これは七夜志貴の精神内でかわされた会話である。
(玄武・・・此度の主どう思うか?)
(どうかしたのか?青竜?何か不満でも?)
(いや・・・不満ではない・・・強いてあげれば不安だ・・・)
(青竜・・・お主も感じるか・・・)
(おお、白虎・・・ではお主も?)
(ああ・・・お主もか・・・我も不安を感じる点など幾らでもある)
(主はお優しい・・・それは素晴らしき美点だ。我らの真の姿をも操れる力・・・そして力に溺れぬ澄み切ったお心・・・全てにおいてそれは素晴らしい美点・・・しかし、時として己が身すらも顧みぬ無鉄砲すら伴っておる・・・このままでは主は己の心に己を失うような気がしてならぬ)
(その心配は無用じゃろう青竜、白虎・・・)
(玄武?その根拠は?)
(主にはそのお心に惹き付けられし者が集う。その者達が主をお守り致すであろう・・・我らと同じ様に)
(なるほどな・・・それは道理であろうな・・・主のお心は強く穏やか・・・それに惹かれぬ者はおるまい・・・)
(そうじゃな・・・主の心を我らが守る様にその者達が主を守り通すであろうな・・・)
その言葉は十年余りの後実現する・・・
アルトルージュの一撃を剣と化した『朱雀』が受け止める。
先程は受け止める事も出来ず吹き飛ばされたが今度は受け止めあまつさえ、志貴は微動だにしない。
「言い忘れてたよ。神具を具現化させると担い手の身体能力が上昇するんだ。朱雀だから・・・攻めの力があがったかな?」
そう言いなんでもないかのように『朱雀』を横薙ぎに振るう。
「きゃっ!!」
短い悲鳴をあげてアルトルージュが弾き飛ばされる。
「姫様が弾き飛ばされた!!」
「嘘だろ・・・『賛美歌』内の姫と互角だなんて・・・」
ゆっくりと立ち上がるアルトルージュに先程までの余裕は無い。
何故なら固有結界『月界賛美歌』は自身の力を最高位にまで引き上げるがその分魔力の消耗も激しい。
先程までであれば余裕を持って終わらせられると思っていたが甘すぎた。
志貴も奥の手を所有していた以上、一刻も早く終わらせなければならない。
そう判断をつけると再度志貴との距離を詰め後先を考えず全力で連打を浴びせかける。
一撃でも直撃を受ければ消去は間違いないそれを志貴は右に弾き、左に流し、上に受け止める。
一見すれば志貴に圧倒的に有利に傾いたかに見えるが志貴も決して優位に立った訳ではない。
「??・・・なあ、ゼルレッチ、志貴の闘い方おかしいとちゃうか?」
「お前も気付いたかコーバック」
「当然や、まあ、『神具』ちゅうのには驚かされたがな・・・今までの志貴は自身の体術での回避が主やったのに、今は『神具』での受け止めに終始しとる・・・『神具』を出して油断し取るのかいな?」
「それこそありえん。それはお前が良く知っていると思うが?」
「そら当然や。志貴がこの程度で油断するような奴やったらとっくにくたばっとる」
ゼルレッチとコーバックの指摘は志貴の弱点を忠実に表したものだった。
『神具』は万能ではない。
『朱雀』は確かに攻撃の力を跳躍的に上げる。
今の志貴であれば真正面からの打ち合いでは全力のアルクェイドでも屈服できるであろう。
しかし、それと引き換えに機動力・・・スピードは呆れるほど下降してしまう。
簡単に言えば『朱雀』を具現化した事で志貴の動き・・・主に足の・・・は極端に悪くなっており、どの位置から攻撃が来るか判っていても体がついてこない。
それ故に、僅かに見える軌道から、アルトルージュの攻撃方向、角度諸々を予測してそれで弾き返す。
いわば直感に限りなく近い芸当だった。
しかし、このような事が長時間出来る筈が無い。
諸刃の剣といっても過言ではなかった。
しかし、今回の場合それほど時間はかからない。
アルトルージュの魔力が底を尽きつつあった。
あと、二十分ほど経てば完全に尽きる。
そして、魔力が尽きる事は彼女の敗北を意味する。
不意にアルトルージュが間合いを取った。
「本当に凄いね志貴君・・・出来ればもう少し続けたいかなとも思うんだけど・・・私のほうが先にへばりそうだからこれで決着をつけるね」
その言葉と同時に猛烈な勢いでアルトルージュは残された魔力の大半を左手に集結させる。
集結させた魔力をどう使うかは不明だが志貴も『朱雀』の持てる・・・いや、自身が使える最大の技で返さなければ危険と判断したのか、『朱雀』を逆手に持ち直し握る手に力を込める。
やがて、『朱雀』の刀身から膨大な炎が吹き上がりたちまち周囲の地面を黒く焼け焦がせる。
「じゃあ・・・いくよ!!」
―ジェベ―
矢を意味する言葉を発すると同時にアルトルージュは地面を蹴った。
高速・・・いや、神速と呼べる勢いで魔力を込めた左手を突き出して志貴に突っ込んでくる。
それと同時に志貴も撃ち放った。
―煉獄斬―
火炎の残像を残して極高熱の一閃がジェベとぶつかり合う。
一瞬押し合うかと思われたが、直ぐに終わりを告げる。
激突した膨大な力が行き場を無くし爆発した。
「うわあああ!!」
「きゃああああ!!」
悲鳴と共に二人は吹き飛ばされる。
「あいたたたたた・・・」
直ぐに志貴がその声と共に立ち上がる。
既に『神具』も消している。
周りは先程の爆発による爆煙やら地面から巻き上がった砂煙やらでまったく見えない。
と、そこに
「志貴君?いるの?」
直ぐ近くでアルトルージュの声が聞こえた。
「あっ、アルトルージュのお姉ちゃん?大丈夫?」
「ええ、さっきの威力は『ジェベ』で殆ど相殺したから怪我は無いわ」
「そう・・・良かった・・・」
「でも・・・そうこれ以上は無理ね。戦う為の力が残ってないもの・・・まいったな・・・油断していたつもりは無かったのに・・・」
「えっと・・・それはつまり・・・勝負は終わりですか?」
「ええ、志貴君の勝ち。さすがは『蛇』と『思考林』を滅ぼしただけあるわ。『直死の魔眼』以外にもこんな奥の手があるなんて思わなかった」
そう言うとすっと手が出てくる。
どうやら真正面にいたようだ。
「ありがとうございました」
その一言を自然に口にすると志貴もその手を握る。
そこにようやく煙も少し晴れお互いの姿が見えてきた。
(あれ?)
志貴はアルトルージュの姿が見えてきた時、自分の眼を疑った。
何回も眼を擦ったり、瞬きする。
しかしそれは変わらない。
「???どうしたの志貴君?何か変な事・・・で・・・も?」
不審に思ったアルトルージュが下を見た瞬間固まった。
迂闊としか言う他無い。
『煉獄斬』は上昇された斬撃の威力に加え、『朱雀』自身が発した超高温の炎の攻撃も加わる。
確かに『ジェベ』との相殺で威力は大半が相殺されたが全てが相殺されたわけではない。
その時、残った熱風がアルトルージュに襲い掛かり、彼女の服を残さず燃やし尽くしてしまった。
つまりは今のアルトルージュは全裸であった。
それも自身の固有結界の影響がしっかりと残っているのか成長した姿で。
見られたアルトルージュも固まったが見た志貴自身はもっと固まっていた。
何か口にしないといけない。
でも口にすれば何が起こるかわからない。
ましてや外野の方々に知られればどうなるか・・・
様々な思考が錯綜し口も動かない、動作も出来ない。
視線すら動かせられない。
だが、破局は既に直ぐそこまで近付いていた。
「・・・・・・見られた・・・・・」
ポツリと声が聞こえた。
「えっ?」
「・・・に見られた・・・」
「あ、あの・・・お姉ちゃん・・・」
その瞬間破局が始まった。
「うわああああああん!!志貴君のばかぁ!!!志貴君に裸見られたぁ!!!」
「うわああああああ!!!」
蹲って泣き出すアルトルージュに真っ青になって叫ぶ志貴。
とそこに後ろから膨大な殺気が複数志貴に向けられた。
向きたくなかったが向かざるを得なかった。
そこには戦闘態勢万全に整えられたアルクェイド・エレイシアにリィゾ、フィナのアルトルージュ護衛の騎士たちそして、プライミッツ・マーダーがそこにいた。
「志貴・・・姉さんを裸にして何しようとしていたのかな〜」
(金色の眼で笑わないで下さい。逆に怖いです)
「いけない事をする志貴君には少しお仕置きしないといけませんね・・・」
(お仕置きって・・・事故としか・・・)
「姫様に対するその行為・・・許しがたい」
(お話は・・・聞いて頂きそうにありませんね)
「リィゾ、お仕置きだったら僕に任せてくれよ」
(あの人に捕まったらいけない・・・他の人より怖い・・・でも・・・)
「・・・ぐるるるるるるるるる・・・」
(一番怖いのあの子だよ・・・)
志貴は覚悟を決めた。
こうなれば地の果てでも逃げなければ命に関わるから。
次の瞬間、志貴は何の躊躇も無く
―極鞘・白虎―
聖獣を呼び出し、白虎を神具にした。
志貴が手にしたのは『朱雀』より小ぶりの二本の曲刀。
手にした者に極限の速さを与える双刀・・・『双剣・白虎』。
それを手にした志貴は有無すら言わせず、逃げ出した。
「「「「まてーーーーー!!!」」」」
一瞬遅れて四人と一匹の追う気配がした。
この壮絶な逃亡劇は丸一日続いた。
「志貴災難だったわね」
「まったくや」
「先生、教授、そう思っていたらあの時、お姉ちゃん達を止めて頂ければ・・・」
「すまんな志貴、わいは負ける喧嘩はせえへん主義なんや」
「何言っているんですか。いつも言っている事と正反対ですよ教授」
志貴の自室でベッドに寝ている志貴に青子とコーバックが笑いをかみ殺しながら話し掛ける。
あれから志貴は千年城で文字通り殺るか殺られるかの戦いを繰り広げた。
『神具』も惜しむ事無く振るった。
ようやく落ち着いたアルトルージュによって事は収拾したが、力の使い過ぎでこうしてベッドに寝たきりの状態となっている。
「志貴ぃ〜」
「!!」
部屋の外からの声に志貴は思わず身を硬くする。
入って来たのはアルクェイドである。
「ねえ志貴、まだ起きれないの?」
「無理言わないで下さい馬鹿お姉ちゃん。体中がまだギシギシ言うんですから」
「むぅ〜志貴!年上の人を馬鹿呼ばわりするのは失礼な事なのよ!」
「大丈夫です。時と場所、ついでに人を見極めていますから」
志貴はジド眼で言い返す。
そこにドアがノックされた。
「志貴君いる?」
「あっ・・・アルトルージュのお姉ちゃん・・・」
あれから顔を見ていなかったアルトルージュが現れた。
「えーーっと・・・まずはごめんなさい。リィゾ達にはしっかり言っておいたわ」
「いえ・・・僕の方もごめんなさい。少し力を入れ過ぎちゃって・・・」
「いいのよ。元々は私とアルクちゃんが言い出した事なんだし・・・それでね志貴君・・・少しお願いがあるんだけど」
「お願い・・・ですか?」
「そう」
そう頷くアルトルージュであったが心なしか顔が紅かった。
「良いですよ。僕に出来る事でしたら・・・で何を?」
そんな事にまったく気付かない志貴はあっさりと頷く。
「そう?ありがとう・・・志貴君でね・・・私のお願いは・・・」
そこまで言うと、アルトルージュは更に頬を赤くして搾り出すように言う。
「志貴君・・・私の・・・お婿さんになって」
その瞬間部屋が凍てついた。
部屋だけでない。中の人物(アルトルージュ除く)も凍てついた。
「・・・・・」
言われた志貴は完全にフリーズして答える事も出来ない。
そんな中逸早く立ち直ったアルクェイドが姉に詰め寄った。
「ちょ、ちょっと!!姉さん!!」
「何アルクちゃん?」
「何考えているのよ!!いきなり志貴にお婿さんになってって!!!」
「当然でしょう!!私裸見られたのよ!!それも今まで誰にも見せなかった『月界賛美歌』内での私の裸を!!こうなったら志貴君に責任とって貰うしかないでしょう!!」
「その前提自体がおかしいわよ!!大体姉さんが大人しく負けを認めたらそんな事にならなかったのよ!!おまけに更に言えば姉さん負けたんだから私か志貴の言う事聞くんでしょ!!」
「だから志貴君に言っているじゃないの!!志貴君に私を上げるって!!ともかく!!志貴君は私のお婿さんになって私と一緒に死徒になるの!!今死徒になれば二十七祖の一席に一秒で連ねられるわよ!!」
「駄目駄目!!!志貴は私のものなの!!姉さんでも渡さないわよ!!」
「何でアルクちゃんは志貴君に執着するのよ!!」
「そう言う姉さんこそ!!」
「「決まっているでしょう!!志貴(君)が好きだから!!」」
そんな真祖と死徒の姫君同士の口論は第三者から見れば面白い事この上ないが巻き込まれた側から見れば災厄と言う他ない。
「あ、あの・・・お姉ちゃん達・・・落ち付いて・・・」
情けない声を発する志貴を他所に
「いやぁ〜志貴おのれもてもてやなぁ〜」
「まったくこの子は天性の女殺しね」
「・・・先生、教授・・・なんでそこで嬉しそうなんですか?」
「修羅場ちゅうのは見るだけなら存分に楽しいからのぉ〜」
「私も見学させてもらうわ」
教師陣は極めて無慈悲な事を言ってくれた。
その後数時間、吸血姫姉妹の口論は続き結局『志貴が成長した時に決着つけるわよ!!』で一旦双方とも矛を収めた。
そのことを知った姉妹の世話役である爺様は
『姫様達も遂に時が来られたのですね・・・』
そう言って嘘泣きしていた。
師匠が結構のりが良いと言うことを志貴は初めて知った。
一方のアルトルージュは千年城に住む事になった。
「私がいない隙に志貴君をアルクちゃんに取られたらたまらないから!!」
それが理由らしい。
護衛の二人と一匹も同じく住むという。
そんなこんなで日々は賑やかに光陰の如く過ぎ去っていった
そして五年後、『千年城』中庭にて。
そこには二人の人物が対峙していた。
距離にして数キロ
「ふぅうううううう・・・」
眼の前の青年に対して『永久回廊』を構えているのはコーバック・アルカトラス。
一方の青年は特に構えをしている訳ではなかったが隙は完膚なきまでに存在していなかった。
「いくで・・・」
「・・・はい」
その言葉を皮切りに一方はコーバック目掛けて走り出し、コーバックは次々と『永久回廊』が発動される。
それこそ逃げる隙間すらないほどの。
しかし、現実にはその人物は発動までの僅かなタイムラグの瞬間にその場所を潜り抜ける。
「くっ!!この!!おとなしゅう入らんかい!!」
コーバックはその人物が踏み込む場所まで予測してまで『永久回廊』を発動させるが、相手はそれをさらに五歩先んじていた。
僅か数秒後、その人物はコーバックの咽喉元に短剣を突きつける。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙が過ぎた頃
「・・・はぁ〜まいった降参や志貴」
「はい、ありがとうございます教授」
その声と同時に緊迫感は消え失せ青年・・・七夜志貴は静かに笑った。
「はぁ〜わいにはもう教える事は何にもあらへんなぁ〜」
「そうですか?ですけど教授には色々教わりました。本当感謝しています」
「さよか?そう言ってくれればわいとしてもありがたいがのぉ〜」
そう言いコーバックは眼の前に立つ志貴を眩しそうに見やる。
今年十五になる志貴は少年から青年に見事に成長を遂げていた。
身長も伸びた、筋肉もほど良くつき自身の能力を行使するのに理想的なものとなった。
また少年の頃には使いこなせなかった数々の技も完全に会得した。
もはや志貴の完成度は他の追随を許さない程高まった。
しかし、その心は少年の頃と同じく穏やかで温かくそして愚直なまでに真っ直ぐにそして澄み渡っていた。
「そう言えば教授、昨日エレイシア姉さんから手紙が来ましたよ」
「ほうさよか?元気にやっとるか?」
「ええ、ただ、陰険な上司に毎日いびられているみたいですけど」
そういうと、二人は笑う。
志貴と共に修行をしたエレイシアはここにはいない。
一年前、超一流の教師陣と彼女自身の才能、何よりも彼女のたゆまぬ努力の結果急速に魔術師として完成されたエレイシアは埋葬機関に編入された。
彼女と埋葬機関はそもそも狩る側と狩られる側で本来は編入できる筈は無かったが、超がつくほど徹底された実力主義故のことであった。
補足であるが志貴は、この五年の修行で魔術の才が無い事が判明していた。
その為、ものに出来た魔術はただ二つコーバックの『空間封鎖』そして青子の風を使った転移のみであった。
その際教師陣は『あれ程の膨大な魔力を保有して何で才が無いのか』を真剣に議論したものである。
それを間近で聞いていた志貴は本気で悲しくなったのをしっかりと覚えている。
その為今千年城にいるのは志貴・コーバック・青子・ゼルレッチそして・・・
「し〜き!!!」
「志貴君!!」
「うわっ・・・あのなぁ〜アルクェイド、アルトルージュ、いきなり飛び出すなって何度も言っているだろ」
志貴は呆れながら背中に飛びついていきた二人の美女・・・アルクェイドとアルトルージュの姉妹を窘める。
「「ええ〜いいじゃないの〜!!」」
息もぴったりに言ってくる姉妹。
「ねえねえ志貴〜私の死徒になる決心ついた〜」
「何言っているのよ。志貴君、こんな能天気娘の事は放っておいて・・・そろそろ志貴君の答え聞きたいな〜」
「は、はははははは・・・・」
はっきり言ってこの光景を見る者が見れば卒倒間違い無いだろう。
真祖の姫君と死徒の姫君が、人間の男を取り合っているなど質の悪い冗談にしか聞こえないだろうから。
ちなみにリィゾ・フィナ・プライミッツ・マーダーの護衛達はアルトルージュの厳命で彼女の城を守護している。
「ははは志貴、己も相も変らぬのぉ〜」
「教授お願いですから引き離すのを手伝って下さい」
「そうは言ってもなぁ〜」
そんな風に言い合っていると
「志貴、こんな所にいたの?」
「あっ先生」
不意に青子が現れた。
「志貴、老師がお呼びよ。なんか随分急いでいたようだけど」
「師匠がですか?師匠戻ってきたんですか」
と言うもの、エレイシアが埋葬機関に編入された後、ゼルレッチはなにやら『面白い人材を見つけた』と言って定期的にどこかに出掛けているようであった。
どうやら新しい弟子を見つけた様であるのだが、何処の誰か志貴達にも教えていなかった。
「ええ、何か急いで戻って来たようだし、急いだ方が良いわよ」
「はい、判りました」
「あっ〜!志貴〜いけず〜」
「志貴君私も行く〜」
あっと言う間にアルクェイド達を引き離し、後ろで色々騒いでいる二人を尻目に、城内に入っていった。
「失礼します師匠。志貴です」
「来たか、志貴入りなさい」
その部屋にはいるとゼルレッチが椅子に腰掛けて志貴を待っていた。
「師匠、先生から伺いましたが用件は何でしょうか?」
「ああ、他でもない。早急にイタリアに向かってもらいたい」
「イタリア?」
「うむ。エレイシアから先程連絡があってな、イタリアのある山村に現れた死徒の討伐に向かった騎士団が連絡を絶ったらしい」
そう言うと、ゼルレッチは地図を手渡す。
場所はイタリア北部の山村・・・
「騎士団が?どう言う事ですか?」
「相手は二十七祖第十三位『タタリ=ワラキア』だ」
「十三位・・・確か人の噂を媒体として一日のみ現れると言う?」
「そうじゃ。連絡を絶ったのが二時間前。今から向かえば何人かは助けられるかも知れぬ。しかし・・・」
「埋葬機関に転移を会得した者はいない。それ故俺に?」
"その様じゃな"
そう言わんばかりにゼルレッチは頷く。
「・・・判りました。幸い教授との試験で道具は一通り持っていますからこれから直ぐに向かいます」
「うむ。注意せよ志貴。十三位の能力は未だに未知数の所があるからな」
「はい。では失礼します」
そう頷くと志貴の体に風が纏われ部屋を風が一陣走った瞬間、志貴の姿は消えていた。