城から出て秘密のガレージに向かう途中、士郎は沈痛な表情を浮かべながら切嗣に話しかける。
なんだかんだと言ってはいたが、ここまで深刻な事態になった事には少なからぬ責任を感じているようだった。
「爺さん・・・ごめん、アイリスフィールさんにはああ言ったけど大本を正せば俺がセイバーを疎外したのが全ての始まりだし」
「士郎、別に君が謝罪する必要はない。君もアイリに言っただろう。本当に謝罪するべきは他にいると」
そんな士郎に切嗣は苦笑しながら謝罪しようとする士郎を制する。
表情も先ほどに比べれば格段に穏やかになっている。
「ああ・・・そうだけど・・・ここまでぎくしゃくすると・・・ね・・・」
「・・・過ぎた事を悔いても始まらないさ・・・それよりも実際問題としてはあれをどうやって制御・・・いや、利用していくかを考えた方がいい。その方がまだ建設的だ」
士郎を慰める様に言う切嗣だが、その言葉の節々に未だ収まらぬセイバーへの怒りと不信の念がひしひしと感じる。
セイバーを『利用』するとはっきり断言したあたりいい証拠と言える。
「利用か・・・まあそこまで考えなくちゃならないか」
「まあ考えられる手段としては、あえてあれに吶喊させてその隙に僕と士郎とで相手マスターの暗殺を謀るのがベストだろうけどね」
「もしくはセイバーだけを囮にしてって考えもあるけど」
それをすればセイバーの不信は更に増幅する事は疑う余地も無い事だが、それを承知の上で切嗣も士郎もそんな考えを口にしていた。
二人としては『毒も食らわば皿まで』と言うのが嘘偽り無き境地であるが故の発言だった。
「まあ候補の一つとして考えておこう、すぐにでも採用されるかもしれないけどね」
「そうだね。でも、もしかしたらアイリスフィールさんがセイバーを説得して一先ずは協力体制に持ち込める可能性も無い訳じゃないし」
「・・・皆無な上に、自分すら信じていない可能性を、口にしても意味はないと思うよ士郎」
士郎があえて口にした楽観論な未来図を切嗣はただ一言で斬り捨てた。
「・・・ごめん爺さん、俺の盟友の先生だった人の台詞思い出したよ。『自分すら騙せない嘘は他人を不快にさせる』って」
苦い表情の士郎に切嗣はやや表情を綻ばせる。
「なるほど、名言だね、とりあえずこの件はここまでにしておこう。赤の他人に等しいあれの為に僕達までが仲違いする理由はどこにもない。それよりもこれからの事を話し合った方がよほど建設的だ」
切嗣の言葉に士郎は一つ頷いた。
「士郎、君は新都に向かってくれ。そこでランサーの新たなアジトを探してほしい。いくらマスターであるロード・エルメロイを魔術師としても人としても完全に壊したとはいえ、まだ、魔力供給者である婚約者がいる。今だランサーの脅威は薄れていない。それと並行してキャスター捜索をしてほしい」
「了解、爺さんは?」
「僕は深山に向かう。ライダー、バーサーカーを捜索しながら用意した予備の根拠地の最終確認も行うよ」
「予備の根拠地とと言うと・・・あの武家屋敷?」
「ああ、使う事が無ければそれに越した事はなかったけど、現状ロード・エルメロイの侵攻を許してしまった以上、森の結界もほとんど役に立ちそうにないと思う。近い内にそっちに移動をしてもらうと予定だよ」
「なるほど、木を隠すなら森の中か」
「そう言う事。それに住宅街の一角ともなれば、どこぞの狂人以外はおいそれと仕掛ける事も出来ない。ただ、碌な手入れもしていないから、あれがギャアギャア騒ぎそうだけど」
「騒がせておけば良いんじゃないか?アイリスフィールさんは物見遊山をしている訳じゃない事は理解しているんだし」
「それもそうだけど、家財道具は最低限は入れておくさ」
「ま、それが良いだろうね」
一先ずの行動方針が定まった所で、それぞれライトバンとバイクに乗り込むと市街へと向けて出発する。
深山に入るまではちょっとしたツーリング気分を味わっていたが市内に入るとお互い、気持ちを切り替えてお互いの仕事をこなすべく別行動を開始した。
それからおよそ二十時間後・・・
「ふう・・・」
冬木駅近くの駐輪場にバイクを止めて士郎は缶コーヒーを飲んでいた。
その表情には達成感よりも疲労の色が濃い。
切嗣と別行動に別れてから士郎は精力的に活動を続けてきたが、改めて自分にこういった作業は絶望的に向いていない事を自覚させられた。
そちらに長けている舞弥がいかに重要なポジションだったのかを改めて認識した。
さぼっていた訳ではない。
バイクにまたがり先日ダンプカーを発見した周辺をくまなく調査、ようやく新都郊外に存在する廃工場周辺にまで絞ったのだが、結局そこまで、城までの距離を考えればそろそろ帰還しないと間に合わない。
キャスター捜索に関しては全くの手つかずと言う体たらくだった。
「こんな事ならシオンさんにそっち方面の事も教わるべきだったな」
苦い表情のままぼやく士郎。
今も昔も、そしてこれからも無二の盟友である志貴の妻の一人であり『予測・計測』の神霊であるシオンの事を思い出して盛大にため息を吐いた時、ふと視界の片隅に懐かしい髪形が飛び込んできた。
「えっ?」
そちらに視線を向ければそこにいたのは艶やかな黒髪をツインテールに束ねた少女。
その顔立ち見間違える筈も無い。
「・・・凛・・・子供時代のか」
あの髪形を見るのも数十年所か数百年ぶりと言った所だ。
そんな事を思いながら懐かしそうに見つめていた士郎だったが、不意に疑問が湧き上がる。
なんで凛がこんな所にいるのか?
情報だと凛は母親共々聖杯戦争中は母親の実家に避難していると聞く。
その実家は冬木の隣町の筈・・・
それに今の時間はすでに夜の十時を回っている。
僅か七歳の少女が保護者の同伴も無く、たった一人で外を出歩くのはあまりにも遅すぎる。
と、不意に凛は辺りを見渡すと足早にその場を後にする。
(どこへ行く気だ?一体・・・並行世界とは言え、凛に危害が及ぶのを見過ごす訳にもいくまい)
そう判断すると気配を絶ち凛の追跡に入る。
気配を絶たずともすぐに捕まえればいいかとも一瞬だけ思ったが、すぐに却下した。
年端のいかぬ少女を追いかける全身黒ずくめの怪しい男・・・平時でも警察から職務質問される事は疑う余地も無い。
ましてや今の冬木は猟奇殺人やらキャスターの無差別誘拐、更には原因不明の事故やらで戒厳令も同然の事態になっている。
余計なトラブルは回避しておくのが得策だ。
人目を避ける様に凛は大通りを駆けていくが、やはり子供の足取りなどたかが知れている。
士郎はさして焦る事も無く追跡を続けていく。
と、巡回中のパトカーなのか回転灯の赤い灯りがこちらに接近してくる。
それを見て焦ったのか、手短な路地裏に飛び込んでそれをやり過ごす凛。
パトカーは物陰に隠れた凛に気付く事無く、すぐ近くに堂々と立っていた士郎にも目も暮れる事無く通り過ぎて行った。
パトカーをやり過ごして安堵している凛だったが、すぐに顔を強張らせる。
それと同時に士郎もまた表情をしかめて一気に接近するや
「投影開始(トレース・オン)」
虎徹を投影するや神速で平突きの構えを取り、凛に襲い掛かろうとしていた怪生物を平突き一発で吹き飛ばした。
吹き飛ばされた怪生物は路地裏のごみやら、バケツやらを巻き込みながら最終的には壁に激突、体液などをぶちまけて下手な前衛芸術よりも無様なアートを作成させた。
「ふう・・・」
危機が去ったと見て虎徹を魔力に戻す。
それから凛の様子を見ようと振り返ると、精神が限界を超えたのか倒れ込もうとしている凛の姿があった。
「おっと」
それを慌てて抱き留める。
「やれやれ、よほど重要な事の為に戻ってきたんだろうけど・・・無茶にも程があるぞ」
苦笑しながら気絶した凛の髪を優しく撫でてやる。
「さてと・・・これからどうするか・・・」
まさか凛を連れてアインツベルンの城に向かう訳にもいかない。
かといって警察に任せるのも危険だ。
平時であれば警察に任せても問題はない。
だが今は聖杯戦争と言う名の非常時の真っただ中、警察では力不足甚だしい。
何しろキャスターはおそらく傷を癒す為に更なる生贄を求めて徘徊している筈だ。
事実警察の情報を盗み聞きした所、今日だけで二十名以上の子供達が姿を消している。
しかも判明しているだけでこの数だ、実際はこの倍は犠牲になったと考えるのが妥当な所だ。
こんな繁華街に近い路地裏にまで怪生物が獲物を求めて彷徨うのが何よりの証拠だ。
それならば今避難している母方の実家へ送り届けてやる手もあるが・・・
「凛のお母さんの実家って・・・どこだ?」
隣町と言う事は聞いているが舞弥から詳しい場所を聞きそびれ、更には生前でも詳しい事は耳にしなかった事を今更ながら悔いる士郎。
と、その時士郎に近寄る気配を察知、凛をかばいながら振り返るとそこにはぶかぶかのウィンドブレーカーを着こみ顔全体を覆い隠すほどフードを眼深に被った男がこちらに歩み寄ってきた。
よく見れば左足の動きが相当ぎこちない。
「貴様・・・凛ちゃんをどうする気だ・・・」
耳を澄まさなければ聞き取れないほど掠れ、息も絶え絶えの声を発しながらも、その声には明確な敵意と憎悪がはっきりと士郎に向けられている。
そして士郎にはこの声は聞き覚えがあった。
「・・・もしかして貴方は・・・間桐・・・雁夜さん?」
「!!」
相手・・・雁夜は一瞬たじろいだ様にも見えた。
「な、何故・・・俺の事を・・・っ!き、貴様・・・エクスキューター」
掠れた声の中に狼狽の色を見せていたが士郎が何者か思い出したのか、更に警戒を深める。
「・・・俺の事を知っていると言う事は・・・貴方が間桐のマスターと言う事ですか・・・」
しばし二人は対峙しあう。
「・・・お互いここで戦いを始めるのは得策じゃないでしょう?雁夜さん、貴方のサーヴァント・・・バーサーカーも万全ではないでしょうし」
何故雁夜がバーサーカーのマスターである事を言い当てたと言えば何の事はない消去法だ。
セイバーはアイリスフィール、アーチャーは遠坂、ランサーはケイネス、ライダーはウェイバー、アサシンは綺礼、そしてキャスターは現在冬木を騒然とさせている連続殺人鬼である事が判明している。
ならば間桐は残る一つバーサーカーだと考えるのがごく自然な事だ。
一方・・・
「っ・・・」
図星を指されたのか、唇を噛み締める雁夜。
士郎の指摘通り、未だバーサーカーの傷は癒えきっていない。
あと一日休息を取れば治癒し終わる。
だが、目の前の相手は未知のサーヴァント、おまけに雁夜自身はあの時死に直面するほどの激痛と戦っていた為、知る由もないが、バーサーカーにあれほどの重傷を負わせたのは目の前のサーヴァントである。
迂闊に仕掛けられないと判断するしかなかった。
だが、士郎の腕の中には凛がいる。
彼女を見捨ててはおけれない・・・ではどうすれば・・・
そんな葛藤をそれとなく察したのか士郎は先程よりも穏やかな声で
「最初に言っておきますが俺は凛を・・・この子を如何こうしようと言う気はありません。むしろこの子を親元に帰してやりたい位なんですが、俺はその場所を知りません。もしもご存じであれば場所を教えてもらえませんか?それか俺の代わりにこの子を連れて行ってもらえませんか?」
切嗣辺りからは甘いと言われるだろうが、士郎としてはいくら聖杯戦争の為とは言え、凛を利用する腹積りは一切なかった。
人道とかそう言った理屈以前に、並行世界とは言え自分の妻となってくれた人を利用する気になれなかったからだ。
「・・・」
士郎の言葉に感じる所があったのか雁夜から敵意が和らいだ。
それでも警戒感は薄れてはいなかったが。
「おそらく・・・葵さんの事だ・・・凛ちゃんがどこに行ったか・・・大体の察しはついて向かっている筈・・・真っ先に向かう場所に心当たりがある。ついて来てくれ」
そう言うと士郎に背を向けて左足を引き摺りながら歩き始める。
士郎に背は向けているが、警戒は全く解いておらず、万が一にも雁夜を背後から襲いかかろうとすれば手負いであろうともバーサーカーを現界させてこの場で戦闘を開始させるだろう。
無論だが、士郎にそのような気は全くなく、おとなしく雁夜の後を歩き始めた。
数十分後、到着したのは市民公園だった。
本来であればもっと早く到着するのだが、左足を引き摺る分、雁夜の歩みはどうしても遅くなり、時間が少なからずかかってしまった。
「そのベンチに凛ちゃんを・・・」
その内のベンチの一つを指さしながら雁夜がそう言おうとした時、士郎が視線で制する。
「いや、そうするまでも無いようだ」
その語尾に重なるようにこちらに近寄る人の気配を雁夜も察した。
サーヴァントの超人的な聴覚で士郎はすでに気配の主の足音をとらえている。
足音の軽さから言っておそらくは女性だろう・・・
そんな憶測を証明する様に闇の中から一人の女性が姿を現す。
着の身着のままで来たのか寝間着の上に防寒用のカーディガンを羽織った女性。
その姿には凛の面影が残りその仕草は桜のそれを思い起こさせる。
「っ・・・!!凛!!」
その女性はベンチの傍で凛を抱える士郎を見つけるや、一言娘の名を呼び士郎へと何一つ躊躇いなく駆け寄る。
その姿を見ながらほっと安堵する。
ほぼ間違いなく、彼女が凛の母親である葵だ。
後は彼女に凛を渡せば万事問題なし一件落着だ。
そう思っていたのだが・・・聊かならず士郎の判断は甘かった。
想像もしてほしい、自分の娘が姿を消し、その行方を探すべく着の身着のままでやって来た母親が自分の愛娘を抱く得体のしれない風貌の男を見てどう思うのか。
しかも当の凛は意識を失っているのか、ぐったりして身じろぎ一つしようともしない。
そこまで見てしまえば理性よりも感情が、正確に言えば母親の愛情が全てに優先される。
何の躊躇いもなく葵は右手を振りかぶるとその勢いのままフルスイングで振り抜く。
完全に油断していた士郎はなす術もなくそれを受け止める。
夜の市民公園に小気味の良い音が響く。
それは異界と化していたこの場所では滑稽なくらい不似合いな音だった。
「・・・」
数分後、士郎の手から凛を奪還した葵は士郎を警戒感丸出しで睨み付け続ける。
一方睨み付けられた士郎はと言えば・・・
「・・・」
こちらも無言でなんというかやるせない表情を隠すように夜空を仰ぐ。
別に感謝がほしい訳でも、上げ膳据え膳な待遇を期待している訳でもなかった。
だが、まさかいきなりビンタされるとは予測もしておらず、遅まきながら葵の心中を察した士郎としては怒鳴りつけるわけにもいかず、ただひたすら夜空を見上げるしかなかった。
少し痛かった程度(生前や神界ではこれ以上の事を常にされている、しかも主導しているのは今葵の胸で眠っている娘だが)だし、頬に跡も残っていないので実害は皆無だが、やるせなさは著しい。
だが、それも雁夜に比べればまだましと言うもので、完全に出るタイミングを失ってしまい、ベンチの向かい側の植え込みで隠れ続けていたのだが、いつの間にか姿を消している。
だが、いつまでもこんな所で睨まれ続けられるのも趣味ではないので
「えっと・・・その子のお母さん・・・ですよね?」
一応確認の意味を込めて聞いてみた。
「・・・」
睨み付けていた葵だったが返事だけはしてくれた。
最も声には出さず首を縦に振るだけの素っ気ないだったが。
それを見てとりあえず凛を親元に帰すと言う問題が一つ解決した事を安堵した。
最後は途方もなくグダグダした感もあったが、結果良ければ全て良し・・・だと言い聞かせる事にした。
「とりあえず・・・ご存じだとは思いますが、今の冬木は極めて物騒ですから気を付けて下さい。それじゃあ」
それだけ言うと士郎はその場を後にした。
颯爽と去っていけば格好もついたが、葵の目から見てもそそくさと逃げ出しているように見えて仕方なかった。
「・・・もしかして、凛を助けてくれたのかしら・・・あの人・・・」
ようやく冷静さを取り戻した葵がそんな事を呟いた時、すでに士郎の姿は完全に見えなくなっていた。
そんな事を言われているとは露にも知ら知らない士郎はと言えば、まさしくとぼとぼと駐輪したバイクに戻ろうとしていた所だった。
「まあ、とりあえず・・・凛は無事に親元に帰って行った、万事めでたしめでたしそう思おう、うん」
そんな自分に言い聞かせるように呟きながら、歩くその姿は不審者だが、こんな状態でも気配遮断をしているあたりしっかりしていると言うべきかもしれない。
士郎自身は万事めでたしめでたしだと言っていたし本当にそう思っていたのだが、止む無しとはとはいえ今回の一件に介入した事が巡り巡って後々、あの悲劇に繋がる事になるが、神であるとは言え、未来まで見通せる訳ではない士郎が知る事などできる筈も無かった。
ましてやあの時・・・
(綺礼殿・・・エクスキューターは遠坂時臣氏の奥方、ご息女と離れました、バーサーカーのマスターはすでにこの場から離脱しております。奥方方は)
(問題ない、一体すでに護衛に差し向けている、引き続きバーサーカーのマスターの監視を続けよ)
(承知・・・それとエクスキューターもまた放置で)
(奴が気配遮断を使えばお前達でも追跡は困難だ。どのみち奴の帰る先はアインツベルンの城、そこを重点的に監視していればいい)
(承知)
そのような念話がなされていたなど露にも思いもしなかった。
一方、アサシンからの定期報告を受け現状維持を命じた綺礼はと言えば徒労のため息を大きく吐いた。
なんでこのような事をしているのかと少なからず自問自答する。
と言うのも事の発端は二日前、アーチャーからの依頼に端を発する。
「何?他の陣営の奴らの聖杯探求の動機を調べろ?」
「ああそうだ」
「下らぬ、何故そのような事を」
アーチャーからの依頼に綺礼は一言で切って捨てた。
そんな素っ気ない綺礼の返答に気分を害するでもなく、にやにや笑いながらアーチャーは口を開く。
「綺礼、お前は求めるものが何もないと言ったな?だが、それは自分の内にばかり目を向けているからだ。最初からないものを探し続けていても無いものは無い。ならば外に目を向けてみるのはどうだ?」
「外に・・・だと」
「そうだ。外の事に眼を向けがてら、我の暇潰しの手伝いをしてみろ」
「言っておくが、私がしているのは時臣師からの仕事であってお前の余興の為では」
「別にお前がトキオミより与えられた任務を止めろと言っている訳ではない。それと一緒に調べろと言っているのだ。さほど難しい事ではあるまい」
アーチャーの言う通り、アサシンを用いて他陣営を調べていけば会話の節々から目的や動機の事を口にするだろう。
それをまとめていけば正解とまではいかなくともおおよその憶測は出来上がる。
何よりもこの無軌道なサーヴァントを繋ぐ縄になるのであれば決して徒労にはならないだろう。
その時はそう考えてアーチャーの要請を受けたのであるが、時が経つにつれて、いくら現在の任務のついでであるとしても、このような事を何故引き受けたのか綺礼自身も理解出来なくなっていた。
それでも一度引き受けた以上は途中で投げ出すと言う選択などする筈も無い綺礼はアサシン達に他陣営のマスターの私生活、趣味嗜好、人物像を事細かに観察報告する様、命を下した。
奇妙な追加命令に首を傾げるアサシンも多いだろうが、命を下した以上アサシン達は確実に仕事をこなしてくれる。
すでに十分以上の情報が届けられている。
最もこれがアーチャーの暇潰しの道具に過ぎないと知れればアサシンは脱力するだろう。
その時の綺礼は少なくともそう考えていた。
直前の思わぬアクシデントがあったのもの、士郎はバイクにまたがり、一路アインツベルンの城へと帰還の途についていた。
そして森に到着した時士郎の眼に有り得ないものが飛び込んできた。
森の入り口の一角が破壊され尽くされている。
「なんだ・・・これ・・・」
突然の事に士郎は一瞬絶句するが、すぐに気持ちを切り替える。
「この破壊力・・・もしかしなくてもイスカンダル陛下だな『神威の車輪(ゴルティアス・ホイール)』で強行突破しやがったな・・・」
この大規模な自然破壊の犯人に大体の目星をつけた士郎はすぐさま
(爺さん聞こえる?)
切嗣に念話を飛ばす。
(士郎か、どうした?)
(城に新しいお客様がおいでになったようだ森の結界を正面からぶち壊してきた)
(・・・敵の姿は?)
(まだ、俺も今戻ってきたばかりだから。爺さんはすぐ戻れそう?)
(いや、今新都のホテルだ。士郎すまないが直ぐに城に向かってくれ。あれ一人じゃあ心許ない)
(了解)
手短に念話を終えるとバイクを一先ず手短な茂みに隠してから森を一気に駆け抜ける。
城に到着するのに十分と掛からなかったがそれでも士郎にとっては十分もかかってしまったと言うのが嘘偽り無い心境だった。
すぐさま周囲を観察するが、意外な事に城の内部は不気味なほど静かだった。
「??」
最初の緊迫感に満ちた表情が不審げなそれに変わりつつあった時、人の気配をようやく察知、そちらに足を向ける。
気配の先は中庭の花壇だった。季節が季節であれば色取り取りの花々が人々の眼を楽しませてくれるであろうが、今の季節ではそれも期待薄だ。
そのど真ん中で・・・
「おう!貴様も来たのか!エクスキューター!」
いつもの戦装束ではない、Tシャツにジーンズで士郎の姿をご満悦そうな表情で迎えるライダーと暗い空気を一身に背負ったウェイバー、その反対側では場違いな用の何とも言いようのない表情を浮かべながら士郎の姿を見つけてやや安堵したアイリスフィールに全快したのか常と変らない表情のまま彼女の傍に付き添う舞弥、そして士郎の姿を見つけるや不快気な表情を隠そうともしない甲冑姿のセイバーがいた。
それもどういう事なのかは不明だが樽を挟んで。