奥州に行く事になった私。
 武田にいた私が、伊達領で上手くやっていけるかどうか心配です…







木洩れ日のような 16






 広間での会議の後、伊達さんから私が持って来た荷物を全部纏めるように言われた。
 なので、この世界に来た時の鞄に全てを詰め込んでます。
 着替えにパソコン、電卓に筆記用具等。
 仕事上の書類は…一応持って行きますか。
 …必要ないと思うけど。
 常備薬と携帯電話、化粧品、ハンカチは肩掛け鞄に入れて…
 もともと1週間分の荷物しか持って来て無いから、準備は直ぐに終わった。
 あとは…
 部屋の周りを見渡すと、信玄様に買って頂いた着物が目に入ったの。
 …この着物も持って行こう。
 信玄様に買って頂いたお気に入りの着物だもの。
 それを丁寧にたたみ、鞄の中にしまう。
 他に持って行く物がないかを確かめて鞄の鍵を閉めたとき。
 信玄様が入ってらしたの。
 ううん。信玄様だけじゃなく、伊達さんや小十郎さん、幸村さん佐助さんも。


「すまぬな、。お前を人質みたいにさせてしもうた」


 信玄様が申し訳なさそうに仰った。
 とんでもない!
 信玄様に謝られるような事なんて何も無いのに。
 私は武田で暮らせて…信玄様のお館で暮らせて幸せだったのに…


「信玄様が謝る事なんて何も無いですよ。私はこの一年、幸せでしたから」
「じゃが…」
「いえ。本当に幸せだったんです。
 右も左も判らない私をお館に置いてくださり、実の娘のように可愛がってくださった。
 凄く…凄く嬉しかったんです。だからそんな顔しないでください」
「………すまぬ。そう言ってくれると、ワシも少しは心が軽くなる。
 、困った事があったらすぐにワシ言うのじゃぞ?」
「はい。ありがとうございます、信玄様」
「なに。娘のことを心配するのは、親として当たり前の事よ」


 信玄様がにっこり笑ってそう仰ってくださったの。
 おおらかで、頼りがいがあって優しい笑顔。
 信玄様の安心させてくれるその笑顔は、やはり私に父を思い浮かばせた。
 良いかな?今なら言っても良いかな?
 今まで言いたくてもずっと言えなかった事。
 そのたった「一言」を今なら言える気がする。


「あの…信玄様。武田を去る前に一つ我侭を言っても良いでしょうか?」
「ふむ?がワシにか?珍しいな。良い。言うてみよ」
「えっと…ですね…『お父様』とお呼びしても…よろしいですか?
 信玄様を見てると、亡くなった父を思い出しまして」


 ずっと畏れ多くて言えなかった一言。
 いくら私の事を娘同然みたいに見てくれても、信玄様は大名なのよ?
 そう簡単に『お父様』だなんて言えなかった。


「何かと思えばそんな事か。良いぞ。ワシはの父親じゃからな」


 ぽんぽんと頭を撫でながら信玄様が仰った。
 その手が凄く優しくて。
 信玄様と別れるのが哀しくて。
 思わず信玄様に抱きついた。
 まるで親と離れなくちゃいけない幼子みたいにぎゅっと抱きつく私を、信玄様はずっと撫でててくれた。
 優しくて大きな信玄様。
 大好きです。


「今までありがとうございました。そして行ってきます、お父様」
「うむ。達者で暮らせな。幸村、佐助ぇ!の事は任せたぞ!」
「はっ!殿は某が必ず守ります」
「了解しました」


 片膝をつきながら幸村さんと佐助さんが返事を返すと、今まで傍観していた伊達さんが口を開いたの。


「OK.話しは終わったみてぇだな。それじゃあ遅くなんねぇうちにさっさと行くぞ」


 障子を開けて、伊達さんが出て行こうとする。
 私は慌てて鞄を持ち伊達さんについて行こうとした時。
 小十郎さんに呼びとめられたのよ。


「お待ちください、さん」
「はい?何ですか?小十郎さん」
「少しそのまま待ってもらえますか?」


 大人の笑顔(何だそれは)で呼び止められ、私の頭上には?が一杯です。
 小十郎さんは徐に来ていた羽織を脱ぐと、それを私の頭からかぶせた。
 え?えぇ!?何?何ですか一体…?
 前が見えませんよぅ(汗)


「私の羽織で息苦しいとは思いますが、暫く我慢してくださいね。
 外には…戦で亡くなった人がいますから。さんには辛いでしょう?」
「っ!?」


 そうだ。武田のお館を出て伊達に行くなら、外に出なくちゃいけない。
 でも外には…この戦で亡くなってしまった人の遺体が…
 それを見て私は耐えれる…?ううん、絶対に耐えられない。


「すみません、小十郎さん。気を遣わせてしまいまして…」
「気になさらないでくださいね。さんの世界は戦がないと聞きました。
 だったら遺体も見慣れてないでしょう。それに総じて女子は遺体を見慣れないものですよ」


 小十郎さんが「失礼します」と言った直後、私の体はふわっと宙に浮いたのよ。
 え?宙に?え…?えぇ!?
 もももももしかして私、小十郎さんに抱かれてませんか?
 それもプリンセスホールド(お姫様抱っこ)!?


「お…降ろしてください!私、重たいですよっ」
「そんな事ありませんよ。むしろ軽いぐらいだ」
「か…片倉殿っ!!破廉恥でござる!!」
「ひゅ〜♪アンタやるねぇ」
「小十郎っ、テメェに何やってんだよっ」


 伊達さん、幸村さん、佐助さんが三者三様に小十郎さんに抗議の声を発したの。
 けれども小十郎さんは、さも当然だと言う感じで彼等に答えたわ。
 

「羽織をかぶせたままだとさんは歩けないでしょう?
 だからと言って、羽織を外すわけにもいきませんからね。
 だったら抱き上げてお連れするしかないと思ったんですよ」


 あぁ!だから小十郎さんは私を抱き上げてくれたのね。
 確かに羽織をかぶったままだと歩けない。
 本当に前が見えないんだもん。
 小十郎さん、優しくて気がつく人なんだなぁ。
 あの人が伊達にいてくれるなら、何とかやっていけるかも。


「うむ。を嫁に出す気分じゃったが、片倉殿のような者がおれば安心じゃ」


 と、信玄様も仰ってます。
 だからと言って流石に小十郎さんも重たいだろうし、
 手を繋いで案内してもらえれば歩けると思うから降ろしてもらおうと思ったとき。
 ふわっと、再び軽い浮遊感。
 え?何?何が起きたんですかー!?


「貸せ。は俺が運ぶ」


 近くで聞こえた声は伊達さん。
 羽織の隙間からチラッと覗いてみると、伊達さんの顔が近くに見えたの。
 って事は何でスカー?私は今、伊達さんに抱っこされてるんですか!?
 しかも、やっぱりプリンセスホールド!?


「なっ?ちょ…伊達さん!?」
「ぁあ?何だよ」
「おおおおお降ろしてください!歩けますからっ」
「Ha!前も見えねぇのに、どーやって歩くんだよ?」
「いや…ほら…手を繋いで案内してもらえれば…?」
「Don’t say four or five.(四の五の言うな)オメェは黙って抱かれてろ。小十郎、の荷物を持って来い」
「はっ。畏まりました」
「ちょっと待つでござる!殿は某が運ぶ。渡してもらおう」
「いやいやいや。武将様にそんな事させられませんって。ここは俺が運ぶのが妥当じゃない?」


 いやいやいや。本当に歩こうと思えば歩けますから。
 これからお世話になる大将様と腹心の部下様に、そんな事をさせられませんって。
 ついでに言って幸村さんと佐助さんも、私からすればお世話になる武将様ですから。
 何度辞退しても伊達さんは降ろしてはくれず…
 結局私は伊達さんに抱き上げられたまま武田を後にしたのでした。







 お父様、暫くの間、いってきます。









後書き
さん、奥州へ(笑)
今回、小十郎さんが目立ってますねぇ。
私の中の小十郎さんはこんなイメージなんです。
ゲームよりは単行本のイメージが強いです。
『優しいお兄さん』なんです(笑)
なので連載はこちらの小十郎さんで生かせて貰います<m(__)m>
もしかしたら短編でゲームの小十郎さんを出すかも?
そうそう。
なんで小十郎さんがさんが異世界から来たかを知っているか?
それは、今はまだ秘密ですv