何かを得るためには同等の代価が必要となる。

 それが両親や先生から教わった錬金術の原則。

 なのに………今の私は………




 …………おかしい。どうも考えがつかない。

 最近、錬金術で等価交換以上の物が得られる。

 最初に気付いたのは、ミリィに練成したぬいぐるみ。

 あの時アレンは普通の布を買ってきた。

なのに練成して出来た物はふかふかなファー生地のぬいぐるみ。

 さっきもそう。科学班で練成した時も、代価以上のものが出来た。

 どうして?この世界に来たばかりの頃は、等価交換の原則が成り立ってたのに…

 ………!!そう言えばあの時…!

 偽物だったけど賢者の石を持っていた教主が、等価交換の法則を無視して練成をしていた。

 それに私の体の中には、未完成だけれども賢者の石が……

 次々に浮かんでくる疑問。

 それらを解決しようと考えていた時、部屋のドアがノックされた。




「はい?」

「俺だ」

「神田!?どうしたの?入って」




 神田が部屋へ入ってくる。

 どうしたのかな?もしかして、城門の事を怒ってるとか…?




「何か用だった?もしかして、さっきの事…?」

「あぁ。さっきは悪かったな」

「どうして神田が謝るの!?」

「不本意だったが、に刀を向けた……」




 さっきの事、神田も気にしててくれたの?

 何か嬉しいな。神田が気にしてくれて、それで謝りに来てくれた事が。




「気にしてないわ。実は私も謝ろうと思ってたの、不本意だったけど神田と対立してしまったわ」

「俺も気にしてねぇよ。それより………」




 神田が何かを言いかけて言葉を止めた。

 じーっと私を見てるんだけど、私の顔に何か付いてる?

 沈黙に耐えかねたのと、言いかけた事が気になったから神田に尋ねようとしたんだけど…

 でもその前に神田が口を開いた。




「何か悩みか?」

「へ?いきなりどうしたの!?」

「心なしか、何時もより元気がねぇみたいだな」

「そう?ん〜…悩んでるといえば悩んでるけど…」

「言ってみろよ」

「あのね、錬金術なんだけど…」




 私は最近感じてきた錬金術の疑問を話した。

 等価交換が原則のはずの錬金術で、等価交換以上のものが得られる事。

 この世界に来た時はこの原則が成り立っていた事を。




「何か心当たりはねぇのか?」

「ない事も…ないわね。ほら私の体には賢者の石が入ってるでしょ?
 石を使えば等価交換以上のものが得られるのよ」

「だが未完成の石なんだろ」

「うん。でも未完成でも効果はあるみたい。以前にそういう例を見たもの」




 ただ不思議なのは今になって『そう』なった事。

 どうして石を入れた直後にじゃなくて、今頃になって法則が…?




「石が成長してきてるとか……?まさか…」

「賢者の石って成長するのか?」

「さぁ?詳しい事は私も判らないの。
 ただアイツは『新しい方法』で石を作るって言ってたけど」

「アイツ?」

「私の中に賢者の石を入れた人よ。人と言っても、ホムンクルスだけど」




 『新しい方法』………一体何なの?

 賢者の石の材料は…考えたくないけど、『生きた人間』

 だけど私はそんな事をしていないし、するつもりもない。

 それなら、何で石は成長した?

 あと気になる事と言えば、アクマを破壊した後の胸の痛み。

 もしかしてこの痛み…ううん、アクマを破壊する事と何か関係しているのかな?

 でも………




「あーー!もう!原因が思いつかない!判んない!!」

、落ち着け。今のところ体調に変化はないんだろ?」

「えぇ。健康そのものよ」

「だが錬金術の威力は上がってんだろ?」

「うん。少ない代価で練成できるわ」

「だったら良いじゃねぇか。深く考えんな」




 深く考えるな…かぁ。

 科学者として、疑問は突きつめてかなくちゃいられない性質なんだけど、たまにはいっか。

 それを考えるよりも、アクマと戦う事の方が重要よね。

 


「そうね。今はエクソシストとして、アクマと戦うために錬金術の研究をするわ」

「あぁ、その方が良い」




 神田はそう言って、頭をぽんぽんと叩く。

 これ嫌いじゃないけど…子ども扱いしてませんか?神田さん…




「何時も思ってんだけど……って小せぇな」

「な!?どうせ私は神田よりはるかに小さいですよ〜。悪い!?」




 人が密かに気にしてる事を〜(泣)

 神田を睨めば、神田は何時ものようにニヒルに笑っていた。




「いや悪かねぇ。丁度俺の腕の中サイズだ」




 神田は再び私を腕の中へ閉じ込める。

 ほほほ本日2度目ですよ!神田さんに抱きしめられるのは…!




「か…神田!?」

「うるせぇ。心配したんだぞ。トマから連絡を聞いた時は」

「……ごめんなさい」




 やっぱり軽率だったよね…

 神田を見上げると、呆れた顔をしていた。



「はぁ。まあ良い。兎に角無事で良かった。…」

「なぁに?」

「『お帰り』」

「『ただいま』」




 リナリーに言って貰った時も嬉しかったけど、神田の言葉の方が何倍も心に響く。

 黒の教団の本部は、確かに今の私にとって帰る家。

 だけど、本当に私が帰りたい場所は?





神田の腕の中で、私はその事に気付いた。







後書き

城門その後。
神田さんとさん、仲直り〜♪
いや、喧嘩なんかしてないんですけどね(笑)
さんも神田さんと対立してしまった事を、気にしていたようです。
この話も、今後の布せ…げふん。
失礼しました。
前回は対立してしまったので、今回は甘めに。
え?甘くないですか?



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