無から有は作り出せない。それが錬金術の法則。
この世界に錬金術は存在しないけど、世界の理はそう違わないはず――
「!後ろだ!!」
え!?
慌てて振り向いた時はもう遅かった。
いつの間にか私の背後に来ていて、アクマはその腕を振り上げる。
ガッ!!
私の体はそのまま吹き飛ばされ、建物の残骸に大きな音を立ててぶつかった。
っ……!いたた…(泣)
思いっきり頭と背中を打ったじゃない!
幸いにも骨は折れてないみたい。良かった。
「無事か!?」
「大丈夫よ。それより何となくだけどアクマの正体が判ったわ」
「本当か?」
傷をつけてもすぐに回復してしまう事。
一瞬のうちに私の背後に来た事。
そして私を攻撃した時……
「物理的なものに押されたと言うよりは風みたいな物に押された感じがしたの。
つまり、あのアクマの正体は気体!違うかしら?」
そう問いかけると、アクマは嫌な笑みを浮かべた。
今までとは違い、醜くゆがんだ笑顔。
それは私達を小馬鹿にしたような笑顔だった。
「その通り〜。ワタシの正体は気体なのさ〜。気体にどうやって攻撃するのかな〜♪」
「んの野郎……」
「待って!神田」
今にも飛び出しそうだった神田を引き止める。
無闇に攻撃しても、アクマにダメージは与えられない。
こちらの体力だけが減っていく。
「私に考えがあるの。上手くいけばアクマを倒せる」
「……判った。俺はお前のサポートに回るぜ」
「ありがと」
パン パシィ
次に練成したのは火炎放射器。
アクマの正体は気体。
でも気体といっても沢山の種類がある。
だけどアイツは一瞬で私の真後ろに来た。
つまり自分の体をいったん分解して、私の真後ろで組み立てたに違いない。
それは私の周りにアイツと同じ成分の気体があったから可能だと思うの。
私の周りにある気体……それは空気。
空気の成分は主に窒素と酸素。この二つのどちらかがアイツの体の成分なのだろう。
火炎放射器を練成したのはそれを確かめるため。
これでアイツを攻撃し、火が消えたら窒素。
逆に、炎が勢いよく燃えたらアイツは酸素と言う事になる。
「正体を確かめさせて貰うわよ!」
地を蹴り、スピードをつけてアクマに近付く。
アクマも私に攻撃を定めるが、それを神田が上手く逸らしてくれた。
神田のフォローに感謝しつつ、更にスピードを上げる。
何とか火炎放射器の攻撃範囲内に入った所で、すかさず引き金を引いた。
アクマは燃える!?それとも燃えない!?
「ん〜?そんな攻撃が通用すると思ってる〜?」
「いいえ、思ってないわ。そもそも私は攻撃したかった訳じゃないの。確かめたい事があったのよ」
「確かめたい事??」
「えぇ。火炎放射器であなたは燃えなかった。つまりあなたの正体は『窒素』ね」
「せ〜かい♪意外と賢いんだねぇ!で?どうするつもりなのかナ?」
ふふ。正体さえ判れば後は簡単よ。
錬金術師を甘く見ないでほしいわね。
「神田、アクマの気を少しの間逸らせる?」
「構わないぜ。どれ位だ?」
「私がアイツの近くに行くまで」
「あぁ。任せろ」
神田が六幻を構え飛び出す。
アクマは神田に気を取られ、私を見ていない。
今がチャンスだ!
壊れた建物の残骸や瓦礫の間を通り、アクマに近付く。
アクマが私の接近に気付いた時は、私はアクマの背後に立っていた。
「これであなたも終りよ!!」
パン パシィ
両手を合わせ、それをアクマにむける。
蒼紫の光が発した直後、アクマの体は見る見るうちに凍っていった。
「な!な…何をしたぁ!?」
「何って簡単よ。あなたの体の分子振動を止めたのよ」
「ぶ…分子振動?」
「そう。止めれば分子は動かなくなる。つまり固体になるのよ」
窒素なら液体にして蒸発させても良いんだけどね。
でも万が一復活したら困るじゃない?
それが無いように、固体にして破壊してしまおうと思ったのよ。
アクマが慌ててもがくけど、凍っていく体ではなす術がない。
「な!あ…!!」
「気体だから倒されないと思った?生憎だけど、錬金術師は科学者なのよ」
アクマが完全に固体窒素として固まった。
今なら倒せる!
「神田!!」
「イノセンス発動。消し飛べ!!」
ドオオォォォオン!!
神田の攻撃が命中し、アクマは大きな音を立てて消滅した。
これで今回の任務は終了。私の初任務も終了した。
ズキ
?何?アクマを破壊した途端、胸に痛みが走った。
その場所を押さえてみる。
確かここは………
「?どうした?」
「ううん、何でもないわ。これで任務終了…だね?」
「そうだな。とりあえずコムイに連絡入れるか」
電話はエッジさんが持っていたはず。探さなきゃ。
神田と共に歩き出す。
だけど数歩歩いたところで、後ろを振り返った。
死なせてしまってごめんなさい。
もっと来るのが早かったら…
考えても仕方ない事なのに、つい考えてしまう。
知らない人達なんだけど、同じ教団の仲間。
もしかしたら仲良くなれたかもしれない人達。
そう考えると悲しくなった。
もっと強くなろう。精神的にも肉体的にも。
大切な人を守る強さを手に入れよう。
「、行くぞ」
「あ、うん。待ってー」
もう、あんな思いはしたくないもの………
後書き
初任務編終了です。
思った以上に長くなってしまいました、
アクマの正体は窒素と言う事にしましたが、違和感ありませんか?
これを書くにあたり調べてみたのですが、固体窒素は実在します。
−209度位で液体窒素が凍るそうですよ〜。
余談ですが、液体窒素を机の上に零すと、球体状で机の少し上をくるくる回りながら移動します。
宙に浮きながら移動するんですよ!
気温が液体窒素の沸点よりはるかに高いため、液体窒素が蒸発しているからです。
だから何?と言う言葉はナッシングの方向で(笑)
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