錬金術師としての最大の禁忌、人体練成。

 かつて私も考えていたなんて………そんな事言えないよ。













 † † † † †



 しまった………神田達に余計な気遣いさせちゃったよ(汗)

 さっきまで賑やかだった(?)車内が、また静かになっちゃった。

 会話がない……

 かといって、また錬金術の話題を出すわけにはいかないし。

 ん〜…困ったなぁ。

 あ!そう言えば私この世界の事あまり知らないんだ。

 神田に聞いてみよう。




「ねぇ、神田。アクマって何なの?」

「……元は人間の魂だ。生きている人間が愛する人の死を受け入れられず、哀しみにくれている時、千年伯爵が現れる。
千年伯爵の誘いを受け入れると、死者の魂がその体の中に入りアクマと化す」

「アクマになってしまったらどうなるの?」

「ヤツの思うまま生者を殺していく」

「………アクマとなってしまったら?」

「破壊するしかねぇよ。アクマとなった時点で、ソイツは死んでると同じだ」




 じゃぁあの時会ったアクマも元は人間だったの?

 知らなかったとはいえ、私はあのアクマを倒そうとした。

 つまり、人を殺そうとした。

 そして今私はエクソシスト。

 アクマを破壊する。破壊しなくてはいけない。

 つまり、人を殺すという事……人殺し………




 元の世界にも戦争はあった。

 殺人だってあった。

 それにエドだって軍人。何時戦場に呼ばれてもおかしくはない。

 でも…それでも私達には関係のない事だと思っていたのに。

 私に出来る…?

 どんな形であれ、人をこの手で殺す事を………




 再び車内に沈黙が流れる。

 そんな中、エッジさんが気を利かせてくれて、食べる物と飲み物を買いに行ってくれた。

 はぁ…駄目だな、私。

 エクソシストがこんなに重い仕事だったなんて。

 気楽に考えていた自分が恥ずかしいよ。




「ねぇ神田。私にエクソシストが務まるかな?」

「……何言ってんだ?」

「神田の話を聞いて、不安になってきたの。エクソシストの事、もっと気楽に考えてた」

「どう考えていたかは知らねぇが、はもうエクソシストだ」

「うん。判ってる。でもね、人を殺した事…無いの」




 そう言うと、神田は眉をひそめる。




「アレはもう人じゃねぇ」

「人だよ!あのアクマにも大切な人がいて!沢山想いがあって!
そして大切に想っていてくれた人がいたからアクマになったんでしょ?
その想いを私達は破壊しちゃっても良いのかな…?」

「アクマを破壊しなかったら、犠牲者は増えるだけだ」

「………そうね」




 『アクマは人を殺す』

 きっと無差別に殺していくのだろう。

 そこからまた多くの悲しみが生まれてしまう。

 だからこそアクマを破壊しなくちゃいけない。

 『アクマ=人』という関係式はまだ成り立っているけど、今はそう思っていよう。

 私自身が前に歩けるように。壊れてしまわないように………




 無言のまま神田が私の隣に座る。

 神田は何を想ってエクソシストになったんだろ?




「神田………」

「何だ?」

「………何でもない」

「?」




 何となく怖くて聞けなかった。

 どうしてかは判らない。

 だけど聞かない方が良いような気がして。

 聞いたら神田といられないような気がして――

 その代わり、シートの上に置かれていた神田の手のそっと触れる。

 私の手に気付いた神田はぎゅっと握り返してくれた。

 何時かの日のように神田のぬくもりが伝わってくる。

 暖かい。生きている証の暖かさ。

 そのぬくもりからふと生まれた感情。




 『神田に死んでほしくない。生きていてほしい』

 


あぁ、そうか。そうなんだ。

 これで良いんだ。

 『神田に生きていてほしい』

 この為に私はエクソシストになれば良いんだ。

 私の手では小さすぎて、多くの人は救えない。

 だから神田を…そして目の前に居る『人』を救っていこう。

 人を殺すという感覚は私の中では消えないだろう。

 それでも私は………




「ありがとう、神田」

「俺が何かしたか?」

「うん。神田からいろんなモノを貰ったし、沢山教えて貰った」

「………そうか?」

「そうだよ。だから、ありがとう」




 そうお礼すると神田は一瞬何かを考えた顔をし、また何時かのような黒い笑顔浮かべた。

 いやーな予感がするのは気の所為デショウカ…?




。礼なら態度で示せ」

「た…いど?」

「あぁ。ここにな」




 神田が指した場所は己の頬。

 つまり……ほっぺにちゅーvって事っスか!?




「え?神田、本気?」

「当然だ」




 うぅ〜…「挨拶」だけじゃなかったんですか?

 でも神田のおかげで道を見失わなくて済んだのは事実だし。

 それに恥ずかしいだけで嫌…ではないんだよね。

 ………誰も居ないよね?

 辺りを確認し、誰も居ない事を確認する。

 良し!




 ちゅv




 唇に暖かく柔らかい感触がした。

 これで「お礼」は終りだと思ってたんだけど……

 顔を離した時、触れていない方の神田の手が伸びてきて私の頭を抱える。

 そしてそのまま頭が引き寄せられ、神田の唇が私のそれに触れた。

 最初は吃驚したけど、優しく啄ばむようなキスと髪を梳く手の優しさ。

 それらによって私の心の中は暖かいもので溢れた。



























 神田の存在が…神田が居てくれるだけで私は前に進める。

 今の私は神田に凄く依存してると思う。

 だけど何時の日か、私も神田の支えになりたい。

 神田が頼れるような人になれるよう、少しでも強くなろう。




 胸を張って神田の隣を歩けるように――






後書き

アクマの正体を知ったヒロインの葛藤を書きたかったハズなのに。
言いたい事を上手く伝えられてないですね…
はぁ。文才欲しい。


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