朝食も取り終え、何もする事のない私。
 いや、ほらね。この世界にきて2日目なのよ。
 何をすれば良いのでしょう…







木洩れ日のような 5







「仕方ない。荷物の整理でもしますか」


 一人呟いて、鞄を開ける。
 え?幸村さん達?
 彼等はお仕事があったり、訓練だったりと忙しいみたいなの。
 私もさ〜、お世話になってる身だからお手伝いしようと思ったの。
 で、朝食後に女中さんに申し出たら………


「お館様の娘同然の様に、そんなことさせられません!!」


 と、断られてしまいました。
 お皿洗うぐらい、何て事ないんだけどなぁ。
 普段から家事はやってるし。
 む〜…と思いつつ、皺になりそうな服を取り出し、ハンガーにかける。
 え?何でハンガーがあるのかって?
 そりゃ、出張の必需品ですからね(笑)
 信玄様に、何でも使っても良いって言われたから、遠慮なく和箪笥を使わせてもらおう。
 その和箪笥に着替えや仕事の道具を入れて…
 後は『女子だから』と用意してくださった三面鏡に、化粧品を置いた。
 中身が空になった旅行用鞄を押入れにしまい、
 観光するときに使おうと思っていたショルダーバッグを部屋の隅に置くと、もうやる事がなくなってしまった。
 あ、そうだ。探検しよう。
 さっき幸村さんが案内してくれたけど、まだ不安だからねー。
 もう一度、お城の中を歩いてみよう。
 迷ったら誰かに教えてもらえれば良いよネ。
 これだけ沢山人がいるんだもん。
 誰にも会わないって事はないさ。多分。
 そう決めた私は、ショルダーバッグに携帯と財布とちょっとした小物を入れて部屋を出る。
 携帯や財布は無意味だって判ってるんだけどね。
 いつも持ち歩いてるから、逆にないと不安なんだ。
 ちょっとした小物は、常備薬やバンソーコーが入ってるの。
 だって…備えあれば憂い無し…でしょ?


「さてさて。何処から行こうかな」


 あ、そうだ。あそこに行こう。
 目的地を決めた私は、足取りも軽快に歩き出す。
 確か…ここの角を曲がって、真っ直ぐ進むとー。
 大正解〜!台所に辿り着きました。
 こっそりと中を覗き込むと、皆忙しそうに働いてたの。
 ここにいる人達の分を作ってるんだもんね。
 そりゃ忙しいよ。


「誰か手の空いてる人はいもの皮をお願い!」


 ある女中さんが言っているけど、みんな自分のやってる仕事で手一杯みたい。
 よし!ここは私が手伝おう。
 台所の中へ行き、いもと近くにあった包丁に手を伸ばす。
 スルスルといもの皮を剥いていたら、隣りにいた女中さんが私の存在に気付いた。


様!?一体何をやってらっしゃるのですか!?」
「ん?何って…いもの皮むき」


 笑顔で答えると、その女中さんは真っ青な顔をしたの。
 他にも私に気付いた女中さん達が、私を止めに入る。


「そんな!様のお手を煩わせる事はありませんわ!」
「そうですわ!私達の仕事ですから!」


 と、口々に言う。
 はっ!?もしかして私ってば料理が下手だと思われてる?
 いもの皮むきを任せたら、皮を厚く剥いてしまうとか…
 それは心外ね。


「大丈夫ですよ。いもの皮くらい剥けますって。こう見えても、料理は毎日作ってましたから」
「そうではありませんっ」


 あれ?違うの?じゃあ何でだろう?
 疑問に思っていると、台所の入り口から佐助さんの声が聞こえた。


「おや〜?台所が騒がしいと思ったら、さんじゃん。どしたの?」
「実はですね、かくかくじかじかで」
「ふ〜ん。なるほどね〜…って、それじゃ判んないって」


 お!ナイスツッコミ佐助さん(笑)


「だって佐助さんは忍びなんでしょ?何でもありだと思いまして」
「いやいやいや。流石の俺様も無理だって。で、騒ぎの原因は何?」
「原因って程でもないんですが…」


 事の顛末を佐助さんに話すと、佐助さんも驚いた顔をしたの。
 何で驚くのかな?


「そりゃ、止めに入るな。さんの時代は判んないけど、この時代では姫様はこんな事しないからね」
「でも私は姫様じゃないですし」
「大将が娘同然って言った時点で、さんも姫様扱いなんだよ」
「え!?だって私はただの居候ですよ!?」
「ま、その辺は深く気にしな〜い」


 いや、気にする所だと思いますよ。
 この時代の事、右も左も判らない私を置いてくださってるんですよ。
 お手伝いするのは当然じゃないですか。
 そう言い張る私と、信玄様の娘同然の私の手を煩わせるわけには行かないと言う女中さん。
 お互いに引かない私達を見て、佐助さんは溜息をつき、ある提案を出したの。


さんは手伝いがしたくて、アンタ達はさんの手を煩わせたくない。
 だったらさ、こうしたらどう?さんは偶に手伝いをして、その時だけはアンタ達も口出ししない。
 大将達には俺が言っておくからさ」


 うん…まぁそれなら。
 女中さん達も、佐助さんの意見に賛成してくれたみたい。
 良かったー。これでお手伝いが出来る。
 正直、何もやる事が無いとツライからね。
 信玄様や皆様のお役に立てるように頑張らなきゃ。
 決意しながら、いもの皮を剥いていたら、佐助さんが話しかけてきたの。


さんって料理できるんだ。意外だったなー」
「あら?こう見えても毎日料理してるのよ。ウチには女中さんがいませんからね」
「ふーん。さんの母上は作らねぇの?」
「あー…両親はもう死んでるから」
「っ…!?悪ぃ…」
「気にしないでー。去年の話ですし。それにまだ弟がいるので寂しくありませんよ」
「弟?へぇ。さんに弟がいるんだ。どんな感じ?仲は良いの?」
「歳が離れてるの。素直で可愛いのよvって、本人に言ったら怒っちゃうけどネ」
「会ってみたいなー。さんの弟に」
「ふふ。機会があったら紹介しますね」


 あの子、ちゃんとやってるかな?
 私が行方不明になってるって知ったら、心配するよね。
 出張に行くのも良い顔しなかったし。
 万が一帰れなくても、ちゃんと生活できるよね。
 通帳の暗証番号も教えてあるし。
 一応家事も教えてある。
 でも、願わくは早く家に帰って、あの子に会いたいな。




後書き
あれ?佐助さんしか出てきてにゃい(汗)
ゆっきーはいずこへ?
というか…早く政宗さんや元親さんを出したいけど、
このペースだと、当分時間がかかりそうだわ(-_-;)