目の前で行われている戦闘をアイリスフィールは半ば呆然と見守るしかなかった。
「はああああ!」
「おおおおお!」
裂帛の気合いを込めた一声と共に腕を振るい、それと同時に金属と金属がぶつかる音と火花、そして風が巻き起こる。
そしてその度に街灯が粉砕され、衝撃波がコンテナをひしゃげさせ、時には倉庫の外壁がはがれ、そして木の葉の様に空中に舞い踊る。
時には倉庫そのものが原型を留める事無く破壊され吹き飛ばされている。
何が起こったのかアイリスフィールには全く視認する事が出来ない。
セイバーか、その相手をしているランサーの得物がそこを通過、もしくは擦過した、それだけに過ぎないのだろう。
しかし、その得物が人の眼で捕えられぬほどの高速で擦過すればどうなるのか?
その答えが今の光景だ。
さながら戦闘機が音速を超えた速度で縦横無尽に暴れまわっているに等しい。
このような非現実的な光景を生み出しているのが中世を彷彿とさせる剣と槍を構えた騎士同士の一騎打ちなど誰が信じようか。
さながら神話の再現、英雄譚の復活。
(これが・・・聖杯戦争)
士郎や切嗣が言っていた世界で最も小さく世界で最も苛烈であろう大戦争。
それをアイリスフィールは肌で自覚していた。
そんなアイリスフィールの驚愕を余所に、徐々に、だが、だんだんと速度を上げて激しさを増してぶつかり合う双方の騎士の胸中にあるのは互いの相手への偽りのない賞賛の念だった。
(この男・・・出来る!)
セイバーがそう思うのも無理はない。
目の前のランサーは右手に長槍、左手にそれより若干短い短槍を一本ずつ構えていた。
しかも両方とも封印の呪符を施した布で覆われ、刃先がかろうじてその本体を見せている。
当初セイバーはどちらかが偽装でこちらを惑わさんが為の策略と勘ぐっていた。
何しろ、生まれ持ってのものとは言え、女性が見ただけで強制的に魅了させる魔貌を隠す事無く晒している敵だ。
それ位は仕掛けてくるだろうと踏んでいた。
それに元来から槍は両手で持ち、相手を突くのが古今東西を問わぬ正しい使い方。
剣に比べて、範囲は狭まるが、その一方で到達するまでの速度は圧倒的に槍の方が上だ。
それを考えればランサーの戦法はお世辞にも正道とは言えない。
しかし現実はどうだ、どちらにも虚は見受けられない。
それ所か、目の前のランサーは二本の槍を己が手の延長の如く自由自在に使いこないしている。
一体どれだけの研鑚と鍛錬を積み重ねればこれほどの技量を誇れると言うのか。
縦横無尽に繰り出される二本の槍に攻め手を悉く潰され、攻め込めずに膠着状態が続くがセイバーの心は初戦から思いもよらぬ強敵に踊り、出会った当初僅かながら存在していた侮蔑の想いは微塵もなく消え去り、ただただ昂っていた。
そしてその心境はランサーとて同じだった。
(この女・・・なかなかどうして!)
一見すると、攻めあぐねるセイバーをランサーが一方的に攻め立てている様に見えるだろうが実際は真逆、ランサーはセイバーの攻め手を二槍と己が培った技術を動員して、潰す事で均衡状態を維持しているにすぎず、攻め込もうにもランサーもまた攻めあぐねていた。
その最大の要因は二つ。
一つはセイバーの持つ剣、これが不可視の為にセイバーの持つ剣がどれだけのリーチなのか、全く把握出来ず、セイバーの踏み込みから予測した太刀筋を妨げる様に防御を取らなければならない。
ランサー自身は知るよりもないが、これはセイバーの持つ宝具の一つ『風王結界(インビシブル・エア)』、セイバーの剣を風で包み、光の屈折を利用して不可視にして戦いを行っている。
シンプルかつ効果も目に見えるものではないが、相手にとっては地味に嫌らしい。
そしてもう一つは神がかったと言っても良い程のセイバーの勘の良さ。
攻め込もうと僅かな間隙を掻い潜ってセイバーの懐に飛び込もうとしても、それを始めから予測していたように迎撃を取られ全く均衡を崩す事が出来ない。
それどころか一度ならず、その逆撃で斬り捨てられそうになった程だ。
これはセイバー自身のスキル直感によるものが大きい。
何しろセイバーの直感はAランク、ほとんど未来予知に等しい。
持って生まれた才覚とそれを最大限生かすセイバーの技量。
初戦から死力を尽くすに相応しき相手との戦いにランサーの高揚も留まる所を知る事は無かった。
攻守が目まぐるしく変わり拮抗した戦いを眼下に収めながら士郎の意識は北東のケイネス、そしてクレーンのアサシンに向けられていた。
『爺さん、アサシン、ランサーのマスター共に動きは無し』
『判った。士郎は引き続き、監視を』
『了解』
定期報告を終えて、士郎はアサシン、ケイネスに注意を逸らす事無く再びセイバーとランサーの戦いに視線を戻す。
(お互い退く気はなさそうだな)
そう思いながら士郎は静かにため息をついた。
お互い想像以上の強敵にぶつかった事への歓びに気持ちが高ぶっている事は容易に想像できる。
セイバー・・・アルトリアもそうだがランサー・・・ディルムッドもまたどうしようもない程の生粋の騎士だ。
勝利の栄光はマスターの為に捧げるだろうが、それとは別に目の前の強敵と全力で戦える事への喜びが強いのだろう。
それは判る。
判るがこれは聖杯戦争、しかもその序盤戦に過ぎない。
これが最後の戦いであるならばともかく、この時点で手の内を全て晒すのが今後の戦いでどれだけの不利益をもたらすのか予想もつかない。
その程度の事理解出来ないとは思えないのだが・・・
そんな士郎の思考は
『戯れ合いはここまでだランサー』
ケイネスの声がいったん中断させた。
『そのセイバーは明らかな難敵、勝負を長引かせるな』
そこまで聞いて士郎は此処で痛み分けに入るつもりかと推測する。
互いに宝具も真名も判明せざるじまいだが、この戦いは威力偵察だと考えればいい塩梅だろう。
得たものも無いが失ったものも無い。
だが、その思惑とは裏腹にケイネスの言葉が紡がれた。
『早急に始末しろ。宝具の開帳を許可する』
(おいおい、序盤で?・・・まあよくよく考えてみればディルムッドの槍は秘匿しようにも常時使用が出来るタイプだからな・・・むしろ封印していた方が不都合か・・・だが、もしもディルムッドの宝具が四本だとしたら・・・)
『大なる激情(モラルタ)』、『小なる激情(ベガルタ)』までも使用するとすればセイバーは相当に追い込まれる。
『爺さん、どうする?ランサー側が仕掛けるみたいだが・・・』
『・・・もう少し様子を見よう』
士郎の問い掛けに一瞬思案に暮れたが、結局待機を決意する。
『舞弥、アサシンの様子は』
『こちらから見る限り動く気配も仕掛ける様子もありません』
『俺から見ても動く様子は無い』
『判った。士郎、ここからはアイリ達の様子だけに注意してみてくれ。ランサーのマスターについては僕が、アサシンは舞弥がそれぞれ集中する』
『判った』
『了解』
終了と同時に士郎は眼下の戦いを注視する。
その時、既にランサーは『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』の封印を解除、セイバーに激しく攻勢を仕掛けていた。
しかも先程までと違い『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』の効果で『風王結界(インビシブル・エア)』は打ち合う度に解除されそのおかげでリーチを完全に把握した為だろう、どこか手さぐりのような攻めはもはや無く、容赦のないものに変わっている。
それによって時折その槍はセイバーを捕え始める。
鎧があろうとも関係ない。
真紅の槍の前では魔力で創り出された鎧などちり紙一枚の守りにもならない。
現に、槍はセイバーの鎧を貫くのではなくすり抜けてセイバーに刺し傷を与えて行く。
だが、士郎の視線はそれよりもランサーの足元に転がるもう一振りの槍に注がれていた。
(まずいな、セイバーの意識が『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』に向けられている。おそらくあの槍を意識から外している)
魔力を遮断する『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』の猛攻を受けている以上それは当然と言えば当然だが、ランサーの狙いはおそらく・・・
そんな士郎を余所にセイバーは魔力で編まれた鎧を解除した。
『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』の前では魔力での守りなど不要と判断し、その分別に回すつもりなのだろうが、士郎は盛大に舌打ちをした。
(それは下策だ)
ランサーの宝具はまだあると言う事を知っているからこそ出る台詞だと言われれば、その通りなので否定はしない。
だがそれを差し引いてもセイバーの行動は浅慮としか言いようがない。
守りをおろそかにして勝てる戦いなど存在しない。
どのような時であれ最悪を想定しその備えを忘れてはならない筈だ。
間違いなくランサーはセイバーの意識を『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』にだけ向けさせ、その隙を足元の『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』でつく腹積りだろう。
それを防ぐ手立ては守りを固め、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』の一撃だけは受けない様に心がけるしかない。
なのにセイバーはその守りすら捨ててしまった。
自分から確実に失敗する特攻を仕掛けてどうすると言うのか?
そんな苦々しい思いをあざ笑う様にセイバーは守りに注いでいた魔力を推進力に切り替えたのだろう。
今までとは比較にならない程の爆発的な突進力で一気にランサーとの距離を詰める。
機動力を強化して速攻で決着を付ける、セイバーも決して考えなしに守りを捨てた訳ではない様だった。
(だが、おそらく)
士郎の予測通りランサーもそれを読んでいたのだろう。
セイバーの攻撃を紙一重で回避するや足元の『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』を足で蹴り上げ、手に収める。
それと同時に呪符の封印を解除、むき出しとなったその刃先は迷う事無くセイバーの喉笛をめざし空を切る。
(とられた!)
士郎は思わず胸中でそう呟いた。
一瞬の交差の後、両雄は立ち位置を入れ替えて再び相対する、その最中に血しぶきの花を咲かせて。
双方共に左腕、それもほぼ同じ場所を互いの得物で抉られて、鮮血が滴り落ちている。
どうやらセイバーの直感が彼女の命を救ったのだろう、ぎりぎりで回避、表向きは相討ちと言う形に持ち込んだ。
しかし・・・ランサーの傷はケイネスが治癒して既に全快したがセイバーの治癒に当たっていたアイリスフィールの表情に焦りが浮かぶ。
治癒したにも関わらず治癒出来ていない、そんな相反する事態に少なからず混乱しているみたいだ。
『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』の一撃を受けた以上それは当然と言えば当然だった。
『全て遠き理想郷(アヴァロン)』でも完治出来るかどうか微妙だ。
『まずいな・・・』
切嗣の苦々しい声がインカム越しに聞こえる。
『ああ、まずい・・・セイバーの傷がどれだけかは不明だとしても枷をはめられた事は間違いない。しかも・・・』
士郎の視線は再びセイバーに向けられる。
『まだやる気だ』
そう、セイバーのその闘志は揺らぐどころかますます燃え上っているようだった。
全身より迸る覇気がそれを教えている。
引くどころか、とことんやりあう腹つもりなのだろう
(ディルムッドも今と同じ奇襲が通用するとは思っていないだろう。そうなれば後は・・・お互い決め手を欠いたままの消耗戦に突入するだけだぞ)
序盤でしかない上、意固地になってどうすると言うのか、他の陣営を討つ為にはランサーを撃破しなければならないと言う決まり事でも自分の中で創ったのだろうか?
いっそ正体不明の敵として遠距離から介入して、強制的に終わらせるか、そんな事を考えていた士郎だったが、まさにその時、こちらに目掛けて接近してくる気配を察知、その方角に視線を向けると空を稲妻と共に駆ける巨牛とそれを引く戦車。
(あれは・・・『神威の車輪(ゴルティアス・ホイール)』!・・・とすれば)
『爺さん、新手が突入してくる』
『ああ、今確認した。おそらくライダーだろう、士郎仕掛けられるかい?』
切嗣の問い掛けに、士郎はもう一度視線を戦車に向けてから頭を振った。
『無理だ。高速でこちらに接近してくる以上、即時に補足狙撃は不可能だ、ここで迂闊に介入したら、アイリスフィールさんも巻き添えになる』
そう言っている間に戦車はセイバーとランサーの間に割り込むように着地、それと同時に
「双方共武器を収めよ!!王の御前である!!」
聞き覚えのある怒号が倉庫に響き渡る。
(やはりイスカンダル陛下・・・だけど良いんですか?王の御前だと名乗って)
内心苦笑しながらその怒号を懐かしげに聞いていた士郎だったが、次の言葉に自分がイスカンダルの器を未だ小さく見ていた事を思い知らされた。
「我こそは征服王イスカンダル、此度の聖杯戦争においてライダーのクラスを持って現界せりし者なり!!」
まさかいきなり現れて真名を自分の口で暴露するなど思ってもみなかった、いや、想像の水平線の彼方なのだろう。
その言葉にセイバー、ランサーは無論の事アイリスフィール、ケイネス、切嗣、舞弥、例外二名を除いて揃って言葉を失った。
「なに言ってやがるんだぁああああああ!この馬鹿はああああ!」
唯一怒号をあげた例外その一は同じ戦車に乗っているマスターと思われる少年だが、額へのデコピン一発で轟沈していた。
そんな中、例外その二である士郎と言えばその場に蹲り、必死に堪えていた。
爆笑するのを渾身の力で。
「く、くくく・・・そ、そうだ、そうだった、イスカンダル陛下はこう言う人だった・・・」
インカムを一端口元から外し腹を押さえて必死に声を上げるのを堪えているがその表情には笑いの表情で固まっている。
そうこうしている内にライダーは更なる追い打ちを掛けてきた。
「どうだお主ら、ここは聖杯を余に譲る気はないか?さすればお主らを朋友として遇し世界を制する愉悦を共に分かち合わん所存である」
コンテナを叩くのとその場を転げまわりたい、そして大声で笑いたい、そんな三つの衝動を全身の力と意思を総動員してどうにか抑えた。
そして脇腹を抓り、その痛みで多少は我を取り戻した。
「あ、あの人は、人を笑い殺す気か・・・」
呼吸も荒く肩で息をする位だったが、それでも笑いの衝動も峠を越え、ようやく士郎は呼吸を整える。
(全く・・・人誑しも良いですけど、あの二人がそんな事、承諾する筈ないでしょうに)
内心の突っ込み通り、ライダーの破天荒な申し出にランサーは苦笑しながらセイバーは不快の感情を隠す事無く前面に押し出しそれぞれの言葉で拒絶した。
「・・・待遇は応相談だが」
「「くどい!」」
それでもしつこい言葉に同時に息も合った拒否が応じた。
その言葉に肩をすくめるライダーだったがそれは士郎がしたい位だ。
(空気は読みましょうよ。イスカンダル陛下)
改めてだが、生前、破天荒師匠らの修行で東方遠征に叩き込まれ、そこで彼の近侍として振り回された日々を思い出す。
(苦労しているな・・・エルメロイU世)
その影響だろう、自然と同情の視線を戦車になっているマスター・・・ウェイバーに向けて、この時代ではまだ呼ばれる事の無い通称を胸中で呟いていた。
だが、そんな視線の先のウェイバーの表情は蒼ざめていた。
ケイネスの鬱陶しい言葉が辺りに木霊し、その殺意を一身に受けているからだろう。
(はっ、遠くからねちねち嫌味を言う事しか能がないのか?)
その言葉を右から左に聞き流して、士郎は冷笑を浮かべる。
言葉で嬲る暇があれば直接手を下せばいいものを。
そんな士郎に知らず知らず感化されたのかライダーがウェイバーを守る様に立ちはだかるや
「おう、魔術師よ今の言葉から推察するにこの小僧に成り代わり余のマスターになろうとしていたみたいだが、だとしたら失望甚だしいのう、余のマスターに相応しきは余と共に戦場で肩を並べる者だけ、後方でふんぞり返り、影でこそこそ隠れている奴等役者不足、力不足、身の程知らず極まりないわい」
憐みの笑みとその一言でケイネスを沈黙させてしまった。
周囲には怒りと殺意を振りまいて。
そんなケイネスをライダーは意識する事無く周囲を見渡すや
「おう!まだいるであろう!こそこそ隠れている奴らが!!」
雷鳴の如き怒号を発した。
セイバー、ランサーが訝しげな表情を浮かべるがそれを無視してライダーの大演説は続く。
「判っておるぞ!この二人の清廉なる闘志に引き寄せられた奴は余だけではない事は!!」
一瞬士郎は察知されたかと表情を歪めるが、幸いまだ気付かれていない様だった。
「ふがいない!この二人の気概!心意気を見せられてなおも闇に隠れ潜む事しか能がないとは英霊の名が泣くぞ!聖杯に招かれし英霊は悉くこの地に集うがいい!姿現さぬ腰抜け、英霊の恥晒しはイスカンダルたる余の侮蔑とセイバー、ランサーの軽蔑一身に受ける者と知れ!」
『・・・世界はあんな馬鹿に一度征服されかかったのか?』
その大演説を聞き終えた切嗣の感想はただ一言だった。
太古の大英雄の思考回路は切嗣には理解不能な代物なのだろう、その声には怒りも侮蔑も無く、ただただ呆れだけだった。
『・・・』
それに対する舞弥も呆れ果てたと言わんばかりに無言を貫く。
『・・・まあ、確かに馬鹿だけど、いい意味での馬鹿だから、あの人は』
唯一士郎のみは弁護なのか小馬鹿にしているのか、曖昧な擁護を口にしていた。
同時刻。
戦場である倉庫街から遥か離れた教会の一室、そこで神父服を纏い微動だにしなかった男がその表情を歪めた。
「拙い・・・」
低い独り言をつぶやくと傍らにあった蓄音機に仔細を報告し始める。
何も知らない者が見ればその男を狂人と断定しただろう。
だが、その報告が終わるやその蓄音機から別の男の声が発せられた。
『拙いな・・・』
その声も男と全く同じ感想を発した。
「これは拙いですね・・・」
男も再度その声に同意の言葉を重ねる。
何が拙いのか?
それは先程倉庫街でのライダーの大演説による所が大きい。
何しろその演説と言うか挑発を無視はしない英霊に心当たりがあるからだ。
そんな嫌な予感が見事に的中した事を知るのは数秒後だった。
「・・・時臣師、やはりと言うべきかアーチャーが動きました。アサシンがアーチャーの姿を捉えました」
『・・・』
その報告に苦りきった沈黙で応ずる声。
『・・・暫く様子を見てくれ、綺礼。状況しだいによっては私がどうにか止める』
「判りました」
そう短いやり取りをした男・・・表向きは既に脱落したマスター、言峰綺礼は声の主・・・遠坂時臣の指示通り再度戦場の把握に努め始めた。