…僕はアクマに内蔵されてるアクマが見えます」


 アレンが急に話した内容に私は首を傾げました。





華舞う場所で 10





 アクマに内蔵された魂が見える?
 訝しむ私の手を取り、アレンは自分の右目に持っていきました。
 今までは前髪で隠れていけれど、そこにはペンタクルが描かれていました。
 ペンタクル…それはアクマの証。
 どうしてアレンが…?


、再会した時マナの事聞いたよね?」
「えぇ。マナさんは死んだってアレンが…」
「マナは死んだよ。でも僕はマナの死が受け入れられなかった。
 もっともっと側にいて欲しかった。だから僕は…千年伯爵の誘いに乗ってしまったんだ」


 初めて明かされるアレンの過去。
 マナさんをアクマにした事やイノセンスを発動した時の事。
 そして右目の事…
 アレンも哀しい思いをしてきたのね。


「この目はアクマに内蔵された魂が見えるんだ。最初はマナの呪いだと思ってた。だけど違った。
 これはマナの呪いなんかじゃない」
「呪いじゃない…?」
「うん。呪いじゃないよ。この目で見る内蔵された魂は、苦しんでるんだ。
 アクマ式ボディに囚われ苦しんでいる。それを解放してあげるのが僕達エクソシストなんだよ」


 アクマに内蔵されている魂は苦しんでいる…?
 そんな事、初めて聞きました。
 伯爵様もノアの皆様も、一言も仰らなかった。

 
「お父さんも…母の中に入っていた父の魂も苦しんでたの?」
「きっと苦しんでた。でもエクソシストに破壊されて、おばさんの待つ天国に逝ったんだと思うよ」
「そう…」


 アレンの言葉に、私は窓から空を見上げました。
 お父さんとお母さん、そして本当のお母さん。
 3人で仲良く天国にいるのでしょうか?


「ねぇ。これでアクマがどういうものか判ったよね。だから教えて欲しい。ノアや千年伯爵の事を」


 再びアレンが真っ直ぐ見つめてきます。
 アクマの事は判りました。
 ですが、10年間刻まれていたこの想いを…
 エクソシストを憎む思いを、そう簡単に消せるはずがない。
 ましてや今の私は、ノアの皆様が家族なんですから。


「アレン、それは答える事はできないわ」
「どうして!?何で伯爵達を庇うんだっ!!」


 悲鳴にも似たアレンの叫びが、部屋の中に響きました。
 神田さんさんが、日本刀に手を添えています。
 コムイさんも目を細めて私を見てきました。


「私にとって、伯爵様方が家族なんです。その家族を裏切る事はできません」
「だから伯爵は人類の敵だっつてんだろっ!」
「それでも私にとっては大切な家族なんです」


 アレンはマナさんを亡くしてから、エクソシストに出会った。
 コムイさんも神田さんもリナリーさんも、何かしら縁があって黒の教団に入ったんだと思います。
 私にとって、その縁がノアの一族だった。
 ただ、それだけなんです。


「アレン、貴方は教団の方々を裏切れますか?千年伯爵様に教団の情報を教えたりしますか?」
「そんな事するはずないよっ!!」
「それと同じです。私も敵である教団の方々に情報を売る事なんてしません」


 そう。ノアの皆様の…ティキの情報を売るくらいなら私は死を選びます。
 それくらい大切な方なんです。
 俯き口を硬く閉ざしました。
 その時、今まで黙っていたリナリーさんがコムイさんを呼びました。


「兄さん、ちょっと良い?」
「どうしたんだい?リナリー」
「ここでは話しづらいから外へ」
「はいはい」


 コムイさんとリナリーさんが部屋から出て行きました。
 残された私達の間には、沈黙が流れます。
 こんな事になるくらいなら、買い物に来るのではなかった。
 ティキの言う通りお屋敷にいれば良かったです。
 でも、それは今更考えても仕方のない事。
 今の私にできる事。それを精一杯やろう。
 ノアの皆様を…ティキを裏切る事だけはしたくないです。
 またお屋敷に戻った時、笑顔でティキに会いたいから。

 
 でも…私に与えられた試練は更に私を絶望の淵に追いやるものでした。





後書き
………なんだかドつぼに嵌りつつあるのは気の所為でしょうか…?