もう乗りません。
 二度と乗りません。絶対に乗りません!!
 伊達さんの馬には!







木洩れ日のような 17







「Oh.大丈夫か?
「………大丈夫なように見えますか?」
「見えないねぇ」


 くっそー…笑いながら言う伊達さんが憎らしいです。
 え?何が一体どういう状況なのか?
 それはですね、信玄様のお館を出てから私は伊達さんの馬に乗ってたんですよ。
 もともと馬は乗り慣れてないので苦手なんです。
 なのに………


「伊達さん…私、お願いしましたよね?」
「あぁ?何をだ?」
「『安全運転でお願いします』って言いましたよね?伊達さんも『判った』って仰いましたよね?」
「だから安全運転しただろ」
「何処が安全運転なんですかっ!!かなりスピードは出すは、急な坂道も全力疾走だわ。
 必死でしがみ付いてたんですよ?」
「アレくらいでガタガタ騒いでちゃ、戦国武将の嫁は無理だぜ?」


 何言ってるんですか。なるつもりありませんよっ!!
 そう言ってやりたいのですが、本気で気持ち悪くて吐きそうです。
 あまりにも胃の中が謀反を起こしそうなので、じっと耐えてると幸村さんが来たのよ。


「大丈夫か?殿。これを飲むと少しは気分が良くなるでござるよ」
「ありがとう、幸村さん」


 幸村さんが渡してくれたのは、この時代の水筒みたいなもの。
 そこから水を一口飲んだら、かなり落ち着いた。
 だから立ち上がろうとしたんだけど、今度は佐助さんに止められたのよ。


「まだ座ってたほうがいーって」
「でも、だいぶ落ち着きましたよ?」
「だーめ。まだ顔色悪いよ。もう少し休んでなって」


 ぽんぽんと頭を軽く撫でながら佐助さんが言う。
 …コレをされるのは嫌いじゃないけどさ…
 佐助さん、私の事を絶対に子ども扱い…というか年下扱いしてるよね。
 まぁ良いけど。
 佐助さんのお言葉に甘えて、もうすこし休んでいよう。
 他の伊達軍の皆さんは米沢城に向かったわ。
 ここにいるのは私と伊達さん、幸村さんに佐助さんだけ。
 伊達の領主様である伊達さんをここで足止めしてるのは申し訳ないけど、
 本気で今は無理です。これ以上馬に乗れません。


「伊達さん、ここから米沢城は遠いんですか?」
「………そんなに遠くねぇよ。馬で三刻程だ」
「さ…三刻ですか」


 まだ三刻も走るんですね(汗)
 って…あれ?なんだか伊達さんの機嫌が悪いような………?
 おかしいな?私、何かしたかな?
 今までの行動を振り返って見ても、何も思い浮かばない。
 むむ…気の所為だったのかな?とおもいつつ佐助さんと話している伊達さんを見やる。
 …やっぱり機嫌が悪いみたい。


「ねぇ幸村さん。伊達さんの機嫌、悪くない?」
「…そうでござるな。甲斐を出たときよりも機嫌が悪いみたいだ」
「幸村さんもそう思いました?」


 本当に機嫌が悪いんですよー。
 今だって、幸村さんと小声で少し話してただけなのに、伊達さんに睨まれてますー(汗)


さん、さん」


 内心泣いていると、佐助さんに呼びかけられました。


「どうしたんですか?佐助さん」
「もうそろそろ出発しても良い?あと三刻程で着くといっても、やっぱり明るいうちに米沢の城下町に入りたいからさ」
「あ、ハイ。もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
殿が謝る事はない。某達は迷惑だなんて思ってない」


 幸村さんの言葉が嬉しくて、笑顔で「ありがとう」と答えたの。
 そして立ち上がり、鞄を肩にかけ直す。
 でも伊達さんと馬に乗りたくないので、さりげなく幸村さんの傍に寄ったら…


、アンタはこっちだっ!」


 と、伊達さんに腕を引っ張られました。
 えぇ!?また伊達さんの馬なんですか?
 そう思ったのが顔に出ちゃったんだろうね。
 伊達さんは眉を顰めた。


「俺の馬は嫌だってか?」
「だって…伊達さんの運転、乱暴だから…」
「チッ。もっとゆっくり走らせりゃいーんだろ。だからこっちに来い」


 うーん…伊達さんがそう言うなら…
 何だか機嫌も悪いみたいだし、これ以上怒らせたくないもの。
 そう思い、伊達さんの方へ歩いていくと…


「わっ!?」


 ふわっと体が浮いたかと思ったら、伊達さんに抱きかかえられてました。
 そしてそのまま、馬上へ。
 文句を言う間もなく伊達さんが私の後ろにまたがり出発しました。
 ………えーっと?
 確かにさっきよりゆっくり走ってくれてます。
 ですけどね?
 さっきよりも密着してる感じがするのは気の所為でしょうか?
 伊達さんの体温が背中に感じます///


「あ…あの…伊達さん?」
「What?」
「できれば、もう少し離れてほしいのですが…」
「あぁ?俺が近くにいちゃ嫌なのかよ?」
「そうではなくて…ですね。こうも密着されると恥ずかしいんですよ///」
「ふーん。ちゃんは照れ屋だねぇ。だが却下だ」
「えぇ!?何でですか?」


 あと三刻もこんなに密着されてたら、心臓持ちませんよー。
 伊達さん、ご自分が格好良いの、判ってます?
 むーと思いながら伊達さんを見上げると、ニヤリと唇の端を上げたの。
 なななな何ですか?その笑いは。怖いですって!!
 嫌な予感を感じつつ、でも馬上だから逃げれない。
 そんな私に伊達さんは耳元で囁いたの。


「そんな可愛い顔で睨むなよ。襲いたくなるだろ?」


 ………襲うって何ですかー!?
 じょ…冗談がキツイですって!
 というか…


「耳元で囁かないでください!離れてくださいっ」
「A-ha-.両方とも却下だな。まぁ…がどうしてもと言うなら、聞いてやらねぇ事もねえがな」
「お願いしますっ!耳は駄目なんですよ…」
「ふーん。いい事聞いたな。は耳が弱いのか」


 …しまった!自ら墓穴を掘ってしまった(汗)


「まぁ良い。今回はこの辺で勘弁してやるよ」
「本当ですか!?」


 伊達さんの言葉にホッとしたのもつかの間。
 私にとって更なる大問題が発生したのよ。


「ただし条件がある」
「条件…ですか?」
「あぁ。俺の事は『伊達さん』って呼ぶな」
「………はっ?」


 えっと…『伊達さん』とお呼びしてはいけないんですか?
 …はっ!!そうだよね。伊達さんって奥州筆頭なんだし、大名様なんだもん。
 軽々しく『伊達さん』って呼んだらマズイよね。
 私ってばバカバカー!!


「ご…ごめんなさい。そうですよね。『伊達さん』じゃマズイですよね。これからは『伊達様』ってお呼び…」
「何でだ」


 ビシッっと、伊達さんからチョップを喰らいました。
 本気で痛いんですが(泣)


「違うんですか?じゃあ『政宗様』」


 ビシッ


 痛いッ。これも駄目なんですか?
 だったら、何てお呼びすれば良いんですか!?
 恨みがましい目で睨むと、伊達さんは溜息をついたの。


「そんな可愛らしく見つめるんじゃねぇよ。俺に襲われたいのか?」
「いえいえいえいえ。滅相もございません」
「Ha!そこは頷いとけよ。とまぁ冗談は置いといて。何で『様』付けなんだ?」


 え…?そりゃ伊達さんはこれからお世話になる大名様なんだし。
 みーんな『様』付けてるし。
 ある意味私は人質なんだから、つけなくちゃマズイでしょう?


「必要ねぇ。俺の事は『政宗』って呼べ」
「『呼べ』って命令形ですか?むむむ無理ですよ!一般Peopleの私が殿様に向かって呼び捨てだなんて…」
「俺が良いって言ってんだから、良いんだよ」
「無理ですって!」
「あぁ!?何でだよ。幸村や猿の野郎に『様』なんてつけてねぇだろ」
「それはそうですが…出会った状況が違いますよ。無理です」
「良いっつてんだろ!」
「無理!!」
「うるせぇ。今度『様』をつけたら、馬のSpeed上げるぞ」
「ぎゃー!横暴ですよ!!」
「何とでも言え。手綱を握ってんのは俺だからな」


 とまぁ、こんなやり取りが約三刻ほど続いた結果、『政宗さん』という呼び方で落ち着きました。
 今日は政宗さんのサディスティックな一面を垣間見たような気がします。


 ………甲斐に居るお父様、私は少し不安です。




後書き
呼び方変更の巻き(笑)
政宗様は自分だけ苗字呼びが嫌だったんですよ。
ところでこの話を書くとき、気を抜けば「伊達さん」じゃなくて「政宗さん」と入力してしまって大変でした。
今では良い思い出です(*^_^*)