「イノセンス発動…『神の祝詞』」


 私はイノセンスを発動し、両手を胸の前で組みました。
 そう…それはまるで、神に祈りを捧げるポーズ。
 イノセンスの発動と共に輝き始めた光を、私は両手に集めました。
 そして、その光を差し出すように両手を広げます。
 光は辺り一面に広がり、傷付いた者を癒していきました。


 そう…これが私のイノセンスの力の一つ。





 花舞う場所で 13





「皆さん、大丈夫ですか?」


 駆け寄り、エクソシストやファインダーの安否を確かめました。
 怪我は負っていたものの命に別状はなかったみたいですね。
 その怪我も癒しましたし、ここから反撃です。


、ありがとう!」
「無事で良かったです、アレン。神田さんも他に怪我してる所はないですか?」
「大丈夫だ。、アンタは前に出るな。後ろから援護しろ」
「はい。お気をつけくださいね」


 アクマに向かい走っていく二人を見送りながら、私は再び両手を組みました。
 イノセンスからの力の高まりを感じた瞬間。


「イノセンス、第2解放『神の憂鬱』」


 今度は光が、アクマへ向かい動きを封じます。
 これが私のイノセンスの2つ目の力。
 そして1年かけて身につけた力です。


 1年前…そう…あれからもう1年が経つのです。
 私がイノセンスの適合者と判った日から――






























† † † † † 



 あの後、コムイさんは私の検査をしました。
 イノセンスが体内に入ったので、体にどう影響を与えるかを調べて下さったのです。
 その結果判ったのが、私はこのイノセンスととても相性がいいと言うこと。
 通常の状態で80%のシンクロ率だそうです。
 この結果を、アレンは嬉しそうに聞いていました。
 ですが………私にとっては認めたくない事実。
 やはり、ティキやノア様の敵になるくらいなら…
 コムイさんは私が考えてた事が判ったんでしょうね。
 私が死を選ばないように先手を打ってきたのです。


くん。君のイノセンスは、くんをとても好いている。くんの意思とは関係なく君を守るだろうね」
「…そう…なんですね…」


 私が宿しているイノセンスは、私を殺してはくれないそうです。
 これで自ら命を断つ手段もなくなりました。
 恐らく逃げても、今回はすぐに捕まるでしょう。
 アレン達は殺してくれない。
 自分でも命を断つことは出来ない。
 逃げる事すらできない。
 だったら…私がノア様方に…ティキにできる事はただ一つです。
 その決意をし、私はコムイさんに取引をし始めたのでした。


「コムイさん、私がエクソシストなのは認めます。
 そして私でよろしければ、お手伝いさせて頂きます。その代わり…ノアの事は一切お話しません」
「テメェ…何のつもりだっ!?」


 神田さんが怒りながら私を責めたてます。
 無理もないですよね。
 さっきまではエクソシストを憎んでた私が、エクソシストになると言ったんですから。


「イノセンスの適合者である以上、ノアに私の居場所はありません。
 それに教団はイノセンスを手放すつもりはないのでしょう?」
「もちろんだよ。イノセンスも、その適合者であるくんも手放すつもりはない」
「私に選択権はないみたいですから」
「僕は嬉しいよ!が仲間になってくれるの!!」


 アレンが本当に嬉しそうに、そう言ってくれました。
 昔と変わらない、眩しいくらい輝いている笑顔…


「私も新しい仲間が…ううん、家族が増えるのは嬉しいv」
「ボクもくんを歓迎するよ。
 ノアや千年伯爵の事を聞けないのは辛いけど、そんな事は調べれば良いんだしね。
 あ、でもくんが話したくなったらいつでも聞くからね♪」


 リナリーさんもコムイさんも、心から私を歓迎してくださってる。
 後は神田さんなんだけど…
 恐る恐る神田さんを見ると、目が合いました。
 神田さんは眉間にしわを寄せ私を一瞥すると、視線を逸らしたのです。


「カンダッ!!そんなあからさまに視線を外さなくても良いじゃないですか!が傷付きます!」
「あぁ!?何で俺がソイツに気を遣わなくちゃいけねぇんだ」
「もう!二人とも喧嘩をしないの。さんの迷惑になるでしょう」


 争い始めた二人を止めたのは、リナリーさんでした。
 数日前まで敵だった私に気遣ってくれる、とてもいい子…ですね。


「ねぇ、って呼んでも良い?私はリナリーで良いからね」
「はい。判りました、リナリー」
「敬語もいらないわ」
「いえ、敬語は癖ですので…」
「そうなんだ。ところで、のイノセンスってどんな能力なの?」


 私のイノセンスの能力…
 それは、体内にあるイノセンスが教えてくれました。


「このイノセンスは思った事を実現できるのです」
「思った事が実現できる?どういうことなの?」
「えっと…口で説明するよりも、実際にやったほうが判りやすいと思います」


 リナリーが興味津々といった表情で見つめてきます。
 口論をしていたアレンや神田さんも、私を見てきました。
 初めてのイノセンスの解放に、緊張が走ります。
 深く深呼吸をして、私は心を落ち着かせました。


「イノセンス発動『神の祝詞』」


 発動の仕方、力の使い方はイノセンスが全て教えてくれます。
 私は心の感じるままに手を動かしました。
 掌を胸の前で組みます。
 イノセンスの解放と共に現れた光を、私は両手に集めました。
 そして、その光を差し出すように両手を広げます。
 光は辺り一面に広がり、アレン達の傷を癒したのです。


「傷が…治った!?」


 数日前にアクマとの戦いで負った筈の傷跡を見て、神田さんが驚いています。
 それはアレンやリナリー、コムイさんも同様でした。


「す…ごい…凄いよっ!
「本当!傷跡すらないわ!!」
「うん、素晴らしい能力だね。他にはどんな事ができるんだい?」
「いえ…今の私にはこれが精一杯です」
「そうか。じゃあこれから訓練を積んで、力をつけていこうね」
「はい」


 笑顔で接してくれる皆さん。
 もう私を仲間として認めてくださってるのでしょう。
 私にとって、エクソシストとしての力をつける事は拷問に近い事です。
 でも…それでも『決意』した事の為には、エクソシストとしての力が必要になります。
 矛盾した想いを抱えながら、私の新しい日々が始まりました。






後書き
さんの能力公開☆
どちらかと言えば攻撃よりも防御系ですね。
そして、『何か』を決意したさん。
何だか、どんどんシリアスになっている…
ほのぼのな話のハズだったのに…
ちゃんと終わるのだろうか?
ちょっぴり心配です(マテ)