ここで時は、アーチャーがライダーの用意した酒を罵り自ら酒を施した前後まで遡り、場所を遠坂邸に移す。

「よもや王の器を計る名目で酒盛りとはな・・・」

綺礼からの報告を受けて時臣は苦笑を浮かべていた。

表情こそは苦笑であったが、その口からもれ出るのは紛れもない溜息で、時臣が今アインツベルンで起こっている事態を歓迎していない事だけは手に取るように判った。

『アーチャーは放置しても問題ないのでしょうか?』

例によって魔道器越しに問われた綺礼の声もまた硬く、言外にアーチャーを諌めるべきではと問うているのは明白だった。

それを時臣は純粋な苦笑だけで仕方ないと答える。

「何しろ王の中の王である以上、突きつけられた問答に背を向ける筈が無いと言う事なのであろう」

酒盛りの形式を取ってはいるが、内実は王の器を問うに留まらず聖杯に相応しき所有者を決めるというのであれば時臣にアーチャーを止める術はない。

何よりもあくまでも酒盛りの形を取り、武力ではなく弁舌を武器として争っているのであればアーチャーもむやみやたらに己が能力を解放はしまい。

そう判断して、ここはアーチャーの好きにやらせると時臣はそう判断した。

「それに・・・これはアーチャーにとって最後の休息になるだろう」

『・・・はい』

その発言に綺礼は短く一言で応じた。

「君のお陰だ綺礼、アサシンの能力もあるだろうが、それを差し引いても君がこれほど見事にアサシンを用いて完璧な仕事をしてくれるとは」

この時、時臣の言葉には純粋な賞賛の念しか含まれていなかった。

時臣がそう絶賛するのも当然と言えば当然の事、何しろこの時、綺礼はアサシンをフル活用して敵対陣営の情報の大半をほぼ丸裸にしてしまった。

綺礼によってもたらされた情報の数々は質量共に時臣を満足させるに十二分なもので改めてだが、綺礼というすばらしい逸材を引き合わせてくれた璃正、そして彼と友誼を結んでくれた亡き父に心から感謝していた。

しかし、時臣からの純粋な賞賛を受けた綺礼は沈んだ声で応じた。

『いえ、お言葉を返すようですが時臣師、今回の仕事完璧には程遠いものです』

傍目からすればその言葉は謙遜に聞こえるかもしれないが、それは謙遜でもなんでもない綺礼の本心だった。

「ライダーとエクスキューターの事を言っているのかね?それならばそれは余計な罪悪感というものだ。あれは君の責任ではない」

そんな綺礼を慰めるように励ますような言葉をかける時臣の言葉にも嘘偽りはない。

何しろライダーとエクスキューター、この二組はアサシンを用いても禄な調査も出来ずじまいだった。

ライダーは出現も撤退もあの高速移動の飛行宝具『神威の車輪(ゴルティアス・ホイール)』を用いるため追跡は極めて困難。

それでもライダーの真名など最低限の情報に加えて、昨日、アサシンがようやくライダー陣営の寝床を調べ上げたのだが、質量共に他の四陣営に比べれば見劣りすることこの上ない。

だが、これでもエクスキューターに比べれば、まだましと言うべきだろう。

エクスキューターに至っては、出現した時にアサシンに追尾させても、霊体化から気配遮断を使われてしまい、アサシンの追跡は完全に撒かれてしまいほぼ不可能。

戦闘スタイルやセイバー陣営と同盟を組んでいるらしい所まではかろうじて掴んだが、目新しい情報は皆無に等しい状況だった。

『ですが・・・』

なおも言い募る綺礼だが、其れも無理らしからぬ事で、つい先程そのライダーにアサシンが生存している事がばれてしまった上に貴重なアサシンをまた一人失ってしまった。

その為、現在アインツベルンの城で行われている聖杯問答もライダーがアインツベルンの森自体を完全に破壊した事で中心部である城まで侵入こそ出来たが、アサシンの存在に神経に尖らせているであろうライダーを警戒し中庭を遠巻きに監視と、存在を察知されぬよう徹底させている。

ライダーにアサシンの件が露見してしてしまった事はアサシンの大失態なのだが、それはマスターである綺礼の責任でもある。

心の中の空虚さは別として綺礼の人となりからしてみればその事に忸怩たる思いを抱くのは当然の事であった。

そんな綺礼の心中を察したのか、それともここからが本題なのか、時臣は話を変えた。

「其れは其れとして綺礼、君に聞きたいのだがライダーとエクスキューター、そしてアーチャーの戦力差、どう考える?率直な意見を頼む」

『・・・現状判明している戦力であればアーチャーに十分勝機がありますが・・・』

「双方ともにあれ以上の切り札があれば話は変わってくると言うことか」

『はい。内分二陣営の調査はこちらの不手際でほとんど情報が掴めていませんので確かな事は言えませんが』

ここで再び綺礼がいささか沈んだ声で応じるが時臣はしばしの思案に暮れた。

現状判明している四陣営の必勝はほぼ確立されている。

バーサーカー陣営はサーヴァントこそ脅威であるが肝心のマスターの消耗は相当なものらしく、いざとなればあえて連戦を強いて自滅させれば良い。

キャスター陣営は全ての陣営から猟犬の如く追い立てられている上にライダーの手によって工房も破壊された。

もはや逃げ場は皆無に等しく姿を現した所を今度こそアーチャーの手によって仕留めれば良い。

セイバー陣営は現状判明している中でも最大の難敵であるが、ランサーの手による手負いの状態が今も続いており、アーチャーの敵ではない。

無傷と言えば無傷のランサー陣営もマスターであるケイネスが再起不能な状況に追い詰められておりその脅威は格段に低下している。

つまりはライダーとエクスキューター、この二陣営の調査をもってアサシンの役割は終わったと言っても良かった。

しかも、アインツベルンの城にはそのライダー、エクスキューターがいる。見逃す手はないだろう。

そこまで思案がめぐったとき時臣は決断した。

「ふむ・・・ならばここで一つ仕掛けてみると思うがどう思う?」

『・・・成程、アサシンを用いて強襲を仕掛けると言う事ですか?』

「その通りだ」

通常アサシンの基本ステータスはキャスターに次ぐ低さを誇り、其れをクラススキルである気配遮断を用いてカバーしてるのであり、真っ向からの戦闘など勝負にもならない。

しかし、今回の強襲は勝てるか否かではなく、脱落を前提とした威力偵察そのものだった。

万に、いや億に一つライダーやエクスキューターを討てるのであれば万々歳だし、討てずとも切り札を使わざるおえない窮地に追いやってくれれば文句はない。

ましてや時臣、綺礼にとってアサシンは聖杯をアーチャーが取る為に活用している生きた道具に過ぎず、その用途も終わりである以上、ここで最後の大仕事とばかりにアサシンを使い潰しても良し。

そんな時臣の心中を察したのだろう、綺礼は静かに了解した。

『現在アサシン達は冬木全域に散っています。全員に号令を下し集結させるのには時間が必要ですが』

「どれ位で完了する」

『二十・・・いえ十五分それだけ頂ければ』

「よろしい直ぐに始めてくれ。博打であることは間違いないが、幸いにして失敗しても我々に損はない」

『判りました』

綺礼の返事を聞き時臣は満足そうに傍らのティーポットから新たな紅茶を注ぐと、しばし後にもたらされる吉報に思いを馳せながら紅茶の芳香を愉しみ始めた。









「私は我が故郷の救済を願う。万能の願望機をもってして我が祖国ブリテンの滅びの運命を変えてみせる」

セイバーが確固たる意思と自負を持って毅然と発せられた願いを口にした時、周囲は完全な無音に支配された。

そんな無音の状態に戸惑いを覚えたのはほかならぬセイバーだった。

いかに自らが抱く悲願を持ちうる最大級の気迫をもって発せられたとは言えそれに気圧されて黙り込むようなアーチャーやライダーではあるまい。

ましてやセイバーが発した願いは相手の度肝を抜くような奇抜なものでもない筈。

セイバーにとってはこの願いは歴然としたものであり、明白なもの、疑念など挟める余地すらない。

そんな単純明快なそれでいて誰もが抱く理想だからこそ王道として掲げられるのだ。

それに対して、賛意にしろ反発であるにしろ反応が直ぐにでも表れて良いと言うのに其れがまるでなかった。

時が止まったような錯覚すら起こし酔うな無音は

「・・・なあ、騎士王よ」

そう口火を切ったライダーの声だった。

だが、そのライダーにしてもその声には力はまるで篭らず、その表情も困惑顔、ほんの十数秒前と比べて、まるで別人の表情だった。

「あ~余の聞き違いかも知れぬが・・・貴様『運命を変える』そう言ったか?つまりは過去の歴史を覆す、そう言うのか?」

その言葉にライダーの傍らに控えていた士郎の表情がはっきりと変わっていたが、それに気付くものは誰もいない。

「そうだ。奇跡でしか叶えられぬ願いだとしても聖杯が万能たる願望器ならば必ずや・・・」

そこまで言ってからセイバーはライダーとアーチャー二人の視線に熱意が失せているのに気付いた。

其れと同時に今までの無音の原因に思い至った。

ライダーとアーチャー、二人はセイバーの願いを聞き白けていると・・・

「・・・なあ・・・セイバー、余の記憶が確かであれば貴様が治めていた国は・・・ブリテンは当の昔・・・貴様の生きていた時代に滅びたのであろう?」

「そうだ!!だからこそ許せないのだ!」

ライダーの困惑気な表情や問い掛けにも場の白けた空気にも苛立ち、セイバーの声に怒気が混じる。

「だからこそ悔やむのだ!あの悲劇を覆したいのだ!!結末を変えたいのだ!他ならぬ私の責であるが故に・・・」

そんなセイバーの咆哮を遮る様に突然の笑い声が周囲を支配した。

其れも好意的なものではなく、明らかな冷笑、嘲笑の類にセイバーの視線はその笑い声の主・・・黄金のアーチャーに向けられていた。

その視線には怒気を通り越して殺意すら滲み出ているが、セイバーからしてみれば当然の事である。

アーチャーの嘲笑がセイバーの願いを侮蔑しているのは明白であり、其れはセイバーの最も汚してはならない聖域に土足で踏み込み、あまつさえ踏みにじり辱めたも同然だった。

「・・・アーチャー、何がおかしい?」

怒りが許容範囲を超えつつあるのかその声は静かであるが嵐の前の静けさである事は誰の眼にも明らかであるが、アーチャーの笑い声は止まらない。

笑いすぎて目じりに涙すら浮かべて、息切れしながら途切れ途切れに言葉を漏らす。

_______!自ら王と名乗り________!皆からは王と讃えられ______!!にも拘らず『悔やむ』だと!!あーっはははははははっ!!このような喜劇笑わずにいられるか!!傑作だ!!よもやここに王を僭称する道化がいたとはな!!ははははは!!だが、最高だセイバー!!貴様道化としては極上だ!騎士王などではなく道化王とでも名乗ればどうだ!」

堪え切れぬと腹を抱えて笑い転げるアーチャーとは対照的に、ライダーはその表情を綻ばせる事すらせず、むしろかつてないほど不機嫌そうに眉を潜めてセイバーを見据えていた。

「ちょっと待たぬか騎士達の王よ貴様、よもやと思うがよりにもよって貴様自身が歴史に刻み込んだ自身の足跡全てを否定すると言うのか?」

「そうとも何故訝しがる!何故嘲笑う!!王として身命賭して捧げた祖国が滅んだのだ!!悼むことが何故おかしい!!」

セイバーの怒気は天井知らずに膨れ上がる。

彼女からしてみれば一片の疑問すら持ち合わせていなかった自分の完璧な理想を、このような形で詰問され嘲笑されたことが予測の埒外だった。

「ははははははっ!おいおい聞いたかライダー!この自称王の小娘はよりにもよって『身命をとして捧げた』だとよ!」

笑い転げるアーチャーとはどこまでも対照的にライダーは沈黙を守ったままむしろ憂いすら表情に浮かべてセイバーを見遣るが、そこには哀れみの色すら存在していた。

嘲笑われるにしろ哀れまれるにしろセイバーにとってはどちらも耐え難い屈辱だった。

「笑われる筋合いも哀れまれる理由もどこにもない!!王が国の為に身を挺して国を治め国の繁栄を願うのは当然の筈だ!」

「いいや違うな」

憂いの表情を残したままライダーが否定する。

その声は巌の如く強固で断固とした口調だった。

「王が国に全てを捧げるのではない。国の全てが・・・民草全てが身命を賭して王に全てを捧げるのだその逆は断じて有り得ぬ」

「!!何だと、其れは暴君の治世であろう!!ライダー、アーチャー貴様らこそが王の名を騙る外道ではないか!!」

「然りだな、我らは暴君である。だがそれ故に英雄だ。それになセイバーよ自らの統治を悔やみ否定すると言うのであれば其れはただの暗君だ。暴君より性質も始末も悪い、違うか?」

セイバーの怒りの弾劾をライダーは眉すら動かす事無く淡々と応ずる。

その姿にただひたすら嘲笑い侮辱しかしてこないアーチャーとは違い、問答の過程でセイバーを否定している事に気付いたのかひとまず語気を鎮めてから舌戦を持って応ずることにした。

「ライダー・・・イスカンダル、貴様の国とて貴様の死後には妻子を殺され築き上げてきた帝国は無残に四散した筈だ。その結末に悔いはないのか!やり直せば其れを覆せる、そう思った事はないのか!」

「ない」

ライダーの返事は思考も躊躇もなかった。

当然のように断言しセイバーの視線を真正面から受け止めていた、そこに揺らぎも迷いもない。

「余が決断し余に付き従った臣下達と朋友たちの生き様の果てにたどり着いた結末が滅びであるならばその滅びは当然の結末だ。悼みもしよう。涙も流そう。彼らの冥福も祈ろう!だがな!決して悔やみはせぬ!ましてやそれをやり直し、覆すだと!其れは余と共に生きてきた全ての人々を侮辱するに等しい行為である!」

セイバーと同じくらい毅然と言い放ったライダーの言葉をセイバーはかぶりを振って否定する。

「滅びを名誉と誇るのは武人だけだ。民達がそのようなものは望まない!安寧と救済其れだけが彼らの祈りであり願いだ!」

その返答にライダーは肩をすくめながら失笑する。

「王による安寧?王による救済だと?解せぬなぁそんなものにいったい何の価値があると言うのだ?」

「其れこそが王たる者の本懐だからだ!」

セイバーの声には確固たる確信があった。

「力なき民が生きる為に正しき統治正しき統制、正しき治世、全て彼らが望むものだ」

「・・・つまりは王である貴様はその正しさの奴隷と言うことか?」

「そうだ其れの何が悪い!!理想に準じてこそ王であろう。王の姿を通して人々は法の尊さを秩序のあり方を知る。であればこそ、王が体現せねばならぬものは王と共に滅ぶ脆く儚きものであってはならない!」

迷いも何もない断言に哀れみの色をさらに濃くしたライダーが深々と溜息をつく。

「其れは人ではない。人が送る生き方ではない」

「無論だ。王であろうとするならば人の生き方など望める筈がなかろう」

そう言うセイバーの脳裏に過ぎるのは選定の剣を岩から引き抜いてからの日々。

完璧な君主、理想の王となる為人を捨てた身体は不老となり私情を捨てたその心は無謬となった。

アルトリア・ペンドラゴンと言う少女の生涯はその瞬間に終わりを告げ、その後は不敗と言う名の伝説を具現し、賛美され続けてきた。

無論光もあれば影もある。

苦悩もあった耐え難い痛みを背負った。

しかし、其れに勝るであろう誇りがあった、誰にも譲れぬ信念もあった。

其れこそが今もセイバーが剣を取る腕を支え続けていた。

その信念の赴くままにライダーに己が理念を迷いなくぶつけていく。

「征服王、所詮果て無き欲望を抱き、その為だけに国々を蹂躙し征服してきた覇王に我が王道の尊さなど判る筈もあるまい。高々我が身可愛さで聖杯を求めるだけの貴様にはな!!」

これでライダーを論破したとばかりに喝破するセイバー。

それに憤怒をもってライダーが応じようとしたまさにその瞬間、さほど大きくもない、だが全員の耳にしっかりと届く声が其れを押しとどめた。

その人物・・・ライダーの傍らで手持ち無沙汰となっていた士郎は気難しい表情のまま、ポツリとこう呟いた。

「・・・我が身可愛さだって・・・?」









セイバーの願いを聞いた時士郎の胸中に過ぎるのはやはりと言う諦観に限りなく近い納得と認めてはならないと言う強い否定だった。

そして其れはライダーとセイバーの問答・・・いや、激論を聞くにつれますます強くなっていく。

本来であれば自分も参戦したい所であるが、ここでぶつかれば間違いなくセイバーとの関係を致命的なまでに悪化させかねない爆弾になりえる可能性が大だった。

ましてや其れでなくてもこれは王同士の問答。

広義的な意味では士郎も王であると言えるが、国を治めた事はない以上口を挟める余地などある筈がない。

そう思いながら二人の問答に耳を傾けていたのだが不意に激論が止まり、一同の視線が自分に集まりだした。

「??どうかしたのか?」

突然の事に困惑した士郎が声を掛けるが

「いや、どうかしたのかはこちらの台詞だぞエクスキューター。今しがた口を挟んだようだが、何か思うところでもあるのか?」

士郎の問い掛けに代表してなのかライダーがどこか拍子抜けしたような声で答える。

「はぁ!!」

思わぬ事に士郎は素っ頓狂な声を上げた。

「俺がか!」

「・・・その様子だと無意識か?今確かに『我が身可愛さだって』と言っておったであろう」

その言葉に士郎は周囲に視線を向けるが、ライダーは拍子抜け、セイバーは訝しげな中に憤り、アーチャーは純粋な怒り、アイリスフィールらはなんとも言いようのない困惑をそれぞれ浮かべながら士郎に視線を向けており、これがライダーの虚言でない事は間違いなく、おそらく無意識で呟いてしまったのだろう。

「・・・すまない。王同士の問答に口を挟んでしまった。席を外そう」

言い訳も何もせずに深く頭を下げて謝罪してから立ち上がろうとした時、士郎のコートの裾をライダーが掴んだ。

「おう、ちょっと待てエクスキューター」

その表情は何か悪巧みを思い付いた悪童のようなものに変わっており、この表情のライダーに生前散々振り回された士郎は嫌な予感に襲われた。

「・・・どうかしたのか?ライダー」

心底嫌そうな士郎などどこ吹く風と言わんがかりにライダーは更なる爆弾を放り込んだ。

「どうもセイバーの奴に思うところがあるのではないのか?ならば貴様も何か言ってみれば良いのではないか?」

「はああ!!」

先程よりも士郎は声を荒げる。

「阿呆かあんたは!王同士の問答に王でない者が口を挟んでどうする!加わってどうする!あんたはマジモンの脳筋なのか!この頭の中には脳という名の筋肉じゃなくて筋肉と言う名の若干の知恵しか入っていないのか!」

思わぬ事に生前の近侍として仕えてきた時の口調でライダーに詰め寄る。

だが、それに対してライダーは怒らず・・・むしろ嬉しそうにニヤニヤ笑う。

「どうもセイバーと余では話は平行線を辿るだけで埒があかぬ。ならばここで第三者の意見を交えてみようと言うだけだが不思議な事ではあるまい」

「いや不思議な事だろう。大体」

「それに」

さらに抗弁しようとした士郎を遮り

「貴様は王ではないものが王同士の問答に口を挟むなどとんでもないと言ったが、王である余が発言を許可しておるのだ。むしろ其れを拒否する事の方がよほど非礼であると思うのだが、どうだ?」

「うぐ・・・」

ライダーの言葉にぐうの音も出ない士郎。

きっかけは士郎の無意識な呟きであったが、ライダーはまんまとそれを利用して士郎をこの聖杯問答の場に引きずり込もうとしているのは明らかだった。

「し、しかし・・・ライダーあんただけが許可してもここには後二人王が」

「おい!セイバー、アーチャーよ!ちょっとエクスキューターにも発言を許可しようと思うがどうだ!異存はあるか!」

「・・・ふん、まあ良いだろう。本来王同士の言葉に口を挟むだけでも極刑物だが、ちょうど王を自称する道化の余興にも飽きてきた所だ。そろそろ別の道化の余興を見てやるのも一興だろう」

「私も異存はありません。むしろ貴様はそれでいいのか征服王?不利な状況に追いやられることは目に見えているが」

「との事だこれで何の問題もあるまい」

士郎のささやかな逃げ道をライダーは巧妙に塞いでしまった。

「・・・」

苦々しい表情を隠す事もせずライダーを睨み付けていた士郎だった大きく深く溜息をついてから、渋々腰を下ろした。

「・・・最後にもう一度確認するがセイバー、アーチャー、ライダー。言うからには相当えげつない事、どぎつい事を俺は口にするぞ。それでも良いんだな?」

「二言はありません」

「・・・さっさと言ってみろ。それで我を愉しませてみろ」

「おう、無論構わんぞ、腹の内に溜め込んだものをぶちまけてみろ」

最終確認が済んだ所で士郎は観念したように表情を引き締める。

もはや退くに退けない状況に追い込まれた以上こうなれば全部ぶちまけるしかないだろう。

アイリスフィールには謝罪のしようもないが仕方ない。

「・・・あくまでも第三者として言わせてもらえれば、確かにセイバーの願いが最も清廉な願いだろうと俺も思う」

その言葉にセイバーが表情を綻ばせた。

「アーチャーの場合は論外・・・と言うかもはや気違いレベルの妄言としか言いようのないしライダーの願いも自分にしか利益が還ってこないという点では我が身可愛さと言うセイバーの断罪も間違ってはいない」

ここでいったん区切るとセイバーは喜色を満面に浮かべ、アーチャーは不快感を全面に押し出していたがライダーは意外な事に無表情・・・いや、どちらかと言えば誰よりも真剣に士郎の言葉に耳を傾けていた。

「その点セイバーの願いは自らに還る願いではなく自らの国の、そこに住む人々の為であり、それはどうしようもないほど正しく美しい願いなのだろう」

「その通りです!」

士郎の賛同を受けたのだと確信したセイバーが声を上げ、ライダー、アーチャーに思わせぶりな視線を向ける。

しかし、士郎の言葉はこれで終わりではなかった。

「・・・だがな」

「??」

まだ言葉をつなげる士郎に再び訝しげな表情で再び士郎に視線を向ける。

「俺から言わせてもらうとなセイバー」

そんなセイバーの眼をまっすぐに見据えて士郎は、聖杯問答第三ラウンドのゴングを高らかに打ち鳴らす

「お前の願いはライダーよりも我が身可愛さで、アーチャーよりも自分本位な浅ましい願いにしか見ないんだ」

決定的な一言を口にした。

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