アレンの気持ち、嬉しかった。
でも私が好きなのは神田なの。
ごめんね、アレン。
あなたから貰った勇気、大切にするね。
アレンが神田を呼びに行った後、私は机に向かい1冊のファイルを取り出した。
その中には描きかけの練成陣や走り書きした構築式が閉じてある。
元の世界に帰るために研究していた錬金術。
結局その方法は判らなかった。
だけど諦めず研究をしていこうと思っていたけれど…
目を閉じて、故郷に思いを馳せる。
生まれた街、育った町。
両親に先生夫婦、メイスンさん、エド、そしてアル…
今まで出会ってきた人達の顔が思い浮かんでは消えていった。
それらを振り払うかのように頭を振り、ファイルを机の上に置いた。
それと同時に部屋のドアが開く。
「」
入ってきたのは神田。
アレンが呼びに行ってくれたのね。
ゆっくりと振り返り、神田を見やる。
神田の黒い双眸は真っ直ぐ私を捉えていた。
彼の胸元には、銀のプレートが揺れている。
「か…んだ…」
ココロが痛い。
貴方のその瞳に写っているのは誰?
私を見ていてくれている?
聞きたいのに…聞かなきゃいけないのに、言葉が出てきてくれない。
もし…あの話を肯定されたら………
怖い…
『僕が好きなのはカンダの傍で笑ってるなんだ。
今のは僕の好きなじゃない。ねぇ、僕にを好きでいさせて?』
蘇るアレンの言葉。
そうよ。アレンと約束したじゃない。神田に聞くって。
勇気を出すって!
アレンの気持ちを無駄にしちゃいけない。
どんな結果が待っていても良い。せめて神田に想いを伝えよう。
覚悟を決め、神田を真っ直ぐ見つめる。
「元の世界に帰るための錬金術を研究していたの。それらをこのファイルに閉じてあるわ。
あの話を聞いて、私は帰りたかった。だけど……」
私の言葉は途中で遮られた。
神田が私を抱きしめたから―
「………じゃねぇよ」
「え?」
「帰るって言うんじゃねぇよ。俺の傍にいろ。傍にいてくれ」
神田が切なげに言う。
その言葉には、必死な想いが込められていた。
「それは…誰に言ってるの?私ね、代わりは嫌なの」
「代わり…?」
「神田には探している人がいて、その人を想っているって。私はその人に似てるんでしょ?」
「……何の事だ」
何の事って………
私は数日前に休憩室のドアの前で聞いた話を神田に説明した。
神田が優しくしてくれたのは、私が想い人に似ているから?
お願い…肯定しないで!
「確かに俺には探している人がいる」
口を開いた神田からは肯定の言葉。
やっぱり神田には探している人がいるんだ。
あの話は本当だったのね…
「そう…私はその人の代わりだったんだね」
「代わりになんかするかよ!」
神田が更に強く私を抱きしめる。
「代わりじゃ…ない?でも神田の探してる人は?」
「『あの人』とは全く似てねぇ」
似てない?
じゃあ、あの話はデタラメだったの?
私の早とちり!?
「その話、誰がしてたんだ?」
神田は私を腕から解放し、問いかける。
「判らないわ。声しか聞いてないもの」
「もしかして、俺が避けられてた理由ってそれか?」
「うん…」
「ったく。何で俺の所へ聞きに来なかったんだよ」
「だって…凄くショックだったんだもの。好きな人が、自分を通して誰かを見ているって聞いたら嫌でしょ?」
「確かに……って好きな人!?」
「私は神田が好きよ。その話を聞いた時、壊れるかと思うくらいココロが痛かったの」
元の世界に帰りたいと…神田と出会う前に戻りたいと思うほど、ココロが痛かった。
今思えば、出会った頃から神田に惹かれてたと思う。
でなきゃ『挨拶』されたら嫌悪感を感じるだろうし、キスされたらもっと抵抗するわ。
最も、この想いに気付いたのは最近だけどね(苦笑)
「ごめんね神田。私の早とちりの所為で傷つけちゃったね」
「全くだ。流石の俺でも、好きな奴から避けられたら傷つくぞ」
「うん、ごめんなさ………へ?今何て言ったの!?」
「が好きだ。初めて会った時からお前に惹かれている」
神田が私を好き!?
嘘…私の自惚れじゃなかったの?
神田の隣にいても良いの…?
再び私は神田に抱きしめられた。
私も神田の背中に、恐る恐る腕を回す。
温かい。
やっぱり、ここが一番安心できる―
「神田が好き。この世界で…ううん、私が生きてきた中で神田が一番大切なの」
「俺にはが必要だ。元の世界に帰るなんて言うな」
私にも神田が必要よ。
貴方を守りたい。そのためにエクソシストになったんだもの。
私の心を占めるのは神田。
だから………
「ごめん。ちょっと離してくれる?」
神田の腕の中から離れ、机に向かう。
その上に置いてあるのは、元の世界に帰るための錬金術の研究ファイル。
私はそのファイルを掴み、使ってない引き出しに片付けた。
「そのファイル、が研究してたもんだろ?どうするんだ?」
「こうするの」
パン パシィ
両の手を合わせ、錬金術を発動させる。
蒼紫の光の後、引き出しは開けれなくなった。
「もうこのファイルは必要ない。私この世界で生きていく事に決めたわ」
方法が判らない…って理由もあるけど、それ以上に神田の傍にいたいから。
神田と共に生きていきたいから―
だから封印したの。
元の世界の皆には…先生達には申し訳ないと思う。
心配してくれていると思う。
だけど…私はここに居たい。
私にとっての帰る場所を見つけたんだもの。
「良いのか?」
「うん。私の帰りたい場所は神田の隣なの。だからあの研究も終りにするわ」
みんな、勝手な事をしてごめんなさい。
私は一緒に生きていきたい人を見つけました。
これからは神田と共に生きていきます。
もう会えないけれど、みんなの事忘れない。
向こうの世界を忘れないから。
でも……それでも、いつの日か会えるなら『ありがとう』って伝えたい。
「ねぇ神田。一年前の私は、異世界に来るなんて思ってもいなかったわ」
「普通は想像しねぇよな」
「うん。でもこの世界に来れて良かったと思ってる。異世界にきて貴方に出会えて…凄く嬉しいの」
「俺もあの時、と出会えて良かったと思ってるぜ」
「神田の隣が私の帰る場所。神田が嫌だって言ってもついていくからね」
「バーカ。誰が嫌だって言うかよ。寧ろが嫌だって言っても連れていくからな」
「うん。約束だよ」
「あぁ。約束だ」
神田は私の頬に手をそえ、軽く上を向かせた。
近付いてくる神田の顔に、そっと目を閉じる。
神田の唇が私のそれに重なった。
想いが通じ合ってからの最初のキス。
それは今までのキスよりもずっと暖かく、私の心を満たしてくれた。
後書き
ぎゃあっ!(第2弾☆)
ナンダヨ…コノハナシハ…
ブンサイガナイノ、マルワカリジャン……
あまりの出来に、思わずカタコトになっちゃったよ(汗)
読み直してて恥ずかし!
盛り上がりの話なのに、テンション下がりそうだよ。
でもとりあえず、さんと神田さんがめでたく恋人になったので許してください(マテ)
そのうち、こそっと手直しするかも…
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