アイリスフィールとセイバーが冬木に入る。

その報を聞き、切嗣はまず、切嗣、舞弥と士郎の二手に分かれる事にした。

切嗣、舞弥は件のケイネスが逗留するハイアット・ホテルへ。

何をしに行くかと思えば、既にハイアット・ホテルにはビル解体用の発破が仕掛けられており、その最終点検を行うそうだ。

あまりの用意周到ぶりに士郎も感心するよりも呆れてしまった位であるが。

そしてそれに関して士郎は反対はしなかったが、一つだけ切嗣に問うた。

『実行した時、他の従業員、宿泊客はどうするのか?』と。

その答え如何では反対も辞さないとその眼光に訴えかけて。

それに対して切嗣の答えは『建物とロード・エルメロイの関係者以外には傷をつけない』と単純なだが、確固とした意志を固めたものだった。

それを聞き士郎はただ一つ頷き、それ以上の事は問わなかった。

一方の士郎はと言えば、霊体化に気配遮断を施した状態で新都の駅前パークにいた。

(爺さん、セイバーとアイリスフィールさんを発見)

(了解、そのままアイリ達を見守っていてくれ。護衛はセイバーがいれば問題ないから気楽でいいよ。判り易かったろう?)

(いや判り易いと言うか・・・あれ見つけられなければ馬鹿だとしか)

念話で士郎は切嗣に現状を報告する。

その視線の先にはアイリスフィールとセイバーの姿があるが、実に見つけやすかった。

前者はシルクのブラウス、膝丈長のブーツ、そして銀狐のファーをあしらったコート、どれもこれも高級ブティックでしかお目に掛かれない一流の洋服の数々をアイリスフィール自身の美貌と気品が更に高めている。

そして後者はと言えば濃紺のドレススーツに黒のネクタイそしてスーツと、サングラスまでつければSPだと言っても違和感は皆無、セイバー自身のまとう空気と相まって、間違いなく美青年と間違われる容姿だ。

彼女を少女と思う者はそうはいまい。

サーヴァントであれば霊体化も出来るのに何故とも思えるが、セイバーの場合、聖杯を手にする契約を世界と結び、生きながらにして英霊になっている経緯がある為、セイバーは半人半英霊と言った立場故に霊体化出来ない。

それ故のコーディネイトだが、アイリスフィールを護衛するにはちょうど良いと言えば良かった。

このようにありとあらゆる意味で周囲からは浮きまくっている二人だが、精々セイバーが周囲に警戒を配っている程度で、アイリスフィールに至ってはむしろ楽しんでいる節すら見受けられ、これを問題視しているようには見えない。

しかも、これでもコーディネイトしたアインツベルンからしてみれば世間一般、庶民の服装に下げたと思い込んでいるのだから、性質が悪い。

どう控えめに見てもセレブとその専属護衛が日本の地方都市へ観光に来たようにしか見えない。

こうなると周囲の視線も気になる所だが、幸いと言うか不幸と言うかアイリスフィールの浮世離れした気品が周囲に、おいそれと近付いてはならないと言う暗黙の了解を創り出しているのだろう、ナンパをしようなどと言う不埒者は現れる気配はほとんどない。

極々稀に身の程知らずがアイリスフィールに近寄ろうとしても、その途端待ち構えているのはセイバーの突き刺す様な視線だ。

下心しかないような相手では話にもならず、その場を退散していく。

そうこうしている内にアイリスフィールはセイバーの手を引き移動を開始した。

(爺さん、アイリスフィールさんが移動を始めた。爺さん達と合流するのか?)

(いや、多分観光すると思う)

(観光を?まあ日中だからそう妙な事は起こらないと思うけど・・・大丈夫なのか?)

(気持ちはわかるけど今だけはアイリの自由にさせてやってくれないかな。アイリにとっては初めてなんだよ。アインツベルンの城から出るのは・・・そして君を召喚しなければ最期になる筈だったから)

(そっか・・・判った)

一つ頷き、霊体化と気配遮断を続け、距離も取って二人の後を追い掛けた。









「・・・?」

マスターであるアイリスフィールに手を引かれ、半ば引き摺られる様に冬木観光に付き合っていたセイバーだったが、不意に足を止める。

「セイバー?どうしたの?」

そんなセイバーの様子にアイリスフィールが笑顔で問いかける。

「あ、いえ、今何かしらの気配を感じたものですので・・・」

「あら?また『なんぱ』って奴かしら?」

その全てをセイバーの眼光一つで撃退していたが、アイリスフィールは事前の学習で、自分に近寄ろうとしていた男達の目的を理解していた。

まあ、理解しただけで、受けるつもりは更々ないが。

「いえ、そのような不埒な気配は感じませんでした」

「それとも・・・いよいよ来たのかしら」

言外に敵陣営が自分達を発見、監視体制に入ったのかとアイリしフィールの眼光は鋭くなる。

しかし、それに応ずるセイバーの言葉は奥歯に物が挟まったようなはっきりしないものだった。

「いえ・・・そうでもなさそうでした。私が周囲に注意を配ると直ぐに気配は霧散しました。それ以前にその気配も極めて薄く、本当に気配だったのか・・・それすらも・・・」

自信がないのだろう、セイバー自身やや恥じ入り言葉尻も窄んでいく。

せっかくの観光気分を台無しにした事を申し訳なく感じているのだろう。

だが、アイリスフィール自身はさして気にしてはいない。

今は初めての外の世界を訪れた事への高揚感から一時、観光気分を味わってはいるが、自分が何のためにここにいるのか、それはちゃんと把握している。

「気にしなくても良いわ。どのみちまだ日中でしかもこれだけ人の眼がある場所で大胆な事はして来ないわ。それにセイバー貴女がいるもの、よほどの相手でなければ問題は無いでしょ」

「それは確かにそうですが・・・」

更に言い募ろうとしたセイバーの言葉を話題を変える事で強引にシャットダウンした。

このまま行けばセイバーは観光の中止を申し出る事は間違いない。

「それよりもセイバー次はあっちに行きましょう」

「あ、アイリスフィール!手を、手を引っ張らなくても」

間もなく日も落ちる。

それまでは、せめてそれまではただひたすら純粋に外の世界を楽しみたかった。









(あぶねー、まさかあの距離からすら気付かれるとは)

アイリスフィール達の後方およそ四百メートルの雑居ビルの壁の中で士郎は大きく安堵の息を吐いていた。

先程セイバーが僅かに感じた気配の正体は士郎だった。

霊体化している士郎にとって建物は障害物に足りえない。

生前や神界でアルトリアとの試合などから推測した直感が発揮されると考えられる半径二百メートル圏内ぎりぎりの距離を維持しつつ次々と通り抜けて二人の後を追う。

ここまでは順調であった士郎だったが、逆に順調すぎたのだろう距離を詰め過ぎてしまった。

詰め過ぎたと言っても、四,五メートルくらいに過ぎず、これ位ならセイバーも気付かれる事は無いはずだった。

だが、この時に思わず士郎は遮断の為の呼吸を少しだけ乱してしまった。

時間にして一秒程度であったが、そのわずかに漏れた気配をセイバーは察知し、士郎のいる方角に視線を向けていた。

慌てて二百メートル後方まで後退、そこで改めて呼吸を整え気配を遮断し直した。

こちらに向かってくる様子は無いのでアイリスフィールの護衛を第一としたか、敵なのかどうか確信が持てなかったのか、それとも両方の理由なのか。

どちらにしろ発見される事は無かったが更に距離を開ける必要はありそうだ。

ほんの少し距離を詰めて僅かでも呼吸が乱れただけで感づかれる以上、警戒を密にするしかない。

(やっぱり迂闊に近寄り過ぎるのは危険だな。霊体化と遮断をしていても過信するもんじゃない)

内心でそう反省し改めて尾行を再開した。

今度は用心に用心を重ね、念には念を入れて。









群衆を注目を浴びながら、それでもその浮世離れした美貌と気品、傍に寄り添うセイバーの存在によってごく微小な妨害以外は一切受ける事無くアイリスフィールは日本観光を満喫していた。

太陽も沈み始め夜の帳を迎え始めた頃、アイリスフィールとセイバーは冬木大橋の袂にある海浜公園に来ていた。

夜を迎え、イルミネーションが幻想の様に新都の町を輝かせ、その光景を満喫したアイリスフィールの提案で今度は海を見ようと言う運びになった。

当初はこの観光に懸念を見せていたセイバーであったが、アイリスフィールが生涯初めて外の世界に出た事を知ると、その懸念を面に出す事無く、麗しきマスターのエスコート役を自ら買って出ていた。

「綺麗ね・・・まるで夜空を映す鏡みたい・・・」

風もなく穏やかな海はアイリスフィールの言うように鏡となり星の瞬く夜空を映している。

別段、星が良く見える訳でもなく、夜景が美しい訳ではない。

しかし、アイリスフィールにとってこの光景は今まで見てきたどんな風景よりも美しく見えた。

見るもの聞くもの全てが初めてな日本、それを子供の様に瞳を輝かせ、感動に打ち震えるアイリスフィールをセイバーは我が事の様に嬉しそうに見つめていた。

しかし、その気配は周囲に警戒をする事を怠ってはいない。

冬木は戦地である事に間違いないし遂に夜も訪れた以上、いつ何時戦いが始まるか知れたものではない。

だが、その事は決して表情に出す事は無い。

アイリスフィールの歓喜を、感動を護ると誓った。

ならばこの時だけは平時として装おうと。

何よりも自身の剣に絶対の自信を持っていた。

いかなる困難であろうとも、自身の剣はその全てを排除出来ると。

「セイバーありがとうね。ここまで我がままにつき合わせちゃって。最高だったわ」

「お役に立てれば光栄ですマスター。ですがアイリスフィール、貴方は私よりも切嗣と共に行きたかったのでは」

「大丈夫よ。この戦争が終わればいつでもキリツグと行けるわ。だからそれは戦争後の楽しみに取っておくのよ」

笑顔でそう応ずるアイリスフィール。

一見するとセイバーを気遣ったようにも聞こえるその台詞だが、それは紛れもない本心だった。

数日前であればいざ知らず、士郎の手で器を摘出された今のアイリスフィールは紛れもない自由、聖杯戦争で聖杯となる事も無く戦後、切嗣とイリヤと共に生きる事が出来る。

また、戦後イリヤを奪還した後はこの冬木に移住する事を既に夫婦間で決めていた。

その為の住居も森の城・・・では当然なく、深山に切嗣が確保した予備の拠点にする事も決めている。

憂いは何もない、今切嗣、アイリスフィールに出来る事はただ一つ、全力でこの戦争を戦い抜き狂ってしまった聖杯戦争を終焉させるのみ。

そんなアイリスフィールの言葉に表情を綻ばせたセイバーだったが、次の言葉で表情を引き締める。

「じゃ、これで休息はおしまい、じゃセイバー・・・そろそろ始めましょ」

突然の言葉だったが、それが何を意味するのかセイバーは正確に理解していた。

さりげなく、だが素早く、アイリスフィールの傍らにその身を置く。

「気付いていたのですか?」

「ええ、あからさま過ぎる程あからさまだから私でも気付いたわ。ご苦労な事ね、三、四時間はつけていたんでしょ?」

「ええ、つかず離れず私達と等距離を取って監視しています、しかも今気配を放ちながら遠ざかり始めています」

「挑発、そう考えて間違いないかしら」

『自分はここにいる、臆病でなければ付いて来てみろ』、そう気配の主は言っているのかとアイリフィールは問うた。

「はい、更に言えば戦う場所を変えようと言う事なのでしょう」

「ふうん、ずいぶんと律儀なのね。それとも引き摺り込もうと言う魂胆かしら」

アイリスフィールの言葉に過剰な不安は欠片も見られない。

それだけ自分のサーヴァントに絶対の自信を持っているのだと言う事を理解し、セイバーは彼女がマスターである事に深く感謝した。

「どうしますか?アイリスフィール」

「そうね・・・無視しても良いけどせっかくのお誘いだからお招きに預かりましょう」

しばし思考した後アイリスフィールは決断した。

気配の主は未知数だが、少なくともセイバーと同じ真っ向から剣を交える事を良しとするタイプのサーヴァント・・・つまりはランサーかライダーではないかと思われる。

真っ向からの戦いであればそれはセイバーも得意とする所、決して遅れは取らない。

そう判断しての事である。

「アイリスフィール、その言葉を待っていました。ええ、受けて立ちましょう、まずはこの剣であなたに勝利を」

そう言って、セイバーはアイリスフィールに昂然と背を向けて気配の主の音を追う。

走る様な事はせず今まで隠していた闘志を前面に押し出し、『今そちらに行くから待っていろ』と無言の挑発に対する無言の返答を発しながら。

そんなセイバーの背を見ながらもアイリスフィールはコートのポケットに忍ばせていた装置を起動させた。

それは発信機と呼ばれる魔力を使う事なく相手・・・この場合は切嗣へと居場所を伝える物。

出来ればとアイリスフィールは願う。

あの気配の主は相手の力量を図る事も出来ぬ愚か者でセイバーの手で一刀の元に斬り伏せられる、そんな安易なだがアイリスフィールにとって、殊にセイバーにとって理想的な結末になってほしかった。

あり得ないだろうがそうなってほしかった。









(ついて行くのか・・・)

露骨すぎる程露骨に気配を曝け出し、挑発するように遠ざかる相手を追うように追い始めたセイバー達を遠くから見ながら士郎は静かにため息を吐いた。

おそらくセイバーの力量があれば、有利な地形に引き摺り込まれたと言うアドバンテージなどむしろちょうど良いハンデだと判断しての事なのだろう。

セイバーの実力を考えればそれは決して間違いではない。

しかし、これは下策だ。

相手がどんな策を弄してくるのか、どれだけの実力を有しているのかそれを把握すらせず、セイバーの実力だけを頼みとして吶喊しようと言うのだ、これを下策と呼ばずしてなんと呼べば良い。

セイバーが強硬に主張してアイリスフィールが折れたのか、アイリスフィールが最終的な判断を下したのかは判らないが、確かに言える事は二人共戦争の本質をまだ完全に理解していない事だった。

一先ずこんな所で考え事をしても仕方ない、まずは切嗣に念話で連絡を取る。

(爺さん、聞こえるか?状況が)

(ああ、アイリ達の事だろう。今、発信機が起動した。これからそっちへ向かう。士郎すまないが)

(判っている。アイリスフィールさん達を追跡する。現地で合流と言う事で良いか?)

(ああそれで良い、それまで頼む)

手短に念話を終えると、士郎はセイバーの追尾を開始した。









発信機の起動と士郎の念話を受けて切嗣と舞弥が到着したのは海浜公園の東側にあるプレハブ倉庫が無機質に立ち並ぶ倉庫街だった。

一見すると静かな何も起こっていない所か猫の子一匹すら見受けられない静寂が支配する無人の倉庫街に思える。

だが、倉庫街を一瞥しただけ・・・正確には周囲に漂う濃密な魔力で切嗣は理解した。

「始まっているか」

その語尾に重なる様に

「爺さん」

霊体化と気配遮断を解除して士郎が姿を現した。

「士郎、状況は?」

「数分前に戦闘が開始した。セイバーとランサーだ。総合力ならば間違いなくセイバーが上だろうが純粋な技量としてはほぼ互角、お互い決め手を欠いて攻めあぐねている。周囲には隠蔽の結界がすでにはられている、ほぼ間違いなくランサーのマスターが行ったんだろう」

「なるほど、ランサーのマスターは?」

「それも確認している。戦闘が行われている場所から少し離れた北東にある倉庫の屋根で蹲っている」

士郎の報告に満足そうに頷く。

本来であればその場でランサーのマスターを暗殺しても良いが、未だに士郎は秘匿された戦力、迂闊に投入する訳にもいかない。

そこを自覚して士郎は周辺一帯の偵察を行ってくれた。

戦力としても申し分ないだろうが士郎は斥候としても文句の付けようの無い働きを見せてくれた。

「一先ず場所を移そう、僕は西側から回り込む舞弥と士郎は東側から回り込んでセイバーの戦闘と・・・あのクレーンを同時に監視できるポイントに向かってくれ」

そう言って指差したのはビルの建設などで使われるデリッククレーンだった。

切嗣の指示に士郎はやや小首を傾げ、舞弥は声を発していた。

「?お言葉ですが、あのクレーンの運転席からなら戦場を隅々まで見渡せますが」

舞弥の指摘通りそのデリッククレーンの運転席は地上三十メートル、場所とも相まって倉庫街全体をくまなく見渡すのにこれほど好都合な場所は無い。

舞弥の当然とも言える疑問の声に切嗣はその通りだと頷き、

「だが、あそこは絶好過ぎる監視ポイントだ。後から来た客が見ても」

その言葉だけで二人共理解したように一つ首を縦に振る。

「判りました、すぐに向かいます」

「ああ、それと士郎、ここからは念話も一切禁止にする。会話はこいつで行ってくれ」

「了解、爺さん」

そう言って切嗣は士郎に無線機と会話の為のインコムを士郎に手渡し、士郎も当然の様に受け取り無線機の電源を入れてインコムを装着する。

それを見届けてから、舞弥は彼女自身の主武装である突撃銃を小脇に抱え小走りにだが音もなく闇に消え、士郎も舞弥を追うように気配を遮断してやはり闇に呑み込まれる様に消える。

その後、切嗣は二人とは反対方向へとその歩を進めていった。









西側から回り込み岸壁に沿って積み上げられたコンテナ、その一角の陰に切嗣はいた。

倍率の低いサーマルビジョンでも熱探知で激しく戦う二つの反応を捕えられる。またその近くに戦いの帰趨を見守る反応と士郎が報告した北東の倉庫屋根にも蹲る反応。

改めてナイトビジョンに切り替えて確認、激しく攻防を切り替えた戦いをしているのはセイバーと二本の槍を巧みに操る槍兵の姿。

傍らで見守り続けているのはアイリスフィール、そして屋根にいるのは一人の男。

倍率を最大まで上げて、確認、間違いなくケイネス・アーチボルト・エルメロイだ。

『舞弥こちらから倉庫にいるマスターを確認した。そっちからは?』

『いえ、丁度死角に入っている為補足できません』

『士郎は?』

『今、コンテナの最上段まで上がってようやく補足・・・どうする爺さん狙撃するか?』

『いや、それはまだ・・・士郎、舞弥』

『ああ、判っている。クレーンの運転席上の屋根にお客さん、しかも・・・』

『こちらも確認しました。間違いなく』

『ああ、僕も確認、アサシンだ』

そう、そこに現れたのは黒装束に見覚えのある髑髏の仮面、間違いなくアサシンだ。

『やはり生きていたか・・・』

『だけど、あの猛攻の中どうやって・・・』

士郎は生前直接戦った訳ではないがアルトリア達の話を総合してもギルガメッシュがチームワークや協調と言った単語からこれ以上無い程かけ離れていたらしく、一芝居を打ったとはとてもだが信じられない。

だが、現実としてアサシンが健在なのは紛れもない事実、今は余計な思考はカットする。

『爺さん、どうする仕掛けるか?』

士郎の問い掛けにしばし沈黙した切嗣だが、すぐに

『いや、よしておこう。士郎の力を使えば排除出来るだろうけど、序盤戦で僕達の切り札をむやみやたらに切るものでもない。ただ、アサシンが妙な真似をするようだったら』

『ああ、容赦なく今度こそ潰す』

『ああ、頼む。僕はアイリ達の様子とランサーのマスターの動向を観察する。舞弥はアサシンの動向とアイリ達の様子を士郎は申し訳ないけど、そのままセイバー達とアサシン、そしてランサーのマスター、全員の動向を注視してくれ』

『判りました』

『了解』

いったん通信は途切れる。

改めて切嗣はスコープ越しにセイバーを見る。

あまり無用に手の内を曝け出す事は望ましくないので手頃な所で戦闘を切り上げて、アイリと共に撤退してくれれば言う事は無いのだが、短い間であるが、セイバーと会話や観察した結果、その為人を正確に把握しての予測では多分それは無いだろうと判断を下す。

ならば、かけがえのない妻の守り手としてどれだけの実力なのか、ある程度は把握しておいた方が良い。

それが序盤で訪れた事に感謝しよう。

そう自分に言い聞かせて改めてセイバーをスコープ越しに視界に収め、口の中で呟いた。

「・・・お手並み拝見だ。アイリを守れるかどうか見極めさせてもらうよ、可愛い可愛い騎士王様」

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