三『襲撃』
「本気か!!お前七夜の里を襲撃するだと!!」
「ああ本気だ」
七夜に翡翠・琥珀が引き取られて数週間経った。
あるビルの一角で二人の男が話し合っている。
一人は志貴達に襲撃をかけて志貴に撃退された黒服の男だった。
もう一人はその黒服の男に比べると若く、痩せこけているにも関わらず、その瞳は陰惨で暗い情念に満ちた男だった。
「貴様は七夜の本当の力を何も知らぬのだ!!その上連中の本拠地に攻撃をかける?正気か!あそこは罠が密集している場所だ!!生きて帰れるか!!」
黒服の男は激抗していた。
先日志貴に撃退されて以来、七夜の事を更に事細かに調べ上げた。
その結果、七夜の全てを理解した黒服の男は依頼主にもこの依頼の困難さを説明した。
しかし、肝心の依頼主はそれに聞く耳を持たず、それどころか依頼の完遂・・・翡翠・琥珀の捕獲と七夜一族の皆殺し・・・を催促してきたのだ。
それ故に今度は目の前の相棒にそのことを相談しようとした矢先に、こちらも七夜の里に襲撃を掛ける等と言い出した。
七夜の力を理解した彼にとって一人でも厄介であった七夜の襲撃をよりもよってその本拠地で行うなど正気の沙汰とは到底思えなかった。
「はははっ・・・あの里の罠の配置などわかっている。これを見ろ」
「・・・!!こ、こんな物何処で・・・」
そう言われ男が見たのは七夜の森周辺の罠の配置図である。
「依頼主から渡された。七夜の当主がご丁寧に渡してくれたとよ・・・くくく・・・七夜も恐れずに足らずだな」
「怪しいぞ。こんなものをわざわざ他人に渡すか?」
「怪しくてもいいさ。ようはあの罠を掻い潜れば良い。その後は・・・俺の可愛いペットが七夜を残らず始末してくれるよ」
その声に呼応するように男の後ろから獣の咆哮が聞こえてきた。
「冗談じゃない!!貴様は七夜を侮り過ぎだ!!幾らあのけだものがどれだけ力を持っていても無謀の極まりだ!!・・・俺は降りるぜ。貴様にも、依頼主にもついて行けねえよ!!」
そう言うと男は席を蹴るように立ち上がり部屋を後にしようとした。
しかし、それは永遠に訪れなかった。
「・・・ほほう・・・俺の可愛い可愛いペットがけだもの?その様な事を言うのか・・・やれ・・・」
その言葉と同時に後ろから何かが襲い掛かり、
「??・・・ひっ!!!」
黒服の男の悲鳴と微かに卵が潰れる様な音が響き渡った。
そこには頭部を壁と何かに挟まれて潰された男の胴体とそれに貪り付く黒い影があった。
「くくくくく・・・慌てるな・・・慌てるな・・・もう直ぐありとあらゆる餌をお前にくれてやる・・・ははははは・・・きゃーーはっはははっはははは!!!」
血の匂いが充満しつつある部屋で男の狂った様な笑い声が夜明けまで響き渡った。
その日は奇妙に暑く、奇妙に涼しかった。
後に考えてみれば、来るべき凶事を天が予測していたのかも知れない・・・
この日は子供達の訓練を休みとした規則日であった。
その為、この日は七夜の子供達は全員集合し、森で思いっきり遊ぶ事が了解事となっていた。
その中には志貴・翡翠・琥珀も無論だがいた。
「じゃあ今日は何処に行く?」
「そうだな・・・せっかく翡翠や琥珀がいるんだから俺達のお気に入りの場所に行こうぜ!」
「そうだね。翡翠ちゃんと琥珀ちゃんもそれで良い?」
「「うん!!」」
「じゃあ皆・・・出発進行!!!」
『おーーーーっ!!!』
それから暫く経った頃、黄理は当主の間で静かに佇んでいた。
そこに、
「・・・御館様・・・」
「どうした?」
「はっ・・・先日の件ですが、引っかかった者がおりました」
「やはりか・・・あれを渡せば何らかの動きがあると思ったが・・・で、どいつだ?」
「はっ・・・この男です」
そう言うと、一人の男の写真を手渡す。
「ほほう・・・こいつは・・・」
「御館様ご存知で?」
「ああ、ある退魔組織の幹部だ」
「左様ですか・・・この男が森の見取り図を第三者に手渡しました。更に志貴様に襲撃を掛けました男もこいつに依頼を受けたようです」
実は志貴より話を聞いてその後、黄理は餌として、里周辺の罠の見取図を各退魔組織にばら撒いたのである。
これで引っかかればそれで良し、かからなければ別の手を考える所であったが見事其れに掛かってくれたようだ。
「理由は何だ?」
「それとなくこの組織に所属する他の幹部に尋ねた所、翡翠殿と琥珀殿の養女引き取りにこの男も志願していたらしいのです。それが七夜に奪われてかなり憤激したそうです」
「それが今回と何の関係が?」
「更に調査しました所、こやつお二人をどうも、遠野なり他の混血なりに売り渡す心算だったようです。現に混血の家で二・三その打診があったとか」
「ちっ・・・そいつらあの二人を道具としか見てねえのか・・・」
「何しろ感応は巫淨本家ですら滅多に出ない能力。能力者の人格を無視すれば大金を積んででも欲しがるのは無理ないかと・・・それと、襲撃を掛けた者達の件ですが・・・二人おりまして一人はやはり混血でした。あともう一人ですが・・・こいつは・・・人間です。これを受けたのも七夜を滅ぼし裏の世界で名を上げる事が主目的との事かと」
「そうか・・・遠野を退けてからそういった輩が多くなった事よ・・・それにしても人間だと?」
「はい、ただ・・・」
「ただなんだ?」
「はい、この男生物工学を専攻する科学者らしいのです」
「科学者?」
「調査を進めた所、さまざまな生物の遺伝子操作を施し強化した生物兵器の研究を最優先で行い・・・そして・・・どうも試験体を一体完成させたらしいのです」
「何だと!!」
「はい、グリスリーと呼ばれる熊を基本とした創造主の命に絶対服従する・・・」
「いかん!!志貴達は!」
「志貴様でしたら他のお子様達と共にお出かけに・・・」
「いかん!!直ぐに連れ戻せ!!くそっ!俺としたことが迂闊だったか」
「御館様?」
「連中が人や混血であれば対処できると寸算していたが、そんな出鱈目は想定外だ・・・下手をしたら今襲撃を掛けて来るかも知れん!!」
「な、なんと・・・そうなれば・・・」
「狙われるのは子供達だ!!」
その時だった。
「御館様!!!御館様!!」
突然妻が飛び込んできた。
「どうした!!」
「子供達が血相を変えて帰ってきました!」
「くそっ!!遅かったか!」
そう言うと黄理は部屋を飛び出す。
屋敷の玄関には子供達と翡翠、琥珀全員いた。
ただ志貴を除いては・・・
「お、御館様!!」
「大変です大変なんです!!」
「志貴が!!」
「しーちゃんが・・・」
「志貴くん死んじゃう!」
皆相当錯乱している。
全員支離滅裂に叫び続けている。
「皆落ち着きなさい・・・」
その子供達を真姫が優しく宥める。
その声にようやく子供達が静まり返る。
「それで、何が起こった?」
「それに志貴は?志貴はどうしたの?」
その言葉を聞いた瞬間翡翠と琥珀が真姫に抱きつき大声で泣き出した。
「「黄理お父さん!!真姫お母さん!!」」
「翡翠?琥珀?どうしたの?」
「一体何があった?」
そこへ一人の男の子がようやく、
「俺が説明します!実は・・・」
ここで話は遡る。
志貴達七夜の子供達は里から離れ麓に近い川に向かっていた。
「うわー!!綺麗なお水!!」
「ここには魚もたっくさんいるんだぜ」
「本当だぁ〜お姉ちゃん見て!!本当に沢山!!」
「で、暑い時とかは素っ裸になって川に飛び込むんだよ」
「えっは、裸・・・」
「恥ずかしがる事か?」
「恥ずかしがるわよぉ〜志貴くんに裸見られるんだから・・・」
「志貴ちゃんに・・・」
「見られる・・・」
「??翡翠ちゃん?琥珀ちゃん?皆どうしたの?お顔真っ赤だよ?」
「志貴、少しほっとけ」
「えっ?うん・・・」
「じゃあ今日は魚でも釣るか!」
「うん!!・・・!皆待って!」
笑顔で答えかけた志貴だった不意に厳しい顔つきになると全員を止める。
「??どうしたんだ?志貴」
そんな声も聞こえない。
志貴は全身で気配を探る。
自分達に襲い掛かろうとする気配を。
次の瞬間、
「!!はっ」
咄嗟に『七つ夜』を構えると右手側の茂みに
―閃鞘・八点衝―
無数の斬激が叩き込まれる。
その瞬間、巨大な影が茂みから飛び出し川に着地した。
「うわっ!!何だこれ!」
「きゃあ!!」
子供達が一斉にパニックになりかけた。
そこにいたのは、姿は大型の熊であった。
しかし、熊にしては胴の部分が細く、腕は長く太い。
そして、無論その指には熊特有のかぎ爪が生えている。
ただし、その爪は鉈を思わせるほど鋭いものだったが。
それは強いて言えば熊の姿をした人間・・・もしくは大型の猿類といった所だろうか?
それは子供達を見るや口から涎を垂れ流し、にじり寄ろうとする。
―・・・ぐるるるるるるるる・・・―
その唸り声を聞いた瞬間、混乱が増長されるかと思いきや、そこは七夜の次世代を担う者達であろう、落ち着くと直ぐに自分の得物を手に翡翠と琥珀を守る様に構え始めるが、
「皆、翡翠ちゃんと琥珀ちゃんを連れて父さん達に知らせてきて」
「えっ!!」
「だ、駄目だよ!こいつきっと俺達が背を向けたら、襲い掛かってくるよ!!」
「僕がその間こいつを食い止める!!」
「そんな!!志貴一人じゃあ死んじゃうよ!!」
「駄目だよ!しーちゃん!!」
「でもこのままだと皆やられちゃうよ!!」
「・・・・・・」
「それに僕強いし」
「わかったよ・・・でもな!!志貴!!必ず帰って来いよ!!まだ俺志貴に一回も勝ってないんだからな!!」
「俺だって!!」
「僕もそうだよ!」
「私はまだ志貴くんとお手合わせすらした事無いんだから死んだら絶対駄目だよ!!」
「志貴ちゃん!!・・・どっかに行っちゃあ駄目だから・・・」
「志貴ちゃん・・・志貴ちゃん・・・」
「うん、大丈夫だから!でも出来れば早く戻ってきてね」
「ああ!!判ってるって!皆走るぞーー!!」
『おーーーーっ!!』
その言葉と共に子供達が走り出す。
それに熊もどきの怪物が襲いかかろうとする、しかし、
「相手は僕だよ・・・」
―閃鞘・伏竜―
足元から斬り付けられる。
だが斬り付けられたのをもろともせず、怪物は丸太並みの太い腕を振るい志貴を吹き飛ばそうとする。
しかし、志貴は自分からその方向に飛び威力を殺す。
それでも普通の平手打ちの威力は残っていたらしく志貴は一・二メートル飛ばされる。
「へえ・・・なかなか・・・あ、あれ?」
志貴は自分の目を疑った。
先ほど確かに伏竜で右足部分を骨が見えるほど切り裂いた筈だった。
しかし、その傷口が自分から塞がり、治癒されている。
「う、うそ・・・」
「くくく・・・嘘ではない・・・これこそ俺が生み出した傑作だ」
その声に振り向くと神経質そうな男がこちらを優越感に浸った表情であざ笑っていた。
「・・・おじさん誰?」
「くくくく・・・どうせ死ぬガキに話しても仕方ないだろう。七夜志貴・・・まずは前菜だ。そいつを食え」
その声と同時に怪物は一声吼えると志貴目掛けて突進を開始する。
それを志貴はかろうじて避けるが怪物は直ぐに方向修正を変えると再び志貴に今度は見覚えのある技を繰り出した。
「えっ!!『八点衝』!!」
それを志貴は紙一重で避けるが風圧で服が破けた。
更に元々腕力では差があるため威力も差があり過ぎた。
志貴の場合大木を削るだけがこの怪物は巨木に風穴を開けた。
「う、うそ・・・技を一目見ただけで・・・」
「ひゃーーーはっははははははははは!!当然だろう!こいつの学習能力は人間の数十倍。七夜のちんけな技などこいつには小学生の算数並の難しさしかないのだから!」
その哄笑と共に怪物は姿を消す。
その瞬間志貴も姿を消す。
怪物が『伏竜』で下から切り上げるが、その瞬間左右から斬撃が襲い掛かった。
―閃鞘・双狼―
それは怪物の腹部を深く切り裂く。
しかし、それは暫くすると塞がり回復される。
(・・やばいな・・・)
志貴は冷や汗を感じずにはいられなかった。
力の差は歴然、技は瞬時に盗まれる、おまけにあの再生能力、一体どうやって仕留めればいいのか?
(それでも戦わないと)
まだ皆そんな遠くに逃げていない。
勝てないまでも時間は稼がないと他の皆が危ない。
そう決意も新たに志貴は『七つ夜』を再度構えなおした。
時は戻り事の経緯を聞いた黄理は
「あいつらしい・・・しかし・・・危険だ」
そう呟くと愛用の撥を手にすると
「お前らは他の連中にこのことを知らせろ!!翡翠、琥珀!お前達は屋敷に入って隠れてろ!」
そう言うとその川に目指して駆け出す。
「俺達も父ちゃんに知らせようぜ!二人は御館様の言った通り屋敷に隠れてろよ!!」
「「う、うん!!」」
そう言うと、それぞれ四散し己の行わん事を行うべく走り出した。
その時七夜真姫は姿を消していた。
彼女も夫の後を追いその川に向かっていた・・・
一方その頃川では勝負は一方的なものとなっていた。
どんなに攻撃を仕掛けようと怪物の再生は衰えを知らず、繰り出した技をたちどころに会得しその技を持って反撃を仕掛ける。
全身傷だらけの志貴はかろうじて立っているようなものであった。
「ははははっは!!いい加減覚悟を決めたらどうだ!悪足掻きは見苦しいぞ!」
そんな嘲笑にも志貴は耳を貸さなかった。
志貴の眼はいまだ絶望していなかった。
その時志貴には父の教えが脳裏に甦っていた。
『いいか志貴、この世には完全とか無敵と言った言葉はあるかも知れんが実際にはそんなものありはしねえ、言葉のまやかしだ。長所と思われる奴の裏には大抵大きな弱点も眠っているもんだ。その弱点を探り突くんだ。それが俺達が永き時を生き永らえて来た唯一の兵法なんだからな』
その教えの正しさを志貴は実感していた。
確かにあの怪物の再生は脅威的だ。
しかし、あれには致命的な欠点が存在した。
(再生時に動きが止まる)
傷が深ければ深いほどあの怪物は無防備に立ち尽くす時間が長くなる。
おそらく動いていると傷の再生が遅くなるのか?
それとも別の意味があるのか?
だがそれは志貴にとって唯一のそして最後の勝機である事に違いは無かった。
しかし、今の志貴にはあの怪物を一撃でそこまでの重傷に持ち込むのは不可能。
(それならば・・・)
志貴は再度姿勢を低く保ち突撃の体勢を取る。
全身傷だらけだが、重傷は一つも無い。
まだ動ける・・・これで決めなければ終わりだ。
「ちっ・・・まだやる気か・・・おい、もうお遊びはここまでだ。さっさとこのゴミを食ってしまえ!!」
その声で怪物は何度目になるか、咆哮をあげて志貴に『閃鞘・七夜』で突進してくる。
それを志貴はバックステップでかわすと攻勢に出た。
―七夜―
右腹部を寸断する。
―双狼―
両肩を切り裂く。
―伏竜―
股から胸部に縦一文字の傷が出来る。
―八穿―
頭頂部が切り開かれる。
―六兎―
顔面を蹴り抜く。
―八点衝―
縦横無尽に傷が生まれる。
―十星―
十の傷が新たに作り出され、千切れかけた両腕が吹っ飛ぶ。
―一風―
頭から叩き落し、傷を広げる。
それはまさしく、問答無用、瞬殺であろうか。
あの怪物が全身をずたずたに切り裂かれ、突き刺され、潰れていた。
そのままゆっくりと立ち上がるが構えない・・・構えられない。
怪物はその傷の多さに無防備となり傷の再生を始めている。
しかし、多過ぎる為かなかなか再生が思う様にはかどらない様だ。
しかし、志貴の攻撃は終わりではない。
これはあくまでも下ごしらえ。
これで決める。
その決意も新たに志貴は覚えたばかりの切り札を使う。
初めて人形でない生物に。
―極死―
一滴たりとも力の無駄の無い、『七つ夜』の投擲、そして跳躍。
そして『七つ夜』が心臓に深く突き刺されると同時に志貴の腕が首に絡みつく
―七夜―
しかし、体重差がありすぎた。
幾ら重力で勢いを付けたと言え、七歳の志貴の腕力と体重では成人した熊の首を粉砕するのは不可能であった。
すると、志貴は全身の力と遠心力を利用し怪物を浮かせると、両足で脇を掴み両腕を首から離し、ばねの如く屈伸させて跳ね上げる。
上空に飛翔した志貴は怪物を海老ぞりさせて足を両腕で抱え込む。
そしてそのまま地面に叩き付けられた。
―死式―
―九死衝―・・・完遂
そこにはもう既に怪物はいなかった。
『元』は怪物であった肉塊のみがそこにあった。
両腕は引き千切られ、腹部には大きな裂傷と共にへし折れた背骨と内臓がはみ出す。頭部は自身の体重と重力によって押し潰されている。
そしてもう怪物は動く気配も見せず、そこにあるだけであった。
志貴はそこにへたり込んでいた。
「・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
呼吸が苦しくて言葉も発せられない。
今彼が思っていることは一つ
(本当に・・・出来るなんて思わなかった・・・『九死衝(きゅうししょう)』)
父から聞いただけであった技。
『六兎』・『七技』・そして『極死・七夜』、この九つの技を繰り出す完殺連携技。
七夜でも・・・いや父ですらそうそう行えるものではない。
(今回は相手が無防備に唯立っていただけだったからな)
そう考えながら『七つ夜』を引き抜くと、ふらふらしながら立ち上がる。
「さてと・・・早く皆の所に帰らないと」
その時だった。
「そうは・・・行くか・・・小僧」
「えっ?」
反射的に振り向いた志貴の胸に血が吹き上がった。
そのまま志貴は倒れこむ。
「ば、馬鹿な・・・これはありえない事だ・・・」
その反対側には拳銃を持った男がいた。その眼には平静を失い、意味不明な事を呟いている。
「これは・・・夢だ・・・悪い夢だ・・・俺は・・・この先こいつを持って七夜を滅ぼして・・・」
どうやら自分が絶対の自信を持っていた兵器が殺されたのを見て発狂した様である。
そこに志貴の姿を見い出した。
その眼に狂気の色が浮かんだ。
「はははははははははははははは・・・七夜だ。完全に殺さないと・・・」
そう言うと、夢遊病者のようによろよろと近寄り、
「ははははははは・・・頭を完全にふっ飛ばせば死ぬよな・・・ははははははははははははは・・・」
そう言いながら拳銃を志貴のこめかみに突きつける。
「ははっはははっははっはははは・・・死ね七夜」
引き金が引かれようとしていた。
これによりこの少年の物語が潰えるのかどうかは天も知らぬ事。
なぜなら、歴史はいくつもの分岐に別れ進むもの、それを選ぶのは人なのだから・・・