ティキに送ってもらい、私は街に来ました。
ここは比較的大きな街。
そして…私が10年前まで住んでいた街です。
華舞う場所で 6
この街に来るのも10年振りですね…
あの日、エクソシストに母親が殺されて以来、一度も来てないのです。
本当の事を言えば、買い物ならこの街でなくても良かったんです。
もっと大きくて、沢山物がある街に行っても良かったの。
でもね、私はどうしてもこの街に来たかった。
父と母との思い出の詰まったこの街に来たかったんです。
今まで一度もした事のない、二人のお墓参りに…
「じゃあ私は買い物をしてきますね」
「我々もお手伝いします」
「ううん。久し振りだから歩きたいの。それに一人で行きたい所もあるのよ」
「判りました。何かあったらお呼び下さい。すぐに駆けつけます」
「はい、ありがとうございます」
私はアクマ達と別れ、街を歩き始めました。
久し振りに来る街は、私の記憶と随分変わっていました。
お気に入りだったケーキ屋さんはもう無いわ。
あ、あのお花屋さん…まだあったのね。
ここの公園…小さい頃近所にいた男の子とよく遊んだっけ。
懐かしいです。
街のあちこちを歩きながら、目的の物を買っていきました。
殆どが食材なんですけどね。
沢山買うと、荷物で前が見えなくなりますね。
一度アクマ達の所へ戻り、荷物を預けてまた買い物へ。
それを何度か繰り返して、ようやく買い物が終わりました。
「買い忘れは…うん、ないですね」
「では帰りましょう」
「あ…ちょっと寄りたい所があるんですが…」
まだ両親のお墓参りを終えてないの。
私にとって大事なのは、ノア一族と伯爵様。
だから今の私には『晩餐会』の為の食材が最優先。
けれども…できる事ならお墓参りには行きたいのです…
「判りました。では我々は荷物を持って先に戻ります」
「本当ですか!?ありがとうございます」
「ですが、貴女一人を残していくわけには行きません。彼が護衛に就きます」
そんな訳で3人いたアクマの内、2人は荷物と共に帰っていきました。
残って下さったもう一方に待ってて貰い、私は歩き始めました。
向かう先は、かつての自宅。
アクマだったお母さんは、エクソシストに殺されました。
その直後、私はティキと出会ったから、お母さんのお墓はないの。
だから…かつての家に行ってお母さんの形見が無いか探すつもりです。
もし形見があれば、お父さんのお墓と一緒に眠らせてあげたいんです。
お母さん、お父さんが大好きだったから………
今ではもう、うろ覚えになっている家までの道をただ歩きます。
何度目かの角を曲がって、後は真っ直ぐ歩くだけになったとき。
私が住んでいた家の前に、男の子が立っていました。
真っ白い髪の少年。年は…15歳か16歳くらいでしょうか。
訝しんでると、少年が私に気付いたみたいです。
「………もしかして…?」
不意に話しかけられた私は驚きました。
少年は私の事を知っていたのですから。
「!だよね!?」
「はい…私はですが…あの、貴方は…?」
「僕だよ。覚えてないかな?アレン!アレン・ウォーカーだよ」
アレン・ウォーカー…?何処かで聞いたような…
あっ!もしかして。
「小さい頃、近所にいた男の子ですか?よく公園へ一緒に遊びにいった…?」
「そう!その男の子が僕だよ!」
「アレン!?久し振りですね!!あの…こう言っては何ですが…随分と変わりましたね」
「色々あったからね…でもは変わらないね!すぐに判ったよ」
「それって私が成長してないって事ですか?」
「違うよっ!幼い頃の面影があるって事だよ。それには美人になった」
アレンがはっきりとした口調で断言してくれました。
凄く嬉しかったのですが…その反面、恥ずかしいです///
「ありがとうございます///アレンも格好よくなりましたね。昔の可愛い頃の面影がないですよ」
「本当!?僕、格好よくなった?」
「はい。格好よく成長してますよ」
「そっか。もそう言って貰えると嬉しいな」
そう言って、アレンははにかむ様に笑いました。
あ…その顔は、昔の面影がありますね。
「そういえば…ねぇアレン。マナさんは何処にいるのですか?」
アレンがこの街にいた頃。私もよくマナさんにお世話になってました。
面白い芸を見せてもらったり、色々なお話を聞かせてもらったり。
だから、ご挨拶をしたいのですが………
「マナは…もういないよ。死んだんだ」
「え…?マナさんが?いつ…?」
「3年位…前かな」
「そう…だったんですか。すみません、アレン。嫌な事を思い出させてしまいましたね」
「ううん。気にしないで。それよりも気になってるんだけど…聞いてもいい?」
「はい?何ですか?」
「ここっての家だよね?住んでないの?人の気配がないんだけど…」
「えぇ。私は今、別の所に住んでます」
「じゃあ、のお父さんとお母さんは?僕も昔お世話になったから、挨拶がしたいんだけど」
「両親はもういないんです。アレンがマナさんと旅に出てすぐ、お父さんが不慮の事故で亡くなりました。
お母さんも、お父さんが死んだ事にショックだったんでしょうね。今はもう…いないです」
「ごめんっ!!僕の方こそ、嫌な事を思い出させちゃった…?」
「いいえ」
お父さんとお母さんが死んだのはショックだけど、嫌な思い出ばかりじゃないの。
だってティキに出会えたんだもの。
そしてティキのおかげで新しい家族ができたんです。
私は今、幸せですよ。
「は今、何処に住んでるの?」
「ここから遠い所です。ある一族に仕えてるんですよ」
「それってメイドって事?」
「そう…ですね。あとは一族のお嬢様のお世話係もさせて貰ってます」
私の大事な大事な家族なんです。
「そっか。が幸せそうで良かったよ。ところで、この街に何か用事だったの?」
アレンに聞かれ、この街へ来た経緯を話しました。
もちろんノア一族やアクマの事は秘密です。
一般の人がアクマなんて知るはずがないですし、話す事も無いと判断したんです。
だからアレンには「晩餐会で使う食材を買いに来たついでに両親のお墓参り」って説明しました。
「そうなんだ。僕も一緒に行っていい?の両親に久々に挨拶したいんだ」
「はい!両親も久し振りにアレンに会えて嬉しいと思いますよ」
二人で笑い合いながら、一度家の中に入りました。
そしてお母さんの形見を持って、お父さんのお墓に向かったのです。
お墓は街外れにあります。
私は薄れてしまった記憶を必死に辿りながら、お父さんのお墓に向かいました。
お父さんのお墓…10年も放って置いた割には、思った以上に綺麗です。
だけど丁寧に掃除をし、お母さんの形見をお父さんと一緒に葬りました。
「アレン、手伝ってくれてありがとう」
「ううん。これくらい何でもないよ」
その後は二人で黙祷を捧げ、お墓を後にしました。
その道すがら、私達は昔話に花を咲かせたんです。
「ここにあったお店のクッキー、美味しかったよね」
「ここの靴屋さん、今は帽子屋に変わってる」
「10年振りに来ると、街の様子って全然違うね!」
など、凄く盛り上がってたんです。
アレン、小さい頃と変わらないですね。
それが何だか嬉しいんです。
もっとアレンとお話をしたいのですが…
「ごめんなさい、アレン。私、そろそろ帰らないと」
「え?もう?」
「はい。待ってもらってる人もいるので…」
思った以上に時間が経ってます。
流石にこれ以上待たせるのは申し訳ないですよね。
そう思って切り出したのですが…
何だかアレンの表情が怖いのは気の所為でしょうか(汗)
「あの、アレン?」
「が言う、待っててくれてる人って、恋人?」
「へ?ちっ違いますよっ!」
「違うの?」
「はい。一人で買い物だと危険だから、屋敷の人がついて来てくれたんです」
「そっか。恋人じゃないんだ」
アレンが安心したように言いました。
どうしたんでしょうか、アレンは?
訝しんだ私はアレンに尋ねたんですが…
「え?何でもないですよ」
にっこりと笑顔付きではぐらかされてしまいました。
そんなアレンの背後に黒いオーラが出てたのは気の所為だと思いたいです。
「じゃあ、アレン。ここでお別れですね」
「ねぇ。また会える?」
「どうでしょうか…でもまたアレンに会いたいですね」
「僕もに会いたい!どこに住んでるの?僕、会いに行くよ」
「いいえ。教えるわけにはいきません」
私が迂闊に教えて、あの方達が狙われてしまうかもしれないから…
一族の方は…私にとって何よりも大切なお方なんです。
だから私の所為で狙われるような事があってはいけないんです。
母を奪ったエクソシストに…っ!
「ごめんなさい、アレン。でも、今の私にとって一族の方が…お嬢様が何より大切なんです」
「そっかぁ。がそう言うんなら仕方ないよね」
「ごめんなさい…」
申し訳なくて俯いてしまった私を、アレンは慌てて慰めてくれました。
「が謝る事じゃないよ!それだけ大切に思ってる事でしょ。良いなぁ。その一族の人達が羨ましいよ」
「そう…ですか?」
「そうだよ!だって僕、が好きだからさ」
「私もアレンの事好きですよ。大切な幼馴染ですからねv」
久し振りに会ったけど、優しいままのアレン。
両親がいた頃の思い出を共有できる、大切な幼馴染です。
アレンもマナさんが亡くなって、同じ境遇なんですよね。
願わくは、アレンにも家族同然の人がいますように。
「っと…本当にそろそろ行かなくちゃ」
「うん。ごめんね、引き止めちゃって」
「気にしないで下さい。アレンに会えて嬉しかったです」
「僕もだよ。に会えて嬉しかった。でも、また会えるよね」
「はい、きっと会えますよ!その時はまた、お話してくださいね」
「もちろんだよ!」
約束して私達は別れました。
ロード様が帰ってくる前に戻れるかな?
おやつは何にしましょうか。
ティキは…今日はお仕事だって言ってましたね。
あ、スキン様が今日辺りいらっしゃるかも。
そう考えながら、私はアクマの待つ場所へ戻りました。
「は僕の事、大切な幼馴染だって言ったよね。だから好きだって。
でも僕は…幼い頃から好きだったんですよ。幼馴染ではなく、僕を一人の男として見てください」
アレンがそう呟きながらじっと私を見つめている事に気付かないまま………
後書き
あれ?アレン夢…?
時間軸など、気になる所は気にしないで下さいネ。
気にしたら負けです(おまいがな)
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