やはりアインツベルンの森からは時間がかかった。

士郎が目的地と思われる下水道の入り口に到着したのは出発してからおよそ三時間後の事だった。

有料の駐車場が近場に見当たらなかったので、駐車場探しの為に(近場に路駐しても良かったかも知れないのだが、うかつに警察に見つかると更に面倒な事になる事は明白だったので諦めた)Uターンして少し離れた場所にあった駐車場に駐車してから徒歩で向かった為、時間を余計にかけてしまった。

尚、セイバーはまだ来ている気配は無い。

再度戻ってから改めて対岸の下水道入り口に眼を凝らす。

未だ夜も深く闇夜に眼が慣れた士郎の視力でようやく見える範囲だが、誰かいる気配は見受けられない。

「ま、ここでわかる筈もないか」

誰とも無く呟くと霊体化してから悠々と川を横断、下水道に入るや実体化するとその手には握られたのは火尖槍が握られている。

士郎の魔力を帯びて槍が火を灯しそれが松明代わりの明かりとなって下水道内部を照らす。

入り口の地点では特に以上は無い様に思われたが足元を見て直ぐに士郎はここが当たりである事を確信した。

下水管をからながれ川に注がれてくる水が明らかに異様な色に濁り、嗅ぎ覚えのある腐臭が士郎の鼻をついた。

「キャスターが呼び出した化け物の体液だな」

耳を澄ますが奥から特に物音もしないし何かが潜んでいる気配も無い。

「切り捨てたかまだ戻ってきていないか・・・」

ほんの僅かな時間思案に暮れる士郎だったが、直ぐに気を取り直して、奥へと歩を進めようとした時、背後から

「エクスキューター!」

ようやく辿り着いたのかセイバーが立っていた。

士郎より早く出発、しかもセイバーの駆るメルセデスの性能は士郎のバイクを上回る。

だと言うのになぜ士郎より遅れたのか?

簡単な事で、地の利と車とバイクの違い、この二つの理由だった。

確かに郊外の国道まではセイバーは自らの駆るメルセデスの性能を遺憾なく発揮して行きよりも遥かに短い時間で冬木市内に到着したのだが、そこからが問題だった。

どれだけ焦っていようとも交通ルールを破る気はないのか信号や一方通行を順守していたのは士郎も同じであるが、開戦前から入念に冬木の地形を確認して頭に叩き込んだ事で、信号の数が比較的少ない道を選んだりバイクなら通れる細い路地など、近道出来る場所を全て使い地の利を最大限駆使した士郎と、まだ冬木の地形に不慣れなうえ、車である以上通れる道に限りがあるセイバーとでは到着時間に差が出るのは当然の事だった。

「ああ、今着いたのか」

セイバーの姿を見ても特に感情を表さない士郎にセイバーは苛立ちながら

「キャスターはどうした!」

「まだ判らん。これから奥を調べる所だからな」

セイバーの詰問を無感動にただ一言だけ返すとセイバーに一瞥もくれる事も無く奥に向かって歩き始める。

そんな士郎の態度に憤るセイバーだったが、士郎と言い争うよりもキャスターを討ち果たすのが先決と判断したのか、黙って士郎の後を追い始めた。









歩を進めるに従いここがキャスターの根城であると言うライダーの言葉は真実だと言う事を二人は理解した。

奥へと歩を進めて僅か五分で下水道の中は様相を変えていた。

トンネルの内部は完全に見覚えのある体液で汚し尽くされ、その空気はつい二日前に嫌と言うほど嗅いだ腐臭で完全に汚染され尽くされている。

「ライダーも派手にと言うか徹底的にやり尽くしたようだな」

その様を感心したと言うのか呆れたと言うのか判断に困るような口調で苦笑と微笑が絶妙にブレンドされた笑いの片鱗を口元に微かに見せた後士郎は表情を引き締めなおしてやや早足で歩を進める。

そこからは完全に無言で士郎とセイバーは奥へ奥へ足を踏み入れていく。

永遠とも思えた侵攻は唐突に終わりを迎えた。

不意に腐臭から嗅覚が解放され、トンネル内部の怪生物の体液があるポイントで綺麗さっぱり消え失せていた。

どうやらここが防衛ラインの終わりのようだ。

周囲を見渡せば直ぐ脇にトンネルよりは広い空間がある。

さすがに地下までは調査していなかった士郎だが、下水道である事も考慮すれば貯水槽なのだろうと推察出来た。

一歩歩を進める士郎だったが、その瞬間眉を潜める。

「・・・どうやら一足違いか・・・ほぼ間違いなくキャスターはここを切り捨てたな」

無感動に無感情にぼそりと呟く士郎の声は聖杯問答の折にセイバーを糾弾した時の声だった。

「切り捨てただと!キャスターの行き先の手がかりは無いのか!」

そんな事に気付かないセイバーは士郎に詰め寄るが、その時士郎の視線は貯水槽の奥に向けられたままで、セイバーを一顧だにしておらず、セイバーはセイバーで士郎の視線の先を見ていない。

「おそらく無いだろう。ライダーが吶喊をかました時にはあったかも知れんが綺麗さっぱり破壊され尽されている・・・まあそれも当然だろうが」

と、そこでセイバーはふとした疑問が浮かんだ。

「エクスキューター、何故キャスターがここを切り捨てたと断言出来る?破壊されただけならばキャスターがまだ戻って来ていない可能性もあるのではないのか?」

「いや一回戻って来ている、であれは置き土産か」

そう言うとなおも詰め寄るセイバーを半ば無視して暗闇に歩を進める。

その時になってようやくセイバーは士郎の手に握られている火尖槍の灯火がいつの間にか消えていた事に気付いた。

だが、ことさら興奮して冷静な判断力が少なからず失われていたセイバーは特に深くは考えなかった。

深く考える余裕が無かったと言うのが正確かもしれないが、ともかくその時セイバーは何の覚悟も何の疑念も無く歩を進めた士郎を追う様に視線を貯水槽に向けた・・・いや、向けてしまった。

「ぇ・・・」

その掠れた、口から空気がもれ出たような場違いなほど間の抜けた声が自分の口から出てきた事をにセイバーは気付かなかった。

セイバーの思考はその時完全な停止状態に陥っていた。

そこにあったのは用途の知れない置物やオブジェ、もしくはその製作途中なのかそれともこれで完成品なのか不明なごチゃゴちゃシたヨくワカラなイシロもの・・・

芸術家の工房と言えばそれはそれで納得出来るかも知れなかった・・・その原材料が人間でなければ・・・

セイバーはその場に呆然と立ち竦んでいた。

これが残虐と残忍を極めた惨たらしい死体であるならばセイバーは呆然としなかった。

犠牲者達に哀悼の意を示し、このような凶行に及んだ張本人に対する義憤と討伐への決意を新たにしただろう。

だが、今目の前に広がるそれはセイバーの知る死体とはあまりにもかけ離れた異様なものだった。

犠牲者達はただ殺されたのではない、弄ばれて殺されたとも違う・・・いや、次元が違う。

人命を軽視され、人の姿を否定され、その尊厳も魂も人が人である為に必要な事全てを不要とされてごみのように捨てられて、この禍々しい芸術品は作り上げられた。

おそらくこれの製作者はどれだけ捻じ曲がったものだとしても、どれほど邪悪で醜悪だとしても紛れもない愛情と情熱を持ってこれらを創作したに違いなかった。

だが、どれほど情熱を愛情を注ごうともそれの存在を認める以前に、このような事がある事が想像上の地平線の彼方だったセイバーはあまりの衝撃に気を失いかけた。

それでも気を失う事は踏みとどまったセイバーだったが、このときほどサーヴァントの超人的な視力を恨んだ事は無かった。

何しろ見たくなくてもしっかりと見えてしまうのだから 

動揺しつくしたセイバーを尻目に士郎は表面上冷静に凄惨なアトリエと化した貯水槽の周囲を調べる。

貯水槽は明らかに徹底的な破壊の痕跡が容易に見て取れ、そこに置かれた真新しい犠牲者たちの存在が不気味に不釣合いに見える。

また、床を濡らす血は既に冷え切っていたがまだ凝固しきっていない所を見ると、ここを離れたのは多く見積もって三十分前後、つまり本当に一足違いだったようだ。

そう推察して忌々しく舌打ちした士郎は不意に蚊が鳴くよりもか細い何かの音を耳にした。

いや、これは声のようにも思えた。

「??」

一瞬未だに茫然自失状態のセイバーが無意識での発した声かと思ったのだが、声は明らかに前方から聞こえる。

何を言っているのかどれだけ耳を済ませても聞き取る事が出来ない。

いや、そもそも聞こえてくる声に意味のある言語は含まれていないようにも思えた。

そう、言うならばこの声は・・・

「呻き声・・・」

明らかに苦痛の呻き声だった。

それはすなわちまだ生存者がいると言う事に他ならない。

慌ててさほど広くない貯水槽を見渡すがそれらしい人影は見当たらない。

しいて言えば前方に異形の姿に変えさせられた子供の姿があるだけだったが、その時士郎は気付いたいや、気付いてしまった。

そのか細い呻き声は目の前の子供の口から発せられていた事に。

その死人のような光宿らぬ眼から涙が零れ落ちていた事に。

貯水槽にあった異形の内半数近い数から似たり寄ったりの呻き声が漏れていた事を。

「・・・生きている・・・いや、生かされている・・・」

士郎ですらこのような事態は予測の範疇を大きく超えており、思わずセイバーのように呆然としながら呟いた言葉をようやく我に返ったセイバーが耳にした。

「!!エクスキューター!今なんと言った!まだ、まだ生きている子供達がいると言うのか!!」

鼻息も荒く士郎に詰め寄る。

「・・・ああ、正確に言うならば生きているじゃない。強引に生かされている・・・だがな」

血気盛んなセイバーとは何処までも対照的に暗く沈んだ声の士郎の声が貯水槽に響く。

最初は士郎が何を言っているのかわからない様子のセイバーだったが、ようやくそれに気付いた。

異形にさせられた子供たちの悲痛な声を涙を。

「そ、そんな・・・」

眼を背けたい現実に立ち竦むセイバーを引き摺る様に貯水槽入口まで戻した士郎は手に持っていた火尖槍を構える。

「!!な、何を!」

する気だと言わんばかりのセイバーを遮るように

「何を?あの子供達を楽にしてやるだけだ」

「楽にだと!!」

激昂したセイバーが士郎の胸倉を掴む。

「ふざけるな!貴様!子供達がまだ生きていると言うのにそれを殺すと言うのか!助けもせずに!化けの皮がはがれな!貴様もあの外道と同類だ!」

セイバーの罵声に対する士郎の反論は簡潔な一言だけだった。

「・・・で、セイバーあれを貴様は生きていると言うのか?」

その一言に思わず言葉を詰まらせる。

何度見ても眼を背けたいほど変わり果てた子供達の姿はどう見ても生きているのではない。

何者かによって強引に生かされているのは明白だった。

「生かされている限りあの子達は延々と地獄の苦しみと恐怖と絶望を味わい続けるだろう。それでも助けるべきだと主張するのか?それは慈悲ではなく拷問だ」

冷徹な声にセイバーはたじろぎながらも反論を返す。

「だ、だが、生きている以上傷を癒す事も出来るはずだ。そうすれば」

「そうなればあの子達の人生、これから先は生き地獄そのものだな」

ぽかんとしたセイバーを見据えながら淡々と言葉を続ける。

「あそこまでやられた以上子供達の心は完全に壊された筈だ。万、いや、億に一つ魔術でも何でもいいが身体を治癒できたとしても、心の治癒は魔術、いや、魔法があったとしてもでも不可能に等しい。この時代に生きていないこちらの自己満足で強引に生かしておいて後の事は自分達で強く生きろって言うのはあまりのも自分勝手なんじゃないのか?」

冷徹なだが、正論と言える言葉を投げ掛けられてセイバーの言葉は詰まる。

「それに・・・聞こえないか」

「??何を・・・」

「いいから耳を澄ましてみろ」

士郎に促されて耳を澄ませる。

今にも消え入りそうな呻き声に混ざるようなその声を直ぐに聞きとめた。

「・・・いたい・・よぅ・・・」

「・・・しに・・たい・・・よぅ・・・」

「・・・こ・・ろ・・・し・・・てぇ・・・」

死と言う名の救いを求める子供達の声にセイバーは言葉を失う。

「あんな年端も行かない子供が死にたいと殺してと願う状態を正常と言えるのか?」

冷たい問い掛けにセイバーは答える気力も士郎の決断に抗議する意思も失せてしまった。

「セイバー貴様は先に出ていろ。俺の方でここの大掃除をしておく」

露骨に邪魔者扱いされたセイバーだったが、何も言い返す事もなく力なくその場を後にした。

セイバーの姿が暗闇に完全に消えたのを確認してから改めて士郎は火尖槍の切っ先を貯水槽に突きつける。

それと同時に切っ先から浄化の炎が灯される。

その明かりに照らされて、身勝手に理不尽に身体を弄ばれ心を殺し尽くされた子供達の姿が露になる。

「・・・許してくれなんて言わない・・・」

士郎の口からは悲しげな声が漏れる。

「君達を救えなかった俺を憎んでくれていい、呪ってくれて構わない。恨むのが当然の権利だ」

それは士郎なりの贖罪であり鎮魂歌なのだろう。

「俺に君達の悲しみも恨みも憎しみも全てぶつけてくれ、俺は覚悟を持って全て請け負おう。だから・・・」

士郎は一滴だけ涙をこぼす。

「だから、全てを預けて・・・全てを忘れて安らかに眠ってくれ。次の輪廻での幸福を心から祈る」

その言葉が届いたのか、それともようやくこの地獄から解放されるのだと理解出来たのか、未だ生かされている子供達が一応に年相応に嬉しそうに微笑んだ・・・様な気がした。

それを引き金にするように士郎は真名を解き放つ。

「神仙達の裁き(火尖槍)」

灯火の様な火種は炎の奔流となり瞬く間に貯水槽を業火で満たす。

しばし破邪の火炎は貯水槽の隅から隅まで全てを焼き清め、それから士郎は能力を発動させたまま来た道を戻り始める。

炎はトンネルを嘗め回すように暴れ狂い、薄汚い体液を焼き払い汚染された空気を浄化していく。

下水にもその恩恵は平等に降り注ぎ、煮沸されていく。

汚染させた箇所を通過したと同時に士郎は火尖槍の発動を止める。

焼け爛れた様な煙がトンネル内に充満しているが心なしか空気が軽くなっている。

火尖槍の破邪の炎で浄化されたが為だろう。

無論だが、子供達も骨まで消し炭にし尽くした。

あのような無残な姿が世にさらされる事は二度とない。

どちらにしてももう少しすればトンネルから煙が出てくるのは火を見るより明らか。

いろいろと面倒事に巻き込まれる前に、一刻も早く離れた方がいいだろう。

入口前にはセイバーが所在無さげに待っていた。

まだ子供達の末路に心を痛めていたのか顔色は悪い。

「セイバー、色々言いたい事があるだろうが一先ずここから離れる」

そう言う士郎にセイバーは無言でただ力なく頷くだけだった。









時は大きく遡り、ちょうど士郎とセイバーはキャスターの根城の情報を得て強襲を仕掛けようとしていた頃と同時刻、遠坂邸では・・・

「・・・」

綺礼から一部始終を聞き終わり重苦しい沈黙に包まれていた。

「・・・それで・・・」

やがてそんな沈黙を振り払うように時臣が口を開くがその口調と声は、部屋の空気と同様重苦しく苦々しいものだった。

明らかに次の言葉を口にしたくないようだったが、これが本来の目的である以上聞かない訳には行かなかった。

「ライダーの・・・宝具評価は」

聞かれた方も時臣と同じ空気を共有していた。

これほど答えたくない報告も早々あるものではない。

だが、答えないという選択肢は報告者には無い。

任務とか以前に彼の性格からしてそのような不誠実な事が出来る筈もなかった。

『アーチャー・・・ギルガメッシュの『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』と同格・・・評価規格外です』

予測出来ていたとはいえ綺礼から伝えられた報告に時臣は本気で頭を抱えたかった。

彼らのもくろみは半分は成功した。

結局エクスキューターの更なる手の内を晒す事は叶わなかったが、その代わりライダーの切り札を白日の下に晒せた事はアサシンの犠牲を補って尚も余りあった。

もしも初見であの超宝具を眼にした時、冷静に対応が出来たかどうか時臣には自信がない。

だが、唯一つ計算違いがあったとすれば、ライダーの『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』の格だった。

今まで自身が従えるアーチャーの宝具こそが最強であると自負と自信を持っていたが、まさか『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』と肩を並べる超宝具を他陣営が有していたなど想定すらしたくない異常事態だった。

そこまで思いを抱いた時臣の胸中にじわじわと後悔の念が染みの如く広がり始めていた。

自分達は選択を誤ったのではないか?

ここで無理にアサシンを犠牲にする必要は無かったのではないのか?

そもそも敗退のリスクが極めて大きいライダーと無理に戦う必要は無い、策を講じてライダーとマスターを分断し、そこをアサシンを用いて暗殺と言う手段も取れたのではないのか・・・

「馬鹿な・・・何を考えている」

そこではっとした様子で頭を振って優雅とは程遠い下劣な思考を脳裏から追放する。

この聖杯戦争はただ勝てば良い訳ではない。

魔術師としての誇りと遠坂の家訓に賭けて、誰からも後ろ指の指される事ない完璧な勝利でなくてはならない。

それに全てが全てマイナスだと言う訳ではない。

ライダーのマスターがウェイバーであると言う事は時臣陣営に大きく利していた。

もしもライダーを従えているのがケイネスだとすればその脅威は今よりも段違いなものと化していた筈、今のマスターが三流の魔術師だからこそまだこの程度であるのだから。

どちらにしても時臣は気を引き締めなおす。

アサシンを切り捨てたと言う事はいよいよ彼にとって聖杯戦争は本番に突入する事を意味していた。

「綺礼、アサシンを失ったからにはいよいよ本格的に動く、その際には君にも存分に働いてもらう」

『はい』

綺礼の返答は短く淡々としたものだったが、時臣には頼もしく思える。

一級品の代行者である彼の実力はアサシンに決して引けを取らない時臣の頼れる戦力となる事は疑いようもない。

アサシン敗退の偽装が終焉を迎えた今彼を教会に封印する意味も必要性も存在しない。

ここより先はアーチャーによる一方的な蹂躙劇となるだろう。

それを完璧に優雅にするかは時臣の手腕次第。

沸々と湧き上がる闘志を胸に秘めて傍らに立てかけていた樫のステッキを握り締める。

握り頭にあつらえている特大のルビーには時臣がこの日の為に練成に練成を積み重ねていた魔力が凝縮されている。

これを手に彼も遂に戦場に立つ時が来たのだ。

ステッキを手に時臣は椅子から立ち上がる。

その視線の先には残り五陣営との熾烈な死闘を見据えて、そしてその先にある勝利の栄光を信じて疑わずに。









聖杯戦争は苛烈であった第一戦、第二戦の熱を冷ますかのような冷却期間を経て更なる局面に突入する。

その先に何が待ち構えているのか、それを見通せるものなど誰もいない。

そう、この先にどのような事態が起こるのかなど・・・

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