「ゼ、ゼルレッチさん・・・」

「放って置け、その内復活してくる」

「そらあんまりやで、ゼルレッチ」

「うわっ!!」

「もう、復活しおったか・・・まあいい、取り合えず食事でもしていくか?」

「おう、輸血パックはあるかいな?」

「用意しておる。腐れ縁でも死なれたら夢見が悪いからな」

「さあ、志貴、貴方も食事にしますか」

「はい先生」







そしてその夜、訓練の為城の中庭に出た志貴を見送った後、書斎ではゼルレッチ・コーバック・青子の三人が雑談していた。

「はぁ〜食った食ったゼルレッチ。おおきに」

「よくもまあ食いおったな・・・五人分はお主の胃袋に納まったか?」

「十人分ですよ老師。私や志貴の分まで平らげたんですから」

「そら当然や。『悠久迷宮』に閉じ込められてから、碌なもん食っとらんかったからな」

満足げに腹をさするコーバックの言葉にゼルレッチは眼を細めて問いかけた。

「時にコーバック。お主どうやってあの迷宮を脱出した?」

「そうですね私も聞きたいですね。『悠久迷宮』・・・至高にして究極の聖典『トライテン』の封印。ただそれだけの為にコーバック・アルカトラスが生み出した人類史上最高位の大迷宮をどうやって・・・」

「あ〜わいもな実を言うと志貴ちゅうたかいな・・・あの小僧に助けられた口でな・・・」

「志貴に?でもどうやって・・・」

「いやぁ〜まさか最深部まで、どでかい風穴ぶち開けられるとは思わへんかった」

その言葉にゼルレッチが腰を浮かした。

「まさか!!」

「老師、志貴の『直死の魔眼』でしたらそれも可能かと」

青子の一言に今度はコーバックが文字通り飛び上がった。

「なんやと!!!『直死の魔眼』!!そないな物騒なもんがあんの小僧の中にあるのかいな!!!」

「コ−バック事実じゃよ。現に彼は姫を長年苦しめた『蛇』を完全に滅ぼした」

「はぁ〜どう言う化けもんや・・・それとゼルレッチ、己に頼まれてあの小僧の魔術回路見たんやが・・・まだ底が見えへんで」

「お主でも見えぬのか?」

潜在魔術回路の見立ての腕も高いコーバックの言葉にゼルレッチが絶句する。

「ああ、わいも長年色んな奴の魔術回路を見てきた。それこそ人も死徒も死者も関係無くや・・・でもな、わいも初めてやで底がまるでわからん奴なんぞ」

「まあ、そうでもないと聖獣クラスの召喚なんて不可能でしょうけど」

「・・・勘弁してくれや『直死の魔眼』に聖獣やと?おまけに伝説の召喚魔法?洒落にならへん問題やで・・・でもな」

そこで少し言葉を区切ると

「・・・わいにも判るで志貴の心の強さは、気高さ・・・とまではいかへんが、変に曲がらずただ己の信ずる道を愚直に真っ直ぐ突き進む・・・羨ましい限りや」

「ああ、私も同感だ」

「ええ、あの子は本当に真っ直ぐな心を持っているわ。だからこそ私達周囲の者が彼をしっかりと導かないとね」

「一番の不安は蒼崎お主じゃがな」

「老師どう言う事ですか?」

その言葉にゼルレッチとコーバックが声を揃えて大笑いする。

やがて笑いが収まると

「よっしゃ決めたで。わいも『思考林』の所に行くのに同行するで。」

「ほうお主がか?」

「ああ、どうであれ志貴には助けてもろうた。それに変わりはあらへんさかいな。恩は倍にして返さんとな」

「そうじゃな・・・お主なら足手まとい等と言う事はあるまい期待させてもらうぞ」

「私もそのお手並み拝見させてもらうとするわ。『封印の魔法使い』と呼ばれ封印の魔術に関しては老師すら凌ぐとまで言われる貴方の実力を」







こうして志貴・青子・ゼルレッチ・コーバックは六日後千年城を出発。一路『思考林』を目指して出発したのであった。

しかし・・・志貴は知らない。

それは彼が否応無しに突き進む事になるであろう、果てしなき死闘への序幕であり呼び水である事を・・・

これが彼の異名『真なる死神』その名を世界中に知らしめさせる決定的な戦いである事を・・・

七話へ                                                                                          五話へ