「・・・き!・・・っと、しき!起きなさい!志貴!」

「兄さん!」

「遠野君!」

「志貴様!」

「志貴さん!」

「にゃあぁぁぁ」

「・・・・・・ぐっうう・・・ここは?」

「あっやっと起きたな、志貴!体調悪いならそう言わないといけないじゃないの!」

「遠野君、無理しすぎです。後の事は私達が行いますから休んでいてください!」

「もう、兄さんあんまり心配かけないで下さい」

「志貴様?まだご気分が優れないのですか?」

「お薬を用意しますか?志貴さん」

「にゃあ」

「・・・なんだ?セルトシェーレ?髪を切ったのか?それにその服は何だ?先刻の妙な着物以上に変だな」

「へっ?」

「・・・紫晃殿、貴殿もまた妙な服を着ているな」

「と、遠野君?」

「ん?お前の髪は赤では無かったのか?紅葉殿、・・・黒の髪も似合うが」

「にに、兄さん・・・」

「翠、珀、お前達まで妙な服を着ているな・・・まあ、お前達には何でも似合うと思うがな・・・」

「・・・」

「あはー、いやですよー志貴さん・・・」

「ん?どうしたお前達?」

「・・・志貴・・・」

「何?シキ・・・シキ・・・しキ・・・」






「セルトシェーレって何よー!志貴ー!!」

「遠野君!紫晃って何処の誰ですかー!」

「兄さん!!私達に飽き足らず、紅葉とは何処の女性ですか!!」

「志貴様・・・翠とは一体どういうご関係の方でしょうか?」

「あはー志貴さん。珀って誰ですか〜?言わないと御仕置きですよー」

「にぃーーーー」

ようやく気が付いた俺の耳に飛び込んできたのは、全員の大合唱だった。

「何だ皆?・・・って、皆さん?どうしてそんな怖い顔しているのですか?」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

俺の問いに答える物は誰もいない。

「・・・志貴、もう一度言うけどセルトシェーレって誰なの?」

「へ?セルトシェーレ?・・・って誰?」

「志貴、冗談にしては笑えないわよ。今私の事を真顔でセルトシェーレと呼んでいたくせに」

「・・・俺が?」

「そうですよ遠野君。更に私を見て『紫晃殿』と呼んでましたね。何処の誰なのか是非とも聞かせてください」

「え?」

「それだけではありません。兄さん、紅葉とは何処のどなたでしょうか?お聞きしたいものですわ」

「ち、ちょっと・・・」

「志貴様」

「志貴さん」

「は、はい何でしょうか?」

「志貴様・・・『翠・珀』とは一体・・・」

「誰なんでしょうか?私達の顔を見た途端違う名前を口にするなんて酷すぎますよー」

「ちょっと待て。・・・もう一度確認するが・・・俺は皆を全く違う名前で呼びかけたんだよな?アルクェイドがセルトシェーレ。先輩には紫晃と言って、秋葉は紅葉と言い、翡翠と琥珀さんには翠と珀と呼んだ」

「ええそうよ」

「はいその通りです」

「兄さんの仰るとおりです」

「はい・・・」

「志貴さんの言われた通りですよー」

「・・・ごめん皆。それきっと夢だ」

「なんですって兄さん、私達が夢を見たとでも言うのですか?」

「待て待て秋葉。皆が夢を見たと言ったんじゃない。俺が夢を見て寝ぼけたんだ。夢に皆にそっくりな子が出てきたんだよ」

そう、今回の夢は俺も驚くほどはっきりと覚えていた。

セルトシェーレは髪を長くして王族らしい風格を持たせたアルクェイドだし、紫晃は法衣ではなく、袴を着せれば先輩そっくりだ。

紅葉はそのまま秋葉だし、翠・珀は目の色を少し変えれば良いだけ。

それほどそっくりだったのだ。

「・・・ふーんそうだったんだー」

「まあ、兄さんがそう言うのなら」

そう秋葉とアルクェイドが不審げに俺を見ていたが納得してくれたのを皮切りに皆納得してくれた。

「さて、残りの・・・あ、あれ?本が・・・」

「はいそれなら遠野君が気絶している内に全部運んでおきましたよ」

「志貴様、もう少し私達を信用して下さい」

「そうです志貴さんいきなり青い顔で走られたので心配してしまいますよー」

「・・・あ、ああごめん皆、さて、じゃあ少し休憩したら帰るとしよう。あの本を徹底的に調べたいし」

「ねえねえ志貴、でさ夢の中の私ってどんな風だった?」

「どんな風と言われてもな、お前が髪を伸ばしてそのあんぽんたんな所を取ればそのまんまだぞ」

「むぅー志貴あんぽんたんって・・・」

「お前の事だ」

「志貴ー即答しなくても良いじゃないのー」

そんな事を話している内にふいに気を失う直前まで抱いていたあの恐怖が甦った。

(『凶夜』は一旦狂えば目に付いた者は全て殺した。狂わなかったのは七夜鳳明のみ。そして・・・俺は・・・『凶夜』とならずに己を保ち続けられるのか?もし・・・もし、狂ったら、俺は・・・・)

「・・・っと、志貴!」

「えっ?ああ、なんだ?」

「どうしたの?志貴あのもう一人の『直死の魔眼』の持ち主の記録を見た時からおかしいわよ」

「そうですね。遠野君何か気になる事があるのですか?」

「い、いや・・・なんで俺は彼の・・・七夜鳳明の夢を見たのかなと・・・」

「それってさー、ひょっとして志貴の中に七夜鳳明の魂があるのかもねー・・・あ、あれ志貴?どうしたの?顔色が蒼白だけど・・・」

「・・・な、なんでも無い・・・」

アルクェイドにとっては悪意の無い何気ない一言だったのであろう。

しかし、俺にはその言葉は更なる恐怖となって脳裏に渦巻いた。

「さ、さて!やる事は全部終わった。後は休憩して帰ろう帰ろう」

そう言った恐怖を強引にねじ伏せ何とか平静を保つと、この場を後にしようとした。

(志貴さま・・・)

ふと、今まで黙っていたレンちゃんが猫形態で俺の肩に乗っかると恨めしそうに俺を睨んできた。

(?・・・どうしたの?)

(志貴さま・・・どうして私が出て来ないのでしょうか?)

そんな事俺に聞かれても困る・・・






「ふう・・・もう夜か・・・長い一日だった・・・」

部屋で一通りの目の通しが終わった俺は軽く背伸びしてそう呟いた。

あれから俺達は二・三十分休憩すると、今回回収した本をリュックに詰め、七夜の集落を後にした。

もう俺がここを訪れる事は二度とないであろう。

そして、別荘に到着すると、俺は自室に篭って一冊一冊目を通しだした。

さすが、爺さまが後の為に遺しただけある。

七夜の歴史を細かに記した物・暗殺技術を教本のような物等、俺が仮に暗殺者や退魔士になれば有効極まりない物ばかりである。

現に先輩やアルクェイドは感心しながら俺が目を通し終えた本を居間で読んでいる。

「・・・少し外に出よう。・・・皆にはどうも顔を合わせにくい・・・」

そう呟くと、靴を履き窓から木に飛び移り、気がつけば俺は七夜の森入り口周辺の道をぶらぶらとしていた。

「・・・俺の中に七夜鳳明の魂があるかも・・・か・・・」

ふと、昼アルクェイドに言われた台詞をそう呟く。

確かにその通りかもしれない。

でなければあのあまりにもリアリティある夢はどう説明をつければ良いのか?

(ひょっとしたら、俺がここに来た事が俺の中に眠っていた七夜鳳明の魂を起こしてしまったのかもしれない。・・・そういえば初めてこの森に来てからだな・・・俺があの不思議な夢を見始めたのは・・・俺は・・・)

「ちょっと君、ほとんど人通りが無いからって少し幅取りすぎよ。ぶつかっても知らないわよ」

そんな俺の後ろから女性の声が聞こえた。

「あっすみま・・・あ、あれ?先生?」

「えっ?志貴じゃないの!」

俺は目をひん剥かんばかりに驚いた。

相手の女性・・・先生もぽかんとしている。

驚いた、まさかこんな所で会うなんて・・・

「まさか、こんな所で君に会うなんて・・・どうしたの志貴?こんな時間に、こんな所に居るなんて・・・」

「ああ、俺は皆と一緒にここに旅行に来たんです。で俺は散歩を・・・」

「ふーん、そうなの。・・・で、志貴」

「はい?」

「何か悩みがあるんでしょ?又先生に話してみる?志貴が嫌だと言うのなら別に構わないけど」

「・・・」

俺は一瞬躊躇した。

これを先生に話して良いものかどうか。

しかし、他の皆に話せない以上、先生にしか相談できる人はいない。

「実は・・・」

気が付けば俺は先生に今抱えている恐怖や不安を全部話していた。

「へぇー志貴の他にそんな眼を持っていた者がいたなんて初めて聞いたわ。それに・・・『凶夜』か・・・私も噂では聞いた事があるわね。でも、私が聞いた話だと"人でありながら異端の力を極めた者が世界のどこかにいる"という程度だったけど。でも・・・この噂だと"最後は自らの手で命を断つ"だったけど・・・」

「そうなんですか・・・」

「それに狂うなんて事も聞いた事も無いわ。まあ噂だけあって、どんどんと話が歪められたと言う事でしょうけどね。・・・で志貴、君はその『凶夜』となる事を恐れているのね?」

「はい。ひょっとしたら俺は自らの手で秋葉や皆を殺してしまうかと思うと怖くて・・・」

「志貴が恐れる気持ちも分かるわ。でも志貴、私の知っている能力者で自分の理性を保ち、力の使用を戒めた者で発狂した奴なんて一人もいないわ。まして君には私の渡した眼鏡がある。そんなに神経質に考える事じゃないわよ」

「ですが・・・厳密に言うともうこの眼鏡無しでも制御できるんです」

「えっ?」

「この前先生と会った後、俺に七夜の封印された記憶が戻ったんです。それに平行して七夜としての力が戻り更に『直死の魔眼』を自分で制御出来る様になったんです。・・・今まではただ単に『この線に怯えなくて済む』と喜びました。でも・・・今にして思えばこれは俺の中の七夜鳳明が目を覚ましたんじゃないかと思って・・・」

「そんな事は無いわ」

「先生・・・」

「志貴、君は自分の力を過小評価しすぎよ。はっきり言って七夜の力というものがこれほどとは思わなかった。このまま・・・あくまで君が望めばだけど、修行を積めばたぶん最凶の退魔士となるわ。それに・・・君は例えどんな立場にあのお姫様達が追い込まれても守るんでしょ?」

「はい。それはもう決めた事ですから」

「だったら、狂っている暇なんてないわよ。怖がっている暇だってない。君は君らしく真っ直ぐに先を見据えなさい。それでも最悪の事態になった時には私が君を止めてあげるから」

そう言うと先生は小さく笑った。

その笑顔を見るうちに俺の恐怖はやや薄らいだように思えた。

「ありがとうございます先生。・・・で、先生はここでなにを?」

「私?私は仕事よ。・・・うーん君になら話しても問題無さそうね。・・・実はね最近時空間の壁が薄らいでいる部分があるのよ」

「時空間の壁?」

「ええ。ほら漫画とかにあるでしょ?時空跳躍とか言って大昔とか未来にワープしちゃうって言うもの。でも本来はAという時代とBと言う時代には何物にも超える事は出来ない壁が存在するの。だからちょっとやそっとじゃその壁は超える事は出来ない。でも、最近世界各地で自然なのか人為的なのかは分からないけどその壁が極めて薄くなっちゃっている所が出現しているの。だから、かなりの力を持つもの・・・たとえばお姫様や第七司教とかね・・・がそのポイントに力を放つと短い時間だけど二つの時代がくっついちゃうの」

「えっ?そんな事になっちゃったら・・・」

「ええ、間違いなく歴史が狂っちゃう恐れがあるわ。まあ、今のところ実害が出る前に協会の魔術師達が総力をあげて壁を補強して被害を未然に防いでいるけどね」

「教会は何もしていないのですか?」

「ああ駄目よ。教会はもっぱら死徒退治に頭が一杯でこっちには見向きもしないわ。壁が壊れたら死徒退治どころじゃないのに・・・まあそんな事だから私もアジア方面を調査しているの。幸いこっちには時空の穴・・・タイムホールは存在していないけど・・・」

「けど?」

「ええ実はこの近辺に極めて強大なタイムホールの反応があったのよ。だから私は昨日からここを調査しているの。もっとも、まだ場所を特定できないけれど」

「でも先生。強大なら特定も容易なんじゃないでしょうか?かなりの大きさがあるでしょうし」

「残念だけどそうでもないのよ志貴。タイムホールと言っても通常は厚い氷に覆われた湖みたいだから見た目も感覚も周囲に溶け込んでいる所為で私達でも判定するのは穴が開いた時だけだから見つけるのはきわめて困難よ。それにタイムホールの強さは大きさじゃなくて時空間の密接度なの。ごく平均のタイムホールは時空間にかなりの隙間があるわ。だから存在の小さなものは何とか通過できるけど強力な存在だと弾き飛ばされたり最悪、その隙間・・・時空の狭間に飲み込まれて永遠に彷徨い続けるわ。でもそのホールはそう言った隙間がゼロに等しいほど無いの。だから・・・」

そこから先は聞く必要も無かった。

「先生手伝いましょうか?」

「ありがと。でも残念だけどこれは素人に簡単に判別できないの。だから君は出来る事をしなさい」

「出来る事?」

「そう。せっかくの休日でしょ。妹さん達とのんびりしていなさい。私は気持ちだけ受け取っておくから」

「はい先生」

「よろしい。じゃ志貴、縁があったら又会いましょう」

そう言い終わるとまたあの一陣の風が吹き先生は掻き消えていた。

「・・・先生、本当に有難う」

俺はもう誰もいない空間に一礼とともにお礼の言葉を口にした。

あの時と同じ様に先生は俺に道を示してくれた。

気分が吹っ切れた。

(『凶夜』になろうが七夜のままだろうがもう迷わない。その時までは俺らしい生き方をしよう)

「・・・?あれ、こんな誓い以前にも立てた様な・・・いやそんな訳無いよな・・・」

俺はその奇妙なデジャブーを心の奥にしまい込み、別荘に戻る為その身を翻した。







夕飯が終わり、全員が就寝となった夜、志貴の部屋のドアを音も無く忍び込んできた人物・・・いや動物がいた。

そう、レンである。

アルクェイド達は抜け駆けを警戒してこの旅行前日、全員で『この旅行中は志貴と一定以上いちゃつくのは禁止』とした。

しかし、レンにとってはそんな事無視とばかり初日の寝ぼけてのキスをやらかしそしてこの日は志貴のベッドで寝ようとやってきたのだ。

ぽんと音が出そうな勢いで猫から人になると、静かに枕元まで近寄ると志貴の傍らに潜り込もうとした、がその瞬間、

「!!」

レンは信じられないものを見たように顔を真っ青にすると、今度はドアを派手な音で開けると、ダダダダダと、ものすごい音で廊下へと飛び出した。

「あーっレン!志貴の所に行ったわねー!」

「アルクェイド!!この泥棒猫を何とかしなさい!」

「そ、そんな事より!志貴さまが・・・志貴さまが・・・」

最初何事かと部屋から出てきたアルクェイド達であったが、レンが志貴の部屋に行ったと知るや烈火の如く怒り狂う(外見の差こそあるが)五人を強引に志貴の部屋に連れて行った。

そしてそれを見た瞬間残り五人も顔面を蒼白にした。

「志貴!」

「遠野君!」

「に、兄さん・・・」

「!志貴様・・・」

「志貴さん・・・?」

志貴のその状況は2日前のそれと比べると以前の方がまだましであった。

以前は確かに死人の様に青かったがそれでも、まだ顔に赤みが微かではあったが帯びていた。

しかし今はどうだ。

顔色は白く、死体を思わせた。

「ち、ちょっと!し・・・!」

アルクェイドが志貴に触れようとしてその場に硬直してしまった。

「どうされたのですか?アルクェイド様?」

「し、志貴・・・嘘でしょ?」

「兄さんがどうしたのです?」

「志貴の体がね・・・冷たいの・・・」

「「!!・・・」」

アルクェイドのその一言に秋葉と翡翠が気絶しかけた。

「ちょっと志貴!!起きなさいよ!」

「無理ね。今の志貴はどうやっても起きないわね」

半狂乱になって志貴を起こそうとする5人に冷静な声が掛かった。

「ブ、ブルー!?」

「はい、お姫様御久しぶり。それと第七司教も。後初めまして秋葉さん、翡翠さん、琥珀さん・・・だっけ?」

「ブルー、何故貴方がここに?」

「ちょっと先輩、この方はどなたなんですか?」

「あっそう言えば妹達は面識が無かったわよね」

「彼女は現存する魔法使いの一人蒼崎青子」

「そう、そして志貴にあの眼鏡を渡した人物よ。それよりもブルー、何の用なの?まさかあんた志貴にあの眼鏡の代価を請求に来たんじゃないでしょうね?」

「まさか、あれは私が志貴にあげた物よ。あげた物に請求付ける気は無いわ。それに私がここに来たのは別件よ」

「一体それは何なのですか?それに遠野君が起きないと言うのは一体どういうことです?」

「うーん、とりあえず最初は私がここにいる理由から話すわね。冷たい様だけど今の状態の志貴は私でもどうする事も出来ないから」

そう言うと、先刻志貴に話した事をそのまま、アルクェイド達に話し出した。

「タイムホール?」

「ええ。まあ、正式の名称は違うけど分かり易くと言う事でね。で、だいたいこの近辺に的を絞り込んだから昨日から探っていた訳」

「その様な事教会からは何も聞いていませんよ・・・もしかして貴方の嘘出まかせではありませんか?」

「あ、それは当然よ。こっちが助力を求めてもそちらは聞く耳をまるで持たないもの。やっぱり視野が狭いと未知の状況にはてんで対処できないのね」

「・・・それに対しては私としても反論しようがありません」

シエルが悔しそうに唇を噛んだ。

現に彼女自身教会の上層部の原理主義に固執ぶりには、はなはだ辟易していた。

志貴が『直死の魔眼』の持ち主と知るや否や、彼女に志貴の断罪を命じたほどだ。

「・・・失礼ですがその様な事より志貴様は今どの様になっているのでしょうか?」

今まで無言を守ってきた翡翠が彼女に鋭い視線を投げ掛け、そう問い掛けてきた。

「そうですね今はその様なものより兄さんを一刻も早くどうにかする事が先決ではないのですか?」

「そう言えばそうね。そのタイムホールと今の志貴の状態とは全く関係無いでしょ」

「いえ、志貴がこうなってしまったのとタイムホールは無関係ではないの。・・・レンちゃん。志貴に何が起こったのか言える?」

「・・・志貴さまの体から・・・青白い何かが出て来て・・・そして・・・」

「そして、そのまま消えちゃった」

「・・・・・・」

レンは言葉も無くこくんと頷いた。

「ちょっと待って、青白いってまさか・・・」

「そう、お姫様の考えている通り志貴の魂よ。・・・ここからは私の推測だけどたぶん志貴はタイムホールが出来た直後にこの近くに来てしまった」

「そう言えば、志貴さん私達と来る前に一度ここに・・・」

「それね。出来た直後のタイムホールって、何でもかんでも吸い込みたがる習性があるのよ。でも、それはほんの僅かの時間しかないから、仮に魂だけ吸い込まれたとしてもすぐに戻るから、それほど実害は出ないの。でもその時に、とんでもない偶然が重なってしまった。向こうの時代でも人が・・・それも志貴の魂と極めて類似した者が同じく魂を吸い込まれてしまった所為で志貴とその人物の魂が結びついてしまった」

「そうなるとどうなるのですか?兄さんは」

「そこまではわからないわ。申し訳ないど今回の事は協会でも未知の領域なのよ。ただ一つはっきりいえるのはこのまま手を拱いていたら、志貴は・・・人格が変わるか、魂が消滅する可能性すらあるわ

「人格が変わるってどういう事?」

「今の志貴の状況から言っておそらく、今の志貴の魂は過去の繋がった人物と共有している可能性が極めて高い。だから時間を置けば置くほど、二つの魂は融合してしまい、最終的には新しい一つの魂となってしまう。そうなればどちらかが、その新たな魂の所有者となり、片方は死んでしまう」

「では魂が消滅と言うのは?」

「それは最悪の場合ね。万が一、その魂が時空の狭間に潜り込んだら脆弱な人間の魂なんて直ぐにもみ消されてしまう。そうなれば志貴も、過去の人物も死んでしまうでしょうね」

「そ、そんな・・・」

「ブルー、何とかならないの?」

「さっきも言ったけど、この状態の志貴をどうにかするのはとてもじゃないけど不可能よ。解決策としては一刻も早くタイムホールを見つけ出してホールを補強するしかないわ。タイムホールさえ補強してしまえば、後は自然に魂は二つに分割されるはずだからからそれで全部解決する筈。でも、時間的に言っても多分3日か多くても4日しかないわね。私達に出来る事は一刻も早くタイムホールを見つけ出す事しかないわ」

「ところで・・・人格が融合してしまうとどういった副作用が?」

「そうね。志貴であって志貴ではない。根本は恐らく無事だと思う。でも・・・細かい所は変わってしまうと思うわ。あなた達は志貴が志貴である事を望むでしょう?」

六人が、一斉に頷いた。

「・・・ともかくこうなった以上志貴に何も話さないと言う訳にはいかないわね。私からこの事は伝えておくわ」

「少し癪だけど志貴はあなたに全面的な信頼を置いているからね。それでお願い」

「ええ。貴方達も、寝た方が良いわよ。私はもっと詳しくタイムホールの場所を絞り込むから」

そう言うと、室内に一陣の風が巻き起こり、彼女は消えていた。

「・・・アルクェイド、あなたブルーの言った事を信じるのですか?」

「ブルーは色々と癪に障るけど、信頼に値する相手と言う事は間違いないわ」

「本当に信用出来るのですか?」

「少なくとも、まだ志貴を殺したがっている連中に比べたら遥かに・・・そんな事より仕方ないけど寝ましょう。私達も昼にタイムホールの手掛かりを探しましょう」

そんなアルクェイドの言葉に不満こそあったが全員渋々納得して志貴の部屋を立ち去った。


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