僕は貴女の笑顔が好きなんです。

 それをずっと守りたい。

 だから僕は………



















 任務を終えて教団に帰ってきたのは良いけど、何だか雰囲気が変だなあ。

 ピリピリしてるって言うか…

 どうしたんだろうと訝しんでいると、頭の中で声が響いてきた。




『アレン……帰ってるか……?』

「だっ誰!?」

『ヘブラスカだ…お前のイノセンスを通して…話しかけている…』

「僕のイノセンス?」

『詳しい話は後だ…今は私の部屋に…来てくれ…』




 ヘブラスカの部屋?最初に行った、あの部屋だよね。

 どうしてだろ?でも呼ばれたんだし、行かなくちゃ。

 そう思い、自分の部屋を後にする。

 辿り着いたヘブラスカの部屋で、僕は吃驚した。

 誰かが蹲っていると思ったら、それは僕の想い人のだったから。




!?どうしたの?」




 急いで駆けよると、彼女は膝を抱えたまま座って眠っていた。

 その目には涙が浮かんでいる。




は泣いてたんですか?」

「あぁ……今は泣き疲れて眠っている…済まないな…任務帰りで疲れているのに…」

「それは構いませんが…どうして僕なんですか?カンダは?」




 ヘブラスカもとカンダがパートナーを組んでいる事は知っている。

 がカンダに絶大な信頼を寄せている事も判ってるはずなのに。

 何故僕を呼んだのだろう?




は…神田の事で泣いていた…元の世界に帰りたいと言っていた…」

「元の世界に!?がいなくなるんですか!?」

「今のところ……その方法がない」




 良かった。はまだこの世界にいてくれるんだ。

 だけどカンダの事で泣いていたって…

 嫉妬するくらい二人は信頼しあっていたのに。

 何があったんですか?




「アレン…悪いがを部屋に連れていってくれないか…?このままでは…風邪をひく」

「判りました。ついでに何があったか聞いてきますよ」




 を抱きかかえてヘブラスカの部屋を出て行く。

 抱き上げたはとても軽かった。

 本当なら会う事のなかった人。

 が元の世界に帰ってしまったら、二度と会う事ができない。

 そんなのは嫌だ。に帰ってほしくない。

 もっともっと…笑顔を見せていてほしい。

 の存在を確かめるように、僕は抱いている腕に力を込めた。































 † † † † †




 の部屋に着き、そっとベッドに寝かせた。

 目にはまだ涙が浮かんでいる。

 そっと指で拭うと、が身じろいだ。




「ん…アレ…ン?」

「ごめん。起こしちゃったね」

「どうして…?私はヘブラスカの部屋で…」

「ヘブラスカが僕を呼んだんだ。あの部屋で寝てたら風邪をひくってね」

「そっか。ヘブラスカに迷惑かけちゃったね。後でお礼に行かなくちゃ」




 が弱々しく微笑む。

 無理してるの、見え見えだよ。

 僕が見たいのはそんな笑顔じゃないんだ。




、何があったの?どうして泣いてるの?」

「……………」




 俯く。その目に再び涙が浮かんでいた。

 ヘブラスカも詳しい事はわからないって言ってた。

だけど、きっとはカンダの事で泣いている。

カンダの事で悩むを見たくないけど、それ以上に辛そうなをみるのは嫌だった。




「僕にも言えない事?一人で悩むより、誰かに相談しよう?」




 僕で良かったら相談にのるよ。

 そんな意味を込めて、ぽんぽんと頭を撫でる。

 これは昔、泣いていた僕にマナがやってくれた事。

 不思議と安心するんだ。

 どうやらも同じだったみたい。

 少し落ち着いたは、泣いていた理由を話してくれた。

 でも、その内容は僕には俄かに信じがたい。

 僕もを見ていたから判る。

カンダはずっとを見ていた。

を見ていると、僕はカンダに睨まれた。

そして、その度にまるでは自分のモノだと言うように抱きしめていたから―




「ねぇ。その事カンダに確かめたの?」

「怖くて聞けない。私が異世界で頑張れたのも、神田のおかげなの。
 その神田に私を否定されたら、誰かの代わりなんて言われたら………私は道を見失ってしまう」




 僕はと出会う前の事を知らない。

 神田がどれだけを支えてきたのかも判らない。

 だけどカンダの事だ。を通して誰かを見ている事はない。

 きっとの誤解なんだと思う。




 もしこのままだったら……

 カンダの事を誤解したままだったら、は僕を見てくれるだろうか。

 僕だってへの想いはカンダに負けてない。

 が好きなんだ。




ふと、そんな考えが浮かんだけど……やっぱりには笑っていてほしい。

 初めて出会った時の笑顔をずっと見ていたい。

 でもきっと、その笑顔はカンダが傍にいるから…

 お互いがお互いを大切に想っているから、浮かべられるんだ。

 僕じゃ出来ない。

ふぅ…仕方ない。僕は失恋してあげるよ。

もちろんカンダのためじゃない。のために。




「ねぇ。僕はが好きだよ」

「え…///な…何?え?アレンが私を…好き…!?」




 僕の突然の告白には驚いたらしく、涙が止まっている。

 真っ赤になって照れているが可愛い。

 こんなに可愛いを諦めるんだ。

 カンダには貸し一つだよね。




「うん。が好き。だけどね僕が好きなのはカンダの傍で笑ってるなんだ。
 今のは僕の好きなじゃない。ねぇ、僕にを好きでいさせて?」




 伝わる?僕の想い。

 幸せなを見ていたいんだ。




「でも…それじゃアレンの気持ちが…」

「僕は大丈夫。が幸せなら僕も嬉しい。それにね、カンダも絶対が好きだよ」




 を幸せに出来るのは、きっとカンダだけだから………

 僕ではを笑わせてあげれないから…

 だからせめて……僕にできる精一杯の事をしてあげる。

 誰よりも幸せになってほしい人だから。




「アレンっ!ごめんねっ!アレン」




 の目に再び涙が溢れてきた。

 そんなを優しく包み込むように抱きしめる。

 最初で最後の抱擁。

 腕の中で泣き続けるの髪を撫で、僕はを腕から解放した。




「泣かないで。ほら、にはまだやる事が残ってるよ」

「やる事?」

「そう。今からカンダを呼んでくるから、仲直りする事。出来るよね?」

「え!?でも……」

「言ったでしょ?僕にを好きでいさせてって。今のままのじゃ嫌いになっちゃうよ?」

「…っうん!頑張る…!頑張って神田に聞くからっ。仲直りするから…!」




 の今の涙を止めるのは僕じゃない。

 カンダにしか出来ない事。




「じゃあカンダを呼んでくるから、は部屋で待っててよ」

「アレン…!ありがとうっ」




 

 の言葉を聞きながら、僕は部屋を出て扉を閉めた。

 これからとカンダは誤解を解いて、恋人になるんだろうな。

 はは。自分で決めた事なのに、やっぱり辛いや。

 近くの壁にもたれかかり、髪をかきあげる。

 一筋の涙が頬を伝った。




 泣いている場合じゃない。早くカンダを探さなきゃ。

 

































 † † † † †




「カンダ!今すぐの部屋に行って下さい」

「あぁ!?何でお前にそんな事言われなくちゃいけねぇんだ?それに俺は…」

「あなた達の間で何があったのかは聞きました。がカンダを避ける理由も知っています」

「何でテメェが知ってんだ!?」




 カンダは殺気を放ちながら僕の胸倉を掴む。

 に関して、自分が知らない事を僕が知っているから怒ったんだろう。

 全く…僕に八つ当たりするのは止めてほしいですね。




「今ならはカンダに会ってくれますよ。理由も聞けるはずです。嘘だと思うなら行ってみて下さい」

「………チッ」




 カンダは舌打ちすると、僕を離しの部屋に向かう。




「カンダ!!」

「あぁ!?んだよ。まだ用か?」

「この貸しは大きいですよ」




 何の事だと言わんばかりに、カンダは眉を顰める。

 だけど僕の言葉よりが大事なんだろう。

 何も言わず、再びの部屋へ向かうため走って行った。




 これでいい。これでいいんだ。

 自分に言い聞かせながら、僕はがカッコいいと言ってくれた左手を握り締めた。

 








後書き
ぎゃあっ!何だこのお話は!?
え?アレン夢?
アレン君、さんに告白しちゃってますYO!
こんな展開、想像もしてななかった…(おまいが言うな)
あわわわわ……アレンファンの皆様!ごめんなさい(土下座)



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