この世界に来て既に半年。
エクソシストとしての任務も数多くこなしました。
「イノセンス発動!!消え去れ!」
耳にあるイノセンスを発動し、街のオブジェからガトリングガンを練成した。
そのガトリングガンでアクマを破壊する。
これで今日の任務も終了。
アクマを破壊する事に躊躇いは無くなった。
破壊しないと、犠牲者が増えるだけだから。
アクマを破壊するという事は、アクマにされてしまった人を救う事だと気付いたから。
でも……
「戻るぞ、」
呼びに来た神田の声を背後で聞きつつ、私はある1軒の家の前に立ち続けた。
正確には1軒の家『だった』建物の前に。
今回のアクマは、この家の住人。
不慮の事故で夫を亡くしてしまった妻が、千年伯爵の誘いに乗ってしまった。
自らの体をアクマ兵器に変えて―――
その結果、多くの人がこのアクマの犠牲となった。
「ねぇ神田。哀しいよね」
「何がだ?」
「人は愛する人を失った悲しみを乗り越える強さを持ってるんだよ」
「だったら誰も千年伯爵の誘いには乗らねぇだろ?」
「そうだね……でも心の闇が深すぎて、正常な判断ができない時もあるの。
深い悲しみの中、甘い言葉を囁かれたら誰だってそっちに行っちゃう。
例えそれが大きな不幸を生み出すとしても…」
「不幸を生み出すと知っていてもか?」
「…えぇ」
きっと次の不幸なんて考えない。
自分と同じ悲しみを誰かに与えるなんて思いもしない。
『愛する人に会いたい』という思いしか心にはない。
悲しみが悲しみを呼ぶ。
なんて哀しい連鎖………
「も誰かを蘇らせたいと思ったのか?」
「……そうね。かつて私も考えたわ。まぁ、アクマとしてではないけどね」
これは私と先生しか知らない秘密。
一緒に修行をし、共に旅をしていたエド達でさえも知らない事。
―私の心の闇―
どうして神田に話そうと思ったかは判らない。
けれど神田に聞いて欲しかった。
もしかしたら懺悔したかったのかもしれない。
過去の過ちを神田に赦して欲しかったんだと思う。
この世界で誰よりも信頼する神田に…
「初任務の時、錬金術で作ってはいけないモノの話をしたの覚えてる?」
「確か…金の練成は禁止だったか?」
「うん。あの時エッジさんが他には?って聞いたでしょ」
「それが何だ」
「ねぇ…錬金術で一番やってはいけない事…禁忌って何だと思う?」
突然そんな事聞いたって困るよね。
実際、神田は困ってるし。
「何なんだ?つか錬金術に禁忌があるのか?」
「あるよ。それはね、人体練成」
「人体練成?」
「錬金術で人を作る事。これが禁忌」
「錬金術で人が作れるのか!?」
「実際に成功した人はいないわ」
人は精神と肉体と魂で構成されている。
それに人体の成分は既に解明されている。
なのに成功した人はいない。
誰もが大きな代価を支払ったのに、得たものは何も無い。
それどころか多くを失った。
「錬金術の原則は『等価交換』だろ?」
「そのはず…なんだけどね。人体練成に関しては違うみたい。全ての理を理解すれば可能かもしれないけど」
この世界に来る前に見た真理で、人体練成の『何か』を見た。
あと少しでそれに届きそうだった。
あの時の私なら、喜んでもう一度真理に会いに行くだろう。
「その人体練成が……まさか」
「そのまさかよ。私は昔、人体練成を行おうとしてた」
「『行おうとしてた』?」
「えぇ。実際にはやっていないの。先生に止められた」
「誰を作ろうとしたんだ?」
「私の両親」
両親は内乱の時、武装した敵の兵士に殺された。
私はたまたまイズミ先生の所に遊びに行っていたおかげで助かった。
あの時の光景は今でも忘れられない。
後書き
長くなりそうなので、一旦ここでストップ。
これにサブタイトルを付けるなら『禁忌』ですかねぇ(そのまんま)
少しばかりさんの過去を話してみようと思いまして。
シリアスですが、頑張って甘くしてみます。
頑張ります!
寧ろ神田さんに頑張って貰います(笑)
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