あれは・・・そう、俺が生まれ、15回季節が巡った頃だった。

先代、つまり俺の親父が急逝し、兄者達を差し置いて俺が当主となる事が既に隠居した長老達の意向で決まった。

その時、俺はその報告を聞いた時、意外に思ったのをはっきりと覚えている。

確かに俺には、全ての物を断ち切る事の出来る線が見えるが結局は、その程度の能力では無いのか?

むしろ、殺しの技量では兄者達が遥かに上であろう、なのに何故・・・。

その様な思いが確かに渦巻いていたが、長老の意向には逆らえない。

結局俺は内心の疑問を有したまま、俺の当主継承の前夜を迎えた。

そんな時であった。

衝が俺の部屋に訪れたのは・・・





「鳳明様・・・いえ、明日からは御館様ですな」

「爺、よしてくれ。貴方にまでそんな事を言われると俺は悲しくなる。・・・親父も母者のいない今となっては、俺には貴方が父のようなものなのだから」

「・・・その様な、もったいない御言葉・・・」

と軽い会話をしていたが不意に悲しくなった。

明日からはこの人まで他人行儀で俺の事を『御館様』と言うのだ。

当時の俺には到底我慢できるものではなかった。

「・・・鳳明様、実は今日ここに来たのは御館様の遺言をお伝えすべく参上した次第で」

「遺言?」

「はっ、鳳明様のその双眸について・・・」

「・・・」

二人の空気が一瞬で重くなった。

そんな空気を断ち切るように、衝は

「鳳明様・・・鳳明様は『凶夜(まがや)』というのはご存知でしょうか?」

と、聞き慣れない単語を口にした。

「?・・・爺、なんだ?その『凶夜』というのは?それよりも・・・」

「鳳明様この事は関係あるのです。・・・我が七夜一族の裏に潜む、鬼人達と・・・」

「・・・」

その時、衝の余りの迫力に俺は口を噤み、彼の話を聞く態勢となった。

「・・・何から説明すれば宜しいのか私には判りませんが・・・取りあえず、まずは御館様の遺言から申し上げます。『決して力に魅入られるな。お前は七夜鳳明なのだから・・・』と言う事です」

「『力に魅入られるな』と言うのは判る。・・・俺は今でもあの時、先々代の杖を真っ二つにした事を夢に見る。しかし・・・『七夜鳳明なのだから』と言うのは一体どういう事なんだ?」

「・・・では次に『凶夜』についてご説明いたします。・・・『凶夜』それは・・・いえ、彼らは七夜でありながら、魔に堕ちた者達・・・」

「・・・・・・」

嫌な予感がした。

「元々は、彼らは生まれながらにして、魔と真正面から対等、いえ、時には一瞬で魔を消滅させる力を有していた者達で、七夜に何代かに一人の割合で生れ落ちました」

「・・・・・・」

正直聞きたくなかったが俺は無意識でその続きを促した。

「・・・彼らは、最初こそ七夜の最高傑作として一族に敬われ大抵彼らは当主となりました。ところが・・・彼らは例外にもれる事無く、狂ったのです

「狂った・・・」

俺の全身に冷たい汗と巨大すぎる恐怖がよぎった。

「・・・口伝では狂った最初の『凶夜』は一族のみならず味方である筈の、混血の退魔をも襲い、彼を殺すのに、数百の命が失われたと言います。・・・それ以来その様な力を有した者達は、正常であれば当主として・・・利用し、狂う傾向が見られたら七夜の中で殺します。そして・・・惨い事ですが、彼らは命はおろか、名も、存在も一族の歴史から抹消されてしまうのです・・・そして何時からか、彼らの事は七夜に凶事を呼ぶ者として名の代わりに凶々しい七夜すなわち、『凶夜』と呼ばれるようになりました。」

「・・・・・・なぜ・・・其処まで・・・」

俺は体をガタガタ震わせそう呟いた。

理由の全てを十とすればその内八が恐怖、残りは怒りであった。

「我らは暗殺者として、また退魔の一族として頂点にあるからこそ存在を許されている一族。もしもこの様な事が他の者達に知れれば、七夜は彼らによって滅ばされる。その恐怖ゆえでしょう」

「・・・そして俺はその『凶夜』と言う事か・・・」

俺はもう呟く事しか出来なかった。
「はい。・・・鳳明様が『凶夜』に堕ちた時には、ご長男、双影様のご嫡子法正様が当主となる事が決定しております」

「・・・そこまで決まっているのか・・・」

「申し訳ございません鳳明様・・・」

「・・・仕方ないか・・・済まないな爺、貴方にこの様な役目を・・・」

「鳳明様・・・なんと、もったいない・・・」

その時の俺には自分の境遇を恨んだり、憎悪する気分は無かった。

余りにも、衝撃的な内容だったのかもしれないが、それ以上に親父や母者、そして今眼の前にいる衝が俺に与えてくれた愛情を思い出すと、到底そんな気分になれなかった事も事実である。

そして、俺は俺の中である誓いを立てた。

「狂うなら狂うで構わない。その時まで俺は俺の思うがまま、生き抜く。・・・」と・・・





そして、あれから更に、5つ季節が巡った。俺は今の天皇にその殺しの腕を乞われ、一族から選びぬいた二十名を連れ、(無論、目付けとして衝も同行した)京の都平安京で、主に朝廷の依頼の殺しを次々と行っている。

そして、森にいる長老達にとっては以外、衝にとっては喜ばしい事に俺はいまだ狂わず、七夜一族の当主として最強と最凶の名を欲しい侭にしている。

ひょっとしたら、俺は狂う事は無いのかもしれない。

その代わり・・・







「う・・・ふあああー・・・何時の間にか眠っていた様だな・・・って?あれここは・・・ああそうだ、別荘だったな。えーと、時間は・・・え?朝の5時?俺そんなに、寝起き良かったか?」

俺は手にした目覚し時計を片手にそんな事を呟いた。

はっきりいって、こんな時間に目を覚ますとは・・・

「やっぱり、あれの所為か・・・」

そう、今となっては夢でないかと疑うあの光景。

でも、俺の理性はあれを紛れも無い現実と認識している。

満天の星空、満月の月夜、古びた日本家屋、そして・・・それらを背景に俺を見下ろしていた俺に瓜二つのあの男・・・

「・・・まあこれだけ悩んでも仕方が無い、ともかく今日はいよいよ、七夜の森に入るんだ。さっさと朝飯を食わないと」と思い、昨夜の内に用意した服を着ると、扉を開け1階に向かおうとした。





「あれ?志貴さん?・・・ですよね?」

「おはよう琥珀さん。こんなに朝早くから朝食作り?ご苦労様」

「いえ、朝食と、後お昼の御弁当です。今日はいよいよ、志貴さんの故郷に行かれるんですから、腕によりをかけて作ろうかとー」

琥珀さんは、あはは―と楽しげにそう言う。

すると、そこで琥珀さんは真剣な表情で、

「志貴さん今日はどうされたのですか、いつもでしたら翡翠ちゃんが十回は起こさないと起きないのに」

「うーん、やっぱりさ、ほら、いくらなんにも無いところでも、生まれたところだから少し緊張したみたいで、」

嘘だ。

あの光景が俺の眠りを浅くしたのは間違いない。

何しろ、朝起きて瞼が重くなるなんて、今回が初めてなのだ。

「志貴さん!」

と琥珀さんは大きな声で俺の名を呼ぶと、じっと、俺の顔を見る。

な、なんだ?

「志貴さん、嘘ついてますね?」

「え?」

「志貴さんの目、何かを悩んでますよ。・・・何か隠してますね?」

「・・・」

鋭い。

さすが、あの事件以前は秋葉達を影で操っていただけある。

しかし、俺もあれの状況を上手く説明できる自信がない今、あれの事を言う事はしたくない。

皆を心配にさせるだけだ。

「志貴さん・・私では話し相手になりませんか?」

「へ?」

唐突に琥珀さんが、俯いたまま、そんな事を言い出した。

「私は・・・ただ、志貴さんとお話して、のんびりと朝の僅かな時間を過ごしたいんです。・・・そうしたら、志貴さんはいきなり今日こんなに早く起きてくださったのに・・・やっぱり私よりも、翡翠ちゃんと居た方が良いですか?」

「!い、いや、そうじゃないって!俺も、琥珀さんと話せるのは嬉しいよ、・・・今悩んでいたのは事実だけど、それは琥珀さんとは関係ない事なんだよ」

どうやら琥珀さんは違う方向に勘違いしているようだ。

これは、違うとはっきり言っておかないと、大変な事になりかねない。

「・・・本当ですか?」

琥珀さんの半分涙目の視線にすっかり混乱してしまった俺はコクコクと頷いた。

「じゃあ、志貴さん・・・その・・・スリスリしても良いですか?」

「え?な、なに・・・」

「良いですか?」

「い、や、・・・別にいいけど」

俺がそう言うと、琥珀さんは明るい笑顔で、俺の胸に飛び込むと、頬で、胸をスリスリしだした。

「志貴さ〜ん」

「は、はぅぅぅー」

琥珀さんのその甘えっぷりと、台詞に撃沈寸前になりかけた。

しかし、「姉さん!!」その一声で、俺の意識は覚醒した

見なくても判る。

後ろで翡翠が冷たい視線で、こちら・・・正確には琥珀さん・・・を睨んでいるに違いない。

「あ、あはー翡翠ちゃん・・・」

琥珀さんは俺の後方を見て額に一筋の汗と、乾きまくった笑いを浮かべている。

「・・・姉さん志貴様に何をしているんですか?」

冷たい声も聞こえる・・・

「あ、あのね翡翠ちゃん・・・志貴さんが・・・」

「言い訳無用です。・・・私だってそれをしたいのに、・・・姉さんずるいです

翡翠がそんな事を呟くと琥珀さんがニヤリと笑って、

「あっそれじゃ翡翠ちゃん、二人でしよっか?」

「ええっ!・・・」

「翡翠ちゃんもしたいんでしょ?今だったら、秋葉様もまだお休み中だから、チャンスだよー」

琥珀さんの顔が、悪魔に見える・・・。

「し、ししししし・・・志貴様・・・その私も・・・姉さんと・・・」

これ以上は言葉も出ずに、翡翠は俺の背中にぴったりと寄り添ってきた。

背中と胸に柔らかい何かを感じる・・・

このまま、ぽけーっとしたかったが、視線にあれが映った途端、俺の血の気が引いた。

「・・・翡翠、琥珀さん、ごめんちょっと・・・」

俺にはそう言うのが精一杯だった。

不審そうな二人とどうにか離れると、俺はその足で、洗面台の鏡に向かった。

そして、青ざめた顔のまま、鏡に視線を向けた。

そこには・・・先程の服を着ている、少し血の気が引いている遠野志貴がいた。

背景も、それは別荘のごく当たり前の背景。

昨夜の様な異変は何処にもない。

やはりあれは夢?・・・いや、あれは夢なんかじゃない。

では一体・・・あれは何だったのだろうか?

「あれー志貴随分と早いんだねー」

「遠野君おはようございます」

「兄さん?!どうしたんですか?こんな時間に?」

「・・・志貴さま・・・おはようございま・・・ふぁぁぁぁ・・・」

わからない事を考えようとした時、起きてきた残り4人がそれぞれの挨拶をかわしながら、降りてきた。

「あ、ああ、皆おはよう。・・・琥珀さん、そろそろ朝ご飯にしようか?」

「はいーわかりました。」

「・・・・・・」

琥珀さんと翡翠は表面的にはいつも通り、であったが若干の不満の視線を俺に向けている。

恐らく先程のやつをほんの少ししか出来なかった為の不満であろう。

しかし、仮に秋葉達に見つかったら・・・と思うと、これで良かったかも知れない。






そして7時半、早々と俺達は登山の格好をして別荘の前に集合していた。

俺が早く起きた為、皆が俺を待つ必要が無くなり、秋葉が『それなら早く出るとしましょう』と意見し皆が、それに賛成した所為だ。

「それじゃ、出発しようか、・・・それで、もう一度注意だけど絶対に不審なものには触れるなよ?」

「はーい!」

「・・・アルクェイド、俺はお前が一番心配だ」

「にゃー」

俺の注意にいの一番に答えたアルクェイドに俺は心底の不安を口にした。

ちなみに、レンちゃんは猫形態に変身して、俺の肩に乗っかっている。

「むぅー、志貴〜それどういう意味よー」

「遠野君の意見に賛成ですね。子供のまま、大きくなったようなあーぱー吸血鬼に団体のルールを守れるとは到底思えません」

「私は志貴の言う事だったら聞いてるわよ。じゃ無かったら貴方なんて、とっくの昔に死んでいたわよ」

「・・・私も遠野君の事が無ければ、貴方を封印している所です」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「はいはい先輩も、アルクェイドも落ち着いて。それじゃあ、出発するよ。皆、俺の後ろについて来て」

あわや大喧嘩になりかけた二人を遮ると強引に俺は七夜の森に足を踏み入れた。

「志貴―、待ってよー」

「遠野君!置いて行かないで下さい!」

秋葉、琥珀さん、翡翠そして、慌てて、アルクェイド、シエル先輩がついて来た。





「兄さん・・・ここを昔、お父様達は七夜を滅ぼす為、登られたのですね・・・」

「ああ・・・俺はその時の事はあまり・・・と言うか、まったく覚えが無いんだ」

歩きながら、暫くすると、秋葉はそんな事を暗い口調で口にし始めた。

先程から元気が無いと思っていたがやはり、自分の一族が犯した罪の痕跡を見るのは秋葉には少し辛いようだ。

「・・・あの時・・・俺が、目を覚ました時には皆、何処にもいなかった。・・・寂しかったんだろうな、その当時の俺は何も考えなしに、外に飛び出した。そこで見たのは・・・」

これ以上は話す事が出来なかった。

そう・・・今ならはっきりと覚えている、あの光景。

遠野や軋間によって、ある者はズタズタに切り裂かれ、又ある者は首をねじ切られ、そしてある者は火によって生きたまま、焼き殺された。

それは文字通り殺戮の見本市であった。

そして、母さんは俺を庇って、俺の眼の前で死んだ。体をバラバラにされ・・・

その時叫んだ俺の名が、俺の寿命を延ばす結果となった。・・・

そんな俺の言葉に、秋葉や琥珀さん、翡翠に先輩は無言で俺の言葉を聞いていたが、

「ねぇねぇーし〜き〜!これ、なーにー」

最後方から能天気な声が聞こえ、俺が振り向くと、そこでは・・・

「志貴〜この変な縄なーにー!」

「バッ、バカ!手を放せ!そいつは・・・」

俺は慌てて注意を促そうとしたが遅かった。

「えっ?う、うにゃああああああああ!」

アルクェイドの周辺でまさに罠が発動していた。

倒木が倒れ込み、どこからともなく、やって来た岩が襲い掛かり、無数の刃物が雨の様に降り注ぐ。

形容しがたい轟音が響き渡り、音が終わるとそこは無残な状況となっていた。

しかし・・・

「いったーい。志貴〜何よー今の」

・・・何故に服すらも、破けず平然としている。

いつも、こいつの能天気な所ばかり見ているものだから忘れがちになるが、このメンバーの中では、間違いなく1・2を争う化け物だからな・・・

「・・・皆、よく見ただろ、ここは今のランクの罠がごろごろあるからな、あの反面教師を見習うように」

しかし、俺はそんな事は敢えて口にせず皆にそう注意した。

「むぅー志貴何よぅーその『はんめんきょうし』って」

「言葉のままだ、それとお前、知識だけは俺の何倍もあるんだからそれぐらい漢字で言え」

「むぅー」

未だ拗ねているアルクェイドを放っておいて、再び歩き始めた。

又暫くすると、

「きゃっ」

小さな悲鳴が聞こえた。

「翡翠?どうしたの?」

「い・・・いえ・・・何でも・・・」

と、翡翠は平気を装っていたが、足元にあるその物体を見て、

「そうか、その罠もあるんだった」

そう言いながら強引に翡翠の足を手に取った。

「翡翠ちゃん!大丈夫!?」

その様子を見た琥珀さんも、思わず悲鳴を上げた。

翡翠の右足のくるぶし近くから血が出ていた。

幸いと言ったら失礼だが、傷はそれほど深くは無い。

恐らく剥き出しになっている捕獲用の罠を少し引っ掛けたと言う所であろう。

俺はすぐさま、翡翠の足を取ると、傷口に口をつけた。

「・・・・!!!」

「「「「「なっ!!!!」」」」」

「捕獲用でも、油断は出来ない。ごくまれに、毒が塗られているやつまであるんだ」

俺は、背後の殺気を牽制するかのように血を吸い出しながら、そんな事を口にしていた。

そして、ある程度血を吐き捨てると、今度は、ミネラルウォーターで、傷口を洗い、最後は包帯を巻いて終了した。

「・・・よし、これで、大丈夫だろう。翡翠どう?痛みは?」

「・・・・・・」

翡翠は、顔はおろか耳、はては、首元まで紅く染めて俺の顔をろくに見ようとしていない。

「・・・まだ痛むのか・・・しょうがない俺が背負って・・・」

「志貴さん翡翠ちゃんは私とシエル様とで肩を貸しますから大丈夫です」

「そうです。遠野君はしっかりと道案内お願いします」

俺の言葉を遮り、琥珀さんと先輩がそう言ってきた。

二人とも瞳に殺気が極低温の炎となって揺らめいているような気がするが俺は敢えて無視する事にした。

「「「・・・・・・・」」」

見ると残りの二人と一匹の視線も、きわめて酷似している。

「そ、そうですか、じゃあ、先輩、琥珀さん済みませんがお願いします」

俺はそう言って歩き出した。

「・・・翡翠ちゃん、駄目ですよー志貴さんを独り占めしようとしちゃあ」

「そうです。遠野君は私のものなんですからね・・・」

・・・そんな呟きが聞こえた様な気がしたがそれも、無視しよう。






そしてそこからは、罠が2・3発動したが、俺一人でも、充分対処しきれるものだったし、手数が多い時には暇そうにしているアルクェイドや秋葉にも手伝ってもらったおかげで、全く怪我人も出ず、中腹まで来た。

「志貴、あの、薄く光っている所は何?」

見ると、俺達の左側にぼんやりと、何かが光っている。

「ああ、あれはこの森で死んでいった者達の魂」

「えっ?に、兄さん嘘ですよね」

「ああ、嘘」

秋葉が怯えながらそう言ってきたので、俺は軽く返した。

「に、兄さん・・・」

「・・・でも、似たようなものだぞ、あれは『怨霊の門』の入り口だ」

「七夜の罠多発地帯の事ですか?」

「そう、ああいう風にして、侵入者に、人家と勘違いさせるんだよ。・・・大抵襲撃は夜だったし、侵入者も、罠の連続的な襲撃で、心身共に疲弊してるからな、ああ言う、簡単な偽装にも引っ掛るんだよ」

「ふーんやっぱり七夜って、極悪なんだねー・・・志貴と同じで

「おいこら、そこのバカ女、今なんて事言いやがった。どうして俺が極悪人になる?」

「だってさー志貴って、私の処女奪ったくせに、シエルとか妹とか翡翠や琥珀、果てはレンにまでなんだからどう考えたって極悪人だよー」

・・・し、しまった。

「そうですね、・・・でも、どちらかと言えば遠野君は極悪人と言うよりケダモノと言った方が正解ですね」

「私の時も容赦無かったですから」

「・・・・・・・(真っ赤)」

「そうですよねーそれに志貴さんは鬼畜とも言っても、良いと思いますよー」

「と、ともかく!ここまで来れば、目的地までもうすぐだからさっさと行くよ!」

身の危険を感じた俺は、会話を強制的に打ち切り、再び歩き出した。

(・・・志貴さま私にも他の方と同じ事を・・・)

(・・・もう泣きたい・・・)

レンちゃんのそんなテレパシーが俺に止めを刺した。





30分後、俺達は開けた所に出た。

「志貴さん、ここは何ですか?」

「・・・七夜の集落・・・普通の七夜の人たちがここに暮らしていた」

琥珀さんの問いに、言葉少なげにそう答えた。

確かに、そこには家があったと思える柱の跡が残っていたが、其処までの事だった。

もう今では、何一つも残されていない、ただの平原・・・。

でも、まだこれでもましであった。

俺が、初めて集落に辿り着いた時、そこに有ったのは人骨だった。

どうやら遠野はあの時、一族の皆を殺した後そのままにして放置したようだ。

俺は、その人骨を1ヶ所に集め墓を作った。

盛り土をしただけの粗末な墓を・・・

「・・・遠野君、それで問題の屋敷は?」

「・・・えっ、あ、ああ、ここから更に奥の所。・・・でも良いよ。皆、慣れない山道でおまけに、罠ばっかりで疲れただろ?後の収集と火葬は、俺でやるから休んでいてください」

思案していた俺に声をかけた先輩に、俺は無理やり笑顔を作りそう言った。

「えっー私はまだまだ元気だよー志貴一緒に行こう!」

「駄目!お前も休んでいろ!」

「むぅー」

「兄さん、でも・・・」

「・・・秋葉、これは俺だけの儀式なんだ。例え皆でも、邪魔してほしくは無い」

皆、何か言いたげだったが、俺の表情を見て何も言えなくなったのであろう。

口を噤んで頷いた。

「・・・本をあらかた回収したら一旦戻るよ。琥珀さん一段落したらお昼にしましょう。御弁当楽しみにしていますよ」

少しきつく言い過ぎたかと思った俺は努めて明るく、そう言うと返事を聞く前に身を翻し、消える様に、森に消えていった。


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