『戦をして苦しむのは民だ』
信玄様が、かつて言っていた。
今回の事で、本当にそう思ったの………
木洩れ日のような 26
その日私は、政宗さんの部屋に来ていたの。
出来上がった書類で、政宗さんに確認してもらう事があったから。
書類を見てもらっている最中に、小十郎さんがやってきた。
額に汗を浮かべ、凄く慌てた様子。
小十郎さんの表情から見て、あまり良くない事態みたい。
………また戦が始まるのかな?
「政宗様!大変でございます!北で一揆がおこりましたっ!」
「なっ!?北で一揆だと!?北の津軽と南部はどうした?」
「あそこは長い戦で、疲弊しております。そこを突かれたのでしょう」
「…………………」
政宗さんが眉を顰めて、何かを考えている。
一揆を起こしているのは農民。
武士の中にはたかが農民って言う人がいるかもしれない。
だけれど、農民が居るからこそ、私達の暮らしが成り立っているの。
農民が食べ物を作ってくれてるから、私達もご飯が食べれる。
できれば誰も傷つかずに収まってほしい。
政宗さんは、どうするんだろう…?
「で、その一揆の農民を率いている奴は誰だ?」
「それが…12歳の童女だとか…」
「Ha!?12歳のガキに押されてんのか?」
12歳の女の子。
そんな小さい子が一揆を起こした…
元の世界だったら、まだ親元で甘えている時。
小学校に通って、一生懸命勉強して、友達と仲良く遊んで…
命の心配なんてする必要ないのに。
「小十郎!出陣の準備だ。成実と幸村、佐助にも伝えろ」
「はっ!」
指示を受けて、小十郎さんは部屋から去っていく。
また戦が始まるんだ…一揆を収めるための戦が。
立ち上がり準備をしようとする政宗さんに、私は呼びかけた。
「あ?何だ?」
「政宗さんは、一揆を起こした農民をどうするんですか?」
「どうするって…これ以上反乱を起こすなら潰す」
「潰すって…民あっての国じゃないですか」
「だが、黙ってたコッチが殺られるだろうが」
「そう…ですね」
黙ってたら殺される。
そうよね。ここは戦国時代だもん。
『殺られるまえに殺れ』なんだよね。
それでも………話し合いで解決できないのかな?
「政宗さん、私も連れて行ってください」
「何バカな事を言ってやがる。今から行くのは戦場だぞ。連れて行ける訳ねぇだろ」
「戦場だってのは判ってます。でも相手は農民!話せば判ってくれるかもしれません」
「死ぬかもしれねぇんだぞ」
「それも判ってます。でも行きたいんです。彼等を殺したくないんです」
だって…一番苦しんでるのは彼等だから。
重い税金で辛いのは彼等だから。
だから死んでほしくない。今まで辛かった分、これからは楽しく生きてもらいたいの。
「、アンタは『話せば判るかもしれない』って言ったな。
仮に話し合いの場を作ったのとしてもだ。誰が交渉に行くんだ?」
「私が行きます」
「Ha!冗談だろ?誰がそんな危険な場所へアンタを行かせるかよ」
「ですが私が一番最適だと思うんです。農民の怒りの対象は武士です。
そんな中、交渉に武将が行ったら、彼等も警戒してしまいます」
「それは否定できねぇな。で、。アンタには勝算があるのか?」
「勝算なんかありません。でも死ぬつもりもありません」
「Oh〜言うねぇ。流石は俺のHoneyだ。判った。連れて行ってやる。だが条件がある」
「条件?」
政宗さんから連れて行ってもらう条件を聞き、私もそれに納得したの。
それから急いで準備をして、私も城門へ向かったわ。
城門には既に成実君を始め、伊達の武将様が揃っていた。
幸村さんと佐助さんもいる。
皆さん、私も来た事に驚いていた。
「殿!?何故殿も城門に?」
「私もついて行きます」
「は?ちょーっと待って。さん、今何て言った?」
「私も今回は参加させてもらうんです。政宗さんの許可は頂きました」
そういった瞬間、どよめきが走った。
無理もないよね。戦のない異世界から来た私が一緒に行くんだから。
「政宗殿!!何を考えているのだ!!殿を戦に向かわせるなど…」
「そうですよ、政宗様!さんを死なせるおつもりですか!」
「伊達の旦那〜、さん死んじゃったらどうするの?」
幸村さんと小十郎さんが、政宗さんに詰め寄った。
佐助さんも口調こそ軽いけど、目が怒ってる。
心配してくれてありがとう。
ごめんなさい、我侭を言って。
でも、今回だけは譲るわけにはいかない。
「ごめんなさい。私が我侭を言ったんです」
「何ゆえに!?殿は戦に関わってほしくない!」
「さん、怪我したらどーすんの?」
「うん…でも今回は民が相手でしょ?
信玄様が言ってたように、戦で苦しむのは民なの。
だからできれば無血で解決したいの」
幸村さんや佐助さんに、自分の考えを伝える。
そして政宗さんから言われた条件も。
すると最初は反対していた二人も、渋々納得してくれたのよ。
「OK.話しは纏まったな。さっさと行くぞ」
一人で馬に乗れない私は、政宗さんと一緒の馬に乗せてもらい米沢城を後にする。
これは私にとっての初陣。
失敗するわけにはいかない。
必ず話し合いで終わらせる。
そのための方法を、馬上で私は必死に考えていた。
後書き
北の一揆衆鎮圧戦です。
やるせないですね。お偉いさんの勝手な理由で、戦場に出されるんですから…
だから、信玄様の仰ってた事は、凄く感動しました。
さてさて、そんな信玄様の娘のさんは、この後どう動くのでしょうか。
← □ →