夢を見た・・・
彼は特別ではなかった。
ごく平和な時代のごく平穏で繁栄した国のありふれた町のありふれた家庭に生まれた。
ごく普通の両親の間に生まれた彼はごく普通に愛され、ごく普通に育ち、ごく普通のどこにでもいる少年だった。
このまま彼はごく普通に大人になり、ごく普通な恋愛をし、ごく普通に家庭を持ち、ありふれた、だがかけがえのない幸福な生涯を全うする筈だった。
そう・・・あの日が来なければ。
彼は歩く。
ただ死にたくないから、人の本能に基づくごく当たり前の衝動に突き動かされて。
周囲は未だ炎燃え盛る焦土、辺りには物言わぬ屍か、死にかけた人、人、人・・・
耳にかろうじて聞こえる『助けてくれ』と言う助けの声に耳を傾ける事無く、『見捨てないで』と言う哀願を無視してひたすらに。
歩く度に人として大切なものが壊れ、燃えて灰となっていく。
しかし、人として大切なものを失って、なおも歩いても終わりは見えず遂に倒れ伏す。
それを待っていたように炎はこの場所においては貴重な生きた獲物を焼き尽くそうとにじり寄る。
それをどこか他人事の様に眺めながら、火傷だらけの手を天に伸ばす。
本能で生きたいと思う思いがそれをされた。
それと同時に記憶が飛ぶ。
次に目に浮かぶ光景はいつの間にか降り出した雨に打たれながら自分の手を握る一人の男・・・衛宮切嗣がいた。
助かったのは彼の筈なのに自分の方こそ助けられたと言わんばかりに安堵と涙に表情を歪めせて。
ふと、目が覚めた。
気が付けばそこは日本へ向けて飛ぶ飛行機の機内。
(眠っていたのか・・・)
そう思いながら切嗣は苦笑する。
それと同時に思いをはせるのは先程まで見ていた夢。
(おそらくあれは・・・士郎の過去)
契約によって結ばれたマスターは夢と言う形でサーヴァントの過去を見る事が出来ると言うが、まさか自分がそれを体験するとは思いもよらなかったが。
(・・・間違いないと言う事か・・・)
あれが士郎の過去ならば士郎が言っていた事は全て真実だと言う事。
疑っていた訳ではない。
だが、どこが違うのではないかと言う希望を心の片隅に持っていたのは事実でもあった。
それが完膚なきまでに打ち砕かれ落胆も当然だがあった。
だが、それ以上に安堵の方が大きかった。
これで疑問と疑惑を持ってこの聖杯戦争に臨まずに済むと。
これで何の迷いなく聖杯の破壊に全てを集中出来ると。
(アイリ・・・士郎・・・破壊しよう。聖杯を、全人類なんておこがましいものの為じゃない。イリヤの為に)
飛行機は定刻通り日本に到着しようとしていた。
翌日、士郎の姿は例のホテルにいた。
冬木全域の大まかな地形確認も終わり今は切嗣到着までの待機と舞弥の護衛も兼ねている。
切嗣がこの聖杯戦争で助手として選んだ女性だ。
か弱いと言う表現から程遠い事は理解していたし、ここの事がそう容易く露見するとも思っていなかったが、万にいや億に一つの確率でここが敵陣営に露見した時の事を考えればあまり動き回る事はしたくなかった。
幸い冬木全域の視察は昨日で全て終わっていたので、これからホテルに缶詰め状態でも士郎に支障はない。
当の舞弥は黙々と聖杯戦争に臨むべく、自分と切嗣の準備に余念がない。
最も並べられたそれを魔術師が見れば眼を疑うか激怒するか侮蔑交じりに嘲笑するであろう代物の数々であるが。
と、そこへ
(士郎)
(爺さん?冬木に着いたのか?)
切嗣との念話が届く。
(ああ今、着いた。士郎は?)
(舞弥さんと一緒にホテルに)
(判った。僕もすぐに向かう)
(うん、そうしてくれ爺さん。昨夜少し動きがあったし)
(ああ)
そう言って念話が途切れた。
それから二十分位経った所で誰かが部屋のドアをリズミカルにノックしてきた。
そのノックだけで誰なのか判っただろう、舞弥は躊躇いなくロックを解除してドアを開ける。
そこにいたのはやはり切嗣で二人は挨拶も無く眼と眼を合わせるだけで再会の挨拶を済ませた。
「昨夜遠坂邸にて動きがありました」
前置きも無く本題に入る。
「記憶は録画し、いつでも確認出来ます。不明な点があればミスターにお尋ね下さい。偶然ミスターも現場におりましたので」
「士郎も?」
そんな問い掛けに頷き一つで肯定する士郎。
「それと装備品一式は全て準備整っています」
「判った。まずは記憶を確認したい」
その言葉に舞弥はひとつ頷きビデオデッキを再生する。
そこに映されていたのは昨日のアサシンと思われる黒衣のサーヴァントが黄金のサーヴァントに成す術もなく蹂躙されていく姿。
舞弥が操る使い魔に装備されていた超小型CCDカメラによって記憶されたそれを切嗣は鋭い眼光で視聴する。
時に巻き戻し、時にスロー再生、はたまた一時停止させてから士郎に細かい所を質問してくる。
念話では更に詳しい問い掛けをしながら。
普通の会話でも問題は無いはずだが、壁に耳あり障子に目あり、あまり警戒される事はしたくない。
切嗣も舞弥も表向きはアイリスフィールの協力者であり、士郎は存在する筈のないサーヴァントなのだから。
(それで士郎、こいつは)
(ああ、爺さんこいつが何者か判っている・・・だけど・・・)
(束縛かい?)
(ああ)
(こいつの攻撃方法も)
(・・・大半は言う事は出来ないけどあれは奴にとって宝具じゃない・・・俺に言えるのはこれだけだ)
念話を終わらせて切嗣はまず、舞弥に視線を向けた。
「どう思う?」
「出来過ぎかと思われます」
切嗣の問い掛けに間髪入れず返答を返す。
「士郎は?」
「出来過ぎに加えて、出てくるタイミングがあまりにも中途半端」
こちらも間髪入れず更に酷評を加えた。
「アサシンの侵入および実体化から迎撃までタイムラグが短過ぎます。気配遮断を持つアサシンであれば尚更この短さは不自然です。待ち構えていたとしか思えません。」
「出て来た場所もあからさま過ぎる。最初から襲撃を把握していたのなら予測ポイントに誘い込んで邸宅の外で仕留めればよかったし、気付いていなかったとしたら邸宅内まで引き摺り込んで潰せばいい。そうすれば少なくとも現れたサーヴァントが遠坂陣営のそれと気づかれる危険性は低い筈だ。少なくともこの映像よりは」
前者であれば姿や攻撃方法こそ見られるだろうが、それが遠坂のサーヴァントかどうかは憶測で判断するしかないだろうし、後者であれば攻撃方法はもちろん姿すら見られる事は無かっただろう。
しかし遠坂はどちらも取らず中途半端な場所で自分のサーヴァントの姿、攻撃方法をさらけ出した。
過去四度の聖杯戦争に挑み続けている遠坂がこのような些細な失策を犯すとは考えられない。
舞弥と士郎の言葉に頷く切嗣。
切嗣自身の認識も舞弥、士郎と大差ない。
「見せなくても良いものをわざわざ見せた・・・見せる為に仕組んだ茶番と言う事か」
「だけど爺さん、茶番にしては手が込み過ぎている。わざわざサーヴァント一騎を潰してまで手に入れられる利益があるとは思えない」
「いえ、ミスター、それを言うならばアサシンが本当に脱落したのかそもそも疑問です」
「ですが、舞弥さん、あれだけの蹂躙攻撃ではランサーに次ぐ俊敏を誇るアサシンでも・・・」
「ではミスター、ミスターはアサシンが実際に消滅したのを見ましたか?」
そう舞弥から問われれば士郎も口を噤む。
舞弥の指摘通り、使い魔の映像からも士郎の肉眼からもアサシンと思われる人影があの猛攻で消滅していくさまは捉えているが実際にあれが真実アサシンだったのか?
そう問われると断言は難しい。
「士郎、君の意見も最もだと思う。でもアサシンがまだ脱落していない、そう考えると全ての辻褄が合うのも事実なんだ」
切嗣の言葉に士郎も頷く。
「その前提で考えていけば誰にメリットがあるのかおのずと答えも出る・・・舞弥アサシンのマスターは?」
「アサシンの脱落を受けてその日の内に教会に避難、監督役が保護を通告しました。言峰綺礼と言う男ですが・・・切嗣?ミスター?」
その名前を耳にした時切嗣、士郎は揃って顔を見合わせる。
そうするのには当然理由があった。
(言峰綺礼?)
アインツベルンの城で寒波の収拾を待ちながら、聖杯戦争を勝ち抜く為戦略を練る時必要なのは敵陣営の質量を兼ね備えた情報だ。
舞弥から送られてくる敵陣営のマスターの情報を精査している切嗣から、その名を聞いたのはそんな時だった。
(ああそうだ。アイリとも話したけどこいつは現状判明しているマスターの中で最も危険だ)
切嗣の言葉にはまだ見た事も無い男への警戒と敵意が滲み出ていた。
ちなみに切嗣にとって相手を『危険』と評するのは衛宮切嗣と言う男が、自身の持てる全ての牙を用いて葬らなければならない、それほどの相手にのみ贈られる評価だと言う事をまだ士郎は知らない。
(危険ってどう言う事なんだ?他のマスターを・・・たとえば遠坂時臣をも凌ぐ素質や実力を持っているとか)
(いや、そうじゃない確かに実力もある。あれだけの若さで代行者に任じられる程だ。純粋な戦闘能力ならば判明しているマスターの中でも最強だろう。だけど僕にとっては何よりも奴の在り様こそが恐ろしい)
(在り様?)
(ああ、そうさ。経歴を見ればわかる。奴は教会におけるエリートコースを蹴り飛ばしてまで、あらゆる場所を転々とし、聖堂教会の指示で遠坂時臣に師事を受けてからはあらゆる分野を習得していった)
(つまりあらゆる局面においても実力を発揮出来る万能型だから危険だと?)
(違う。それだけなら厄介な奴で済む。問題はその姿勢だ)
(姿勢?)
(奴は天才じゃない。努力肌の人間だろう。そんな奴が普通の何倍、何十倍も努力を、鍛錬を積み重ねたんだ、超一流にまで至れると言うのにその直前で奴は別の分野に乗り換える。今まで積み重ねたそれに何一つ未練が無いかのように。普通だと思うかい?)
そこまで言われ士郎も思案に暮れ、結論を出した。
(普通じゃないよな、最初から素質がないなら早い段階で諦めるだろうが、そこまで極め尽くす前に捨てるなんて)
(ああ、誰よりも激しく壮絶な道を歩んでいると言うのにこいつには情熱は無い。底の見えない虚無を空虚を心に抱え込んでいる。おそらくそれを満たしたいから、異常と思える遍歴を積み重ねて来たんだ。だけど多分奴は満たされていない・・・ただでさえでも危険極まりない聖杯が奴に与えられたら・・・聖杯は冗談抜きで世界を滅ぼす邪杯となるだろうな・・・)
切嗣の断言を士郎は直ぐには肯定は出来なかった。
不満があったからではない。
士郎はそれほど綺礼の事を良く知らなかったからだ。
士郎が知る綺礼は生前、聖杯戦争での僅かな会話と死後、神界で並行世界の綺礼位でしかなく、それを持って判断するには材料に乏しかった。
いくらマスターであり養父の言葉と言えど盲目的に追従する訳にいかない、違う視点を持つ者もまた必要なのだから。
そんな会話を思い出しながら、切嗣の視線に一つ頷く。
「舞弥、すぐに使い魔を教会に差し向けろ。現状一匹で良い」
突然の切嗣の命令に戸惑った表情を浮かべる。
「宜しいのですか?不可侵地帯への干渉は規定で禁じられていますが」
「別に何もしなくても良い」
「教会を監視しなくてですか?」
更なる不可解な指令に更に眉を顰める。
「監視しているふりをさせておけばいい。不可侵地帯のぎりぎり外縁ラインに張り付かせろ。絶対にばれない位念入りに隠匿させてだ」
そこまで言われて舞弥も切嗣の意図を察したようだ。
不服を言う事なく念話で使い魔である蝙蝠を教会に差し向けた。
それを横目に切嗣は次に舞弥の手で準備された装備の数々をのチェックに入る。
まずは手榴弾、次いでスタングレネード、発煙筒・・・指示した通りの数が揃えられているのを一つずつ頷きながらか確認していく。
だが、用意されたそれに魔術的な要素は微塵も無い、これから冬木でテロ行為を起こす、そう言った方がまだ納得できる程の重装備、数種類の銃火器、爆薬等の人一人殺すには十二分な通常兵器の数々だった。
「しかし・・・こうして改めて見ても、魔術儀式の殺し合いに行くとは思えない装備だよな」
「まあ魔術師は激怒するか侮蔑するかどちらかだろうね。だけど士郎、こいつは僕なりの流儀なのさ」
「『魔術師は魔術によらぬ攻撃にこそ脆弱さを曝け出す』だったよな爺さん」
ご名答とばかりに頷く切嗣。
それに士郎も全面的に同意していた。
確かに魔術は万能だ、それは全面的に認める。
しかし、魔術師はそうではない、ただ、魔術を使う事が出来るだけの人間に過ぎない。
魔術師は人類全体から見ればごく一握りの少数派に過ぎない。
何よりも魔術師達の大多数は気付かない。
大多数の魔術の使えない人間が特別でない力を持たぬが故に知恵を絞り、失敗を糧とし科学と言う力を手に入れた事を。
(以前蒼崎師も言っていたしな。既に兵器と言う観点で言えば人は魔術師を超えた力を持ってしまったと)
そんな科学技術の中でも『人を殺める』と言う点に特化し、今もなお進化を続けるのがこれらだった。
その中でも異彩を放つのが中央に鎮座する狙撃銃、ワルサ―WA2000セミオートマチック。
全長九十センチのコンパクトな狙撃銃にも関わらず後方に弾倉など重要箇所を集中させた結果、銃身の長さは六十五センチ、全体の三分の二を占め、有効射程距離は実に一キロ、命中性能も他の自動型狙撃銃をはるかの上回る、現時点で存在する最高性能の狙撃銃だった。
但し、その高性能故にコストを度外視した結果、二百にも満たぬ数しか生産されなかった幻の銃でもあるのだが。
更に照準装置に至っては標準装備のそれではなく、特別発注された二つの照準装置を同時に装備できるマウントを装備、既に二つの照準装置は固定されていた。
銃の真上には米軍最新鋭装備のナイトビジョン、僅かな光を電子技術で増幅し月明かりなら約五百五十メートル、星明りでも約三百七十メートルの狙撃を可能とする現代の梟の眼、左斜め下にはサーマルビジョン、零下五度から六十度の温度分布を二百メートル先から補足狙撃を可能としている。
「爺さん、なんでナイトビジョンとサーマルビジョン、夜間戦を目的とした照準器を二つ付けたんだ?どちらか一つで十分だと思うんだけど」
士郎の疑問も無理はない。
小型化の技術は日々進歩を遂げているがそれでも両方とも五百ミリのペットボトル並みの大きさを誇る。
その為重量もかさみ全体の重量は十キロを超える。
これほどの重量だと行動にも支障が出るのだが切嗣はそれを良しとした。
と言うのも、
「魔術師には魔術行使後体温に変化があるんだ、で、研究に研究を重ねた結果、今では体温の分布で魔術師なのかそうでないのか、魔術を使用する前か使用後かまで判断できるようになったんだ」
「じゃあサーマルビジョンは夜間戦闘用と言うよりも対魔術師戦用?」
「うん、そう思ってもらって構わないよ」
そう言いながら狙撃銃の状態を細かくチェックする。
出来れば試射もしたいだろうが、さすがに日本で銃を発砲するのは目を引きすぎる。
整備を行った舞弥を全面的に信じる事にして狙撃銃を置く、
その隣にあるのはサイドアームであるキャレコ短機関銃、ヘリカルマガジンと呼ばれる筒状の特殊なマガジンに最大五十発装填出来るのだが・・・
「爺さん、ケチ付ける訳じゃないけどこれ弾丸が装填される前とされた後じゃ重量のバランス滅茶苦茶にならないか?」
特殊極まりない構造故の難点を指摘する士郎に切嗣も苦笑を浮かべながら
「うん、それは僕も考えたけど一度に装填出来る弾丸量で決めたんだよ。普通のマイクロSMGだと平均で三十発前後が主流だし」
「なるほど」
まあ、切嗣が納得した上で選択したのであるならば士郎がこれ以上とやかく言う事も無い。
そこから士郎は無言となり切嗣も無言で用意された武装チェックを続けていく。
やがて全てのチェックが終了したが切嗣の表情はすぐれない。
「・・・例のやつは」
「ここに」
そう言って舞弥は静かに、だが、厳かに取り出した紫壇のケースを差し出した。
ケースを開ければそこに入っていたのは士郎にとって見慣れた代物。
生前、切嗣より受け継ぎ、その後、幾度となく士郎の危機を救い続け、そして切嗣にとって唯一無二の切り札、トンプソンセンター・コンテンダー。
ちなみに、士郎の来ているコートにはやはりそのコンテンダーは収められているが、束縛により使用する事は出来ない。
握る事は出来るが、銃弾を装填する事は出来ないし、引き金を引こうにも引き金はびくともしない。
切嗣はそれを静かな面持ちで眺めると、手に取り何か確かめる様に握りしめ、その後は弾丸の装填を繰り返し行う。
それを二回行うと自虐的な笑みを浮かべてただ一言
「衰えたな・・・」
そう呟き、舞弥もまた
「はい」
ただ一言そう肯定した。
「えっとそうなんですか?」
思わず問いかける士郎、素人眼から見て切嗣の排出から再装填までの動きに鈍りはなく一連の動作は滑らかなようにも思えたのだが・・・
「いえ、現役の時と比べても全体的に鈍っています」
舞弥の評価にも躊躇いは無い。
切嗣もまた、苦い表情を残しながらも頷いていた事を考えてもそれが舞弥の過小評価ではない様だった。
「そうか・・・あ、そうだ爺さん、こいつもついでに渡して置く。使えるようなら使ってくれ」
そう言って士郎は懐から切嗣の切り札たる魔弾を差し出す。
あの大戦争後も時折使用していた事もあり、現在士郎の手に残る魔弾はかつて切嗣から継承した時の半分以下の二十発だけであるが。
「これを・・・良いのかい?」
「ああ、今の爺さんなら俺より上手く使ってくれるはずだし、俺にはこれを今使う事は出来ないから」
「そうか・・・じゃあ、こいつは確かに預かるよ士郎」
士郎から魔弾を受け取りコートのポケットに仕舞い込むと、そこへ切嗣の懐から軽快な電子音が流れる。
突然の事だったが切嗣は驚く事も無く、コートの内ポケットから携帯電話を取り出すと話し始める。
「ああ、僕だ・・・うん、判った。こっちで待っているよアイリ」
短い通話を終えて携帯電話をしまうと、士郎達に顔を向けた。
「士郎」
「アイリスフィールさん達が来たんだろ?」
「ああ、間もなく冬木に入るそうだ。始まるぞ・・・いよいよ」
何が等言うまでも無い事だった。
それがなんなのか、問い返す必要もないとばかりに士郎と舞弥は頷いた。