「ちょっ!ちょっと待てよ!」

突然の事に思考が停止していた一同であったが、それを打ち破ったウェイバーの悲鳴だった。

「どういうことだよ監督役が死んだって!何があったんだよ!じゃあ聖杯戦争はどうなるんだよ!何よりもキャスター討伐の報奨に関しては!」

「こらこら坊主、落ち着け、男ならもっとでんと腰を据えんか!」

「みぎゃあ!」

ウェイバーの錯乱はいつものように鎮圧される。

ウェイバーが落ち着いた(と言うか悶絶している)のを確認するとライダーは時臣に視線を向けるがその眼光は抜き身の剣の如く鋭く、そこに常日頃の陽気な闊達さは影を潜めていた。

「・・・で、金ぴかのマスターよ坊主の言は我ら全員の心境だ。当然それについては説明してくれるのであろうな」

ライダーの威圧と眼光に対して流石と言うべきか時臣は表面上平然として応じた。

「無論ですともライダーのサーヴァント、いえ征服王イスカンダル。これから順序だてて説明いたします」

そう言って深々と一礼してから再び視線を信徒席の一同に向ける。

「まず・・・ここにいる全員が危惧している聖杯戦争についてですが、これは無論継続されます」

それに安堵の吐息が各所から漏れる。

「幸いにして故璃正神父は万が一に備えてスタッフとの間に情報を共有しており、運営も事後処理も万全な体制は今尚健在です。それに何よりも故璃正神父は優秀な後継者を残しております」

そう言うと時臣は今まで一方城で控えていた男を傍らに呼ぶ。

「彼がそうです。彼の名は言峰綺礼。故璃正神父のご子息であり」

「その男を後継者に据えると言うのですか?遠坂」

時臣の言葉を先程よりも冷たい声で中断させたのはアイリスフィールだった。

「ええ、そうですが何か不都合でも?」

「不都合ならば大有りではなくて?その男、我がアインツベルンの調査では今回の聖杯戦争のマスターに選ばれた筈では?」

その言葉に一気にざわめいた。

「はぁ!ちょっと待てよ!参戦者の一人が中立の監督役になるって言うのかよ!」

痛みに耐えながらもウェイバーが言った疑問の声にアイリスフィールが応じた

「遠坂の言葉を信じるとそうなるわね。おまけに元とは言えその男が遠坂の弟子である事も調べが付いているのですが」

アイリスフィールの言葉に全員の視線が時臣に集中する。

無論だが、そこに好意的な代物は欠片も存在しない。

「はははは・・・落ちぶれたな・・・時臣・・・『優雅たれ、優雅たれ』とほざいておきながら・・・いざとなれば・・・そんな、せせこましい手段を・・・・取るとはな」

雁夜の侮蔑と嘲笑に満ちた嘲りはこの場にいるマスター全ての内心だった。

中立の監督役を自らの息の掛かった人物を据えるなど、どう考えても自分に有利な情勢を作り上げるための布石にしか見えない。

不信、疑惑、侮蔑の入り混じった視線を一身に受けた時臣はと言えば、表情に変化は無かった。

むしろ余裕すら感じる素振りすら見せたかと思えば何故かアイリスフィールに拍手をして見せた。

時臣の行動に困惑する一同に

「いやはや流石はアインツベルン。そこまで調べがついているとは恐れ入りました。無能の分際で口だけは達者な輩とは雲泥の差ですな」

言外に愚弄された雁夜は表情を憤怒に変える。

それに見向きもせずに時臣は朗らかに言葉を続ける。

「アインツベルンに先んじられた形となりますが、確かに綺礼は今回の聖杯戦争のマスターの一人で、またかつては所属する組織の立場を超えて私の元で魔術を研鑽していた者でした。ですが彼のサーヴァントであるアサシンは既に消滅しております。その事はこの場にいる全員が良くご承知の事かと思われます」

誰も反論はしない。

バーサーカー陣営は序盤の遠坂邸でアサシンがアーチャーによって消滅(演技)しているを見ている。

ランサー陣営も同様であるが、ランサーは昨夜、ライダーがアサシンを『叩き潰した』と公言している事を聞いており、セイバー陣営はアインツベルンの城でその光景を目の当たりにし、そしてライダーは直接アサシンに引導を渡した。

アサシンが完全に消滅していることに疑念を持つものはここにもそして、盗聴機越しに話を聞いている切嗣、士郎もない。

「ですが、アインツベルンが言うように元とは言えマスターの一人、また私の弟子であった事に不信と不安を抱くのも至極当然の事だと思います」

そこで言葉を区切る。

「ですが、だからこそ教会に皆さんに来ていただいたのです。使い魔では無く直接ここに。何故ならば」

そこで綺礼に意味ありげな目配せをする。

それに綺礼は無表情で頷くとカソックの右の袖を捲る。

綺礼の右腕を見た全員が息を呑む。

そこには数日前使い魔越しに見た見覚えのある文様が刻まれている。

「!!それってまさか」

ウェイバーが思わず声を発し、他者も騒然とした空気になった。

「そうです、故璃正神父が生前保管していた預託令呪です。本来璃正神父が亡くなった為に本来はただの死斑になる筈でしたが、璃正神父の機転により預託令呪の全ては彼が継承しています」

「つまり・・・遠坂はここでキャスター討伐の報奨授与を行うと?」

「その通りです。もしも私が彼との関係を利用しこの聖杯戦争を有利に進めようと画策するならば、大々的に全陣営を集める必要も無い。そうは思いませんか?」

自信に満ちた笑顔の時臣にアイリスフィールは表向きは表情を変えないが、内心では唇を噛む。

時臣の言うように綺礼との関係を利用して聖杯戦争の今後を有利に進ませようと画策したのであれば、秘密裏に行う筈だ。

少なくとも璃正の死は隠し切れないとしても、綺礼が預託令呪を受け継いだ事まで言う必要は無い、『監督役は不在だが聖杯戦争の運営は滞りなく進む』とだけ告げれば済む話だ。

それをせずに全陣営に事実を伝えたのは、時臣なりの誠意なのか抗議や反論を潰す為の布石なのかは不明だが、これ以上の抗議はもはや不毛だった。

無論これ以上けちをつける事も出来るが、それをしてしまえば他陣営から好ましくない印象を受けたり後々監督役に目を付けられかねない結果を生みかねないし、そうなれば自分達にとって最終目的である聖杯戦争終焉にも不都合が生じかねない。

「・・・」

意見も文句も言いたいことが山ほどあるが無言を貫くしかなかった。

「全陣営のご理解を得られた所で授与を行いたい所でありますが・・・」

と、ふたたび言葉を区切り何故か時臣は新徒席で自分に殺意を向け続けている雁夜を見る。

「報酬授与に関してですが、バーサーカー陣営は除外となっています」

その言葉に・・・正確には自分を見下す嘲笑を浮べた時臣の顔に激高したのか

「なんだと!!」

怒りに歪んだ右半分の顔はこれ以上無いほどおぞましき凶貌を見せ付ける。

「おや?何故怒るのかね?何故自分達が除外されたのか良く判っているのではないのかね?」

その凶貌を見せられても眉一つ動かさない時臣も流石と言えば流石であろう。

「判らないのであればはっきりと言おうか。君たちバーサーカー陣営は此度のキャスター討伐においてキャスター討伐に功績を挙げたのかね?特に昨夜の未遠川での戦いで」

そう言われ言葉に詰まる雁夜。

「私の記憶に間違いが無ければ、バーサーカーはキャスターを討伐するどころかその妨害を企てていたと思うのだが間違いなのかな?であるならばぜひとも間違いを正してほしいのだが」

それに雁夜は反論は出来ない。

何しろ時臣の言葉は全て事実なのだから。

キャスター討伐令が出てからバーサーカーはキャスター討伐に何一つ貢献していない。

いや、貢献所か昨夜の未遠川ではキャスターなどそっちのけでアーチャーをそしてセイバーを付け狙った。

と、そこで時臣の言葉を引き継ぐように初めて綺礼が口を開いた。

「バーサーカー陣営はキャスター討伐に何一つ寄与していないばかりか、キャスター討伐の妨害を企てたと前監督役は判断し報奨授与対象外、更に妨害に関するペナルティをも検討している」

容赦の無い言葉に呆然とした雁夜を尻目に綺礼は

「では改めて報酬授与を行いたい所であるが・・・」

そこで言葉を区切った。

このまま報酬授与に移ると思っていた一同は綺礼に視線を集中させる。

「その前に前監督役の死亡状況について話をさせて頂きたい」

そんな綺礼の口から出てきたのは思わぬ言葉だった。

「前監督役の死亡状況って・・・どういうことだよそれ?僕達に関係があるのか?」

数秒ほどの空白の時間が流れた後にウェイバーが口を開く。

「関係あるかもしれません」

それに綺礼はあやふやな返答を返してから話を始めた。

「・・・まず前監督役の死因ですが・・・心臓に撃ち込まれた銃弾による失血性ショック死・・・簡単に言うならば射殺です」

その言葉に全員が騒然とした。

「しゃ・・・射殺って・・・それって銃で撃ち殺されたって言うのかよ!!」

驚きの余り絶叫するのはこの中では科学技術に比較的容認なウェイバー。

「な・・・ん・・・だ・・・と」

魔術自体を完全否定している雁夜ですら、璃正の死因に衝撃を隠し切れずに言葉の途中で絶句してしまった。

だが、これですらまだ良い方で、純粋な魔術師であるアイリスフィールやソラウは絶句し一言も発する事が出来ず、舞耶は一見するといつものように鉄面皮で動じる事はない様に見えるが射殺のくだりを聞いた時やや眉を顰めていた。

しかし、流石の舞耶も著しく動揺していたようだった。

何故ならば隣のランサー陣営のケイネスが一瞬だけに驚愕した表情を浮べた後、なぜか不自然が顔を横に背けていた事に、気付く事はなかったのだから。

ましてやその顔に悪意に満ちた笑みを浮べていた事にも。









そんな一同の驚愕や困惑など露知らず綺礼の話は続く。

むろんの事だが一同の驚愕はこれだけではすまなかった。

「また遺体発見時、預託令呪の内二画が喪失していました。監督役の意思に反した令呪以上は不可能である事を鑑みて、死亡前少なくとも二陣営が報酬の令呪授与を求めて前監督役の下を訪れていたと思われます」

「じゃ、じゃあ・・・監督役の殺害したのは僕達の内誰かだと言いたいのかよ!」

ウェイバーの憤慨交じりの抗議を綺礼は無表情で受け流した。

「そうは言ってはおりません。ただ、預託令呪を受け取った陣営がある可能性がある以上その陣営から話を聞きたいと」

それに

「それでしたらそのうちの一陣営は私ですな」

妙に自信満々な声と態度で声を上げたのはケイネスだった。

「ロードエルメロイ、それは本当ですかな?」

「ええ、アーチボルト家とロード・エルメロイの名にかけて真実だと誓います。その証拠に」

そう言って右手を高々と掲げる。

そこには紛れもない令呪が一画刻まれている。

「我が陣営は様々なトラブルに見舞われまして令呪を全て失いましたが監督役からの授与を持って令呪を得る事が出来ました。そのことはそこにいるセイバー及びライダー陣営が証言してくれると思いますがどうでしょうか」

その言葉にアイリスフィール、そしてウェイバーは

「ええ、そうね」

「ああ」

短く吐き捨てるような口調で同意を示してから苦々しく頷く。

だが、その表情の苦々しさは奇しくもケイネスの証言をする事になってしまった事ではなく、全ては自らの短慮にあるにも関わらず、あたかも他者の責任であるかのように振舞うケイネスの言動に憤りを覚えたからに他ならなかった。

「なるほど、つまり最初に報奨を受け取ったのはロード・エルメロイであると言う事ですかな?」

「おそらくは。少なくとも私がここで報奨を受け取った時に他の陣営はおりませんでしたので。そうなると・・・もう一画の令呪を報奨として受け取ったのがどの陣営であるかが気になりますな・・・おや?そういえばここにまだ姿を見せていない陣営がいるのではありませんか?」

いかにもわざとらしい口調で言ったケイネスの言葉は内容は正しいがその表情と加虐の快楽に満ち溢れた声が周囲に不快感を与える。

時臣ですら僅かに表情を不快そうに歪めるが気を取り直す。

彼にとってもここからが本番だったのだから。

「確かに直接討伐したエクスキューター陣営が来ておりません。そしてこの件に関して私としては軽視する事が出来ません。と言いますのも・・・我々も聖杯戦争前に他陣営に関して調査した所、いささか無視できぬ事実を掴んだからです。アイリスフィール・フォン・アインツベルン、貴女にお伺いしたい。貴女は・・・正確にはアインツベルンは九年前婿を迎えていますな。対魔術師戦に特化した邪道の魔術師を」

そう問われたアイリスフィールは表情を強張らせた。

「・・・確かに迎えていますが、それが何か?」

そう抗弁するのが精一杯だった。

「何かではないでしょう。その魔術師は魔術師でありながら魔術を尊ぶ事無く、魔術師らしからぬ戦法で魔術師を追い詰め葬り去っていく・・・今回の監督役暗殺と共通点があるとは思いませんか?」

「・・・」

ここまで盗聴機越しに聞いていた切嗣と士郎は自分達が時臣の目論見を察していた。

「・・・してやられた。おそらくだがあの結界はブラフだ」

思わず乱暴にイヤホンを外してハンドル部分を殴り付けながら苦い表情で断じた切嗣に、士郎も同じ位苦い表情で頷く。

「うかつに侵入して気配遮断を封じられるリスクにばかり目が行き過ぎていた。気配遮断を封じるのが目的だと見せかけて本当の目的は俺を教会に行かせない事だったんだ」

何の為に?

それはもう決まりきっている。

それを示すように時臣の言葉は続く。

「更にこれは綺礼がアサシンのマスターであった時に掴んだ情報ですが、アインツベルン、貴女のセイバー陣営とここにいないエクスキューター陣営は秘密裏に同盟を結んでいるとの事ですが、これも事実で?」

知られていないとばかり思っていた事を指摘されて、言葉を完全に失うアイリスフィールに更なる追い討ちが掛かった。

「何ですと!それは由々しき事態としか言い様が無いですなぁ」

何故か得意満面な顔で、ケイネスが場に割って入ってきた。

「魔術師の風上にも置けないような下賎の輩を仮にも御三家と呼ばれるアインツベルンが迎え入れていたと言うだけでも十分問題だと言うのに、その様な輩をこの崇高なる聖戦の場に招き入れたと言うのですかな。つまりトオサカ、あなたはこう言いたい訳なのですかな?その邪道の魔術師こそがエクスキューターのマスターでありエクスキューター陣営が前監督役を殺害したと。そうにらんでいる訳ですな」

「・・・先走っての先入観は褒められたものではありませんが、全陣営に集合を呼びかけたにも関わらず姿を晦ましている以上、何らかの後ろ暗い事をがあると言わざる終えません」

中立を装いながらその実容疑者だと決めて掛かっている時臣を思わず睨み付ける。

ここに来てアイリスフィール、舞耶も切嗣達と同じ結論に至った。

アイリスフィールの立場から言えば結界を張って士郎達を牽制したくせに何を言っているんだと言いたいが、周到な時臣の事だ、自分達が教会に入った所で結界を解除している筈だ。

仮に結界を解除していなかったとしても『あくまでも用心の為の結界だ。後ろ暗いことが無ければ気配を絶つ事無く正面から堂々と入って来れば良いだけのこと』と開き直られれば反論のしようが無い。

しかし、この時アイリスフィールは失念していた。

自分達の身内にこそ最大の爆弾が存在していた事を。

その事にいまさらながら気付いた舞耶がアイリスフィールに注意を促そうとしたがその時には既に爆発の瞬間だった。

突然セイバーが立ち上がるや決定的な言葉を口にしてしまった。

「アイリスフィール!だから言ったのです!キリツグ達を、エクスキューターなどを信ずるべきではないと!!」

その言葉を慌ててアイリスフィールが咎めようとしたが全て遅かった。

セイバーの爆弾発言に全員の視線が今度こそアイリスフィール達に集中する。

そして当然だが、その言葉尻を見逃す時臣ではない。

「キリツグ?アインツベルンよ。それがエクスキューターのマスターの名なのですな」

はぐらかす事は許さないとばかりにアイリスフィールを見遣る時臣にアイリスフィールはしばし視線を交差させる。

そんな息の詰まるような時間が数分続いた後意を決したように

「・・・ええ、その通りよ。遠坂、エクスキューターのマスターの名は衛宮切嗣。かつて『魔術師殺し』とまで呼ばれた対魔術師戦特化の魔術師、貴方がさっき言った邪道の魔術師というのが彼よ」

アインツベルンの最重要機密を口にした。

表情は能面のように無表情だが、内心は苦渋に満ちているのは言うまでもない。

「衛宮切嗣・・・やはり・・・で、アインツベルンよエクスキューター陣営とは」

とそこにケイネスが再び差し出口を挟んできた。

「トオサカよ!その前にアインツベルンに処断を下すべきであろう!!」

それに対して返答したのは時臣ではなく、

「ロード・エルメロイ、我がアインツベルンに処断を下すべきと言いましたがどのような罪で処断を下せと?」

時臣を見る時以上の冷淡さでケイネスを見遣るアイリスフィールだった。

「決まっていよう!この聖戦の場に資格無き者を招きいれた事に対する大罪にだ!!」

「資格無き者?大罪?何を言い出すかと思えば」

ケイネスの弾劾に心底から呆れたと言わんばかりの口調でケイネスを侮蔑した目で見る。

「何か勘違いしているみたいですがロード・エルメロイ、衛宮切嗣はこの戦いに参加する資格たる令呪を持ちサーヴァントを召還した参戦者。ここにいる私達と違う所があるとすれば、呼び出したクラスがイレギュラーな事と彼本人が魔術師らしからぬ戦いをするだけです。彼らはキャスターのように神秘を白日の下に晒す真似はしておりませんし、無辜の市民に危害は加えておりません。それ所か昨日キャスターを直接討伐し聖杯戦争は元よりこの冬木の市民の命を救っています。そんな彼にどのような罪に問えるのでしょうか?この場の全員が納得できるだけの根拠でもおありなのですか?」

アイリスフィールの淡々とした問い掛けに言葉を詰まらせる。

アイリスフィールの言うように参戦者の資格を有しているにも関わらず魔術師らしからぬ輩であるからという理由で処罰を下すなど出来る筈がない。

そんなケイネスにアイリスフィールはしたたかな追い討ちを仕掛けた。

「ああ、そう言えば衛宮切嗣が言っていたわね。アインツベルンの森でセイバー、エクスキューター、ランサーがキャスターを邀撃していた時に身の程知らずにも単身我が城に乗り込んだ挙句彼に無様に叩きのめされた魔術師がいたと言う事ですが、もしかしてロード・エルメロイ貴方なのですか?そうなると我々への処断を求めるのは何の事は無い単なる逆恨みではなくて」

冷笑と嘲笑が絶妙にブレンドされた表情で指摘された事実に恥辱と怒りで顔を紅潮させ、全身を震わせたがアイリスフィールは怯える様子も無い。

むしろランサーやソラウに同情の色すら見せて

「ランサー、貴方も大変ね。こんな大きな子供をマスターとして仕えなくてはならないなんて。貴女もロード・エルメロイの婚約者だと情報を伺っているけど結婚生活は苦労しそうね。ちょっとでも自分の思い通りにならないとヒステリーを起こすなんてみっともないったらありはしないわ。私の娘は今年八歳だけど、まだ貴方よりも精神的には大人よ」

八歳児以下だと言外に断じられて遂に憤怒の表情で咆哮しようとするがそれを

「んんっ・・・もう宜しいですかな?ロード・エルメロイ、そしてアインツベルンよ」

咳払いと同時にある意味置いてけぼりになっていた時臣が強引に打ち切った。

「・・・っく!」

時臣の険しい視線にケイネスは悔しそうに引き下がり、

「こちらに問題はないわ。あくまでも部外者がしゃしゃり出てきたからそれに対応しただけですので」

あくまでも傲慢に応ずるアイリスフィール。

本来の彼女には似つかわしくない口調、態度であるが弱みを見せてやる義理も筋も無い。

それを見て一つ頷くと

「ではアインツベルン話を戻しますがエクスキューター陣営とは連絡は?」

その問い掛けにアイリスフィールは舞耶に視線を向ける。

それに舞耶も躊躇う事無く頷くと

「彼とはこの携帯電話で連絡を取っていますが今朝から連絡は途絶えています」

携帯電話を見せながら簡潔に述べた。

尚、携帯電話を見せた瞬間時臣、ケイネスは嫌悪と同時に軽蔑の視線を舞耶へと向ける。

大方『選ばれた人種である魔術師が凡俗な代物に頼るとは』と言った所だろう。

雁夜、ウェイバーは特に嫌悪感は見せる事もないが、これは双方とも魔術師としての歴史は浅い、若しくは皆無である事にも関係するだろう。

と言うかウェイバーの場合、昨夜は良く見ていなかったのか

「うわ・・・すげえ、よくよく見ればあれ最新モデルだぞ・・・」

と羨望の声を思わず漏らしていた。

と、嫌悪の表情を引っ込めると時臣は

「そう言えば聞き忘れておりましたが、アインツベルンよ関係者のようですが彼女は何者ですかな?」

舞耶に関して質問を始めた。

「本当に今更ですね。彼女は久宇舞耶、衛宮切嗣から私の護衛役として派遣された女性よ」

そんな時臣にアイリスフィールは皮肉をぶつけてから舞耶を紹介し舞耶は礼儀として軽く一礼する。

「つまり彼女は衛宮切嗣の走狗と言う事ですかな?」

アイリスフィールを怒らせるのが目的なのか舞耶にあえて侮辱的な表現を使う時臣だが、直接言われた舞耶は無論だが、アイリスフィールも顔色一つ変える事は無い。

「その様な表現は不快ですが、適切ではありますね。ただ『だった』と、過去形で表現してもらいたいですが。確かに彼女は衛宮切嗣から派遣されましたが彼とはあくまでもビジネスパートナーであったに過ぎません。それに今では私に心酔してくれており衛宮切嗣に対してもはやなんの興味も関心も持ってはいません」

感情を露にする事も無く淡々と口にするアイリスフィールに、時臣は一先ず追及の手を緩める事にしたのか話を戻す。

「ではほかにエクスキューター陣営と連絡を取る方法は?」

「城に定期的に彼の使い魔が来る位しかありません」

「次にその使い魔が来るのは?」

「本日昼に」

なるほどと頷く。

「ではアインツベルン、どうにかエクスキューター陣営と連絡を取ってもらいたい。貴陣営に前監督役殺害の嫌疑が掛かっている事を。無実であるならば早急に出頭し己が潔白を弁明せよと。期日は本日夜十二時までに」

「・・・判りました。それでもしも彼が応じなかった場合にはどう処するつもりですか?」

アイリスフィールの問い掛けに時臣は直接答えなかった。

その代わりに彼は新徒席に陣取る各陣営に視線を巡らせる。

「さて皆さん、お聞きの通り現状においてエクスキューター陣営が前監督役殺害の最重要容疑者であり、彼らが教会に出頭するのであればそれでよしですが、万が一にも出頭しなかった場合ですが・・・それについて私に一つ提案がございます」

おそらくこっちの方が本命なのだろう。

時臣はたっぷりと間を取りそれを口にした。

「エクスキューター陣営が指定した期日までに出頭しなかった場合、エクスキューター陣営を前監督役殺害犯と断定、同陣営の討伐を目的とした対エクスキューター連合の設立を提案します」

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