内乱中に死んだ私の両親を生き返らせるために、必死で考えた人体練成。

 幼かった私は、それがどんなに重く大変な事だなんて考えなかった。

 ただ両親に会いたかったの。














 あの日私は先生の家から先生と一緒に帰っていた。

 玄関を開ければ両親が笑顔で迎えてくれるものだと信じて――



『お帰り、。楽しかった?』



 そう良いながら、何時も頭を撫でてくれた母親。

 ぎゅっと抱きしめてくれた父親。

 父の腕の中は暖かくて大きくて。

 この腕の中に居れば内乱も怖くは無かった。守ってくれるはずだった。

 それなのに……

 リビングから玄関まで広がる血の海。

 温かかった両親は既に冷たくて、二度と私を抱きしめてくれる事は無い事を悟った。

 本当なら母は夕飯の準備をしている時間。

 父は仕事の道具を片付けてる時間。

 カチャカチャ音がするはずなのに、何も聞こえない。

 何が起きたんだろう?

 何も判らない。

 唯一つ感じたのは、この光景を見せまいと必死に私を抱きしめている先生の体温だけ―






 その日以来、私は先生の家で暮らす事になった。

 先生の家で生活し錬金術を学ぶにつれて、ある事に興味を持った。

 それが人体練成。

 これさえ出来れば、また両親に会える。

 抱きしめてもらえる!!

 幼心でそう考えた私は、寝る間も惜しんで勉強した。

 先生達が私を実の娘みたいに愛してくれてる事は判ってたわ。

 それでも両親に会いたかった。

 また3人で暮らしたかったの。











「勉強ってどうやったんだ?」

「図書館に通ったの。それこそ開館から閉館まで毎日」

「毎日!?よく通ったな…」

「うん。それだけ必死だったのよ」

「それでどうだったんだ?両親は?」

「だから私は未遂だって。やる前にね、先生に見つかっちゃった」

「それでの先生は何て言ったんだ?」




























 † † † † †



 部屋で人体練成の構築式を考えていた時、いきなりドアが開いた。

 先生が恐い顔で入ってきて私の前に立ち、そして………




 パシン




 最初、何が起きたのかわからなかった。

 でも頬に痛みを感じたから、叩かれた事がわかった。




、これは何だ」




 目の前に突きつけられた紙。

 それには人体の構成物質が書かれていた。

 その紙に見覚えがあるどころじゃない。私が書いたもの。




「一体、何をしようとしてた」

「パパとママを……もう一度会いたくて…」

「人体練成が禁忌だと教えただろう?」

「どうして!?何で人を作っちゃいけないの!?誰も成功した事ないから?」




 もう一度パパとママに会いたいの。

 3人で暮らしたいの…!

 泣いて訴える私を先生は優しく抱きしめ、自らの過去を話してくれた。

 妊娠中に病気をしてしまった事。

 それが元で子供を生んであげられなかった事。

 そして二度と子供が産めなくなってしまった事を。

 愛する人の子供を産めなかった先生は、人体練成を考え実行した。




「先生も失敗しちゃったの…?」

「あぁ。体の中をあちこち持っていかれたよ。にはこの業を背負わせたくない」

「でも…パパとママが……」

「この世には流れがある。人が生まれ死んで行くのも流れだ。それを壊してはいけない。判るな?」

「………うん」

「聡い子だ。それに二人はもう居ないが、はまだ一人じゃない」

「一人じゃ…ない?」

「あぁ。私達がいる。私も旦那も、死んだ二人の分まで愛していく」

「本当?」

「本当だ。困った事や苦しい事があったら呼ぶんだ。何があってもお前を助ける」




 抱きしめてくれた先生の腕は、パパやママと同じくらい温かかった。

 その腕の温かさは両親を思い出して少し悲しかったけど、もう人体練成をしようとは思わなかった。
























 † † † † †




「俺に話しても良かったのか?」

「うん。神田に聞いて貰いたかった」

「そうか…」

「怒らないの?」

「何故だ?」

「人体練成は、この世界でいうと千年伯爵の誘いに乗る事でしょ?だから…」




 以前に神田はアクマを赦さないと言っていた。

 もしもあの時の事がこの世界で起きたなら、私は確実に千年伯爵の誘いに乗っていただろう。

 私が犯した過ちによって、多くの人を不幸にしてしまったかもしれない。

 もしもなんて言葉は好きじゃないけれど、アクマを破壊する度に後悔に苛まれる。

 そして、その事を知ったら神田はどう思うか不安だった。

 人体練成をしかけた私を神田はどう思うだろう?

 罵倒する?見放す?

 それとも………赦してくれる?




「怒る必要はねぇな」

「どうして?」

は人体練成を考えた事を後悔してるんだろ?」

「えぇ」

「そして大切な人を失う痛みも知ってる。ならそれで良い。
 過去はどうあれ『今』のは千年伯爵の誘いにはのらねぇだろ?」

「それは…もちろん!」

「だったら俺が怒る必要ねぇ」




 怒らないの?私を見放さないの?

 神田の傍にいても良いの…?




「私、神田のパートナーで良いのかな…?」

「当たり前だ。以外の奴をパートナーにするかよ。だから……泣くな」




 いつの間にか溢れていた涙。

 止めようと頑張ってみたんだけど、止まらない。

 神田が赦してくれたから、安心しちゃったのかな?

 涙の止まる気配のない私を、神田は優しく抱きしめてくれた。

 両親や先生とは違う温かさ。

 何でかな?凄く安心する。

 髪を撫でる優しい手。

 規則正しく刻む心臓の鼓動。

 触れている部分から伝わってくる体温。

 それらの全てが私を安心させてくれて、余計に涙が止まらなかった。



















 強くなりたい。心も体も。

 誰にも負けない強さが欲しい。

 胸を張って神田のパートナーだと言えるように。

 神田の隣を歩いていけるように―――







後書き
終わった!禁忌が終わったYO!
この話は長かった!時間がかかった…!
何回書き直した事か…(泣)
よっぽど飛ばそうかと思ったのですが、今後の布…げふんげふん。
いえ、失礼しました。
ちょこっとシリアスが書きたかったのですよ。
それにしても暗いなぁ。
次は明るく行こう。
早くアレンも出したいし〜♪


BACK   NEXT